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リアクション
(2)マンボ(地下水道)−1
掘削集団「アナグマ」と合流地点、そこから二手に分かれた一方。こちらは「エゼキエル」の集落に向かって掘り進める一行だが、その中に西カナンの英雄「ジバルラ」の姿があった。
「ぬありゃぁあああああ!!!」
「ジバルラさんっ!! ストップですっ!!」
火村 加夜(ひむら・かや)の制止も届かず、ジバルラは組んだ両拳を岩塊に振り下ろした。
弾ける破砕音、砕け折れる岩塊。加夜の背の丈ほどもある岩塊が見事に割れ砕けていた。
「あ? 何か言ったか?」
「『何か言ったか?』じゃありません! もっと優しく砕いて下さい、危ないじゃないですか」
自分たちの身を案じているのではない。砕けた破片が水道の壁面に衝突すればそこから崩落が始まってしまうかもしれない、当然壁面だって傷付いてしまう。
「岩を砕くんだぞ? 優しくなんてやって粉々に出来るかってんだ」
「粉々にするんじゃありませんっ! 運びやすくするだけで良いんですっ!」
「同じことだろうが」
「どこがですか。ほら、ワンちゃんたちだって怯えて―――」
「ウ゛ーーーーーーーーワンワンッ!」
怯えるどころか、めっちゃ吠えていた。というか気付けば加夜も囲まれ、威嚇されていた、しかも数が増えている?!! 2匹だったはずの犬が3、4、5、6……気付けば全部で6匹になっていた。
「あ〜スマンすまん、ちょお待っとってぇな」
駆け寄ってきた蚕 サナギ(かいこ・さなぎ)が一声かけると、6匹の犬たちはピタリと大人しくなった。
「スマンかったなぁ、驚かせてもうて」
「いえ。このワンちゃんたちは……」
「わしのじゃ。『ワンだふる☆セブン』言うんやで。穴掘りに運搬かてそら上手にこなすでぇ」
セブンと言うが、6匹しか居ない。
「あと一匹は、こいつや」
サナギの背後から『パラミタセントバーナード』が、のそりと現れた。6匹の『忍犬』と合わせて7匹。サナギ自慢の相棒たちである。
「普段は大人しいんやけどなぁ、殺気でも感じたんやろか」
「殺気? あぁ、それなら―――」
加夜の背後で破砕音がした。それもつい先程聞いたものと同じ音。やはりにジバルラが『龍鱗化』した両拳で岩塊を割っていた。
「ジバルラさんっ!! はなし聞いてました?!!」
「ああ゛? 犬っころの話なんざ知るか」
「そこではありません!」
「そうやで、犬っころやのうて、忍犬と「バーナードもどき」やっちゅうねん」
「テメェで「もどき」って言ってんじゃねぇか。そこの「もふもふ」に謝りやがれ」
「ほぁー、んー、まぁまぁやな、まぁまぁなツッコミや、悪くはないで」
「ツッコミ査定なんざ頼んでねぇよ」
「ぉお! さっきより良ぉなったで! やるな自分」
「うるせえよ」
ジバルラがツイと顔を背けた時、すぐ横で小さな爆発音がした。つい先程に彼が割った岩の半分ほどの大きさだろうか、その岩塊を加夜が『破壊工作』で爆破したようだ。
「どうです? 加減すれば「優しく」砕く事も出来るんですよ」
「………………嫌味な奴だ」
「あなたが話を聞かないからです。加減が出来ないというのであればマンボでも踊っていて下さい」
「おー、せやで、一緒に踊ろうや」
「誰が踊るかっ」
「恥ずかしいんですか? こういうのは勢いですよ?」
「せやせや、わしの踊り見せたる、わしの腰のエクセレントグラインド見たら惚れるで」
「踊らないっつってんだろ!」
「私もジバルラさんが一緒に踊ってくれるなら、踊りますよ」
「あーもうウルセェうるせぇ、踊らねぇって言ってんだろ」
逃げるようにその場を去ろうとするジバルラに物部 九十九(もののべ・つくも)が声をかけた。
「ねーぇ、暇ならボクに稽古つけてくれないかな?」
「あぁ゛? ……ん? 待てよ……………………おぉおぉ、いいぜ、今すぐやろう、離れてやろうな」
「えっ、あっ、ちょっ」
「ジバルラさんっ!!」
渡りに船、いやここは助け船の方か。ジバルラは九十九の肩を抱いてその場を離れていった。もっとも、九十九は奈落人であるので外見は鳴神 裁(なるかみ・さい)なのだが。
「あれ? 武器は? 持ってないよね?」
「あぁ、そういえば上だな」
「上?」
ここは地下、上とは地上の事。彼の武器である『メメント銛』は、帯同させた相棒、龍の『ハウル』と共に地上に置いてきたのだという。
「えー、それじゃあ稽古にならないじゃん、つまんないー」
「ほぉう、武器なしの俺じゃあ役不足ってか、言ってくれるじゃねぇか」
「ワンちゃんたちが吠えてますね〜?」
九十九の胸元でドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が言った。私服兼戦闘服な魔鎧である彼女は裁に纏われた状態で参加していた。
「ジバルラさんは、よっぽど好かれたのですね〜?」
「「嫌われた」の間違いだろう?」
「もしくは何かを察知したのかも知れませんね〜? 彼らも動物ですからね〜?」
「ドール? 何を言ってる―――!!!」
九十九とジバルラが同時に顔を見合わせた。
