葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

俺の祭りを邪魔するな!!

リアクション公開中!

俺の祭りを邪魔するな!!

リアクション

「館内のエネルギーだけでは全然足らないみたいだぞ」
「足らないのはエネルギーだけじゃないよ。改造に必要な部品も必要も足らないんだから」
 歴史博物館ではエネルギー不足を報告しにきた閃崎 静麻(せんざき・しずま)皆川 陽(みなかわ・よう)から深刻な話を聞かされ、頭を抱えた。
 そこへ住民がぞろぞろと歴史博物館に入ってきた。
「なんだあいつら?」
 静麻達が何事かと驚いていると今度は天井が割られ、≪氷像の空賊≫達が振ってきた。
「まずい。住民が狙われてやがる!」
 最悪なことに≪氷像の空賊≫達は住民の目と鼻の先だった。
 ≪氷像の空賊≫達は住民を睨みつけると剣を振りあげながら襲いかかろうとする。
 戸惑う住民。静麻達が駆けつけようとするが遠すぎる。
 そんな時、美しいメロディーが館内に響き渡った。
「何の、音だ……?」
 静麻が音の発信源を探すと、住民の背後からオカリナの吹きつつ銀星 七緒(ぎんせい・ななお)がゆっくりと歩いて来ていた。
 戸惑いつつ陽が尋ねる。
「増援なのかな?」
「……通りすがりの……退魔師」
「敵ではないらしい」
 オカリナの音に足を止めていた≪氷像の空賊≫が七緒を敵と判断し、襲いかかる。
「やらせないわよ!」
 斬りかかってきた≪氷像の空賊≫の剣を七緒の背後から飛び出してきたパーミリア・キュラドーラ(ぱーみりあ・きゅらどーら)が止める。
 そして力任せに振り払うと、【爆炎波】を叩き込んだ。
 七緒が戦いをパーミリアに任せ、別の音色を奏で始めた。
 パーミリアが住民を怒鳴りつける。
「さっさと行きなさいよ! ここはあたしがなんとかするんだからっ!」
 パーミリアに急かされて、住民は感謝を述べながら≪氷像の空賊≫を避けるようにして静麻達のもとへと走った。
 襲いかかる≪氷像の空賊≫をパーミリアは自分より大きな魔剣でふらつきながら斬りつける。
「もぅ、自分の身くらい自分で守りなさいよ!全く……ぶつぶつ」
「……もう終わった」
 パーミリアがぶつくさ文句を言っているうちに、いつの間にかオカリナの音が止んでいた。
 代わりに獰猛な獣の唸り声が聞えてくる。
 七緒の背後に魔物が集まっていたのだ。
「奴らを……食い潰せ」
 七緒の指示で魔物が≪氷像の空賊≫に襲いかかる。
 魔物は鋭い牙で≪氷像の空賊≫を噛み砕き、勝敗は一瞬で決した。
 ふと、パーミリアは思いついたように七緒に尋ねる。
「あの子達、氷を食べすぎてお腹壊さないのかしら?」
「……食べ過ぎに注意」
 七緒の言葉に魔物達は一瞬だけ戸惑っていた。

 歴史博物館にやってきた住民達は嬉しいことに生徒達への協力を申し出てくれた。
 そこで静麻達はエネルギーと部品の不足問題について話すと、飛空艇や飛行船の整備工場から必要なものを使っていいと言ってくれた。
「助かるぜ。よし、俺達は整備工場を回って部品を集めに行くぞ」
 静麻がパートナーのクリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)と一緒に整備工場に向かおうとする。
「それなら、僕等も一緒に行こう。運ぶには人手がいるだろう」
 するとトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)とそのパートナーが参加を申し出た。
「だったら私達が護衛をしてやってもいいぜ。ここでの戦いも少し飽きてきた所だったしな」
 そして【846プロ】所属の落語家若松 未散(わかまつ・みちる)もパートナーを引き連れて参加を表明した。
 メンバーが決まり、静麻達は砲台完成のため、住民を引き連れ急いで整備工場に向かった。

 ――歴史博物館(砲台周辺)。
「う〜む……」
「どうした?」
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)は砲台のシステム関連をパソコンを使って改ざんしていたアレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)が難しい顔をしているのを見つけ、声をかけた。
「今、エネルギー砲用にシステムを組みなおしておりのじゃが、照準のモニターと自動修正システムがアクセス拒否をしておるのじゃ」
「というと?」
「このままじゃとモニターが表示されないだけでなく、正確な狙いが自動で行われないのじゃ。よって目視のさらに手動で狙いを定めねばならんということじゃ」
「あ――まじか……」
 真司は瞼を閉じると困ったように額に手を立てると、鼻先を天井に向けた。
 暫く考え込んだ後、真司はアレーティアに向き直って言った。
「……しょうがねぇ。その辺は俺がどうにかするから、アレーティアはレーザーが発射できる状態にしてくれ」
「了解したのじゃ」

