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リアクション
第6章(2)
「ポチ、気分は悪く無いか?」
瘴気の柱を前に、白砂 司(しらすな・つかさ)が騎乗している狼へと話しかけた。
彼とサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)はルイ・フリード(るい・ふりーど)達と分かれ、二人だけで柱へとやって来ていた。
「……ふむ。不快ではあるが、幻獣のように狂暴化の兆候が見られる訳では無いか」
「その辺りがパラミタ側の生物とこちら幻獣達との違いなのかもしれませんね」
「あぁ。だが考証は後回しだ。まずはこれを何とかせねばな」
「えぇ……」
二人の前にそびえ立つ柱。東側、北側からの報告を聞く限りは同様の物だ。
「必要であれば無力化に抑えて確保したかった所だが、北の幻獣の話が本当であれば残す必要は無いな」
「清浄な力を送る為のパイプ、でしたね。送る力そのものが瘴気に負けてしまうのでは仕方の無い事です」
「ではサクラコは下を。俺は上をやる」
「分かりました……行きますよ!」
「瘴気よ……散れ!」
司が聖なる力を持つ槍を柱に投げつけ、核となる部分へと突き刺す。同時にサクラコがもう一つの核へと走り込み、自身の生命力を込めた渾身の一撃をお見舞いした。
「闇と光のうねり……闇が瘴気だと言うのなら、私達が光となりましょう!」
二人の手により、最後の柱が活動を停止した。これで聖域は再び平穏を取り戻す事だろう。そう、残された一つの戦いの終了を持って――
「たとえ間接的にだとしても……マスターを傷付けるつもりなら後悔してもらうぞ!」
一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)が三道 六黒(みどう・むくろ)達に向け、大量のミサイルをお見舞いした。彼女は普段は礼儀正しい少女なのだが、神崎 輝(かんざき・ひかる)へ敵意を向けた者には容赦しないという特別な性格をしていた。
というより、早い話がキレる。
「瑞樹、ちょっとやり過ぎ! これじゃ狙いが付けられないよ〜」
その横ではシエル・セアーズ(しえる・せあーず)が弓を持て余していた。元々シエルは魔法主体の為、この世界では若干不利が否めない。その為最近主力武器として使うようになった弓で輝を援護するつもりだったのだが、目の前は見事に土煙という有り様だった。
「何の! 私の戦いは真正面から!」
「あ、ルイ! 不用意に出たら!」
シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)の制止も間に合わず、ルイが前に出る。視界が悪かろうと、殺気さえ感知出来れば問題無い。
――そう、思っていた。
「聞きなさい! 私の雄叫びををぉぉぉをををぉぉぉ!?」
土煙が吹き飛び、視界が晴れる。そこにルイの姿は無く、代わりに大きな穴が開いていた。
「随分と大きいわねぇ。この穴」
「そりゃ俺達で仕掛けた罠、一人で全部持って行きやがったからな」
「逆に言うと一度で全ての罠を潰されたとも言えますけどね」
「俺のスナジゴクまで喰らいついたぞ。どうするんだ、オイ」
夜・来香(いえ・らいしゃん)、ホイト・バロウズ(ほいと・ばろうず)、久我内 椋(くがうち・りょう)、ドライア・ヴァンドレッド(どらいあ・ばんどれっど)が半ば呆れたように穴を覗いていた。底ではルイが倒れこんでいるのが見える。
「まぁ、とりあえず片付けとくか」
羽皇 冴王(うおう・さおう)が指を鳴らし地面から現れた砂鯱がルイを弾き飛ばす。そこにゴーレムを足場に跳んだドライアが剣を手に襲い掛かった。
「弱い奴をいたぶる趣味はねぇんだがな。一気に切り刻んでや――」
「油断大敵ぃ!!」
「なっ!?」
気絶していたと思われたルイが突然復活し、ドライアを剣ごと拘束した。強靭な肉体を持つ彼は、落とし穴にはまったくらいでは負けなかったのだ。
「くそっ、離しやがれ!」
「残念ですが、このまま下までお付き合い頂きますよ!」
二人が組み合ったまま落下し、地面へと近付く。そして着地――
「ぬおぉぉぉぉぉ!?」
「ぐはぁっ!?」
――出来なかった。降りた場所の地面にも穴が開き、再び底へと落ちて行った。
