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【重層世界のフェアリーテイル】ムゲンの大地へと(前編)

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【重層世界のフェアリーテイル】ムゲンの大地へと(前編)

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第6章(3)
 
 
「私は、何度でも、甦りますよぉぉぉ!!」
 モードレット・ロットドラゴン(もーどれっと・ろっとどらごん)達の戦いが繰り広げられていた頃、ルイ・フリード(るい・ふりーど)がベヒーモスに挑んでいた。例によって正面から。
 調査団と敵対者という分かりやすい図式だったあちらと違い、こちらはルイを始めとした調査団、三道 六黒(みどう・むくろ)達敵対者、そしてベヒーモスなどの幻獣という三つ巴の戦いとなっている。
「この肉体バトルはどうになならないのかなぁ……」
 後方ではルイを回復したシュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)がため息をついている。二度も落とし穴に落ちたのにめげずに戦っている所は評価して良いものかどうか。
 幸いというべきなのか、ルイが敵対者にこれ以上邪魔される事は無かった。他の者に狙いが向いているという事もあるし、何より一番の相手である六黒もベヒーモスを狙っていたからだ。
「力を拠り所にしている幻獣とていか程の者よ。力とは、より大きな力に食い尽くされるのみ」
「なら、もっと強い力達に押し潰されるか?」
 その六黒の所にリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)が辿り着いた。普段は温厚なリュース。しかし、調査団に参加する際に懸念していた敵対者の代表とも言える存在を前に、既に敵意が溢れている。
「貴様……やっぱりこんな所まで来てやがったか。貴様らの事だから騒動を何とかする為に戦ってんじゃねぇだろ? だったら邪魔だ。消えろ」
「ふ……ならば示してみるが良い。さらに上の力とやらをな……!」
 次の瞬間、互いの位置が入れ替わる。両者とも初手はスピードに乗せた一撃だった。その一合の勝負を果たした二人がゆっくりと振り返る。
「ぬしの力はそのような物か? その程度の力、この世界では捨てるほど存在する力よ」
「吠えるな、ドクズ。誰が一人の力と言った?」
 単純な力勝負では敵わない事は百も承知。だからこそ『達』だ。見ると木崎 光(きさき・こう)ラデル・アルタヴィスタ(らでる・あるたう゛ぃすた)、それから猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)がこちらに来ている。
「ヒャッハー! 悪の親玉は俺様がぶっ潰す!」
「あぁもう、どうしてこの凶暴獣はこうやって厄介な事ばっかり首を……誰か、契約前のあの頃に返して!」
「こいつがシャンバラで有名な悪党か……」
「さて……もう一度言うぞ。邪魔だ、消えろ」
 再びリュースが急加速で斬りかかる。六黒も同じ形で対抗しようと思ったが、直前で止めて受け流しを選択した。
「音速の剣だ! ヒャッハー!」
「未熟でも……合わせれば!」
 なぜなら光と勇平、二人がリュースの攻撃に合わせて来たからだ。仮にリュースと打ち合った場合、本人か後ろで盾を構えているラデルに防がれ、そこから追撃を受けていただろう。
「手を組み、一つとして力を増すか。それもまた一つの道よ」
「道だの何だのどうでも良い。重要なのは、貴様が目障りという事だけだ」
 三度目の攻撃。それに対し、六黒は防御ではなく突撃の構えを見せた。その瞬間、六黒のすぐ後ろで爆発が起きる。
「教えてやろう……力はこう利用する物だとな!」
 爆発は羽皇 冴王(うおう・さおう)が仕掛けていた物だった。その衝撃をも利用して自身一番の加速を見せた六黒がリュースの構える前に目前へと迫る。
「!」
 だが、攻撃はリュースにも、そしてその後ろの三人にも行かなかった。そのまま全員をかわした六黒が前方にいるベヒーモスの胴体に渾身の一撃を叩きこむ。
「何だ? 俺様達を無視して幻獣に行くのか?」
「あの威力なら直接狙った方が良さそうだが……まさか!」
 ラデルが六黒の行動の真意に気付く。爆発の加速を利用した為、一番力を揮えるポイントがあの辺りだった事、そして――
「こっちに倒れてくるぞ! 逃げろ!」
 もう一つがベヒーモスの身体自体を利用する事だった。正面でルイとやり合っていた所に横っ腹を全力で殴られたのだ。しかも六黒の一撃はこの世界ではパラミタ以上に強化されている。いかに巨大な幻獣といえど、全くの無傷という訳にはいかなかった。
 
