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【なななにおまかせ☆】スパ施設を救う法

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【なななにおまかせ☆】スパ施設を救う法

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――施設のメインともなる温泉は、最も多くの人で埋まっていた。
 少し前まで数名しかいない貸切のようだった頃の面影は無く、幾人もの人が温泉に浸かり、心地良さに溜息を吐いていた。
 
「……ふぅ」
 温泉に浸かった冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が溜息を漏らす。
「…………」
 そんな小夜子を、じっとエンデ・フォルモント(えんで・ふぉるもんと)が見つめている。
「エンデさん、さっきから小夜子さんを見ているけどどうしたの?」
 エノン・アイゼン(えのん・あいぜん)が聞くと、エンデは溜息を吐きながら言った。
「いえ、小夜子様は何故スタイルがいいのか、と思いまして……」
「……よっぽど悔しいのね。でも、エンデさんも悪いわけじゃないと思うんだけど」
「スタイルのいいエノン様にはこの劣等感はわかりませんよ……」
 頬を膨らませて言うエンデに苦笑するエノン。そんな二人を見て小夜子はクスクスと笑う。
「笑わなくてもいいじゃないですか」
「あらごめんなさい。そうね……恋とかしているのが一番かしらね」
「恋、ですか?」
「ええ、恋をすれば『綺麗になりたい』と思いますから。エンデさんも恋をすればいいのですよ」
「恋……エノン様も恋をしているのですか?」
「え? わ、私は別に……」
「では、そのスタイルの良さは?」
「……生まれつき?」
 その一言でがっくりとエンデが頭を垂れる。
「エンデさん、ちょっとこっちに来て下さい」
 小夜子の手招きに、エンデが首を傾げながら近寄る。
「ひゃっ!?」
「ここを大きくするならマッサージなんかもありますよ?」
 そう言って小夜子がエンデの胸を揉む。それを見てエノンが慌てて止めようとする。
「さ、小夜子さん、ここ、人目があるから……」
「いいんですよ、見られるくらいで。女は見られる事で美しくなるのですよ?」
「そ、そうなんですか? な、ならこ、このままお願いします」
「ええ、いいですよ……可愛いですよ、エンデさん」
 周囲の目を気にしつつ、顔を羞恥に染めながら身体を預けるエンデを見て、小夜子が微笑む。
「いいのかなぁ……」
 そんな二人を見てエノンは苦笑した。

「……よかった、人いっぱいいる」
 温泉に浸かりながら、リネン・エルフト(りねん・えるふと)が周囲の人を見て呟く。
「少しはリネンの作戦の効果あったんじゃないの? 良かったわね」
 リネンの呟きに、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が素っ気無く言った。
 スパ施設に来る前、リネンはちょっとした情報工作を行なっていた。といっても、大げさなものではなく匿名掲示板で噂を流しただけだが。
「噂ってのも馬鹿にはできないもんね」
「そうだね……ところで、フェイミィは何処に行ったのかしら?」 
 リネンが言うと、ヘイリーが少しうんざりしたように指差す。
「うぇっへっへっへ……最近の娘はスタイルが良くていいねぇ……じゅるり」
その先には、温泉に浸かる女性客を見て涎を垂らすフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)がいた。
「……フェイミィ、やめてよみっともない」
「ん? そう言われても視界に入っちゃうんだから仕方ない……そうか、構ってもらえなくて寂しいんだな? それならそうと言ってくれよ」
 そう言いながらフェイミィは手をわきわきと動かすと、リネンに向かって飛び掛る。
「ちょ、な、何するのよ!?」
「何って、ちょっとしたスキンシップってやつ? 大衆浴場でのスキンシップなんて不自然でもないだろ?」
 この場合、『大衆で欲情してのスキンシップ』である。
「や、やめてよエロ鴉!」
「嫌がられると余計萌えるし燃えるってもんよ!」
「あんたたち、はしゃぐのもいい加減にしなさい」
 リネンとフェイミィに、ヘイリーが呆れたように言う。
「えー、別に温泉に来たんだからはしゃいでもいいじゃん。嫌なら来なければ良かったじゃんか」
「あ、あたしは仕方なく来てるの! あんた達が行くっていうなら団長のあたしがついていくのもスジってもんでしょ!? べ、別に温泉いいなーとかそんな事決して思ってないんだからね!」
「……最後の、絶対本音よね」
「間違いなく」
 ひそひそとリネンとフェイミィが言う。
「そこ! 何こそこそ話してる!」
「べっつにぃ〜?」
 フェイミィが眼を逸らしながら言った。
「全くあんた達と来たら……そういえば、ここ温泉玉子配ってるって言ってたよね?」
「え? うんサービスだって」
「そう、なら後で貰いましょ。後プールも見て回るからね。か、勘違いしないでよね。これも視察なんだから」
「……一番はしゃいでるの、この人だよね」
「だな」
 リネンが呟くと、フェイミィが頷いた。

