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リアクション
第一陣の中で初めに敵に攻撃したのはハイラルだった。
搭乗する小型飛空挺ヘリファルテから破壊工作により敵の密集した地点に的確に機晶爆弾を投下。
本陣の近くで起こる爆撃に、レヴェックの部隊は驚き上空に目を向けた。
「……空にばっかり気を取られてたらいけないよぉ?」
そして空に注意を向けた敵に、誠一は想念鋼糸を地を這うように全方向に伸ばした。
三メートルにも及ぶその鋼糸の範囲は、数多もの敵を絡めとり切り上げながら横に払い切刻む。
封滅陣『薙風』。誠一が放ったのはそう呼ばれる技である。
「行くぜ!」
そして開けた前方を、アキュートがバーストダッシュで密集地帯に突っ込み、竜の鱗を加工したカタールで回転斬り。
そうして注意を集めたところでアキュートはすかさず上空へと飛び上がる。
「これでも喰らいな!」
光術で光を放ち目くらまし。その隙にクリビアが同じ集団にバーストダッシュで近寄り、リヒト・ズィッヘルを大きく振るう。
則天去私の応用で放たれたその一撃は、クリビアの前に立つ敵を全て切り払い――。
「アキュート! 今です!」
「あいよ、っと……!」
クリビアの斬撃により倒れ伏せた敵にサンダークラップにより発した電撃で追い打ちをかける。
強力な電撃は敵を感電させ、痙攣させ、血を沸騰させる。その電撃を直に浴びた複数の敵は、身体の至るところから血を噴出し、絶命した。
そこで二人は離れ、敵に囲まれないように素早く動き出す。
「ははっ、行くぜぇ!」
アキュートは一番近くの敵にバーストダッシュで突っ込むと、片腕のカタールで上段切り。
それを受け止められ、アキュートは足払い。見事に決まり宙を舞う敵の頭部に、そのまま一回転して頭部目掛けて蹴りを放った。
ゴキッ、と首の骨が折れる鈍い音。あられもない方向に敵の頭は曲がり、そのまま落ちて動かなくなった。
一方、クリビアは氷術で固まった敵の足を凍らせる。
そして逃げられなくなった敵の集団に鎌を大きく振りかぶる。
「……エルンテ・フェスト」
クリビアの呟きと共に青い光で構成された鎌刃部分が巨大化。
そして、クリビアはリヒト・ズィッヘルを勢い良く振りぬいた。
切断された胴体が空に飛ぶ。
多量の血は花を咲かせたように噴出された。
「おうおう、みなさんやってるねぇ。さて、僕も頑張らなくては」
その二人の戦法とは全く異なり、誠一はあえて敵に包囲されようとしていた。
そして全方位に群がった敵に想念鋼糸を操り、自分達の周囲を鋼糸を結界のように編み上げ罠を張る。
封滅陣『無影牢』。誠一に近づいた敵は自らの勢いで鋼糸にバラバラに切り裂かれた。
そしてあらかたの敵が罠にかかり散っていくと誠一は想念鋼糸を限界まで伸ばした。
鋼糸を巧みに操って地表に巨大な網を編み上げる。そして、その網の中に多くの敵が入ってきたと同時に。
「封滅陣『白狼牙』!」
アルティマトゥーレを発動。鋼糸から発せられた冷気は陣の中にいる数多の敵を氷漬けにする。
生々しいその氷像達を誠一は一気に鋼糸を引き抜くことで――砕け散らせた。
氷の塊は弾け飛び、血も肉片も飛び散らせずに、敵の四肢を引き裂いた。
「――敵影確認、殲滅する」
上空で小型飛空挺ヘリファルテに乗りながら戦うレリウスの目的は敵を多く引きつけ、撹乱すること。
レリウスは自らに飛んでくる矢や銃弾を、最新式の薙刀である逵龍丸に舞い降りる死の翼を付加することで叩き落す。
また、その鋭い風により生まれた風の刃は矢や銃弾を打ち落とすだけでなく、それを撃ちだす敵をも捉え切り裂いていく。
そして、相手が怯んだころ。レリウスは小型飛空挺ヘリファルテを操作して急降下。
龍飛翔突とランスバレストを発動。まるでドラゴンが牙を剥きその巨体を生かして突進してくるような槍技をまとまった敵に向けて放った。
吹き飛ばされる敵、穿たれる敵、切り裂かれる敵。
