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俺の祭りを邪魔するな!!

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俺の祭りを邪魔するな!!

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「さて戦闘も結構終盤みたいだけど、まだいいのが撮れるわよね♪」
 自分が担当した黒マントの殲滅が終わった月美 芽美(つきみ・めいみ)は、鼻歌を歌いながら時計塔にのぼった。
 芽美は敗者が蹂躙される様を撮影したいがために、高い場所からもっとも残酷な戦闘が続いている場所を探そうとしていた。
「どこにしようかしら〜……あら?」
 周囲を見渡していた芽美は細い路地に見覚えのある人影を見つけた。
 目を凝らして記憶の中の面影と照らし合わせる。
「やっぱり!」
 その人物は間違いなく≪サルヴァ≫だった。
 ≪サルヴァ≫は皆が黒マントを捕えようとしている中、まんまと素の格好で逃げていた。
 すると芽美はレッサーワイバーンで傍を飛んでいた如月 玲奈(きさらぎ・れいな)を呼び止め、指示をだした。
「詩穂ちゃん、ちょっといいかしら? お願いがあるんだけど……」
 指示を受けた玲奈が急いで≪サルヴァ≫の元へと向かい、芽美も急いで時計塔を駆け下り始めた。
「面白いことになってきたわね♪」

 一方、芽のパートナーである緋柱 透乃(ひばしら・とうの)は、黒マント達を撃破していき残り一人という所まで追い詰めていた。
 最後の残ったのは透乃の倍近い身長の巨漢。
 そいつは砲撃の時に透乃の邪魔をした≪荒くれ者≫だった。
「最後に残ったのはおまえか〜。ま、いいけどね。その変わり、ちゃんと私を楽しませてよ!」
 透乃が駆け出すと、≪荒くれ者≫が拳を繰り出してくる。
 透乃はその拳に合わせて自分の拳をぶつけた。
「しっかりついてきてよね!」
 透乃が短い溜めからの怒涛の連撃を放つ。
 連続でぶつかり合う拳。
 またしてもどちらかの拳が砕けるまで終わることのない戦い。
 段々とテンションが上がってきた透乃はスピードを上げようとするが、それ以上は続かなかった。
 途中で、透乃の攻撃に耐えられなくなった≪荒くれ者≫の手の骨が砕けたのである。
「な〜んだ。この程度か……残念だね」
 不燃焼で終わった透乃はつまらなそうに、膝をついている≪荒くれ者≫を見下ろした。
 透乃は戦えないだろうと考え立ち去ろうとすると、≪荒くれ者≫の背後から≪氷像の空賊≫達が現れる。
「なんだ今度はおまえ達が相手をしてくれ――って、ええ!?」
 透乃は目を丸くした。
 近づいてきた≪氷像の空賊≫達は≪荒くれ者≫に近づくと、骨が砕けた方の腕にまとわりつくと巨大な氷の腕になったのだ。
 ≪荒くれ者≫は痛みなど感じない様子で立ち上がる。
 透乃は嬉しそうに笑っていた。
「面白くなってきたね……」
 ≪荒くれ者≫の巨大な氷の腕が透乃を襲う。
「このっ……っ!?」
 透乃が同じように拳を叩きつけると、先ほどとは違って地面に足がめり込むかのような重い衝撃が伝わってきた。
 透乃は歯を食いしばり、再度向かってくる氷の拳に自身の拳を叩きつけた。
 我武者羅に叩きつけられる拳。
 強化された腕は段々と撃ちだす速度をあげていき、今度は透乃が合わせて拳を打ち出すようになっていた。 
 そうしているうちに拳から感覚がなくなり、腕が重くなってきた。
 ついでに視界もぼやけて――
「って、あれ? 何これ――!?」
 透乃は自分の手が凍っていることに気づいた。
 どうやら、打ち出すたびに少しずつ氷漬けにされていたらしい。
 周囲は霧が立ち込め、吐く息が白い。
 この状況がまずいことに気づき、逃げ出そうとするが、足が凍っていて動けない。
