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リアクション
「……はぁ」
森の中を進む赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)はため息を吐きつつ、背後を振り返る。
そこには瀬山 裕輝(せやま・ひろき)が欠伸をしながら付いて来ていた。
「裕輝さん、いつまで付いてくる気ですか?
最初、自由に幹部を探すとか言ってませんでしたっけ?」
「ん、いいやろ別に。オレもコッチが正解な気がするんやから……」
少し前に霜月は≪機晶ドール≫相手に裕輝と共同戦線を張ってから、何故か一緒に行動していた。
早めに戦いを終わらせるために、≪隷属のマカフ≫を探していた霜月。しかし、森はやたら広く、なかなか見つけることができない。
他の人が先に見つけているかもしれないと思っていた。
そんな時――
「あっ!」
「ん?」
二人は≪隷属のマカフ≫に遭遇した。
「蜘蛛みたいなイカツイ下半身に、人間の体……いかにも中ボスって感じやないか」
裕輝は嬉しそうに後頭部に当てて笑っていた。
霜月が腰の狐月【龍】に触れながら尋ねる。
「≪隷属のマカフ≫……ですね?」
「小僧が人に尋ねる時は自分からだと習わなかったか?」
≪隷属のマカフ≫が小ばかにしたように口元を歪める。
霜月は自身の二倍ほどの身長がある相手の顔を見つめる。
「……蒼空学園所属 赤嶺 霜月」
「≪アヴァス≫副長 ≪隷属のマカフ≫だ」
≪隷属のマカフ≫の視線が裕輝へと向けられる。
裕輝は退屈そうに相変わらず欠伸をしていた。
「裕輝さん」
「ん、ああ。オレもするんか。
あ〜……葦明の裕輝や。よろしゅう」
裕輝はどうでもよさそうに適当な挨拶をしていた。
霜月は呆れてため息を吐いていた。
「≪隷属のマカフ≫。ある人にあなたを捕らえてくるように頼まれました。大人しく投降してください。さもなくば……」
「さもなくば?」
「手足を切り捨ててでも連れて行きます」
「穏やかな話ではないな」
すると、≪隷属のマカフ≫の下半身の機械の部分が妙な動きを見せたかと思えば、巨大な槍を手に持った四本の機械の腕が出てきた。
「悪いが大人しく捕まる気はないのでな」
「そうですか。なら、仕方ありませんね」
霜月が刀の柄を握り、居合の構えをとる。
「裕輝さん、邪魔はしないでくださいよ」
「邪魔はせぇへんけど、自由にやらせてもらうで?」
「どうぞご自由に。怪我には気をつけてください」
「へいへい」
「作戦会議は終わったかね?」
≪隷属のマカフ≫が一歩前へ出る。
すると、大地を通してその重量が伝わってきた。今までそれを感じなかったのは、≪隷属のマカフ≫が地面から数センチ浮いた状態で移動していたからだろう。
裕輝がニヤリと笑う。
「ごたくはええ。とっとと始めようや。
来ないならこっちから行くで!」
言い終えるや否や、駆け出す裕輝。
「せっかちな奴だ」
≪隷属のマカフ≫の下半身の下部が開き、六連ミサイルポットが現れる。
六つのミサイルは次々発射され、裕輝へと襲いかかる。
「……」
裕輝は体を僅かに動かして回避行動をとる。すると、ミサイルがすぐ真横を通って、すべて後方へと流れていく。
≪隷属のマカフ≫は驚きつつも、巨大な槍を連続で繰り出す。
「……」
裕輝は軽くステップを踏んで回避行動をとる。すると、槍はわずかに逸れて地面に直撃する。
続けざまに繰り出される≪隷属のマカフ≫の巨大な槍。それを裕輝はひらりと回避し続ける。
「!?」
ふいに、≪隷属のマカフ≫後方へと跳躍した。
裕輝が鼻で笑う。
「どうしたんや? まさか怖気づいたんとちゃうやろな?」
「……おまえ、何をした?」
「なんのことや?」
質問にとぼけてみせる裕輝。すると≪隷属のマカフ≫は槍を持ち上げて見せる。
そこには、いくつもの亀裂が入っていた。
「儂にはおまえがただ回避しているように見えた。
だが、実際には回避行動と共に拳や蹴りを叩き込んでいた。それを繰り返してダメージを与えつつ、儂の攻撃の軸をずらし回避行動をとっていた。違うか?」
「…………」
「…………」
裕輝は暫く黙って≪隷属のマカフ≫の目を見ていたが、ふいに肩竦めてため息を吐いた。
「やれやれ、さすがに学者様やな。バレてもうたか。
でも、少し遅かったな」
裕輝が指を鳴らす。
すると、≪隷属のマカフ≫の巨大な槍が二つ、粉々になった。