「ねぇ壮太、あそこって……」
「あぁ。俺達が仕掛けた所だな……」
ミミ・マリー(みみ・まりー)と瀬島 壮太(せじま・そうた)が気まずそうに穴を覗きこむ。底ではルイとドライア、二人が倒れこんでいるのが見えた。
「ちっ、しょうがねぇな。こっちも使ってやるか」
改めて冴王が指を鳴らし、今度は付近の地面に仕込んでいた爆弾を破裂させた。散開させられる調査団のメンバー。爆破により足場を悪くさせられただけでなく、再び視界を悪くさせられた。
「また!? もうっ! 瑠奈ちゃん、お願い!」
「は〜い」
二度も弓での援護を潰されたシエルが憤慨しながらも敵の奇襲に備える。二つの加護に護られた彼女は敵の位置を察知する事に専念し、代わりに神崎 瑠奈(かんざき・るな)が相手の邪魔をする形で飛び込んだ。
「……ほぅ、良く気付いたな」
視界不良を利用して近付いていたモードレット・ロットドラゴン(もーどれっと・ろっとどらごん)が感心したように言う。
「気配を消して無いから分かりますよ〜。まぁ消していても分かるんですけどねぇ、ボクは」
「なるほど、変わった目をしている。ならばその眼で悪夢を見てもらおう」
「にゃにゃっ?」
モードレットによって幻覚が見せられる。こういった搦め手――悪い言い方をすれば卑怯な手――を使うのがモードレットのやり方だ。
「――ふむ、その戦い方、嫌いでは無いぞ」
「! ちっ」
だが、瑠奈の隙を突く前にモードレット目掛けてダガーが飛んできた。回避しつつ距離を取るモードレット。入れ替わりに辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)が姿を現し、素早くダガーを回収する。
「双方とも随分と派手にやっておるようじゃな。わらわも報酬分は仕事をするとしようかの」
刹那は身なりは少女だが、その実は裏稼業をこなす者だ。その内容柄立場的にはモードレット達のようにいわゆる『正義』と相対する事が多いのだが、基本的に依頼主の勢力は問わない為にこうして異なる立場に身を置く事もままあった。
今回の場合、調査団の誰かしらがそういった世界に詳しく、そこから依頼が行ったのだろう。
「が、頑張ってね、せっちゃん」
岩場の陰からアルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)が僅かに顔を出す。刹那のパートナーなのだが、直接前に出るタイプでは無いのでこうして応援を行っている。微かに口が動いているのは、彼女を応援する為の歌を歌っているようだ。
「……って、あれ。もしかして……こっちに来てる?」
そのアルミナの方へとモードレットが向かう。元より卑怯な手段を得意とする人物が弱い所を突くのは当然だ。
「わ、わわっ」
事前に刹那から言われていた事もあり、狙われるや否や慌てて逃げ出すアルミナ。そこに輝と瑞樹が援護に駆け付けた。
「瑞樹!」
「はい、マスター!」
瑞樹が一発だけ残していたミサイルを発射して時間を稼ぐ。その間に輝がアルミナの前に踊り出し、そのまま盾を構えて突撃した。
「シエル、瑠奈! 二人もお願い!」
「分かったわ輝! ほら瑠奈、しっかりして!」
「ふにゃ……? はっ。やりますよ〜」
シエルの弓が、そして正気に戻った瑠奈が死角へと動き、鎌で襲い掛かる。それだけでは無い。刹那が別方向から小さめの刀を構えて肉薄した。
「ますます気に入る戦い方じゃ。じゃが、やらせる訳にはいかんの」
「小さい奴らが数ばかり増えやがるか……ったく」
毒づくモードレット。さすがに一対五では面倒だと感じたのか、大きく跳躍する。タイミングを合わせてレッサーワイバーンが現れ、モードレットを乗せて一気に上昇していった。
「マスター、追いますか?」
「ううん、それより……大丈夫?」
輝がアルミナへと歩み寄る。彼女は涙目ではあったが、きちんと輝へと頭を下げた。
「う、うん……その、有り難う」
(ふむ、幻獣相手であればとアルミナを連れては来たが、やはりああいった手合いも出てくるか)
刹那がモードレットの飛び去った方を見る。ともあれ、輝達とはお互いのパートナーの危機を助けあった形となったようだ。
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