彼らは今、掘削現場の最前線から引き返す形で歩みを進めている、「アナグマ」の工員も破砕岩塊や瓦礫を運ぶ者が行き交う程度、マンボの音楽も遠くに小さく聞こえる程度。「鰐土竜」対策は何もしていない。
「来るぞ!!」
左右壁面から5体の「鰐土竜」が飛び出してきた。
「下がって!!」
十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は「アナグマ」の工員の前に滑り込むと、
「くっ……」
砲弾のように飛び込んでくる鰐土竜を『英雄の盾』で受け防いだ。
「重っ」
「えぇっ! 僕、重たいでふ?!!」
宵一の頭の上で、ゆる族のリイム・クローバー(りいむ・くろーばー) がショックを受けていた。完全に誤解だが、今はフォローを入れている余裕はない。
受け止めた鰐土竜は押し弾いたが、別の三匹が近くに着地していた。うち一匹はすぐに地面に潜って行ったが、残った二匹はこちらを……というか完全に宵一と目が合っていた。
「リイム! 頼む!!」
「へふ?」
言われて顔を上げて初めて目が合ったのだろう。一度は敵意むき出しの鰐土竜に圧され慌てたリイムだったが、
「ててててふ! てててぇふぅ!!」
と焦りながらに『擲弾銃バルバロス』を乱射した。
運び出すはずの瓦礫の山への掃射は作戦通り、射撃音と跳音により二匹の鰐土竜たちは逃げるように地面に潜っていった。
「リイム、もういいぞ、ありがとう」
二匹を追うように最初に弾いた一匹も地面の中に消えていった。残るは二匹。
「麻衣!!」
「やってるわ!」
ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)の呼びかけに天津 麻衣(あまつ・まい)が応えた。「ちょっと待って」という言葉も付け足したのは、すこしばかり距離があったから。
麻衣本人ではなく『●式神の術』で式神化した『携帯音楽プレイヤー』を呼び寄せていた。
地中を進み来る鰐土竜の気配は『殺気看破』にて感知することが出来た。誰よりも早くに気付いたファウストはアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)、それから麻衣の順でそれを知らせた。
ザルーガは即座に飛び出し、「アナグマ」の工員の一人を背に背負い庇う。時間にして数秒、しかしこの僅かな時にザルーガは防御の構えをとり終えていた。
『ディフェンスシフト』に『オートガード』、体前には『カイトシールド』を構える。極力殺生を避けたいのはザルーガも同じだ。殴りつけるように盾で迎撃する。
その直後だった。麻衣の式神が鰐土竜に飛びついた。
ギョロリと光る眼球に向けて、「式神」は最大音量でヘヴィメタルを流した。
「!!!!!!!!」
雷にでも打たれたように全身を激しく痙攣させて、一度は腹ばいに横たわったが、すぐに起き上がりてザザザと逃げていった。
「残りは、一匹」
ファウストは『軽身功』を使って飛び出そうとしたが、
「いや」
と思いとどまった。残る一匹にはすでに九十九が向いていた。
「新技いっくよー☆」
憑依する裁の『嵐の使い手』と纏っているドールの『カタクリズム』でより軽く宙に跳び上がると、飛び来る鰐土竜の腹を「ローキック」で浮かせて「ムーンサルトキック」、体前で円を描くように蹴り上げる「メーアルーアジフレンチ」に「背面浴びせ蹴り」に続けて「バックフリップキック」、受け身で着地した九十九はそのまま踵で蹴り上げ「ジョン・ウー」を叩き込んでフィニッシュ!!
鰐土竜は一度も地面に足を着けること無く体を「く」の字に曲げて吹き飛んだ。
「どうどう? 今のなかなかのもんっしょ?」
満面の笑みでジバルラに問いた。
ジバルラはと言えば、ただただ苦笑いを浮かべて、
「つーか、それを俺に喰らわせるつもりだったのか?」
先程言っていた「稽古」とは今の技を試す機会としていたようだ。蹴り技7連コンボとして「七曜拳」と言うらしい。魔鎧であるドールの『超人的肉体』が無ければ先に裁の体が悲鳴をあげるような大技だが、九十九は見事にキメてみせた。
「そうだよ? 頑丈な人で試さないと最後まで行かないでしょ?」
「よぉしイイ度胸だ。一度教育が必要だな!」
「おぉー! 望むところだー!!」
鼻息荒く、二人が地上を目指して歩み始めた所で、
「どこ行くの」
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が声をかけた。
「現場放り出して遊びに行くつもり? まさかねぇ? 「元」とはいえ西カナンの英雄さんが仕事放棄なんて、まさか、しないわよね?」
最後は完全に威圧していた。
「……わかった。稽古は後だ」
「当然でしょ」
「えぇー!」
「遊びに来たんじゃないのよ」
「…………うぅ。わかったよ。ボクも手伝うよ」
二人は観念して作業に戻っていった。とは言っても力任せなジバルラは岩塊を砕く役ではなく、岩塊を外に運び出す役に回された。
無論それが仕事内容として劣るという訳でもないのだが、難易度が低いという事だけは確かだった。
ジバルラと九十九が岩塊運びを始めた頃、掘削作業の最前線では小さな異常が起きていた。
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