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リアクション
第七章 ただ、彼女の歌を聞きたくて
鏖殺寺院支部、倉庫の近くではけたたましい音が鳴り響いている。
そのうちのひとつ、魔法による爆発音を鳴らしているのはクローラとセリオスだ。
各自で空飛ぶ箒ファルケに乗り魔法法攻撃でオークを広範囲に爆撃。狙いは指揮系統を寸断し烏合化だ。
二人の活躍によりスティルの本隊から分断されたオークは、仲間達により駆逐されていく。
その中の一人、遠く離れた場所でスコープ越しにオークを狙う笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)がいた。
紅鵡が持っているのは対物機晶ライフル。
対物ライフルに機晶キャノンの技術を一部流用したのがこの銃に狙撃された者は、恐らく自身が死ぬことすら気づかずに弾け飛ぶことだろう。
「すーはー、すーはー……ッ!」
紅鵡は思い切り酸素を取り込んでから息を止め、対物機晶ライフルを構える手のぶれを一切無くす。
そして照準をはぐれたオークの頭部に合わせ、引き金に指をかける。
(……見えた! そこだっ!)
紅鵡は引き金を引いた。
途端、轟音と共に放たれた砲弾が空を裂いていく。
大の大人でも引っくり返るような反動を無理矢理受け流し、紅鵡はスコープを通してオークの末路を追った。
オークの頭が弾け飛ぶ。
まるで、風船を割ったかのように肉片と血液が飛び散るのを見ながら、紅鵡は思った。
(うぅ……ハンバーグとか肉系の料理、暫くはいらないよ)
紅鵡は顔をしかめながらも、また新たな敵を狙撃するためオークを狙う。
冷静にたんたんと引き金を引き続ける紅鵡を突き動かす動力は、簡単でシンプルなものだった。
それは、ただフランの歌を聴きたいから。
その目的を叶えるために、何が何でも声帯を取り返すために、紅鵡は引き金を引き続ける。
その度に、今日の夕食は野菜だけにしようと心に誓いながら。
――――――――――
倉庫の入り口に向けて走りながら、赤城 花音(あかぎ・かのん)は仲間達をフォローしていた。
手に持つ銃型HCを最大限に活用。状況に応じた意思疎通を心掛け、仲間同士の情報の把握と情報の交換を円滑に行うことが出来るように従事する。
(みんな、鏖殺寺院の制圧……フランさんの声帯の奪還……煤原さんの説得のために戦っている……)
花音は銃型HCを使用する手を止めずに、考えていた。
それは、自身がこの戦いに臨んだ理由。それは、人それぞれだろうけれど、歌姫である花音が声帯の奪還に赴いた理由はこうだった。
(多分、声帯を取り戻す事は、煤原さんの説得の要だと思う。
ボクがフランさんの詩を歌うよりも、フランさんが自分の意志で! 歌える事を応援したい。
……煤原さんが置かれている事情はどうであれ、フランさんの想いは届くと信じたい)
苦手な戦闘に身を投じ、それでも花音は自分に出来ることを懸命にやる。
それは仲間のフォローだけれども、フランのために戦うということは同じだ。
(だから……ボクは声帯を取り戻すために戦う!)
より一層と決意を強固なものとし、花音は周りのオークの怒号に怯むことなく戦い続ける。
その花音と倉庫に向けて走る仲間達を守るため、前を走るパートナーのリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)はオークの攻撃を一手に引き受け防御していた。
「簡単には、通しませんよ……!」
リュートは聖騎士として敵の攻撃をしっかりと制し、オートガード、オートバリアと己を盾とし、オークの猛攻を全て一人で受け止める。
それは、パートナーとして花音の思いを守るためにも、仲間達の邪魔をさせないために、戦線を一人で踏みとどまらせた。
リュートが守ってくれた道を仲間達は全速力で駆け抜ける。
だが、その行く手を阻もうと別のオークの集団が前に現れる、が。
「……雷公鞭」
先の先、それを読んでいた申 公豹(しん・こうひょう)が生み出した強大な雷がそのオークの集団を焼き払った。
無詠唱かつノーモーション、そして自身の最大威力の雷を発生させ支配する。
「私は……姫や童と違い……甘くは無いですよ? ……フフフ」
公豹の笑みは、親しみなどとは無縁の武者震いを含んだ笑みだ。
パートナーの二人とは違い、強敵と戦うことに意義を感じている公豹は、ディテクトエビルで感じる倉庫から発せられる殺気が嬉しくてうれしくてたまらない。
それは、気を抜けば押し潰されそうになる殺気。恐らく、この部隊の大将であるスティルが発しているのだろう。
「さて、何処まで戦えるか? ワクワクしますね…フフフ」
公豹は身体を震わせながら、まるで御伽噺に出てくるかのような雷を自由自在に操り、障害となる前方のオークを蹴散らす。
その開けた道を一心不乱に仲間達は走る。
そして鏖殺寺院支部、倉庫周辺に差し掛かった頃。
入り口を固めたオークの集団を、ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)の放った矢が次々と射抜いていく。
「今のうちに突入口の確保をお願いします!」
そう叫ぶフリンガーはいつも以上―いつも任務を行う時も真面目だが―に気合が入っていた。
それは出撃前に、秀幸からフランについての話を聞き、彼女の身の上に同情して、声帯部品の奪還に協力する事を約束したからだ。
もちろん教導団の一員として任務を最優先することは当たり前。この戦場の場合、鏖殺寺院を鎮圧することが最優先。
だが、それに抵触しない範囲でフランの願いを叶えようとするフリンガーの弦を引き絞る手にはいつも以上の力が籠もっていた。
フリンガーはわらわらと倉庫内から湧いてくるオークを射抜きつつ、倉庫の入り口周りの敵を掃討していく。
フリンガーの叫びに応じて、天津 幻舟(あまつ・げんしゅう)が倉庫の入り口へとバーストダッシュを使用し突っ込んだ。
「あい、請け賜ったのじゃ!」
幻舟は入り口付近の敵を一掃すると、倉庫の壁を蹴り上げバーストダッシュで急上昇。
比較的警備の薄い屋上へと回り、ちらほらといるオークを老練された剣技で倒していく。
「任せてよね!」
同時に倉庫の屋上へと侵入した綾小路 麗夢(あやのこうじ・れむ)は、屋上全体にブリザードを唱え幻舟が倒し損ねたオークを凍らせた。
そして、火術で圧縮した炎の塊をオークにぶつけ、燃やし尽くす。
また、サイドワインダーで二本の矢を放ち、氷漬けになったオークの身体を砕いた。
信頼のもとに成り立つコンビネーションで二人は戦う。
二人により屋上を制圧するのにかかった時間は僅か数分だった。
「フリンガーさん、屋上は制圧出来たよ!」
麗夢は弓を構えつつフリンガーに見えるよう大きく手を振った。
フリンガーは番えた矢を放ち終えると、倉庫の屋上へと素早く上がりそこから突入を開始した。
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