First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
Next Last
リアクション
第5章 イルダーナ
「なんでぇ、男か」
リネン・エルフト(りねん・えるふと)のパートナー、ヴァルキリーのフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が、タルテュを見て発した第一声に、タルテュは苦笑した。
「……すみません」
「いや、別に謝ることないから。
このエロ鴉の言うことは基本聞き流していいから」
背後から、英霊のヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が軽くフェイミィの頭を小突いて、タルテュに言う。
「何だよ、男なのは残念だけどよ、他人事じゃねえと思ってるんだぜ、これでもよ」
フェイミィはドンと胸を張って反論した。
そんなフェイミィを見て、最近は、シャンパラに助けを求めるのが流行っているのかしらとリネンは心の中で思う。
フェイミィと契約したのも、何となく似たような状況でだったからだ。
だから、他人事とは思えない。――それは、フェイミィをパートナーとする、リネンやフェイクも同じ思いだった。
「自力で何とかしたかったのですが……情けない有様を晒して、お恥ずかしいです」
「そんなこと、気にすんなよ、おっさん」
フェイミィは恐縮するタルテュを笑い飛ばす。
「絶対に、取り戻そうぜ」
フェイミィは力強くタルテュに言った。
「オレは、オレ達はあんたの味方だ」
ありがとうございます、と、タルテュは頭を下げた。
そしてタルテュはルーナサズに戻ることとなり、リネンはシャンバラでイルダーナを探す側に残った。
「……ダメね。有力な情報は、無いわ……」
『10年前に行方不明になった人を探しています。
種族は人。性別男。黒髪に金の瞳。現在25歳位。有力な情報には金一封』
そんな情報をネット上に投稿してみたのだが、寄せられる情報は冷やかしだと分かるものばかり。
稀に信憑性の高いものも含まれていたが、確認すればすぐに違うと分かった。
「……ネットが使えるところに、いないのかしら……」
「まあ、ジャタの森なんか、殆ど地球文明の手は入ってないしね」
ヘイリーも頭を掻く。
「十年前は、エリュシオンとシャンバラも、こんな険悪じゃなかっただろうしね。
っていうか、無関心だったんだろうけど……
多分、とにかく遠くに逃げれば、って思って、シャンバラくんだりまで来たんだろうけど……」
「……別働隊の皆は、何か掴んだかしら……」
リネンはぼつりと呟いた。
「トオルくん、シキさん、お久しぶりですっ」
「おー、カヤ、正月振りだな!」
空気は読めるが学習しないトオルは、イルダーナ探しを手伝いに来た火村 加夜(ひむら・かや)に抱き付こうとし、気付いて逃げ腰になる加夜に届く前に、はっしと背後からシキに襟を掴まれた。
「何だよっ、いいだろハグくらいダチなんだから……」
以前にも見たやりとりに、加夜は思わずくすくす笑う。
「それじゃ、探しましょうか。
えっと、タルテュさん、イルダーナさんが行きそうなところに、心当たりはなかったんですよね」
この近くで、人が多くて旅人が多く訪れそうなところ。
やはり情報を集めるなら、そういったところからだろうかと加夜は思う。
「森の中には、無いよな?」
「ジャタの森の中にあるのは、基本獣人の村だからな。ひっそりとしたものだ」
トオルがシキに確認する。
「そうすると、まず森を出てからか……どっちの方角かな」
黒髪で、金色の瞳の少年。十年経って、その子はどんな風になっているだろう。
加夜は話に聞いたイルダーナの特徴から、十年後をイメージする。
早く見付けてあげたいと思った。
民の為に立ち上がった、まだ見ぬイルヴリーヒという人物の為にも。
「早川が、ルーナサズへイルヴリーヒって人に会いに行くなら、オレは残ってイルダーナって人の方を探すよ」
鬼院 尋人(きいん・ひろと)はそう言って、呼雪達と二手に分かれることにした。
この依頼を受ける時に、黒崎天音にも連絡したが、彼は「行ってらっしゃい」と相変わらずマイペースだった。
「十年前のことでも、ジャタの森の中をさ迷っていたなら、接触があれば誰かが憶えているはずだ。
どこの村も、旅人など、滅多に訪れないからな。
ましてや子供の一人旅なら、印象は強いはずだ」
ジャタの村を出身とする獣人の呀 雷號(が・らいごう)は言った。
一方で彼は、エリュシオンからの使者というタルテュを気にしていた。
片方の話だけを聞いて鵜呑みにするのは危険だと思うからだ。
だがその点は、早川呼雪達が現地で確認するのだろう。
タルテュは怪我でも病気でもなく、さ迷い歩いた挙句に疲労困憊で行き倒れたらしい。
疲労は怪我を魔法で治療するのとは違って、即治るというものでもない。
それでも、体調が回復したら、再び森を戻ってルーナサズに戻るのだという。
「……まあ、ある意味勇者だよな」
と、本人から少し離れて上空から尋人の護衛をする為に、レッサーワイバーンで空から森を見下ろしながら、単独で、初めて入ったジャタの森抜けを敢行しようとしたタルテュを、密かに称えた。
「……探す相手は、もしかして今も命とか狙われていたりするのかな」
一方、ユニコーンに乗って地上を巡りながら、尋人は呟いた。
十年経っても現れないというのは、そういうことなのだろうか。
その時、雷號からの携帯が鳴った。
「当たりだぞ、尋人」
上空から、尋人より先にその村を見付け、馬よりも早くその村へ辿り着いた雷號は、大きな杖を抱えた黒髪で金の瞳の少年が、十年前にこの村に訪れていたことを聞き付けたのだった。
「――で、雷號さんが聞いた話を元に、更に皆で調査を進めて」
加夜とトオルは、額をつき合わせるようにして地図を覗き込む。
人の多い町へ行きたい、と、その少年は言ったそうだ。
森を更に北へ北へ進めばザンスカールがあるが、ヒラニプラや空京も、最近よく噂を聞くようになった、と、獣人は答えたらしい。
だが、空京は元々、名も無いような辺鄙な村だった。そう付け足した。
その話を元に、皆で、空京付近とヒラニプラ付近を徹底的に調べたのだ。
「一番可能性が高いのは、ヒラニプラ地方か……」
うーん、と地図から顔を離したトオルが、口元を歪めて腕を組んだ。
しかしそこで、足取りはぷっつりと途切れたのである。
「密かにヒラニプラに潜んでいるのでしょうか?」
「でも、密かにしても、だったらリネン達のネット探索に引っ掛からないのも変だと思うんだよな」
これからかもしれないけど、とトオルは首を傾げる。
「変装してるとか……」
「有り得る……」
髪や目の色を変えているのかもしれない。だとすればお手上げだ。
もしもヒラニプラにいないのだとしたら、更に南下したということか。
南の果てには港町タラヌスが、そしてその先には、浮き島ファリアスがある。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
Next Last