そのたった一撃で幾多の敵を戦闘不能に落としたレリウスはもう一度放つために小型飛空挺ヘリファルテを急上昇させる。
その仲間達の戦いぶりを見ながら、日比谷 皐月(ひびや・さつき)は呟いた。
「……すげぇな。地形もなにも気にせず数で劣るくせに、のびのびと戦ってやがるじゃねぇか」
思わず、感嘆の息が皐月の口から洩れる。
さりとて、皐月の第一陣での目的は『敵を多く引き付け、その場に留まらせる事』。
後ろに進めさせたら雨宮 七日(あめみや・なのか)が危険に晒されるし、戻られたら後続の第二陣が危ない。
と、なると。
「……平地なら上空に十分なスペースを確保出来るか」
皐月は氷蒼白蓮を使い、足元に氷盾を作り出した。
そしてそれを蹴り上げ、勢いを利用して空中に飛び出した。
「と、こっからあそこまで行くには、っと」
皐月が見つめるのは一際敵が集まっている密集地。
そこまでの道を氷蒼白蓮で細かい氷塊を飛ばして生み出す。
そうして出来上がった氷の道は不安定だけれど、魔装『ルナティック・リープ』を脚部に装着した皐月には何の問題もなかった。
皐月は足場代わりに蹴って走り、その集団に向かって上空から飛び込み――。
「いよっ、と――!」
皐月は落ちながら氷盾を全部消費して氷蒼白蓮を支点に円錐を形成。
そして生まれた氷の簡易巨大槍を氷蒼白蓮を自分の意思で操り、チャージブレイクで思い切り力を溜め。
「おらぁぁッ!」
氷の簡易巨大槍をランスバレストで地面に勢い良く突き刺した。
巨大な質量を伴ったそれは地面に突き刺さり、周りにいた敵と共に地面をも粉砕。
いきなり現れたそれに周りが呆気に取られているうちに、皐月はそれの根元に軽やかに着地。
そして、また空中に逃げ出す。それの繰りかえしで敵の多くを引き付けた。
「はぁ、忙しそうですね。……あいつ」
第一陣の面々の中で最も後方で武器を構えている七日。
七日は皐月の戦う姿を遠目で見つめて悪態をついた。
「私が手伝わされる事に納得はいかないんですが……全く」
面倒くさそうに顔をゆがめながら、七日は【バベルの天使】を展開。
頭上に天輪、背部に疑似光翼を羽ばたかせる。その発条仕掛けの機械翼は空を飛ぶ事こそ叶わないが、天輪と併せて威光の威力を上げるブースターだ。
七日の背後に八つの天輪型魔法陣が出現する。しかし、それでは止まらず。
「……大魔弾『クロウカシス』」
七日は地獄の門と連動して魔砲を召喚。
下腕部を包み込むようにフレームが出現し、その後、各パーツの召喚を以て中空へと五メートル超の魔砲を構築。
雪の様に白く美しい砲身を持つ巨大すぎる魔砲が二門、七日の前方で展開した。
そして、七日は奈落の鉄鎖で二門の魔砲を固定し、発射後の反動を抑制する準備。
それが終わると、七日は初めて笑みを浮かべた。しかし、それは悪魔を連想させる氷のような微笑。
「さてさて、一気にぶち壊しますよ」
七日は自らの精神力を全て振り絞り、合計十個の砲台に魔力で点火を行った。
まずは、八つの天輪型魔法陣から光条を発射された。
威光と名づけられたその光条は八つとも全て違う軌道を描き、敵に飛翔。
触れた敵は外側を焼き払い、貫いた敵は内部から発火させる。そしてそれに遅れて――。
天が裂けるほどの轟音が空気を震わせた。
二門の魔砲から氷と闇の砲弾が発射。
その強大な推進力と質量を併せ持った氷と闇の二つの砲弾は直線上にいた戦場の敵を吹き飛ばす。
否。吹き飛ばすような生温いものではなく触れた瞬間、その者の身体を跡形もなく消し去った。
身の毛もよだつような戦慄。圧倒的な恐怖。
敵の心にそのような感情が生まれると同時に戦場に二つの跡が出来上がった。
いくらかの地形を破壊し、数多の敵を消し去った、その砲撃を行った七日は疲れた顔で呟いた。
「十分程お休みを頂く事になりますので、第二射まではしっかり護ってもらう必要がありますね。
……まぁ、精々頑張って下さい」
そして、地面にのんきに寝転ぶのだった。