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リアクション
●第1章 大掃除大会!
各学校へと張り出された呼びかけの貼り紙に、足を向けた学生たちが、次々と“黒髭”海賊団の船を訪れる。
今回は行く先で事件に巻き込まれているわけではない、折角同じ蒼空学園から出かけていくのなら……と。
雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)をジェットドラゴンに乗せた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、パートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の乗るジェットドラゴンと共に併走して、船を訪れた。
「ラズィーヤさまのおしごとだったけど、今年は美緒おねえちゃんたちと海賊してすごかったです。おふねさんもがんばってくれたから、かんしゃの気持ちをこめて、おそうじしてきれいきれいにするですよ♪」
船へとやって来たヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、泉 美緒(いずみ・みお)へと挨拶をすると、早く終わらせてパーティーの準備に入らねばならない食堂へと向かう。
「ほう……これが黒髭海賊の船だな……。フッ、俺が乗っていたガレーには負けるが、良い船だな」
バルバロッサ・ハイレディン(ばるばろっさ・はいれでぃん)は、船に乗り込んでくるなり、辺りを見回して呟いた。
大海賊の英霊である彼は、遠い昔に思いを馳せる。
「面倒くさいなぁ〜……」
その隣で滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)がぼやく。
“黒髭”の下で預かりとなっている元ブラッドレイ海賊団であったアーダルベルトやランスロット、エセルバートを始め、団員たちも皆、掃除へと駆り出されている。
*
美緒やラナ・リゼット(らな・りぜっと)と共に、船長室の清掃をしているのは、キュべリエ・ハイドン(きゅべりえ・はいどん)だ。
細かな道具や地図を置いているような棚から埃を落とし、固く絞った雑巾で拭く。
窓も拭き終え、残るは床の掃除のみ、というところで、キュべリエはふと手を止めて、美緒の方へと向き直る。
「ねえ、美緒。黒髭と契約してから、どの程度、人格交代が任意にできるようになりましたの?」
先の件で美緒と“黒髭”が契約するまで、彼女たちの人格が交代するのは、突然のことで、彼女たちが交代しようとして出来るものではなかった。
けれども、契約することで、どの程度、交代を制御できるのか、キュべリエは知りたかったのだ。
「そう、ですね。以前よりは黒髭様が出てこられる頻度も増えたようですが、それでも任意、というわけではないようですわ。私が必要だと思ったときや黒髭様がこの身体を守らねばと強く願ったときなどには交代できるようですけれど……」
そう、ほいほいと交代できるわけではない、と美緒は答える。
「そうなのですね。ところで、黒髭海賊団の旗船が名無しとあっては、味気がないと思いますわ。この際に、付けてみてはどうでしょう? 例えば……地球で実在した黒髭の船の名前は『クイーン・アンズ・リベンジ(アン女王の復讐)』と名付けられていたそうです。それをパラミタ風に変えれば、『クイーン・アイシャ・リベンジ』となるでしょう」
美緒からの答えに頷いた後、キュべリエはそう提案をする。
「船の名前ですか。それでは、いくつか案を出してみて、最終的には皆の意見も聞いてみましょう」
名付けるという提案に、美緒は「楽しそうですわ」と頷いて、床の掃除に戻る。
美緒の姿を見ながら、キュべリエは、ふと思考を巡らせた。
彼女の理想としては、海賊提督として美緒、そして“黒髭”が大船団を率いるようなことになれば面白いと思う。けれど、エリュシオンと同盟を結んだ現状では、大きな争いは期待できないだろう。
だが、ニルヴァーナという共通の目的があるうちは同盟関係が続くだろうけれど、それがなくなれば再び袂を分かつ可能性もあるかもしれない、と彼女は見ている。
今後の世界情勢次第では海賊相手ではなく、それこそ国家相手の海戦が出来る機会も巡ってくるのではないかと思い、今はそれに向けて、力を蓄える時期なのだと考える。
「キュべリエ様?」
すっかり手の止まってしまったキュべリエの様子に、美緒が不思議そうに声を掛けた。
「あ、いえ、何でもありませんわ。ああ、そうですわ。任意に交代できないのであれば、黒髭に伝えておいていただけたら、と思うのですが、今後の活動の際、いざと言う時のために食料や燃料を補給できるような島などの中継地をいくつか確保しておいた方が良いと思いますの」
「それもそうですね。今度、ラズィーヤと検討して何カ所かピックアップしてみます」
キュべリエの更なる提案に、話を聞いていたラナも頷いた。
そうして、一通り伝えておきたいことを伝えたキュべリエは、船長室を一層綺麗にするために、美緒たちと共に、掃除に励んだ。
*
「やった分だけ成果が目に見えるのがやる気を煽るよな」
うんうん、と頷きながら夢野 久(ゆめの・ひさし)は、甲板周りの通路で雑巾やモップを手に、床の拭き掃除を始める。
「よーっし掃除頑張るわよー!」
ルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)が三角巾にエプロンつけて、珍しく、凄い真剣に掃除しだした。
(あいつが真面目に仕事してるのには違和感を感じるな。いや、色事以外に関しちゃ割と真面目なのは知っちゃいるんだが……にしても気合が何時も以上って言うか……)
そんな彼女の様子に、久は手を止めて、見た。
「こら久! ボサっとしないの! 早く終わらせれば早く終わらせるほどパーティの時間が長くなるのよ!?」
モップの柄で、ビシッと久のことを指して、ルルールが告げると、彼は呆れたように目を細める。
「……それが理由か。安心したようなガッカリな様な……」
彼女らしい、と思ったところに、ルルールが熱弁する言葉を続けた。
「時間が沢山あれば! 宴会のドサクサに紛れて美緒ちゃんと雅羅ちゃんとラナちゃんのおっぱいを揉んでもまだお釣りが来るの!あわよくばあんな事やこんな事も……」
「……言っとくがセクハラは止めるからな。拳と蹴りで。んで、簀巻きにして海に捨てる」
「……ぐっ。またそんな脅しを……! でも脅しじゃなくて本当に実行に移すのよね久は……」
彼の言葉に、ルルールは言葉を詰まらせた。彼の脅しは言葉だけで済まないのだ。
「じゃ、じゃあ! 宴会の酔いでテンション上がってる人を誘惑して口説いてしけ込むのはOK!?」
「いやそんな意気込んで聞かれても……。……ま、まあ、それなら一応合意の上だしな、勝手にすりゃ良い」
食い下がって、これはどうだ、と訊ねるルルールに、眉を寄せながらも久は答えた。
「よっしゃ許可下りたー! 燃えて来た! 10人は陥とすわ! その為にも気合入れるわよー!!」
ぐっと拳を握って掲げたルルールは、改めてモップを手にすると、気合を入れて、掃除を再開する。
「……何なんだろうなあ本当アレ。つーか10人て……結構長い付き合いなのに脳みその構造が全く分からん」
気合の入った彼女の様子に、久は頭を抱えて呟く。
「……ま、とりあえずドギツいピンク色してるのは間違い無さそうだ……」
更に呟きながら、目立つ汚れを先ず集中して落としていく久であった。
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