 必死にもがく透乃。
「!?」
 目の前に氷の腕が迫り、自分も撃ちだそうとするが、重くて手が持ち上げられなかった。
 次の瞬間。透乃は額に強烈な鈍痛を受け、一瞬で視界が真っ暗になった。
 氷漬けになった目の前の透乃を満足そうに見つめる≪荒くれ者≫。
 とどめを刺そうと≪荒くれ者≫が腕を振り上げる、その時――透乃を覆っていた氷がドロドロと溶け出した。
「……殺るか殺られるか、このスリルがたまらないよね!」
 覆っていた氷が一瞬して全て溶け、中からリチウムを燃やした時のようなピンク色に近い炎を纏う透乃が出てきた。
 その炎は極限状態で湧き上がった透乃の闘志が炎となったものだった。
 透乃は額から口元に垂れてきた血をペロリと舐めとった。
「でも、そろそろ終わりにしなきゃね!」
 透乃はいつの間にか黒マントを追っていった仲間たちの戦いの激音が聞こえなくなっていることに気が付いた。
 透乃は脇を固め左手を引いた状態で構える。
 全身を覆っていた炎が左手の拳に凝縮されていく。
 ≪荒くれ者≫が先ほどとは比べものにならない気迫を漂わせる透乃に脅えながら、氷の腕を繰り出してきた。
 透乃は左の拳に力を込めると、渾身の力で撃ちだした。
「チェエストォォォォォ!!!!」
 透乃の炎の拳が≪荒くれ者≫の氷の拳に激突する。
 拳から放たれた炎の渦が≪荒くれ者≫の氷の拳を飲み込んだ。
 そして次の瞬間、両者の間で水蒸気爆発が起きた。
 …………
 ……
 立ち込めていた煙が徐々に消えていく。
 ボロボロになって立ち尽くす透乃の目の前には巨漢の男が倒れていた。
 そこへ騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が後方から走ってくる。
「透乃ちゃん、大丈夫ですかぁ?」
「あ、詩穂ちゃん。私は大丈――」
「って、なんて恰好をしているんです!?」
 振り返った透乃の姿を見た詩穂は顔を真っ赤にしていた。
 爆発に巻き込まれたために透乃のチューブトップは破け、胸が晒しものになっていたのだ。
「ありゃ……あ、でも別に見られて恥ずかしい体でもないし、見えちゃっても問題ないでしょ。ほら「大丈夫だ。問題ない」ってね」
「いやいや、全然問題ありでしょ。アイシャちゃんだってきっと言ってるよ。「露出はよくありません」って。ちょっと待ってて……」
 詩穂は爆発で穴の開いた民家に入っていくとタオルを持って戻ってきた。
「ほら、これ借りときなよ」
「わかった」
 透乃は詩穂に強引に押し付けられたタオルで、胸を隠した。
「よしよし。それじゃ、詩穂は用事があるのでこれにて! 透乃ちゃんも急いで大通りに向かってね」
 詩穂は言い終わるや否や、颯爽と路地の向こうに消えていった。


 その頃、芽美の指示を受けた玲奈は、路地を逃げる≪サルヴァ≫を追っていた。 
「にがさないわよ。天のいかづち!」
 玲奈は追いかけながら稲妻や炎で攻撃するが、素早い≪サルヴァ≫になかなか当たらない。
 ≪サルヴァ≫が入り組んだ路地を進む。
「あぁ! そっちに行っちゃだめだってば!」
 玲奈は街の外へ向かおうとする≪サルヴァ≫に玲奈は焦りを感じ始めた。
 ふいに≪サルヴァ≫の足が止まる。
「どうにか間に合ったですね」
 ≪サルヴァ≫の前に荒い呼吸の詩穂が立っていた。
 ≪サルヴァ≫は詩穂の脇をすり抜けようとするが、フラワシによって妨害される。
 まるで見えない壁に遭遇したかのように困惑する≪サルヴァ≫。
 破壊してでも通ろうとする≪サルヴァ≫は見えない相手攻撃をしかける。
「そう簡単に倒れませんよ!」
 詩穂のフラワシが必死に耐えた。
 壁を壊せないとしった≪サルヴァ≫は操っている詩穂を攻撃しようとする。
「させないわよ!」
 玲奈は≪サルヴァ≫に向けて稲妻を放った。
