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リアクション
院内。
「……後は、任せるか。あれは……おい!」
役目を終え中庭を離れた裕樹は、廊下を歩くダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)を発見し、呼び止めた。
「あぁ、裕樹か」
声をかけられ、ダリルは振り向いた。
「ダリル、見舞いか何かか?」
裕樹は訊ねた。
「いや、医者の仕事だ」
ダリルは簡潔に答えた。
「……手術か何かをするのか?」
医者と聞いて裕樹は一番に思いついた事を訊ねた。
「両足に潜む新生物を除去する手術だ」
裕樹にとって心当たりのある答え。
「……女の子か。もしかして、美絵華という子じゃないか?」
「……会ったのか」
裕樹の推測にダリルは言った。ここまで知っているという事は会っている以外考えられないので。
「今、さっきな。かなり手術を嫌っているな。いや、嫌っていると言うよりは怖がっている。足が治るためにはしなければならない事は理解しているみたいだが、心が……」
裕樹は、励ますみんなに泣きながら怒る彼女の姿を思い出していた。半分、分かっている事を言われて苛立って怒っている節が少し見えたので。
「……そこが問題だ。手術は今すぐにでも出来るんだが」
「まぁ、この分身騒ぎが良い方向に転がってくれればいい」
ダリルの言葉に裕樹は少し笑いを含みながら言った。
「……分身?」
ダリルは裕樹の言葉に聞き返した。この病院に来てからずっと美絵華の手術について何かと仕事をしていて騒ぎの事は知らなかったのだ。
「あぁ、実は……」
裕樹は、分身騒ぎについて詳細を話した。
「またあの悪戯好きの兄弟がやらかしたのか」
ダリルは呆れたように言葉を吐いた。あの兄弟の名前が出た途端、ろくな事になっていないだろうとは予想はしていたが。
そうやって二人が立ち話をしているところにもう二人やって来た。
「あ、おまえ達、何してるんだ?」
ダリルと裕樹の姿を見つけたウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)が二人に声をかけた。隣にはルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)もいた。
「……ルファンにウォーレンか」
「どうしたんだ?」
声をかけられ二人は話を中断し、ダリルは訊ねた。
「少々、用事で来たのじゃが、妙な雨が降ってから騒がしくなったのぅ」
たまたま用事で二人はここに来ていた。院内にいたため分身薬の被害から免れたのだ。
「あれは……」
裕樹がダリルに説明した事をもう一度、二人に話した。
そして返って来た感想はダリルと同じだった。
「またあいつらか」
「本当に懲りないようじゃのぅ。それで……」
ロズフェル兄弟に呆れるものだった。
「俺は美絵華を励まして来たところだ。で、ダリルは彼女の手術担当で来ているそうだ」
ルファンの質問を察した裕樹は先回りをして答えた。
「ほう」
「難しいのか?」
ルファンは納得し、ダリルの方を見た。ウォーレンは気になるのか訊ねた。
「神経を圧迫している新生物を除去する多少難易度は高いが、成功しない手術ではない。今すぐにでも出来る」
自信に満ちた声音で答えた。
「で、不安で自暴自棄になってるんだ。まだ12歳でこれからっていうのによ」
裕樹は一番大事な美絵華の様子を二人に伝えた。この間にほんの少しでも変わっていればいいのだが。
「……12歳ってまだまだ将来があるじゃねぇか。そんな子供が諦めてるなんてよ。子供は元気にまっすぐに生きるべきなのに……」
ウォーレンは美絵華の様子を聞くなり、たまらなくなり、すぐにでも励ましたいと思い始めた。
「その通りさ。他の奴らが彼女を励ましているから、時間があるなら励ましてやってくれよ」
裕樹は、少しでも励ます人がいれば何か変わるだろうと思い、ルファンとウォーレンに言った。
「そなたはどうするのじゃ」
「俺は、少ししたらこのまま帰るよ」
ルファンの問いかけに裕樹は肩をすくめながら答えた。役目を終えたのでこのまま帰ろうかと思っているのだ。
「……気を付けてのぅ」
「美絵華ちゃんに会いに行くぞ!!」
裕樹を見送ったルファン。ウォーレンは素早く中庭に向かっていた。ルファンは珍しく最初に動き出したウォーレンに驚いていた。
この後、ダリルは仕事に精を出し、裕樹は病院を出て行った。
「俺の分身?」
瀬乃 和深(せの・かずみ)は突然、現れたナンパな自分の分身に唖然となった。
たまたま病院を訪れ、その帰りに分身薬を浴びてしまったのだ。
唖然としている隙に分身は美絵華ちゃんを口説きに中庭へ走って行った。
「おい、待て!!」
我に戻って追いかけるも手遅れだった。
「和深の分身か」
少し離れた場所にいて分身薬の被害を免れたセドナ・アウレーリエ(せどな・あうれーりえ)は分身を目で追った先を確認し、急いだ。
「やあ、美絵華ちゃん。元気に走って行く分身を見たよ」
陽気に美絵華を口説く和深の分身。
「……あの」
両足をぼんやり見つめていた美絵華は驚いたように顔を上げた。
「可愛いなぁ。キミ自身がああやって楽しそうにしている姿を見たいよ。どうだい? 俺と一緒にデートしないか? 楽しい思いをさせてやるぜ」
美絵華が戸惑うのも関係なく、陽気に口説き続ける和深の分身。最高の笑顔をしている。
「……和深の分身か?」
聖夜は突然の乱入者に驚くも様子がおかしい事に気付き、声を上げる。
そのすぐ後に駆けつけたのは本人かと思いきや
「和深の分身よ、我もいたのだが、なぜ真っ先に口説かん?」
セドナだった。
「答えるまでもないんだけど、いくらかわいい子だからと言って、年齢不詳の人はちょっとね。だいたいの場合はババァだし――」
悪びれる様子もなくしれっとひどい事を口にする。
「ほう、覚悟は出来ているとそういう事だな」
頭にカチンときたセドナは『光条兵器』である蛇腹剣「凶ノ大海蛇」を呼び出し、構えた。
「セドナ、ここでそれは危ないよ!!」
零は『光条兵器』を呼び出したセドナに慌てて言葉をかけた。
「零、心配するな、被害は最小限にとどめるからな」
セドナは振り向かずに零に答えた。
「……最小限って」
止める事が出来ないと察し、避難をしようとしたが、無用だった。
「そ、そんな物を出すなって」
そう言い、和深の分身は逃げて行ったのだ。
「待て!!」
セドナは『光条兵器』を手にしたまま追いかけた。
「俺の分身が迷惑をかけてすまない」
現れた和深は分身の行動を謝り、美絵華の方を向き、
「いつか、キミが誰かと楽しそうに街を歩いている姿を見かけることを祈ってるよ」
優しく言った。
「気を付けて下さい。街は分身だらですから」
陰陽の書は和深に言葉をかけた。
「あぁ、そっちも頑張ってくれ」
和深は陰陽の書に答えてからセドナを追いかけ始めた。
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