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【なななにおまかせ☆】スパ施設を救う法

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【なななにおまかせ☆】スパ施設を救う法

リアクション

――宣伝の影響かはわからないが、この日のスパは多くの客が訪れていた。
 それはレストランも例外ではなく、空腹を満たそうとする客が数多く、店員は注文の嵐に追われることとなっていた。

「……ふぅ、疲れた」
 休憩に入っていた御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が独り呟く。
 今日、彼はレストランのアルバイトとして働いていたのであった。
「お疲れ様どす」
「はぁ、ホントに疲れたのぉ」
「あそこまで混むものなんじゃな」
 後に続いて、綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)が入ってくる。彼女らも手伝いとしてアルバイトをしている。
「ああ、そっちも休憩か?」
「ええ。料理の注文が減ったもんで。お客さん、引きはりましたからなぁ」
 風花が紫音に少し疲れた表情ではあるが、微笑みながら言う。
「しかし、紫音の考えた料理も結構注文されたのう」
「うむ、我も結構な数を作ったわ」
 アルスとアストレイアが言うと、風花も頷いた。今回手伝いに参加するにあたって、紫音は温泉の湯を使ったコーヒーなどをいくつか提案していた。
「評判も悪くないみたいだし、良かったどすなぁ」
「ああ、そうだな」
 風花の言葉にそっけなく答える紫音だが、その表情はまんざらでも無さそうであった。
「……さて、またこの後来そうだし、もう一頑張りするか」
 自分に言うようにして気合をいれ、紫音は立ち上がった。

――ラウンジにも、少し前には考えられない程の人が訪れていた。
 がらんとしていた畳敷きの部屋は、今やプールで遊びつかれた者、温泉から上がり涼む者達で満ちていた。

「あー畜生……負けたか……」
 犬養 進一(いぬかい・しんいち)が悔しそうに呟きながら缶ビールのプルタプを開ける。
「ふふん、だらしがないな!」
 対照的に嬉しそうな笑顔を見せるのはトゥトゥ・アンクアメン(とぅとぅ・あんくあめん)
 この二人は先程、サウナで我慢比べを行なっていた。勝敗結果は言わずもがな。
「お子様なんぞに負けるとは……くっそー……エジプト出身だって事を忘れてたぜ……」
「負け惜しみはよくないぞ」
 そうは言うトゥトゥであるが、実際は今でも少々頭がくらくらしている。実は接戦であった。後少し進一が耐えられていたら、ギブアップしたのはトゥトゥだったのかもしれない。
 悔しそうに進一がビールをあおる。乾いた喉を炭酸特有の刺激が走る。
「あー美味い……これで勝っていればもっと美味かったんだがなぁ」
「シンイチ、余もビールを飲むぞ」
「あ? お子様には早い。サイダーで我慢しな」
 そう言って買っておいたサイダーをトゥトゥへと押し付ける。
「お子様お子様いうがなシンイチ、余は三千歳だぞ?」
「見た目はお子様だ。黙って飲みなさい」
「うぅ……ビールの発祥はエジプトだぞ……」
 ブツブツと文句を言いながらも、サイダーを飲むと
「おお、美味いな」
とトゥトゥが笑顔になった。
「やっぱお子様だな」
 そんな姿に進一が苦笑しつつビールを、同時にトゥトゥもサイダーをあおる。
「「ぷはっ! あー、たまらん」」
 そして、二人でハモった。

