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リアクション
場所をプールからレストランに移り、なななとボニーは客席に座っていた。次の案は料理、ということで二人は味見をするために出来上がりを待っているのだ。
「けど、いいのかな? レストラン営業してるのに」
「いいですよ、お客様あまりいませんし……」
ボニーが苦笑する通り、ちらほらとは来客は居るのだが、空いた客席の方が目立つくらいであった。
「はい、お待たせ」
「完成したよ」
そう言っていると、厨房から涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)とヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)がそれぞれの料理を持って出てくる。
「それじゃ、まず私の料理から紹介しようかな」
なななとボニーの前に涼介が料理を置いた。それは肉や野菜、魚介類を蒸した物だった。
「これは?」
「『地獄蒸し』って料理だよ。ここの源泉を利用して食材を蒸したんだ。塩かポン酢で食べてくれ」
そう言われ、二人はそれぞれの調味料を使い、料理を口に運ぶ。
「あ、美味しいこれ」
「本当……美味しい……」
なななとボニーが呟く。
「温泉だから汗かくしね。しょっぱい物は合うと思うよ。他にも応用すれば蒸し料理も作れるだろうしね」
「うん、これならお客さんも喜んでくれるんじゃないかな。ボニーはどう思う?」
ななながボニーに話題を振ると、
「そうね……えーと、原価がこれなら……」
ボニーがブツブツと、料理の価格の計算を始めていた。既にメニューに組み込む気らしい。
「次はボクだけど、いいかな?」
「え? あ、ええ、お願いします」
アリアクルスイドの言葉に、ボニーがはっと我に返る。
「それじゃ、ボクはこれだよ」
そう言ってアリアクルスイドが出したのは、
「カキ氷?」
「いえ、それにしてはデコレーションが綺麗ですね……」
ボニーが言う通り、普通のカキ氷と違ってフルーツや寒天、白豆で飾られており、シロップもミルクシロップを用いていた。
「これは『白くま』って言うんだよ。兄ぃが熱い物だから、ボクは冷たいデザートを作ってみたよ。ほら、お風呂上りのアイスとか格別だからね」
「うん、確かにお風呂上りのアイスは美味しい」
「でしょ!」
なななの同意に、アリアクルスイドは嬉しそうに頷く。
「それでね、お風呂上りの火照った体にぴったりの物だと思うんだ」
「へぇ〜、他のカキ氷よりも豪華な感じがするね」
「ええ、見た目も綺麗で美味しそうですし……とするとこれは……」
再度、ボニーが価格計算を始めだした。
「どうやら気に入ってくれたようだね」
「あ、うん。なななもいいと思うな」
「わかった。なら私は誰でも作れるようにレシピを作成しておくよ」
そういうと、二人は再度厨房へと戻っていった。
「さて、次は私たち!」
「よ、よろしくお願いします」
涼介達と入れ代わるように現れたのは、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の二人だ。
「私達は料理ではなくお菓子なんですが、御土産物としてどうでしょうか?」
ベアトリーチェが出したのは、ティーカップだった。
「ティーカップ? ……あ」
中を覗き込んだボニーが小さく声を上げる。カップの中には、パンダの形をしたクッキーとチョコが入っていた。
「他にもこういう物を作ってみました」
更に、カステラと饅頭を出す。その二つにはティーカップパンダの焼印がしてあった。
「へえ……パンダづくしですね」
「ええ、美羽さんの【ティーカップパンダ】から思いつきました」
ベアトリーチェが視線をやると、
「へへへ、私もついに見つけたんだよ、ななな」
【ティーカップパンダ】を持った美羽が笑った。
「やや、ついに見つけたんだね!」
「苦労したよ〜。後ね、【鈴なりティーカップパンダ】も見つけたんだけど、それを貸そうかなって思うんだけど」
「え?」
ボニーが声を上げた。【鈴なりティーカップパンダ】には持っているだけで幸せになる、という効果があるそうだ。
これでスパが繁栄してくれればいい、と美羽は考えているとのことだったが、
「……いえ、お気持ちだけありがたくいただきます」
ボニーはゆっくりと首を横に振った。
「え? どうして?」
「ただでさえ他の方に頼っていますから。それ以上何かに頼ったら、私の為になりませんよ」
そう言って、ボニーは微笑んだ。
