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リアクション
■蒼空学園女子寮周辺(午後零時過ぎ)
雅羅の部屋の窓が開いて、そこから何者かが飛び立った瞬間に、大助の身体は動いていた。
念のために隠れ身を維持したまま、一直線に追いかけていく。
だが、このまま空を飛ばれたら逃げられてしまうかもしれない。
「七乃!」
『はい、マスター』
じゃらり、と軍用コートからこぼれた鎖を手に取る。
大助は神経を集中すると、鈍く光る鉄鎖を夜空に逃げ行く怪盗へと投げつけた。
「櫟!」
かすかな光を放ちながら飛び立つ影に、霜月もまた行動を起こしていた。
深緑色のブレードドラゴンを携え、屋根を伝って全速力で移動する。
ユートピアの逃げる速さは尋常ではないが、本気で行けば追いつけないこともない。
霜月の合図にブレードドラゴンの口腔が青く光り、冷気に満ちたブレスが怪盗へと放たれる。
だが、当たる寸前にユートピアは下降して建物の影に入っていった。
「避けられた? いや、あの鎖で落とされたのか」
一瞬だけ見えた奈落の鉄鎖に納得して、霜月は周囲を確認する。
姿は確認できないが、同じように怪盗を狙っている者がいるのだろう。
「厄介だな。頼むから盗んだ心を返すまでは死なないでくれよ、怪盗」
霜月はそうつぶやくと、ユートピアが墜落した場所へと飛び降りた。
「何てこと、計画が台無しじゃない!」
怪盗が攻撃されている様子を見ていたセレンフィリティは、走りながら眉間にしわを寄せる。
今の攻撃で、ユートピアの後を追跡してアジトを見つけ出すのは難しくなった。
不可能ではないにしても、当分の間は警戒して戻らないだろう。
そうなれば、その分だけセレアナを救出する機会も遅れてしまうことになる。
「こうなったら、回り道は無しね。あの怪盗をとっ捕まえてセレアナを取り戻す」
どん、道路を駆ける脚に力が入った。
怪盗は大助と霜月の攻撃を全力で回避しながらも、逃走する機会をうかがっている。
手練れの二人が繰り出す攻撃は一撃が重く、巻き込まれたらただではすまないだろう。
だが、そんな戦闘の中へ、セレンフィリティは迷わず飛び込んでいった。
「あらら、やっぱりこうなっていたのね」
ブレスの光を見て、空き地から一番に駆け付けたルカルカがため息をつく。
目の前では三体一の攻防が繰り広げられている。
どうしようかと腕を組んで考えていると、後から駆け付けた某も同じ反応をしていた。
「これは……想定しておくべきだったな」
「そうねえ。あちこちで恨みを買っているんだもの、捕まえて取り返そうとする人が居てもおかしくないわね」
逸る気持ちを押さえて、某の瞳は冷静にユートピアの動きを凝視していた。
怪盗の一挙手一投足を逃さず記憶していく。
本当はすぐにでも飛び出していきたいところだが、それで逃げられてしまったら元も子もない。
幸いに集まった人数は多い。
行動パターンを分析して、確実に逃げ道を塞いでいけば捕まえられるだろう。
そんな某の意図を理解したルカルカはユートピアの監視を任せて、キロスや柚たちを誘導するダリルへ手を振る。
「あれは……まとめて殲滅していいのでありますか?」
いつの間にか某の横に立っていた吹雪が、パンドラガンとパンドラソードを手に物騒なことを口にしている。
「だ、だめよ吹雪、こんな街中で……怪盗以外の人に当たったらどうするの!?」
「それは二階級特進ということで一つ」
「ククク、パラミタ侵略の前には些事なこと」
「死ぬの前提!? いやいや、とにかく待って!」
コルセアは、やる気を隠そうともしない吹雪とイングラハムを必死に抑えるが、ずるずると引きずられていく。
「ここは家屋も密集しているんだから、流れ弾が当たって壊しでもしたら賠償金でお金すっからかんになっちゃうわよ!」
「ハハハ、ここは平和的かつ友好的に説得するのが十全であります。そんな物騒なイレイザーキャノンを持っているなんてコルセアさんは物騒でありますね」
「人類皆兄弟」
いつの間にか武器をしまってカクカクとした笑いを上げる吹雪に、コルセアがどこから突っ込もうかと考えているとき、走ってきたキロスと柚、三月が到着した。
今回は隠密な追跡行動に不向きという理由で、本当に悔しそうな顔をしながらもドラゴンを連れてきておらず、自らの足で走ってきたのだ。
「こうなったら力づくで捕まえるぞ」
怒りに任せて前へ出ようとするキロスの背中に、柚がそっと手を当てて引き留める。
「待ってくださいキロスくん。狭い場所での乱戦になったら、怪盗さんが逃げるチャンスが増えてしまいます。ここは焦る気持ちを押さえて、確実に香菜ちゃんの心を取り返せるように動きましょう」
「柚の意見に賛成だね。大丈夫、僕も怪盗を逃すつもりはないよ」
柚と三月の説得に、キロスは肩の力を抜いた。
そこへ某と相談していたダリルから、それぞれが包囲するための配置場所が伝えられる。
「ほら、行こうキロス。これでやつを捕まえれば、後は香菜を助け出すだけだよ」
「本意じゃないが、その作戦に乗ってやる」
歩き出すキロスの後ろを、柚と三月はほっとした表情で追いかけていった。
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