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俺の祭りを邪魔するな!!

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俺の祭りを邪魔するな!!

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「マスター!」
 駆けてくる四谷 七乃(しや・ななの)の姿を視界に片隅にとらえた大助は、≪サルヴァ≫から一端距離をとる。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ、七乃。これくらい問題ない」
 大助が≪サルヴァ≫との戦いで受けた傷を、七乃が心配そうに見つめていた。
 するとグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)が額に汗を滲ませながら走ってくる。
「大助! 大丈夫か!?」
「だから、大丈夫だって。ちゃんと無事だし、足止めもできてるから」
 二人のパートナーに心配された大助は苦笑いを浮かべていた。
「よかった。……ここからはみんなで一緒に戦うわよ」
 グリムゲーテの背後に次々と≪氷像の空賊≫を倒した生徒達が現れる。
 ≪サルヴァ≫に対して生徒達が数で圧倒的する。しかし、≪サルヴァ≫は余裕の笑みを見せていた。
「マ、マスター……」
 七乃が脅えた声を上げる。
 七乃の視線の先には手に血の付いた武器を持った屈強な覆面の男達が立っていた。
 生徒までの所まで漂ってくる血の臭い。
「なんだ、こいつらは……」
 覆面の男は民家や路地から次々と現れる。
 男たちは≪サルヴァ≫逃亡の手助け、あるいは街に混乱を引き起こすために現れたのだった。
 すると、男たちの間を抜けて神豪 軍羅(しんごう・ぐんら)が生徒達の前に立ちふさがる。
「こやつらは残虐非道、ルール無用の≪裏闘技場の荒くれ者≫よ。身体にまとわりつき、こびり付いて消えぬこの血の匂いこそが何よりの証拠よ」
 ≪裏闘技場の荒くれ者≫が生徒達の前に立ちふさがるように軍羅の背後を埋め尽くし、≪サルヴァ≫の姿を覆い隠した。
「奪還者よ。書物が欲しくば私という試練を乗り越えよ!」
 軍羅が地面に足を叩きつけると、舗装された道にヒビが入り、衝撃が生徒達の所まで伝わってくる。
「なんていう威圧感だ……」
 軍羅から放たれる威圧感にグリムゲーテが思わず、一歩退いた。
 大助の背後に隠れて七乃が震えている。
「……オレがあいつの相手をする。七乃を頼んだ」
 大助はボロボロになった上着をグリムゲーテに預け、力強く前へ一歩踏み出した。