 ――歴史博物館(パソコン前)。
「どうした、少年。さっきからため息ついているぞ」
「某さん……」
 匿名 某(とくな・なにがし)はしきりにパソコンの前でため息を吐いていた皆川 陽(みなかわ・よう)に声をかけた。
「何か悩み事か?」
「まぁ、その……ボクがこんな大役いいのかなって思ってました。みんながボクを信じて意見を聞いてくれているけど、それが……」
「それが息苦しいってか?」
「……うん。そうなんだ」
 陽はプレッシャーを感じていた。
 某は机によりかかると、どう応えるべきか暫く考えた。
 そして突然机から離れると頭の後ろで両手を組んで笑いながら言った。
「別にそんな気にしなくていいんじゃねぇの?」
「……そんなの無理だよ」
 だが、陽は余計に落ち込んでしまい、某は呆れたようにため息を吐いた。
「あれ見てみろよ」
 某が指さしたのは歴史博物館の外だった。
 そこでは某のパートナー大谷地 康之(おおやち・やすゆき)と陽のパートナーテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)が懸命に闘っていた。
「二人とも俺達がうまくやると信じて戦ってくれてる。だからきっとあいつらはどんなに辛くても諦めない。契約した理由はどうあれ、俺達はそんなあいつらのパートナーだ。だったらあいつらの期待に応えようと努力することはパートナーとして当然の役目だと俺は思うぜ」
 陽は汗だくになりながら戦うテディを見つめ、暫く考えた。
 一方、某は言い終わった後で急に恥ずかしくなってきた。
「な、なんてな。俺、ちょっとかっこつけすぎたな。ほらさ、軍服の少年も言ってただろ。「「誰が何を成すべきか」は、各々の持っている天分や能力を鑑みて定まる」ってさ」
 すると陽が迷いや不安のない表情で某に見つめてきた。
「某さんの成すべきことはなんですか?」
「う〜ん。そうだな。「目の前の少年の励まして、指示通り砲台を完成させること」とかかな」
 某が笑って答えると、陽もくすりと笑いを漏らした。
「わかりました。……お手伝い、お願いできますか?」
「もちろん! ……いい顔してるじゃん」
 二人はハイタッチを交わした。


 ――整備工場(入り口)。
 整備工場に到着した生徒達が必要な部品をリアカーに積んでいると、またしても≪氷像の空賊≫達が邪魔しに来た。
「入り口はわたくしとサトミお姉さまで守ります。未散くんは皆さんと行動し、護衛をお願いします!」
 ハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)は近づいてくる≪氷像の空賊≫達に【火術】を放ちながら未散に向かって叫んだ。
 未散がハルの言う通り住民達と一緒に工場に入っていこうとすると、会津 サトミ(あいづ・さとみ)がその手を掴んだ。
「待って! 僕も一緒に行きたいよ」
「大丈夫だよ、サトミン。私はすぐ戻ってくるから。だからここをお願い!」
 未散が手を掴みかえして頼むとサトミの表情が一気に明るくなった。
「僕、みっちゃんのために頑張るよ」
 サトミは向かってきた≪氷像の空賊≫を光条兵器の大鎌【伊邪那美(イザナミ)】で真っ二つにした。
「さぁ、どんどんかかってきなよ」
 ≪氷像の空賊≫達の前にハルとサトミが立ち塞がった。

 ――整備工場(内部) 
「君は落語ができるのか。すごいな」
 部品を運んでいたトマスは未散が落語家であることを聞いた。
「それなりに自信はあるんだぜ。おまえ、興味とかあるのか?」
「そうだね。人を楽しませる「話術」としては興味があるよ」
「じゃあ、機会があったら今度見に来てくれよ」
 二人が話していると、先ほどパーミリアに助けられた住民が自分の家の小さな子供にもわかる話はないかと尋ねてきた。
 そこで未散は部品を運びながらトマスと住民に「寿限無寿限無五劫の擦り切れん……」で有名な「長名」について聞かせつつ、扇子による老若男女の表現の仕方について少しだけ聞かせた。

 ――整備工場(整備中の船)
「これは持って行ってはまずいのでは?」
 クリュティは静麻と住民達が次々と船の動力である機晶石を運び出すのを見て不安そうにしていた。
 彼らの中に船の所有者はおらず、乗組員達は逃げ出してしまたのでこれは無断拝借をしているのである。
「俺もまずいと思うのだがおっさん達がいいって言ってくれてるし、なにより今は四の五の言ってる場合じゃないさ。ほら、さっさと運び出そうぜ」
「……了解、マスター」
 クリュティは静麻の言葉にしぶしぶ納得し、機晶石を運ぶ手伝いを始めた。


 部品を取りに言っていた生徒達が無事に戻ってくると、歴史博物館は大変なことになっていた。
 こちらの動きに気づいたネクロマンサーがさらに大量の≪氷像の空賊≫を送り込んできたのだ。
 未散とそのパートナー達は急いで加勢する。
 その他の生徒達は、戻ってきた街の機工士にも協力してもらい、砲台の改修作業に取り掛かった。
 七緒達は疲労を堪えながら必死に戦う。
 そんな時、パーミリアが声をあげる。
「七緒、上!」
「!?」
 七緒が見上げると、天井の割れた部分から≪氷像の空賊≫が飛び降りてきたのである。
 回避行動をとる七緒。
 しかし攻撃が降りかかることはなく、代わりに熱で溶けた≪氷像の空賊≫の体が落ちてきた。
「……今の、貸しね」
 入り口に絹織 甲斐子(きぬおり・かいこ)が立っていた。
 ≪氷像の空賊≫は甲斐子の第三の目による熱視線によって倒されたのだ。
 微笑を浮かべる甲斐子。
 すると、甲斐子の背後に忍び寄っていた≪氷像の空賊≫を神崎 輝(かんざき・ひかる)が倒した。
「これも貸しになりますか?」
「別に……最初から気づいてたわ……」
 甲斐子は輝の方を振り向かず、そのまま歴史博物館の中へと歩き出した。
 やれやれと戦いに戻ろうとする輝。
「でも……」
 言葉に反応して輝が甲斐子に視線を向ける。
 甲斐子が二、三歩進んだ所で足を止め、長い髪を揺らして顔だけ振り返ると、蠱惑的な笑みを浮かべた。
 そして甲斐子は発音はせずに艶やかな唇を動かし「ありがとう」と告げていた。
 七緒の心臓は爆発しようなくらい大きな音を立てていた。