「けど、このお菓子を御土産として販売するのは良さそうですね……お願いしてもいいですか?」
「ええ、勿論。腕によりを掛けて作らせていただきます」
ベアトリーチェが頷いた。
「ああ、ここにいたのか。探したよ」
その時、ななな達に相田 なぶら(あいだ・なぶら)が話しかけてきた。
「あれ? どうしたの?」
「いや、スパ再生の話を聞いてね。俺達も何か手伝えないかなぁって思ったんだ」
困っている人を放っておけないからね、となぶらが言った。
「所で、今何の話をしていたのかい?」
「ああ、実はね……」
なななが土産物の話をすると、なぶらは何かを考えながら頷く仕草を見せた。
「ふんふん……そうだねぇ……そうだ、カレンが歌ってお客を集めればいいんじゃない?」
そう言ってなぶらが振り向くと、
「ひっ!?」
慌てて座席の影にカレン・ヴォルテール(かれん・ゔぉるてーる)が隠れた。どうやらずっと一緒にいたらしい。
「カレン、歌得意だよね?」
そう言ってなぶらはカレンに話しかける。
「ひ、人前で歌うんだろ?」
「そりゃ、客寄せだし」
「嫌に決まってるだろバカ!」
噛み付かんとする勢いで、カレンがなぶらに怒鳴る。
「まあまあ、困っている人は放っておけないでしょ?」
「そ、そりゃまぁ……でも人前で歌うなんて……ひっぽ、お前もそう思うよな?」
カレンはペットのサラマンダーに話しかけるが、サラマンダーは首を傾げるだけだった。
「でも……困ってるっていうなら……けど……」
「それじゃ、試しにここで歌ってみようよ」
「え!?」
なぶらは戸惑うカレンの手を半ば強引に掴み、ななな達の前に引きずり出した。
「ほら、どうぞ」
「え、あ、そ、その……」
ななな達の視線がカレンに集まる。その視線を感じ、もじもじと身を捩じらせ、
「で、できるかバカぁー!」
やがて耐え切れなくなり、カレンは物凄い勢いでレストランから出て行った。
「あー……やっぱり駄目だったか。ゴメン、力になれなくて」
苦笑を浮かべ、なぶらがななな達に頭を下げる。
「いや、いいんだけど……追いかけなくていいの?」
「おっとそうだそうだ。おーい、カレンー」
なぶらが慌しく、レストランを去っていった。
「大変そうですね……」
その後姿を見て、ボニーがぽつりと呟く。
「あの、ちょっといいですか?」
そこに、木本 和輝(きもと・ともき)が話しかけてきた。
「こんな感じでいいですか?」
「ああ、そうそう。椛、もうちょっと寄ってくれるか?」
「はい、わかりました」
座席に座る厳島 春華(いつくしま・はるか)と四季 椛(しき・もみじ)に和輝が指示を出す。
座る座席のテーブルには、先ほどの料理やお菓子が並べられており、二人はそれを際立たせるよう、ポーズをつける。
その姿を、和輝が何枚か写真を撮った。
「うん、これはこのくらいでいいかな……それじゃ次は実際食べる所を頼む」
「えっと、こんな感じですか?」
椛が料理を口に入れた所で手を止めた。
「あ、これ美味しいですねぇ」
同じように料理を口にした春華が顔を綻ばせた。
「お、いいねその顔。そんな感じで頼む」
その様な写真を何度か撮影し、デジカメで撮った物を和輝がチェックする。
「んー……よし、こんな感じでいいかな。ご協力ありがとうございます。いい記事になれそうです」
和輝がボニーに頭を下げながら言う。
和輝は今回、校内に飾る新聞を作るために施設に来ていたそうだ。偶々であるが、ボニー達を見かけ、取材を申し込んできたのである。
「い、いえいえ。お役に立てたなら何よりです」
ボニーも頭を下げる。
「あの、よろしければ施設についていくつか取材したいのですが、どうでしょうか? イベントなどありましたら広告で出しますよ」
「え? そ、その……どうでしょう?」
ボニーがなななをちらりと見る。
「ん? なななはいい機会だし、受けた方がいいと思うな」
「で、でも……なななさんはどうします?」
「なななは他を回ってるから大丈夫だよ」
「そうですか……すみません。ではお受けしますね」
ボニーはなななに申し訳無さそうに言った後、和輝に向き直る。
「ありがとうございます。それじゃ春華はメモを頼む。椛は……」
和輝が春華と椛に指示し、取材の準備を始める。
邪魔にならないように、となななはレストランから出た。
「さてと、どうしようかな」
ああは言ったものの、案は既に皆から聞いたため、特に行く場所も無い。
ぶらぶらと何処か回るか、と思った時、
「ね、暇してるなら一緒に来る?」
と、なななの肩をルカルカ・ルー(るかるか・るー)が叩いた。
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