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アラン少年の千夜一夜物語

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アラン少年の千夜一夜物語

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「ええっ!? こ、これを読むの!?」
 廊下から誰かの声が聞こえてくる。
「そ♪ ちゃ〜んと書いてきたんだから、語り手としてしっかりこなしてよね。っと、この部屋ね」
「もう開けちゃうの!?」
「たのもー!」
 ドアを勢いよく開けたのは茅野 菫(ちの・すみれ)だ。
 その後ろには顔を赤くしているホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)がいた。
 ホイップの手には何か原稿のようなものが握られている。
「たのもー? いや、ここは道場破りは受け付けておらんぞ?」
 アランはこの2人組みを怪訝そうな目で見つめる。
「それくらいの覚悟で物語を話してあげようっていう心意気から出た言葉よ。気にしないで」
 菫は腕組みをしながら部屋の中へとずかずか入っていく。
「そうなのか……って、そなたらが次の語り手か!」
 アランが目の中に星が見えるんじゃないかってくらい輝かせるのを見て、ホイップは観念したようだ。
 ベッドのそばの椅子にホイップが腰掛ける。
 部屋の隅から椅子を持ってきた菫は、その反対側に椅子を置いて座った。
 ホイップは話す前に菫の顔をちらりと見たが、菫はにやにやと笑っているだけで物語の内容を変更する気はまったくないらしい。
 変更してくれるかもという淡い期待が吹き飛んだところで、ホイップは語りだした。


『貧しい娘と黄金の騎士』



 あるところに大変不運な娘がおりました。
 娘はその不運から借金を背負い、借金を返そうと動けばまた増えるという暮らしをしています。
 ある日、借金を返すためのバイトで知り合った騎士にデートをしようと声をかけられました。
 しかし、娘はあまりの出来事に固まるだけ。
 まわりの仲間たちもやれやれと顔を見合わせたり、無言で銃を騎士に向けて撃ったりするのでした。
 それでもめげずに騎士は娘を誘い続けます。
 娘はお世話になっているのだし、断るのは失礼だと思っていたので、ある日……
「デートは好きな人と一緒に行かないとだよ?」
 と言いました。
 しかし、騎士はだからこそ娘と一緒に行きたいのだと全く引きませんでした。
 さらに別の日。
 騎士の仲間から
「騎士の気持ちは本気だから、本気で考えてみて」
 と言われてしまいました。
 娘は今までずっと他の女性と同じようにナンパされているだけだと思っていたので、びっくりです。
 しかし、このときから騎士を見る目が変わりました。
 娘は日に日に騎士の事を考える時間が長くなっていきました。

 そんなある日、事件が起こりました。
 娘が杖で封印していた巨大台風の封印が破られてしまったのです。
 実は娘の不運の原因はこの封印のためでした。
 その封印を守るため、娘は石像になってしまったのです。
 みんな娘をもとに戻すため、頑張ってくれました。
 特にその騎士は獅子奮迅の働きを……ううん、みんな一所懸命になってくれたのです。
 みんなの頑張りでなんとか台風も片付き、娘も石像から戻ることが出来たのでした。
 しかし、今度は悪い奴らに洗脳されてしまい、娘は仲間を攻撃しようとします。
 みんなは今度も娘をもとに戻そうと頑張ってくれました。
 仲間の言葉でちょっとずつ洗脳が解け始めてきた娘。
 最後に騎士の
「愛してる」
の言葉で元に……うぁ……う……うん、元に戻ったのでした。
 その後、借金はまだあるけれど騎士と一緒に仲間たちとはちゃめちゃで楽しい時を過ごすのでした。


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「ちょっとホイップー。あたしがばっちり書いたラブラブ部分を全部すっ飛ばしたでしょ」
 じと目で菫がホイップを見る。
「う……だ、だって……恥ずかしくて……それに……あることないこと書いてたよ?」
「だって、これは単なる物語だもの。あら? それとも何か思い当たる節でもあった?」
 菫ににやにやと笑われてしまい、ホイップは原稿で真っ赤になった自分の顔を隠した。
「……なんだ、のろけ話2夜連続って感じか?」
「そのようですね」
 アランとセバスチャンはホットミルク(セバスチャンのはブランデー入り)を飲み干したのだった。