「これで、あんた自慢の歪な棒切れも後二つやな」
「貴様ぁ」
≪隷属のマカフ≫が額に皺を寄せて、裕輝を睨む。
「お〜、こわこわ。でも、残念やな。
ここからは選手交代や」
「了解です」
「!?」
≪隷属のマカフ≫が声のした方を振り返ると、いつの間にか霜月が足元まで来ていた。
距離をとろうと≪隷属のマカフ≫が飛び退こうとする。しかし、霜月の方が早く刀を抜いた。
「くっ――!」
後方に飛んだ≪隷属のマカフ≫が着地する。
「驚きました。一本なくてもちゃんと立てるんですね」
霜月が鞘に刀を収める。彼の目の前には、≪隷属のマカフ≫の下半身を構成する蜘蛛のような四本の足のうち一本が転がっていた。
≪隷属のマカフ≫は残りの三本の足と、推進力でバランスをとっているだった。
「なら、残りの槍二人とその浮遊装置を破壊します」
「そう簡単にやれるかな……」
焦りの色が見えてきた≪隷属のマカフ≫が周囲の森に目を向けていた。
すると、霜月が思い出したように告げる。
「あ、そうそう。≪機晶自走砲台≫なら、あなたと裕輝さんが戦っている間にある程度潰させていただきました。
残りは今頃彼が破壊していると思います」
その時、森の中で爆発音が聞えてきた。
それは裕輝が≪機晶自走砲台≫を一体破壊した音だった。
「援護はありません。大人しく斬られてください」
「ふんっ。言っただろう。そんなつもりは……毛頭ないとな!」
≪隷属のマカフ≫が巨大な槍を振りかざして、接近してくる。
霜月は居合いの構えをとり、迎え撃つ準備をした。
――近づく距離。
≪隷属のマカフ≫は霜月を攻撃範囲捕らえると、すぐさま一本目の槍を霜月にむけて振り下ろした。
遮るものを押しのけるような荒々しい勢いで振り下ろされる槍。霜月は両手に力を入れると、身体を支える足に力を込め、一気に刀を引き抜いた。
下から斜めに切り上げらた刀は、自身の何倍もある極太の槍を真っ二つにしてしまった。
――≪隷属のマカフ≫の三つ目の槍が失われる。
霜月はすかさず抜いた刀を鞘に収める。だが、鞘に半分も収める前に、二つ目の槍がすでに目の前まで迫ってきていた。
中途半端に刀を鞘をしまった今の状態からでは、抜いて対応するのは難しい。
ましてや、刀を鞘に戻して再び居合いを時間などあるはずもない。
≪隷属のマカフ≫が勝利を確信する。
――次の瞬間。霜月の胴体を貫くはずだった四つ目の槍は、狐月【龍】の鞘に止められた。
霜月は咄嗟に身体を捻り、刀が入りかけの鞘を横から槍に叩きつけたのだった。
頭部から数センチの高さで停止している槍。
霜月は体を回転させ槍を完全によけきると、刀をしっかりと鞘にしまい――一閃。
四つ目の槍を破壊した。
「うぐっ!?」
全ての槍を破壊し終わった霜月は、刀を≪隷属のマカフ≫。
「もういい加減諦めたらどうですか?」
≪隷属のマカフ≫の額を大量の汗が流れる。
周囲の森から聞こえていた爆発音も止んだ。
これで戦いが終わると思われた時――霜月は背後から殺気を感じた。
「ちぃ!?」
横へ飛び退くように回避した霜月は。地面を数回転がった
そして、回転が止まると同時に身体を起こし、殺気を放った人物を睨みつけた。
「誰ですか……」
「ははっ、気づいたんですか。
僕はグレゴリー。よろしくです」
無邪気な笑みを浮かべる、グレゴリー(メアリー・ノイジー(めありー・のいじー))。だが、霜月は笑顔の奥に一瞬だけ寒気を感じた。
「≪隷属のマカフ≫先生、本日は折り入って頼みたいことがあってまいりました。
単刀直入に言わせていただきます。僕をあなたの弟子にしてください」
「ほほぅ」
≪隷属のマカフ≫は興味深そうにグレゴリーを見つめる。
グレゴリーは深々と下げていた頭を上げ、人当りのいい笑顔を≪隷属のマカフ≫に見せた。
「もちろん。すぐに弟子にしていただけるとは思っておりません。
ですので、まずは僕の覚悟を見て頂くためにも、この場から先生をお助けいたしましょう」
そう言ってグレゴリーは霜月の方へ向きなおる。
霜月も攻撃に備えて居合いの構えをとった。
すると、グレゴリーが【人魚の唄】を唄い始め、霜月が頭を押さえた。
「さぁ、今のうちです」
「うむ」
≪隷属のマカフ≫がグレゴリーと共に森の中へと消えていく。
「ま、待ちなさい……」
膝をついた霜月は、頭がガンガンして立ち上がることができなかった。
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