「……騒がしいなぁ。折角のんびりしに来たのに」
 周囲の喧騒に、うんざりしたように高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)が呟く。
「そ、そうね……ね、ねぇ、この水着、やっぱ露出高くない?」
 ティアン・メイ(てぃあん・めい)がチラチラと、玄秀と水着を交互に見ながら言った。
「そんな気になるなら別の持ってくれば良かったじゃないか」
「そ、それはそうだけど……あ、あんまり見ちゃ駄目なんだからね?」
「はいはい、見ませんよ」
 呆れたように溜息を吐く玄秀に、ティアンは少し落ち込む。
(うー……ちょっとは気にしてくれてもいいのに……)
 今回、少しでも関係を深められたら……とティアンは思っていた。水着も、イルミンスールの物ではなくわざわざシャンバラの物を選んだのだが、上手くはいっていない。
 他にも色々とアプローチを考えてはいるが、自分から誘うのに躊躇ってしまう。本当はプールにも行きたいのだが、抑えているのだ。
「ま、温泉自体はいいもんだよね」
「そ、そうね……」
 お互い大した会話も無く、ただ温泉に浸っている。
(けど、考えようによってはこれも二人っきりなのよね……これはこれでいいかな)
 そう思い、ティアンは顔を綻ばせた。

「……頼むから、もう大人しくしていてくれ」
 疲れたようにエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が言う。
「えぇ〜、オイラ大人しくしてるヨ?」
 エースに言われたクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が、不満そうに言った。
「何処がだよ! さっきから走り回るわ裸で入ろうとするわ注意したらパンツで入ろうとするわ入ったら入ったで泳ぐわで!」
「エース、うるさい」
「うるさく言いたくもなるっての……はぁ、なんでこんな振り回される羽目になるんだ……」
「それが保護者ってものだヨ」
 嘆くエースに、他人事のようにクマラが言う。
「……はぁ、気にしないで俺も風呂入ろう」
「そうそう、気にしちゃいけないヨ」
「とかなんとか言いながら泳ごうとするな!」
 泳ぎ始めようとしたクマラを止め、エースが湯船に入る。
「……うっ、やっぱ熱いな」
 温泉の熱さに、エースが顔を顰める。
「よく日本人はガマンできるよなぁ……特殊な訓練でも積んでいるのか?」
「そんな事ないと思うヨ? ほら」
 クマラが、指を指す。

「……ふぅ、水風呂の後に入るっていうのもいいもんだな」
「くぅー! 引き締まった身体にこの熱さは効くぜぇ!」
 サウナ後の水風呂から、温泉に入るマクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)が声を上げる。
「ああ……至福の時だ……この一瞬がたまらない……」
「そうそう、ちょっと熱いが、このくらいの熱さがまたいいんだよなぁ……あ゛ー極楽極楽……」
 溜息を漏らしつつ、マクスウェルとラルクが目を細める。
「そういえば、温泉玉子もあるんだっけな」
「おう、貰ってきたから一つどうだ?」
 ラルクが差し出した玉子を、マクスウェルが受け取った。
「おお、ありがたい……温泉に浸りつつ嗜む玉子っていうのもいいもんだな……」
「これで酒でもあれば最高なんだけどなー流石にそれは贅沢言い過ぎだな」
「そうだよな……気分だけでも味わうとするか」
 そう言ってマクスウェルが湯船に浮かんだお盆から取ったお猪口を傾ける。
「中身はお茶だけど……まあ感じ感じ」
「そうそう! 俺もワイン代わりにコイツで決めるか」
 ラルクが持参したグレープフルーツジュースを口に含んだ。
「……あー! なかなかオツなもんだ……何か今日はもう修行とかする気にならなくなっちまったなー」
「あんまり根つめても仕方ないからなぁ……自分はもう一日温泉を堪能することに決めたよ」
「そうだなー……後で軽く何かスポーツでもしてみるかなー」
「……ああ、でもいいな、温泉……」
「ああ、全くだ!」
 マクスウェルとラルクがしみじみと言った。

