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古代兵器の作り方

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古代兵器の作り方

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     ◆

「ありゃあ…………ラナ先輩、ラナ先輩? もしもーし……駄目だ、多分聞こえてないよ」
 美羽がひたすらにラナロックの名を呼ぶも、しかし彼女からの返事はない。
「あ、ほら。美羽さん。ラナロック先輩の目の色、やっぱり赤なんかじゃないですよ」
 思い出したようにベアトリーチェが言うと、美羽がレキと一緒になって彼女の顔を覗き込んだ。確かに、言われてみれば彼女の瞳の色はこの色だ。と、頷く二人。彼女の瞳の色は、銀色なのだ。
「に、してもさ………ラナさん、なんであのこの歌聞いて止まっちゃってるの?」
「歌の力、なんじゃないですかね」
 三人の後ろから突如として聞こえたのは、レキの声。三人が振り返り、カムイに改めて挨拶を交わす二人と、「おかえりー」と手を降るレキ其々返事を返すと、カムイはまじまじとラナロックを見詰める。
「ラナロックさん、凄いんですねぇ」
 響く歌声の中、カムイは何の気なしに呟いた。
「だってほら、目の色――七色ですもん」
「え?」
「それってまずいのでは――」
「みんな、離れて!!!!」
 美羽の声に一同がラナロックから距離を取る。歌っていたアルカネットも歌うのを止め、台車を押していた雅人は急いで台車を後ろに引いた。呆然としていたカムイはレキに手を引かれラナロックから離された。その途端、ラナロックのいた場所が何やら小規模で爆発し、辺りに煙を巻き上げる。
「な、何!? あれ………」
「直視するな!」
 爆発で台車から転げ落ちたアルカネットは大事そうにギターを抱えながら呟く。と、先にそれが何かが分かった雅人が彼女の頭を抱えて視界を塞ぐ。
「ねぇ………ベアトリーチェ………今何か、変な音、しなかった?」
「美羽さんも聞こえました?」
「ら、ラナさん!!!!」
 何があったかがわからなかない、と言った様子で言葉を交わした美羽とベアトリーチェの言葉を、レキが掻き消した。爆発を起こしたのはラナロックだと思っていたその場の一同が、煙が晴れるにつれて、その全貌を目の当たりにし、絶句した。

「やっと一発、入れてやったよぉ! かっはっはっは!」

 先程までの戦闘で服は至るところが破れ、体は傷にまみれていたラナロックではあったが、此処まで目に見えた被害はなかった。なかったが、たった今――彼女の右腕は、肩から下が吹き飛び、無くなっている。傷口からは、しかし決して人間にはない、配線と金属のフレームが顔を覗かせていた。
「そ…………そんな。ラナロック先輩の、腕が…………」
 声を高らかに上げ、彼らの後ろからやって来たのは、エスに体を支配されているエヴァルト。ゆっくりゆっくり一同の元に近付いてきた彼は、上機嫌にラナロックへと声をかけた。
「よぉ! ざまぁねぇな、お前もよ! ま、俺様の渾身の一撃だよ、食らって無事な筈がねぇよなぁ」
「………………………………」
「そ、そんな――折角、折角皆で、無事にラナ先輩を止められそうだったのに……………なのに――!!」
 立ち上がり、目に求まらぬ早さでエスへと近付く美羽。
「なんだよ嬢ちゃん、良いじゃねえか、俺が誰をぶちのめしてもよ。そんなにがなるんじゃあねぇよ」
「煩いっ! 煩い煩い!!! あたしも、ベアトリーチェも、レキとカムイも、アルカネットも雅人も皆みんな、無事に皆帰ろうって、そう決めてたのにっ!!」
 速度に乗った彼女が、そこで地面を力一杯蹴って宙へと舞うと、渾身の一撃を見舞うべく、体勢を整える。空中で一回転した彼女は、その勢いと重力とを使って振り上げた踵を落とす。エスへと落下し、彼の登頂部へと叩き込もうとした次の瞬間、不意に横からの衝撃で壁の方に押しやられる。
「美羽さん!」
「大丈夫だよ!! で、でもっ!!!」