「……美味しそうねー」
 ビールをあおる光景を見て、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が呟く。
「おっと、今日は酒は無しだろう、女史?」
 そんな祥子に林田 樹(はやしだ・いつき)が窘める様に言う。
「はいはい、わかってますよ」
 祥子が肩を竦めて言った。
「まあもう少し待て。待っていれば章がジュースやら何やら買ってくる」
 現在、緒方 章(おがた・あきら)が皆の飲み物などを買い出しに行っていた。
「けどプール楽しかったわねー」
「そうですねー。ワタシ久々に泳ぎましたよ」
「わたくしは少し疲れましたわ。けど、楽しいものですね」
 その横で、那須 朱美(なす・あけみ)ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)イオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)が先程のプールの話で盛り上がっていた。
 先程まで、彼女らは皆でプールで遊んでおり、疲れて休憩する為に現在ラウンジにいたのである。
「そういえば、そちらの紅の魔鎧は初めて見る顔か」
「あっと、すいません。那須朱美です」
「樹様、那須様は素晴らしい武勇伝をお持ちなようなんですよ〜」
「そんな凄い事してないわよ」
 ジーナが褒めるのを、朱美が照れくさそうに否定する。
「まあいいじゃないか。聞かせてもらおうか」
「うーん……とりあえず、シバキ倒してた?」
「……何を?」
「まあ、色々と」
「そ、そうか……それは凄いな」
 樹がたじろぎながら言う。
「まあうちのはそこいらにしておいて。ところで、そちらの魔鎧は?」
「最近いっちーのパートナーになった、新谷衛(しんたに・まもる)っす。えっと、うっち〜にいおっち、よろしく〜」
「……うっちー?」
「いおっち?」
「ああそいつは放っておいてくれ。胸好きで付けあがるタイプだからな」
 樹の言葉に、祥子とイオテスが微妙な表情で頷く。
「……私スルーされたのはどういう意味だ」
 その横で、朱美がやはり微妙な表情で俯いた。
「そういえば、いい水着着てるじゃない樹」
「ん? ああ、今年はジーナがまともな水着を選んでくれたからな。去年なんて酷かったからなぁ……」
「何を言うんです樹様! ふりふり付きの黒ビキニの何処が酷いんですか! それを市販の水着だなんて……」
「苦労してるのねぇ、ジーナは」
 苦笑しつつ祥子が言うと、ジーナは力強く言う。
「そうなんですよ! 樹様はサイズ的な関係で下着だって選ぶのに苦労しているんです! レースは嫌だ、ふりふりしたのは嫌だとデザインに注文つけすぎです!」
「お、おい! 下着の話なんかするんじゃないジーナ!」
 慌てて樹がジーナを止めに入る。
「そうは言いますがね樹様、少しはお洒落すべきですよ」
「お洒落なんて下着には必要ないだろう。見えないのだからな」
「あら、それは聞き捨てならないわ。見えないところにだってお洒落は必要よ。好きな相手に見せるとき、みっともない下着じゃ嫌じゃない」
「み、見せる!? 何故下着姿なぞ見せなければならないのだ!」
「そりゃ、ねぇ?」
「ですよねぇ?」
 祥子とジーナが意味ありげに笑みを浮かべる。
「好きな相手……」
 イオテスがじっと、祥子を見る。
「……何かしら、イオテス」
 その視線に気づき、祥子がイオテスに聞いた。
「はい、祥子さん、スポーツ系のブラとかお好きですか?」
「何の話かしら、イオテス」
「いえ、好きな方に見せる物だというので。私の場合は祥子さんになりますから」
「……あのね、イオテス。『好き』ってのは『ラブ』と『ライク』の二つの意味があってね」
 良く意味のわかっていないイオテスに、祥子の講義が始まった。
「?」
が、やはりイオテスはよくわからないようであった。
「と、とにかく! 下着なぞ機能性があれば十分だ!」
 樹が叫んだ直後、
「なんか盛り上がってるね」
買い出しから章が戻ってきた。
「お、おお遅かったな章」
「ちょっと混んでたからね。はい」
 章が買ってきた飲み物を皆に配る。
「はい、樹」
 そして樹にもジュースを渡す。
「ああありがとう章」
 受け取り、樹は早速ジュースの口を開ける。
「ところで樹」
「ん?」
 ジュースを口に含みつつ樹は章の呼びかけに反応し、
「機能性もいいけど、旦那としては扇情的な下着もつけて欲しいなぁ
「ぶふぉッ!」
そしてぶちまけた。
「い、いつから聞いていた!」
「え? 樹の下着を選ぶのは大変だ、ってくらいから」
「結構最初の方じゃないか!」
「いや、楽しそうだったし。けど下着はちゃんとした方がいいよ。何なら僕が贈り物してあげようか? 僕好みの」
「……何故章様好みなんですか?」
 イオテスが首を傾げながら章に問いかける。
「そりゃ勿論脱がせる為――」
「わあああ! もうやめろやめろやめろ! 銀の精霊も余計な事聞くな! おい紅の魔鎧助け……て……」
 樹が助けを求めるが、暗い影を身に纏って体育座りをしていた朱美に言葉を詰まらせる。
「お、おい女史、どうしたんだあれは?」
「いや、下着の話についていけないわで色々あっていじけちゃって」
「は、はあ……お前も大変だな……」
 樹が慰めるように朱美に言うが、自分の殻に閉じこもったままだった。
「しかし、皆さん苦労なさってるんですねぇ。うっち〜やいおっちもスタイル良いですし、苦労なさってますでしょ?」
 突如、衛が会話に加わってくる。祥子やイオテスの身体を嫌らしく眺め、下卑た笑みを浮かべる。
「そ、そうですねぇ」
 それにイオテスが困ったような表情を浮かべる。祥子はスルーだ。
「……あのエロガッパ、下心丸出しで宇都宮様に近づくとは何事ですか!」
 怒りを露わにし、と目に入ろうとするジーナ。
「まぁ待てバカラクリ」
 そのジーナを、章が止める。
「何故止めるですバカ餅」
「止めなくても、あのアホ鎧はそろそろ地雷踏む頃合だからな」
 そう言う章の視線の先には、朱美が居た。
「……おい、そこの」
 体育座りから、朱美が立ち上がる。
「ん? あれ? もう一人パートナーさんいたんですねー」
「最初っからいるんだけど……」
「へー……」
 そう言って衛が朱美の身体をじっくりと見て、へっ、と鼻で笑った。
「いやぁ〜気づかなかったっすね。胸が絶壁なもんでぶぉッ!?」
 言葉の途中で、朱美の拳が飛んだ。
「ほぉ……そんなに巨ぬーがいいか。そうかそうか……なら貴様も巨ぬーにしてくれるわぁッ!
 そう言って、朱美が衛の胸を掴み、握力の限り握りしめる。
「いぎゃああああああ! もげるもげるもげちゃうぅ!」
「お、おい! 落ち着け紅の魔鎧!」
 泡を吹いて気絶しそうな衛を見て、流石に見かねたのか樹が止めに入った。
「邪魔をするな! 畜生ー! こうしてやるー!」
が、朱美は今度は樹の胸を鷲掴みにした。
「な、何をする!」
「うわっ何この柔らかさ! ちくしょー! くやしぃー! えーい無くて何が悪いー! 貧乳だってステータスなのよ! 需要だってあるんだからあああああ!
「ちょ、い、痛い痛い!」
 樹が逃れようとするが、朱美は涙を流しながら掴んだまま話さない。
「おーい、それ僕のだからもいだら困るなぁ」
「誰がお前のだ! い、いいから助けろぉ!」
 樹の悲鳴にも似た叫びが、響いた。
「朱美さん、すっかり皆さんと打ち解けたみたいですね」
 その様子を眺めていたイオテスが言う。状況を解っていないようだ。
「あー、そうねぇ……それより、温泉は何時入れるのかしらねぇ」
 そんなイオテスの言葉を聞き流しつつ、祥子がポツリと呟いた。