「ネ?」
 クマラがエースに向き直って言った。
「……凄い堪能してるな、日本人じゃないのに」
「エースが弱すぎるだけなんじゃないカナ?」
「うっ……そ、そうなのか?」
「そうそう。いい機会だから、今日慣れていきなヨ。そうすればこれからも楽しめるヨ?」
 クマラの言葉にエースは少し考えると、納得したように頷く。
「そうだな……丁度いい機会だ」
「そうそう。それじゃ、オイラは邪魔しないように一人で遊んでくるから!」
「ああ……って待て! お前一人にさせると後が大変なんだよ!」
 クマラの後を必死で追いかけるエース。温泉を堪能するはずが、終始振り回されて終わるのであった……

「……で、だ。何故俺は四方を囲まれて温泉に入らなきゃならんのだ」
 こめかみを押さえ、こみ上げてくる物を我慢しつつグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が呟いた。
 彼の周りには、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)ベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)が囲うように立っている。まるで肉の壁さながらだ。
「当たり前ではないか! 男がいる場所に主をさらけ出すことなどできるわけがない!」
 アウレウスが力強く叫ぶ。
「……あのなぁ、男の俺が男に居る場所にいちゃ悪いのか!?」
「いいわけがないだろう。いつも言っているではないか、無闇に肌を晒すなと」
 呆れたようにベルテハイトが言うと、アウレウスが何度も力強く頷いた。
「ちょっと待て。俺が肌晒しちゃまずいことでもあるのか?」
「当たり前だろう。その細い身体がどれだけ目に毒か……少し自覚したほうがいい」
「毒されてるのはお前の目だよ。それにそこまで細いわけじゃないだろ。見ろよ、筋肉質だろこの身体は!」
「何を言うか。この間なんて我の両手で腰が掴めたではないか」
 ゴルガイスが言うと、グラキエスが言葉を詰まらせた。
「「「いい加減細いと認めろ」」」
「嫌だ……もういい、折角の初体験なんだからゆっくり浸らせてくれよ」
 諦めたように溜息を吐き、グラキエスが温泉に浸かる。
「グラキエス、この温泉は成分が強いからのぼせないように気をつけろ」
「解ってるよ……てか、そこまで弱くない」
 ゴルガイスの言葉に、溜息を吐きつつグラキエスが言った。
「やはり何もわかってないようだ。その細く華奢な身体はか弱いと自覚したほうがいい」
 ベルテハイトが言うと、やはりアウレウスが強く頷いた。
「だからお前らの基準がおかしいんだよ! 俺は普通! 普通に筋肉もついているし!」
「「「おかしくない」」」
「全員眼科行ってその目をどうにかしてこい……なら試しに、どう見られてみるかやってみるか?」
「そんな事できるわけが無いでしょう! 主の肌を衆目に晒し出すだなんて何と言う……」
「まあ、グラキエスが言うんだ。一度やらせてみたらいい」
 声を上げるアウレウスを嗜めるようにゴルガイスが言う。
「……そうだな、実際にやってみればグラキエスもわかってくれるだろう」
 ベルテハイトが言うと、渋々といった感じでアウレウスが傍を離れる。
「はぁ、やっと息苦しいのから開放された……」
 溜息を吐いて、グラキエスが身体を伸ばす。
「けどこれでゆっくり……ん?」
 グラキエスが視線を感じた。その方向を振り向くと、男女数名がグラキエスを見ていた。
 僅かに頬を紅潮させ、ぽーっとしたように彼を見る。その表情は、どこかうっとりしているようにも見えた。
「ぬぅ! 見世物ではないぞ!」
 彼らをアウレウスが追い払う。はっとしたように、彼らは眼を逸らし散っていった。
「……どうやら、俗世がどのような目で見ているかがわかったようだな」
 ベルテハイトが言い放つと、グラキエスは力なく項垂れた。
「……好きにしてくれよ、もう」
 涙を流しグラキエスは自嘲気味の笑みを浮かべた。

