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リアクション
第四幕 静香校長の実践メイド学★〜前編〜
「……何だか街の方も賑やかになってきた気がするんだけど」
何となく窓の外から感じられる街の喧騒をじっと聞きながら小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が街の方を案じる。
とはいえ、こちらはこちらの持ち場を離れるわけにはいかず、仲間を信じ、再び校内の警戒に戻った。
そんな風に、あらゆる所に仮面の因果が働き始め、少しずつ人々が動き出した頃。
その行為の阻止を目的として七瀬 歩(ななせ・あゆむ)の手引きで多くの者達が潜伏している噂の授業。
校長自らが教鞭を振るう【桜井式実践メイド学】が百合園の大講堂内で行われていたわけだが……。
穏便に事を進めて密やかに解決する目的だった授業は
想像を越えて物凄く白熱しているのだった。
その理由の一人、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)の声が大講堂内に高らかに響き渡る。
「この授業に詩穂は意義を唱えます!実践メイド学を学べると思って来たのに
これじゃ桜井 静香の桜井 静香による桜井 静香のためのメイド学ではないのですか!?」
「いかにも、これは僕の学園の僕による、僕に仕えるためのメイド学だ。それ以上でも以下でもない!」
詩穂の言葉に仮面越しに桜井 静香(さくらい・しずか)が毅然と答える。
その言葉にさらにもう一人意義を唱える者が立ちあがる。卒業生の高務 野々(たかつかさ・のの)だ。
(何故卒業生が授業を受けられたのか、単にこっそり彼女が忍び込んだだけなのだが…ここではそれは伏せておく)
「それでは静香様専属メイドの養成するようなものではないですか!
一部では人気が出そうですが、全カリキュラムをこんな風にするなんて!意味がありません!
私も家令(セネシャル)として、同じく意義を唱えさせて頂きます!」
「この僕に異議を唱えるって?……いいでしょう。
それ程までの事を述べる貴方達の技量……見せてもらうとしましょうか。
もし大した事がなかったら……今後!服従の証としてこの仮面をつけて絶対奉仕をしてもらいます!」
二人の宣言に受けて立つと言う風情で、静香が宣戦布告を言い放つ。
二人もそれに負けず、いかにも雷鳴が轟く様なオーラが三人の間に漂っていた。
一方周りは、校長への抗議と言う事も含め、穏やかでない空気にざわつきはじめる。
「ど、どうしましょう〜祥子さん?まさかこんな事態になるなんて……」
「いいじゃない?どうせなら私もこの流れに参加してみようかしら?
いっその事わざとドジっ子を演じてみてもいいかもね。静香様に奉仕する方向で♪」
思わぬ事体に授業に潜入していた七瀬 歩が戸惑い、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)に話しかけるが
祥子の方はどっちかと言うとこの流れをより盛り上げたいらしい。
そんな彼女はさておいて、同じく潜入していた一人の紅護 理依(こうご・りい)が会話に続く。
「祥子さんのドジっ子もいいけど。ある意味これって正々堂々な流れだからこれに乗るのもアリだと思う。
もう少し見守ってみようよ。きっとこの攻防の先にチャンスが生まれるかもしれない」
理依の言葉は決して適当に言っているわけでもない。
元々授業参加の一環で受講者の有志は仮面着用を推奨
(恐らく悪意の仮面の存在を隠す静香サイドのカモフラージュ)されていた理由もあり
受講者の中で静香の複製仮面を保有している生徒の実態を把握するのが難かったのだが。
この騒ぎに反応せずにいる、もしくは過剰に反応しすぎている者こそターゲット達なのだろう。
その数と存在を割り出して把握できたのは、トラブルの中の幸いとも言える。
そんな影の思惑をよそに……かくして、騎沙良 詩穂と高務 野々による静香への奉仕勝負が幕を開けた。
本来であれば事細かに実況したいところであるがここはGMが奉仕に疎い事もあり、
あまりに専門分野過ぎるので、細かい事は伏せておく事にする。
とにかく来客対応、主人の送迎、控える為の立ち位置や立ち振る舞い、ティータイムのスタイル等
勝負は長時間に多岐に渡り、それぞれが熾烈を極め
【家令(セネシャル)たるもの常に優雅たれ】という言葉を遺憾なく体現している挑戦者達の姿に
多くの者が目を奪われる事になる。
後に授業を受けに来た者の一人はこう語ったと言う
【自分のメイドとしての地位は
あの勝負を見届けた事で築かれたような物
それ程までの価値があった】……と
そして熾烈を極めたこの勝負も、ついに静香の出した次の課題で均衡を崩す事になる。
「なかなかやりますね。二人とも実に素晴らしい!
なら次はこれです!……【仕える主人の晩餐会へのドレスアップ】さぁ僕に相応しい物を見せて下さい!」
静香の高らかな問いかけに、野々の瞳が鋭く輝いた!
「かしこまりましたご主人様。ならばまず相応しいメイクが必要になりますので……
そのお顔につけていらっしゃいます【被り物】を外させて頂きます」
野々の言葉に静香の動きが止まった。
「なん……だと?」
「恐れながらもう一度申し上げますご主人様。
その 晩 餐 に 不 似 合 い な 【仮 面】…を外させて頂きます!」
彼女の念を押した言葉に歩や理依、祥子達がその意図に気がつく。
百合園の卒業生であり、多くの事を学んできた野々は、校長である静香の本来の姿を熟知している。
故に明らかにその性格が豹変している事
そしてその理由が不自然な仮面が原因である事も見抜いていたのである。
彼女の核心を突いた言葉に静香の口調に動揺の色が生じる。
「あ、いや……それとこれとは……話が別……で」
「別も何もございません!