 ≪サルヴァ≫は稲妻を回避すると、諦めて別の道を進むことにした。
「一人だときついかったの。助かったわ。この後も手伝ってくれるのかしら?」
「任せてちょうだい」
 玲奈は上空を飛びながら、入り組んだ路地で詩穂が先回りできるように進む道を指示する。
 二人に追い回された≪サルヴァ≫は気づけば開けた場所へと続く直線的な路地に入っていた。
「後はこのまま追いかけるだけね」
「は〜い」
 玲奈と詩穂が≪サルヴァ≫を背後から追いかける。
 ≪サルヴァ≫はそのまま進み、入り組んだ路地から開けた場所に抜けた。
「やっときたか。待ちくたびれたぞ」
 ニタリとエヴァルトが笑っていた。
 ≪サルヴァ≫が玲奈と詩穂に追いかけられて到着した場所は生徒達が待つ大通りだった。
 周囲を見渡す≪サルヴァ≫にロートラウトが答える。
「仲間はみんなボク達が倒しちゃったからね」
「さぁ、覚悟しな」
 ≪サルヴァ≫が脂汗を滲ませながら後ずさる。
 生徒達が取り押さえようとすると、またしても火の柱が立ちふさがった。
 皆が火に触れぬよう距離を取る中、エヴァルトだけは違った。
「そうそう……何度も同じ手を食らうかぁぁぁ!!」
 エヴァルトが火の柱に向けて突撃する。
 顔面を両手で覆い、一気に突き抜けた。
 炎を抜けると背中を見せて走る≪サルヴァ≫の姿が見つけた。
「見つけたぁぁぁ――!」
 エヴァルトが全力で突っ込む。
 こちらに気づいた≪サルヴァ≫が【神速】を発動して逃げようとする。
「逃がす――」
「エヴァルト、ステップ!」
 背後からのロートラウトの声に従ってエヴァルトが横へ避けると、元いた場所を街灯が物凄い勢いで通り過ぎた。
 そして≪サルヴァ≫の立っていた場所へと街灯が突き刺さり、地面に砕いた。
 飛び退くことでギリギリ回避した≪サルヴァ≫だったが、その隙をエヴァルトは逃さない。
 エヴァルトがアクセルギアを起動させ、地面を蹴った。
「MAXGEAR――」 
 エヴァルトは空中で高速回転する。
 着地した≪サルヴァ≫がエヴァルトに気が付いて顔を上げた。
「クラッシュュュュ――!!!!」
 ≪サルヴァ≫の顔面に、【ドラゴンアーツ】による強化と高速回転を加えた強烈な一撃が入った。
 轟音と共にエヴァルトの一撃を食らった≪サルヴァ≫は、赤黒い液体を撒き散らしながら球体のようにバウンドして後方にぶっ飛ぶ。
 エヴァルトの身体が地面に叩きつけられる。
「いててぇ……うぅぅ、気持ち悪い」
 着地に失敗したエヴァルトは打ちつけた背中を摩りながら、目を回して吐きそうになる口を必死に抑えた。
「あはは、すげぇー。今の一撃よく当てられたよね」
「……確かにな。威力はあったんだが、回転してて狙いが付けにくかった――うぅ……」
「じゃあ、奇跡だね」
 エヴァルトの足元には大きなクレーターが出来ていた。
 強力な一撃。……であったが、あまりにも吐きそうになるので封印しようとエヴァルトは誓った。
「ところ、ロートラウト。公共物を破壊するのはよくないぞ」
 エヴァルトが地面に斜めになってささった街灯を見て言った。
 すると、ロートラウトは頬を膨らませて怒る。
「何言ってのさ。あれは元々あいつが投げたやつで――」
 ロートラウトが横たわる≪サルヴァ≫を指差す。
 すると突然、≪サルヴァ≫のお腹がもぞもぞと動きだした。
 そして≪サルヴァの魔鎧≫が、ひょろりとした小汚い外見の男の変化した。
 その手には≪三頭を持つ邪竜≫について書かれた盗まれた書物が握られている。
 ≪サルヴァの魔鎧≫はエヴァルト達に見向きをしないで走り出す。
「あ、待て、コラ!」
 エヴァルトが追おうとすると、跳んできた≪氷像の空賊≫達が邪魔をする。
「くそっ、まだいたのか! 邪魔だ!」
 生徒達が振り払い、追いかけようとした時――眩しい光が彼らの上空を覆った。