「……おっきい水たまり」
 ラルム・リースフラワー(らるむ・りーすふらわー)は、縁で温泉をぱちゃぱちゃと弄って遊んでいる。
「……まさか、子供に負けるとは」
 湯に浸かりながらそんなラルムを眺め、溜息を吐きつつ蒼灯 鴉(そうひ・からす)が茶を飲んだ。
「驚いたよねぇ、あんな我慢強いなんて」
 苦笑しつつ師王 アスカ(しおう・あすか)も茶を啜った。
 先程まで、彼ら三人はサウナでガマン比べをしていた。その結果、驚くべき事に勝者はラルムであった。
「……う?」
 当のラルム本人はピンピンしており、ガマン比べなんてしていた自覚など無い。今は何が楽しいのか、温泉弄りに夢中だ。
「言いだしっぺは真っ先にギヴったのになぁ」
「う……い、いいじゃないのよぉ」
 頬を膨らますアスカに、鴉がニヤニヤ笑う。負けた溜飲を彼女を弄ることで下げているのだ。
「ああ、でもやっぱ温泉はいいなぁ……癒される」
「そうねぇ……ね、マッサージでもしてあげようか――って何よその顔」
 アスカの言葉に、鴉が目を丸くする。
「いや、何を企んでやがる?」
「失礼ねぇ、ちょっとは労ってあげようって思っただけじゃない」
「……明日は槍が降るか?」
「本当に失礼ねぇ……いいから黙って受けなさい」
 そう言って強引にアスカは鴉の手をとると、マッサージを始める。
「……意外と上手いもんだな」
「そうでしょそうでしょ……鴉の手、大きいねぇ」
「当たり前だろ、そんなの……」
「そうだねぇ。それに、触ってて気持ちいい……」
「そ、そうか……」
 そこで、お互い言葉が続かなくなる。
(……あれ? 今更になってドキドキしてきたよ?)
(……やばい、何を言っていいかわからん!)
 何を言っていいかは解らないが、無言に耐え切れなくなった鴉が口を開いた。
「み、水着……似合ってるな」
「そ、そう? あ、ありがと……」

(何でこのタイミングでそんな事言うんだぁぁぁぁぁぁぁ!)
(何でこのタイミングでそんな事言うのよぉぉぉぉぉぉぉ!)

 温泉の熱とは違う物で顔を熱くしながら、二人とも無言になる。
(……やべ、可愛い)
 鴉が顔を赤くするアスカを見て思う。
(……さわりてぇ)
 そして、そんな欲望がむくむくと芽生え、育つ。
 ほぼ無意識に、アスカに向かって手が伸び――
「そ、そういえばラルムはどうしてるのかなぁ!?」
「お、おう! そうだな!」
ようとした所で、アスカが唐突に声を上げ、鴉が思いとどまる。
「あぶねーあぶねー……そういや、本当にいないけど何処行った?」
「そうねぇ……ん?」
 その時アスカの目に入ったのは、少し離れた場所にいるラルムが、
「お嬢ちゃん可愛いわねぇ……私と一緒にイイコトしない?」
「……いぢめる?」
「んー、お嬢ちゃんいぢめたら可愛いかもね。可愛い鳴き声聞きたいなぁー?」
凄い格好をしたルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)にナンパされている所だった。
「「でええええええええええええ!」」
 二人は物凄い勢いでラルムの元までダッシュ。ラルムを掴むと、
「「う、うちの子はまだそういうのは早いので!」」
とだけ言って、その場から走り去っていった。
「ちぇ、逃げられちゃった……ん?」
 残念そうに呟くルルールが視線を感じると、その先にいる夢野 久(ゆめの・ひさし)が睨んでいるのが見えた。
「何かあいつ睨んでるわね。ちょっと控えようかしら……ってか、あいつ休む気あるのかしら。馬鹿ねぇホント」