仮に晩餐が仮面舞踏会だとしても、万一に備え被り物が外れても失礼の無いよう
お化粧は必要かと……詩穂からも同じ意見を述べさせて頂きます!」
そこに積み重ねた経験(キャリア)の勘で事を把握した詩穂の追撃が入った。
仮面の力を借りているとはいえ、自らの欲望が増大してるだけで静香の人格がが変わっているわけではなく。
メンタルの弱さは健在。動揺するものは動揺するわけで、みるみる静香の佇まいにうろたえの色が生じていく。
勝利を確信した二人のセネシャルがにじりにじりと教壇に詰め寄っていく。
「それは大変困りましたね……
これでは静香様に相応しい静香様のためのご奉仕が出来ないのですが?
それとも……その被り物がよっぽど大切なのでしょうか?」
野々の追撃についに静香の感情が爆発する。
「し、勝負は終わりです!これは僕の為の授業!僕が嫌だと言ったら嫌なんです!
僕が正義なんだ!みんな僕に従えばいいんだ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
その場で泣き崩れ始めた静香に反応し、仮面をつけられていた生徒が立ち上がり、詩穂と野々を囲み始める。
事態の急激な変化に、何も知らない生徒に動揺と混乱が生じるた。
「いけない、均衡が崩れた!ヴァーナーちゃん!」
「はいは〜い!ここはボクにまかせるですよ〜」
歩の言葉に、同じ生徒会であり執行部『白百合団』の班長であるヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が立ち上がる。
「みんな〜ここはボクのお歌をきくですよ〜♪」
ディーヴァである彼女の校歌が高らかに大講堂に響き渡る。
自らの地位と【名声】のスキルで後押しされた歌は、事情を説明するよりも早く周囲を沈静化させる力があった。
加えて【ファンの集い】のスキルが複製仮面の生徒の動きを止める。
「くわしいおはなしは後ですよ。ボクたちは静香せんせーにお話があるので
みんなは立ってる仮面のひとを止めていてほしいのです〜。おねがいしますですよ?」
歌姫の凶悪に可愛い笑顔に沈静を越えて熱狂になりつつある生徒が立ちあがる。
途端に彼らにより仮面の生徒の動きは阻まれ、静香への一本道が空けられた。
「よし、後は俺のヒプノシスで眠らせてしまえば仮面を……!」
チャンスを逃すまいと、理依が静香の方へ駈け出した。
「……どうやら、大講堂の方は上手くいきそうでございますね」
歩からの連絡を受け、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が口を開いた。
校内も大きな騒ぎも無く、穏便に事が終わりそうだと安堵する。
「こんな事なら、やっぱりメイド学講座見ておきたかったですわ」
「気を抜くな二人とも。こういう時に限って騒ぎは大きくなる可能性があるんだ、特に仮面騒ぎはな」
ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)のぼやきにイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が念を押す。
今までの経験からして、騒ぎが起きずに終わる事がない……それが彼女の考えなのだ。
案の定、イグナの目に所在無くうろつく女ドラゴニュートの姿が目に入る。
「ちょっとそこの。
お主、見たところシャンバラの様だが……何故その様な者がここに?」
イグナに呼び止められて彼女、ノウェム・グラント(のうぇむ・ぐらんと)が口を開く。
「あ、いやちょっと人を探してまして……仲間なんですけど」
仲間……とイグナが彼女に質問をしようとした刹那、
大講堂から大きな爆音と煙が巻き上がり、驚きとともに全員がそこに注目した。
「やっぱりきたか!そう簡単に騒ぎが収まるはずがないんだ!行くぞアルティア!ユーリカ!」
大講堂に向かうイグナたちを見ながら、見送るノウェムの口からも呟きが漏れた。
「あの煙幕と今の音……やっぱりそこですか!ジガン!」
「ちょ……なんで急にこんな物が!?」
爆音と共に急に大講堂に充満する煙幕に歩達も混乱する。
他の生徒のパニックを静めようにも、ヴァーナーも煙に咳き込み歌が歌えずにいる。
「歩さん!ユーリカさん!静香さんがいません!」
理依の言葉に何とか歩が静香のいた教壇まで皆がたどり着くと、確かに静香の姿はない。
見れば脇の扉がたったいま開け放ったように、派手に空いて揺れていた。
「美羽さん達に連絡を!あたし達も追いかけましょう!」
そんなパニックの大講堂から外れた校内、誰もいない物陰を音も無く走り抜ける一行があった。
「へへへへ〜!上手くいったね、ますた〜!」
その一人、エメト・アキシオン(えめと・あきしおん)の言葉にマスターであるジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)がニヤリと笑う。
「当然だ、校長自ら楽しくなってるこんな事態。そう簡単に治めてたまるかよ。混乱は長引かせるに限るぜ!
おいザムド、仮面のいくつかはブン捕ったんだろうな?」
「問……無……是……」
ジガンの問いに隣を走るザムド・ヒュッケバイン(ざむど・ひゅっけばいん)が独特の言葉で答える。
どうも彼らにしかわからない言葉のようだが、仮面を何枚か手にしているあたり、大丈夫と言う事らしい。
「ねぇますたー。その仮面どうするのさ〜?」
エメトの問いに笑みを増してジガンが答える。
「校長の仮面はまだ継続中だ。複製の仮面とはいえ、そこら辺の生徒とっ捕まえて被せりゃ面白くなるだろうよ。
少なくとも、俺らを中に入れてくれたあのアイドル位にゃ役に立ってくれるさ、クククク」
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