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「権兵衛」

 と、国頭武尊が権兵衛に声をかける。

「なんでしょうか?」
「いや、なに……君も死んでだいぶご無沙汰だろう?」
「えっ、なんのことですか?」
「――フッ、まあとりあえず俺に憑依してみろ。そしてこの双眼鏡を覗いてみるんだ」
「はあ、その筒をですか? いいですけど、なにがあるんですか?」
「まあ、見てのお楽しみという奴だ」

 武尊はそういうとニヤリとした笑みを浮かべる。
 権兵衛は不思議に思いながらそんな武尊の体に憑依し、双眼鏡をのぞいてみた。

「おおっ、これはすごい! 遠くのものが近くに見えるぞ。んっ、それにあれは……」

 権兵衛は双眼鏡から見えた光景を見て言葉を失う。
 邪気眼レフを装着していた武尊の体は、双眼鏡の先に見えた水着のビーナスたちの真の姿を映し出していたのだ。

「……権兵衛さん? なに見てるんですか?」

 固まって動かなくなった権兵衛に次百がそう声をかける。
 すると、武尊の体から権兵衛は突如として抜け出し、白目と鼻血を出して仰向けに倒れた。
 それを見て、やもりの中は騒然となるのだった。

                                        ***


「うっ、う〜ん」

 権兵衛が目を覚ますと、あたりはすっかり夕暮れ色に染まっていた。

「起きたか、権兵衛」

 と、レン・オズワルドが声をかけた。
 辺りをキョロキョロと見回しながら、権兵衛はいう。

「あれ、私は寝ていたのですか?」
「幽霊にこういうのもなんだかおかしな気がするんだが……気を失っていたようだな」

 と、海の家で小休止していたリース・エンデルフィアが権兵衛が起き上がったのに気づいて声をかける。

「な、七市さん! もしよかったらまた一緒に遊びにいきませんか?」
「ありがとうございます。でも、まだ少し休ませていただきたいですね」
「あっ、そ、そうですよね。すいませんでした」
「おーい、リース! 早く来いよ!」

 と、夕暮れの浜辺で遊んでいたナディム・ガーランドたちが手を振ってリースを呼ぶ。
 彼女はぺこりと権兵衛に頭を下げると、パートナーたちの元に向かって走っていった。

「――日も暮れ始めたというのに、元気なものだ」

 サングラスの奥の瞳を細め、レン・オズワルドがそうつぶやく。

「ハハハッ、そうですね」

 権兵衛も、オレンジ色に染まり始めた海で元気に遊ぶ契約者たちの姿を見て笑う。

「そういえば、アリエティさんはどこにいるんでしょう?」
「彼女なら、あそこで眠っている」

 そういわれて権兵衛が視線を動かした先では、遊び疲れたアリエティがぐーぐーと寝息をかいていた。

「遊び疲れたんだろう」

 と、海の家やもりで体調の悪い五百蔵東雲を看病していた上杉三郎景虎がいった。
 そんな三郎景虎は、すやすやと眠る東雲を起こさぬようにそっと立ち上がると、権兵衛とレンの側に歩み寄る。

「話は聞いていた。そなた、怨霊らしいな」
「ええっ、まあ、そうですね。気がつけば、そういうものになっていましたね」
「そうか、おかしなものだな。そなたの様に苦しんで死んでいった者は、地球にもこの大陸にもごまんといただろうに、一方は英霊、一方は怨霊か」
「ふむっ、その口ぶりと雰囲気から漂うオーラ……もしや、あなたも私と同じような幽霊? いや、一角の英霊とお見受けいたしますが――」
「英霊? 俺はそんな大層なもんじゃない。俺はそなたと同じただの死者だよ……いや、俺こそ怨霊となる筈だった死者だな」
「……なにか訳がありあそうですね」
「ああっ、俺も色々あったよ。そなたより遥かに大きな恨みをもっていたしな。だが……東雲と出会った頃には、その激しい気持ちもどこかへいってしまっていた」

 三郎景虎はそういうと、眠る東雲を振り返り優しげな笑みを浮かべた。