 「私の腕は高いのよ? けっひひひひひひひひひひひっひひひおっっはっっはっっはっはっはっっっっっっっっ!!!!!!」

 片腕を失ったラナロックは、しかし左腕で空中の美羽を押しおけるとその動きの流れでホルスターから銃を抜くや、エスの左目に銃の底で打撃を加え、両手、両足を至近距離から撃ち抜いた。何の躊躇いもなく撃ち抜き、最後にいつの間にか縮めていた足で壁へと思いきり叩きつけた。
「ぐぉおおおっっ!?」
「邪魔なのよ。私はこの先に行きたいの」
 以降、決して追撃の姿勢は見せずに、彼女は一同に振り替えることなく、通路をひたすらに進んでいく。
「ラナさん…………もう戻ってこないのかな………」
「わかならないですね…………もしかしたら――」
「そんなこと無いよ!!!!」
「美羽さん………………」
 見送るレキとカムイが、半ば諦めの様な事を口にした途端、美羽が懸命に否定したのだ。
「そんなこと無いもん……ラナ先輩はずっと優しい先輩だよ! だって、だって――」
 その言葉で、ベアトリーチェは冷静に考えた。成る程、と、冷静になって思い付く。
「確かにそうかもしれません。ラナロック先輩、美羽さんを押しおけた時、あんな勢いで飛び掛かっていったのに、優しく押してました。だから、壁にぶつかったりはせず、ちゃんとした体勢で着地出来たんですよね」
「言われてみれば、確かに――エヴァルト、美羽に攻撃しようとしてたもんね。あのままいったら、流石に空中では回避なんて出来ないわけだし――」
 レキも心当たりを呟いた。
「なるほど、攻撃を中断して美羽さんを助けた。それに、あのままだと頭を狙ってますよね、エヴァルトさんの。でも彼女は手足を狙った。追撃もしなかった………やっぱり」
 おぞおぞと近くまで集まってきた四人がそう言うと、皆で静かに頷いた。
「まだ、望みはあるんなろうね。きっとさ」
「そうですよ、諦めなければ、必ず」
「止めよう、あの人を。終わらせるんだ。皆無事って、訳にはいかないけどさ」
 と、カムイの腕には何かが握られている。細長いそれは、ラナロックの吹き飛んだ腕。
「これ、正気に戻ったらラナロックさんに返して上げましょう。その方が、あの人も喜ぶはずですし」
「行きましょう!」
 ラナロックの後を追うべく、彼女の去っていった方へと足を向けた一同は、そこで四人が四人とも振り返る。
「アルカネット。良かったよ、歌。ラナさんもそれで止まったわけだし、お手柄じゃん!」
「僕は途中からしか聴いていませんが……今度、最後まで聞かせてくださいね」
「カネット! 夢は絶対叶うよ、だって、少なくとも私たち四人は、カネットの歌に支えられたと思うから。絶対ね」
「無理はしないでくださいね。その力で――いつか多く人を救ってあげてください。約束ですよ」
 四人がそう言うと、踵を返して先へ進むのだ。アルカネットへのエールを送った四人。その姿を見送る彼女は、呆然としていた彼女は、突然のように立ち上がり、唇を噛み締めながらに小さな声で雅人に言う。
「……………帰る!」
「え? でもまだ…………」
「帰る! 帰るったら、帰るの!!!」
「えっ、あぁはいっ!」
 雅人に背を向けている彼女の表情はわからず、慌てて片付け始める雅人。と、そこで彼は、アルカネットの涙に気付いた。
「約束したんだ…………約束、した。私の夢……………実現するんだ」
「アルカネット様……………」
「帰って、練習するんだ。今はほんの一瞬だけでも。今は些細な力でも、必ず成功させるんだ」
「………帰りましょう。そしてこの雅人にできることあらばなんなりと。貴女をどこまでも、支えさせていただきますから」
 にっこりと笑い、しかしそれをアルカネットに気づかれないように、倒れていた機材を起こし、台車に積み直す雅人。
「そして踊るのです!! アルカネット様歌共々に、無二の躍りをご覧いただくのです!」
「………………ぷっ、あっはははは」
「はははは。さぁ、帰りましょう。今日にでも、明日にでも、あの四人との約束を守るために」
「うん、そうだね」
 二人で機材を乗せた台車を押し、二人はこの場を去っていく。彼女は小さな声で一言――「ありがとう」と口ずさみながら。