リアクション
* お茶会から数日後の生徒会室。 早速、新生徒会役員の面々が、立候補者と共に集められていた。 「皆様、次代の百合園を宜しくお願いいたします。 私は卒業後ラズィーヤ様の秘書として百合園に留まりますので、何かあればいつでも相談してくださいね。 尤も、こちらからいろいろとお願いすることもあるかと思いますので、何かと顔を合わせることになるかと思いますけれど」 生徒会長──今や前生徒会長となった伊藤春佳が長い挨拶の最後にそう付け加えると、拍手が起こった。 「……ありがとう。では、今度は新しい生徒会長さんに拍手を」 春佳は、その場所を──生徒会長の席を彼女に譲った。 新生徒会長となったアナスタシアは、拍手の中立ち上がると、その席の前に立った。 エリュシオン人の彼女がそこに立つことになるとは、一年前、誰が予想していただろう。 「ありがとうございますわ。アナスタシア・ヤグディン、誠心誠意、この生徒会長という重職を務めさせていただきますわ。 ただ、言っておきますけれど、私、今でもエリュシオン帝国の文化が最高だと思ってますわよ」 ……そんな。と、誰かが言った。性格が丸くなったように思えたのに、実は違ったのか、と。 それを聞いて彼女は口の端で愉快そうに笑った。 「でもそれは、私の中でのことですわ。 エリュシオンの文化が発展し、最大の領地を持っているのは事実ですけど、それが自分の出身だから、私にとって最高なだけだと気づきましたの。そうあって欲しいという願望も含まれていたのでしょうね。それに、ここでは故郷とは全く違う文化ですもの、馴染めなかったり、それなりの苦労もありましたわ。郷愁もあったのでしょう」 日本だけでなく、地球の他の国だけでなく、と、彼女は続けた。 「皆さんはきっと、皆さんご自身の『背景』がありますもの。皆さん一人一人に最高──もしくは、心の故郷がおありなのですわ。ですから正確には優劣はないのでしょうね。 勿論先に言った通り、エリュシオンの文化がシャンバラより発展しているのは事実ですのよ。 でもそれ以外の点で優れたものは他国にもあるはず。ですからエリュシオンも、他の国も、各文化の良いところは取り入れていきたいですわ」 そして彼女は、惜しくも落選した生徒達の顔を、一人一人を見る。 「落選された方々にも、どうか新しい百合園のため、私たちを支えていただけると嬉しいですわ。投票ですけれど、伺ったところ大変な接戦だったそうですわ。 それだけ皆さんに期待されていた方々が多いということですもの。ないがしろにしては公平ではありません?」 アナスタシアは自分と最後まで票を競った、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)の可愛らしい瞳を見つめた。 勿論、彼女だけではない。特に副会長選は甲乙つけがたく、選考に大変難航したという。 鳥丘ヨルはその洞察力と的確な判断力、行動力を。七瀬歩は、その真っ直ぐな優しい心と、多くの方を引きつけまとめていける力を評価されたという。 「その、……発言、宜しいでしょうか」 落選者の一人──日高桜子が、控えめに手を挙げた。 「どうぞ」 「新しいマナーの確立、良いところを取り入れるということですけれど……それを作る一環として、交流会を開いてはどうかと思うんです。それぞれの国の方がホステスを務めて……互いに学ぶ場を作ってはどうでしょうか?」 「そんなこと私だってもう考えていますわよ」 アナスタシアが背後の椅子から両手で取り出したのは、ふかふかのクッションだった。 「それは……?」 「クッション、ですわ。 今まで椅子に張ってありましたけれど、皆さんそれぞれ好みの硬さがありますわよね。ですから少しでも居心地良く長く懐疑するために、各種クッションを用意しましたの。勿論持ち込みも歓迎ですわ」 アナスタシアはソファの上に用意された沢山のクッションを指差して、 「これは最後まで選挙を戦った皆さんの分ですわ。これを開かれた生徒会・お茶会を目指した橘 舞(たちばな・まい)さんにちなんで、舞クッションと名付けようと思いますの。日本の名前が融合した素晴らしい案だと──」 「却下です」 会計に当選した琴理が呆れたような顔をして、即座に口を挟んだ。 「一秒で却下されましたわね……ま、いいですわ。ではこちら、ティータイム用のカップを舞カップと……」 「それも却下です」 「何ですの? 『ヴァーナーさんのほっぺクッション』にでもすれば気がお済みですの?」 「くだらないギャグは却下です。あと、就任早々予算を使い込まないでください」 アナスタシアは貴族育ちのせいか、どうやら金銭感覚に問題が少々あるらしい。琴理がいささか不機嫌なのは、領収書に目を通したからのようだ。 何とクッションは貴族御用達の高級店で、フルオーダー(お急ぎ仕上げ)されていたのだった。 「だって、今日までに間に合わせなければと思ったんですもの」 「それで揺らぐような百合園の生徒会予算ではありませんが、万事この調子だと困ります。そんな予算があるなら、ヴァイシャリーの清掃ボランティアなど、やりたいことが沢山……」 痛いところを付かれたのか、アナスタシアはこほんと咳ばらいをした。 「……ま、まぁ……居心地が良すぎて入り浸りでも困りますわね。事件は生徒会室では起こっていませんものね」 そして薄いロシアン・ブルーの瞳での全員の顔を見回して。 自信と誇りと、何よりも希望に満ちた表情で。 「──皆さん、これから宜しくお願いいたしますわ。より良い百合園の為に力を合わせていきましょう」 はい、と、全員の声が唱和した。 それは、庭園の樹々を揺らす風に秋の訪れを感じる、夏のある日のことだった。 百合園新生徒会──白百合会の、新しい始まりの日。 担当マスターより▼担当マスター 有沢楓花 ▼マスターコメント
こんにちは、有沢です。シナリオへのご参加ありがとうございました。 |
||