 一方、同じ大通りの別の場所では、空賊船の侵攻を遅らせるために生徒達が奮闘していた。
「あちきはこっちですよ。ちゃんと追い掛けて来てくださいな」
 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は民家との間をひらりと飛び越えながら、真っ直ぐ走っていた。
 レティシアの斜め後ろを≪氷像の空賊≫達が地面すれすれを飛んで追いかけてくる。
「……男って死んでも変わらないのねぇ」
 レティシアは鼻の下を伸ばしながら見上げてくる≪氷像の空賊≫達をチラリ見て、深いため息を吐いた。
 暫くして視界に噴水のある広場が見えてきた。
「そろそろですかねぇ。……よっと」
 レティシアは勢いをつけて屋根から飛び降りると、噴水の傍に着地した。
 後を追っていた≪氷像の空賊≫達はレティシアの突然の行動に対処できず、足を止めた先頭に次々にぶつかり、ドミノ倒しのように転んでいった。
 その様子にレティシアはまたしても深いため息を吐いた。
 すると、レティシアの頭上を黒い影が通り過ぎる。
「後は任せろ」
 民家の陰に身を潜めていたグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が飛び出してきたのだ。
 グラキエスは手に持った機晶爆弾を≪氷像の空賊≫達に投げつける。
 攻撃を食らった≪氷像の空賊≫の身体が派手に砕け、重なっていた相手に砕けた氷の棘が突き刺さった。
 灰色の煙からよろよろと逃げ出そうとする≪氷像の空賊≫にグラキエスが追い打ちをかける。
「逃がすか!」
 一気に距離を縮めたグラキエスは腰を低くして拳に力を込めると、渾身の一撃で≪氷像の空賊≫の腹に巨大な風穴を開けた。
「俺の邪魔する奴は……消えろ」
 祭りを楽しみにしていたグラキエスは邪魔されたことで相当頭に来ていたのだ。
 ふいに煙の中からグラキエスの背後を狙って≪氷像の空賊≫が飛び出してくる。
 ≪氷像の空賊≫が剣を振り上げ襲いくるが、グラキエスは振り返ろうともしなかった。
 代わりにベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)が放った魔法の矢が≪氷像の空賊≫を貫いた。
「グラキエス。戦場ではもっと背後に注意してくれ。でないと危険だろう」
 ひやひやしたとばかりにベルテハイトは額の汗を袖で拭った。
 グラキエスは反省した様子もなく、当然のように返す。
「大丈夫だ。俺の背後はベルテハイトがちゃんと守ってくれることになってるからな」
「……しょうがないですね」
 ベルテハイトはどこか嬉しそうにため息を吐いていた。
 すると、広場の反対側の屋根の上で周辺状況を確認していたミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が声を張り上げる。
「レティ。次はあっちです」
「やれやれ、人使いが荒いですねぇ」
 肩を竦めるレティシア。その時、レティシアはミスティの背後に忍び寄る≪氷像の空賊≫の姿に見つけた。
「ミスティさん、後ろ!」
「え?」
「やらせん!!」
 振り返るミスティ。その視界に映ったのは空色を透かしだす≪氷像の空賊≫に、身体ごとぶつかっていくゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)の姿だった。
 タックルを食らった≪氷像の空賊≫はバランスを崩して屋根から落下して砕け散った。
「怪我はありませんか、ミスティ殿」
「あ、はい」
「それはよかった」
 傷のある強面でゴルガイスが笑うと、ミスティが一瞬脅えたような表情をした。
 ゴルガイスが少しだけ寂しそうにして立ち去ろうとすると、ミスティが慌てて声をかけてきた。
「あ、あの……!」
「はい? 何でしょう」
 ゴルガイスはミスティに脅えられないように振り向かない。その背にミスティが話しかける。
「ありがとうございました。それと……ゴルガイスさんは見た目とは違ってとても優しい方なんですね」
 意外な言葉に驚いたゴルガイスが振り向くと、ミスティが笑っていた。
 ゴルガイスは赤くなった顔を顔を隠すために慌てて、背を向けた。
 その様子を楽しそうに見ていたレティシアは、ふいに作戦開始時に葉月 ショウ(はづき・しょう)が言っていたことを思い出した。
「ショウさんは大丈夫ですかねぇ」
 レティシアが街の外から侵攻してくる空賊船を見ていた。
 グラキエスも同じ方向に視線を向けて答える。
「そういえば空賊船に突撃するとか言ってたな。確か、空賊船は激しい弾幕とバリアが張られちまって近づけないんじゃなかったか?」
「そうなんですよねぇ。まぁ、砲撃が当たれば簡単に風穴も空くのでしょうけど――」
「みんな……緊急連絡よ」
 二人が話しているとワイルドペガサスに跨った【『シャーウッドの森』空賊団】副団長リネン・エルフト(りねん・えるふと)が降りてきた。
「何か連絡でもあったのか?」
「はい。砲撃が――」
「ぐへへ、若いねぇ、可愛いねぇ。ねぇ、ちょっとでいいからさ、プリプリのそのお尻に触らせて……」
 グラキエスに連絡事項を伝えようとしたリネンは慌てて声のした方を振り返る。
 そこには手の指をせわしなく動かしながらレティシアとミスティに詰め寄る【『シャーウッドの森』空賊団】団員フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)の姿があった。
「なぁ、あの人……」
「ごめんなさい……私のパートナーです」
「エロ鴉!!」
 リネンが申し訳なさそうにしていると、怒声と共にフェイミィに向かって矢が降り注いできた。
 辛うじて矢を避けたフェイミィが空に視線を向けると、レッサーワイバーンに乗った【『シャーウッドの森』空賊団】団長ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が弓を構えていた。
 ヘイリーは降りてくるとフェイミィを捕まえて説教を始めた。
 悩ましげに頭を抱えながら、グラキエスは話を戻すことにした。
「えっと、それで何の連絡だったんだ?」
「あ、そうだ。砲撃が……」
「もうすぐ、発射されるわよ! 射線上から避け――」
 リネンの言葉を遮ってヘイリーが叫んだ瞬間、歴史博物館の方向から眩い光が放たれた。
 ――数秒後、彼女達の頭上を轟音と共に弾丸が通過していくことになる。


 緊迫と熱気に満ちた歴史博物館にミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)の張りのある声が響く。
「充電率……100%。計器に異常なし……OK。いつでも発射可能よ!」
 目の前にあるいくつもの計器をミカエラは見落としはないようにと何度も確認していた。
 弾は一発しかない。失敗は許されないのだ。
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)はミカエラが最後確認してから、次の行動に移行した。
「よし、俺は今から前線の仲間に連絡を入れるてくる。トマス、カウントを頼む!」
「了解だ。弾丸の装填開始する!」
 真司が【テレパシー】で連絡を送っている間、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が代わりに指示を出す。
 巨大な弾丸を生徒達は協力して転がし、≪機晶式ジィビナイド・カノン砲台≫の背後から弾丸を装填した。
 計器が激しく振れ、砲台から大きな音が引っ切り無しに聞こえてくる。
 機晶石がエネルギーを生み出す音に連動して、まるでモーターの回転のように生徒達の心臓の鼓動を急速に早めていく。
「分析したデータを送るぜ! しっかり狙ってくれよ」
「プログラムが自動で修正してくれるんだ。俺はレバーを引くだけだぜ」 
 砲台の脇で発射レバーに手をかける閃崎 静麻(せんざき・しずま)のモニターに匿名 某(とくな・なにがし)が送った空賊船の詳細データが表示される。
 唾を飲み込む音が騒音にかき消され、ミカエラがカウントを開始する。
「カウント10秒前、9、8……」
 ある者は空賊船をひたすら睨みつけ、またある者は手を合わせて祈った。
「7、6、5、4……」
 静麻はレバーからは手を離さず、じっとりと塗れた手の汗を指を一本ずつ動かして逃がした。
「3、2……」
 ――緊張が最高潮に達する。
「1……」
「――ジィビナイド砲、発射ぁ――!!」
 トマスの声と同時に静麻がレバーを引かれる。