「久君、ちょっとは気を休めたらどうだい?」
 ルルールを睨みつける久を、佐野 豊実(さの・とよみ)が呆れたように言う。
「ん? あ、ああ。わかってるよ豊実さん」
「あんまり解ってるようには見えないけどね。今日は骨休めに来たんだ。普段から無理に張り切ったり神経使ってるんだから、しっかり休んだ方がいいと思うけどね」
「……そうだな、確かにそうだ。今日はノンビリしに来たんだ。あいつは放置しとこう」
「そうそう、それくらいでいいんじゃないかい?」
 何度もうんうんと頷く久に豊実が言う。
「それに、アレも彼女なりの骨休めだ。放っておいてあげなよ」
 そう言って豊実がルルールに目をやる。
 なにやら、若い男に声をかけていた。
「……そうだよな、ナンパするくらいあいつの勝手だよな」
 今度は久が目をやる。
 今度は相手が変わり、若い女性になっていた。
「そうそう。それに同意だって求めてるだろ?」
 ルルールを見る。また相手が変わって、今度は妙齢の女性だ。
「そうだな。ただあいつの場合、すぐ暴走して周りに迷惑撒き散らす程度で……」
 ルルールを見る。遂には、高齢でヨボヨボの男性に声をかけていた。
「……やっぱ心配になってきた」
「駄目だこりゃ」
「心配にもなるだろ……てかあいつどんだけ無差別なんだよ……さっきから見てたけど、老若男女美醜関係なく声かけてるぞ?」
 そう言って久はルルールの監視を始める。
「完全平等かよ……何であいつああもどうでも良いことに無駄に信念貫けるんだよ……ある意味尊敬するぞ」
「私は君のそういう性分に尊敬するよ。はは、可哀想に」
 口ではそういうものの、全く可哀想などとは思っていない笑顔で豊実が言った。

――各自が、思い思いに温泉を楽しんでいるそんな中、
「はー忙しい忙しい!」
なななは各所で手伝いに呼ばれ駆け回っていた。
「なななー!」
「はーい! 今行くよー!」
 誰かから呼ばれる声を聞き、なななが駆け出す。場所は足湯だった。
「……あれ?」
が、行ってみた所で居たのは足湯を楽しんでいいる者達だけだった。
「ねえ、今誰かなななの事呼んだ?」
 そう聞いても誰もが首を横に振るだけだった。
「……聞き間違いかなー?」
 そう呟きながら足湯から離れたとき、
「なななー!」
「はーい!」
再度呼ばれ戻る。が、
「やっぱり誰も呼んでない……」
 また、足湯から離れる。
「なーなーなー!」
「ああーもう誰ー!?」
 戻った所で誰も呼んでいない。
「うぅー……からかわれてるのかなぁ……?」
 しょんぼりと肩を落としていた時だった。
「なーなーなー!」
「!? 居た! 今誰か絶対呼んだ!」
 声のした方を、なななが振り向く。

「なななー!」
「そうだねー、ちょっと熱いかもねー」
「なー! なななななななななー!」
「駄目駄目、水で埋めちゃ温泉の意味が無いよ」
「なななー!」
「何で皆足しか浸かってないって、そりゃここ足湯だもん」
「なーなーなー」
「そうだねー、後で飲み物貰ってこようねー」

 そこにいたのは、足湯で戯れる立川 るる(たちかわ・るる)立川 ミケ(たちかわ・みけ)だった。
「…………」
 脱力し、がっくりと膝を着くななな。
「あはは……あれ? どうしたの?」
「なーなー?」
 そんななななを見て、るるとミケが話しかける。
 なななが、ミケをがっちりと掴んだ。
「な?」
「さあ、行こうか」
 そう言ってミケを抱え上げると、無理矢理脇に抱える。
「な!? な!?」
「み、ミケ!?」
「うん、今人手が足りなくてね、猫の手も欲しいってくらいなんだー。いやー丁度いいところに」
「なーなーなー!?」
「あはは、だからさっきからなななの事呼んでたんだよね? いやー助かったなー」
 嫌がるミケに、乾いた笑顔でなななが言う。きっと疲れていたのだろう。それに合わさって色々あって、なななの中で何かがキレたようだ。
「ちょ、み、ミケ連れて行かないでよぉ!」
 その後、るるが必死に止めた事によりなななは正気に戻った。