「随分と豪快なやり方でしたね。六黒殿」
 一撃を入れた後、そのまま下を潜り抜けた六黒を待っていたのは久我内 椋(くがうち・りょう)だった。モードレット達も近くに揃っている。
「まぁ、さすがにあの巨体に押し潰されたら契約者といえど無事で済むか分かりませんが。それより、肩慣らしはもう十分ですか?」
 椋の視線が神殿を向く。元々椋達はワシの幻獣を捜しに神殿内へと突入する事が目的だったのだ。
「うむ。後は大鷲を探し……そして、『大いなるもの』とやらの力を手に入れるまでよ」
「求めた先に何が待っているのでしょうかね……ともあれ、参りましょうか。神殿に……」
 
 
「ん〜、さすがに治りが遅いねぇ。あれだけの攻撃だったからしょうがないか」
 戦いが終わり、セラエノ断章とラデルがベヒーモスの治療を行った。とはいえ六黒の一撃が効いているらしく、まだ目は覚ましていない。
「それにしても、間一髪でしたね。ルイさんのお陰で助かりましたよ」
「いえいえ、皆さんが無事でしたらそれで万々歳ですよ!」
 リュースの言葉に豪快な笑いを返すルイ。最後にベヒーモスが倒れた際、その身体を支えて皆が逃げる時間を作ったのが彼だった。その為下敷きになった者は誰もいない。
「そうだ! あの時はバタバタしてたけど、大丈夫だった?」
 神崎 輝(かんざき・ひかる)杉原 龍漸(すぎはら・りゅうぜん)の所へ行く。黒崎 椿(くろさき・つばき)に包帯を巻いてもらったらしく、既に出血は止まっていた。
「大丈夫でござるよ、気にしないで欲しいでござる。そなたが傷付かなくて良かったでござるよ」
「本当に有り難う。何か僕達に出来る事があったら言ってね? お礼に力になるからね」
 そう言ってシエル・セアーズ(しえる・せあーず)達の所に戻る輝。後姿を見送り、龍漸はちょっとした手応えを感じていた。
(師匠に鍛えてもらった拙者の力を一撃しか試せなかったのは残念でござるが、代わりに感謝を頂けた事は誇りに思えるでござるな。それに……お、女の子をかばう拙者。きっと心に焼きついたはずでござる! これがいわゆる『フラグ』という奴でござるか!?)
「龍兄、何か嬉しそうだね? 良い事あった?」
 椿が首を傾げる間も心の中で喜びを見せる龍漸。
 ――ちなみに、輝はなのだが。ついでに言うと、ラデルがかばった光の方がなのだが。
 
 
「さて、これからどうしましょうか?」
 サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が皆を見回す。
「この幻獣を運ぶ事はさすがに不可能だからな。目が覚めるのを待つしかあるまい」
 携帯電話を取り出しながらベヒーモスを見上げる白砂 司(しらすな・つかさ)。彼が電波が問題無く来ているかを確認している間にミミ・マリー(みみ・まりー)が打ち上げ花火を取り出した。
「これなら見える範囲の皆に分かるからね。連絡は司さんに任せて、先にこっちを打ち上げちゃうね」
 火を点け、花火が高く打ち上がる。その光と音は聖域の各地にいる皆にメッセージを伝えていた。
 『ここは晴れたよ』と――