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リアクション
九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は、シャンバラ教導団で仕事中だった長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)を誘い、このカフェにやってきた。
「で、相談ってのは何だ?」
紅茶を一口啜って、広明が訊ねる。
「この度、創世学園の医学部の教師の任を受けたんです」
ローズも紅茶を一口飲んで、口を開いた。
「ですが、医学はよしとして、それを人に教えるということは全くの素人なので、是非長曽禰さんに人に教える立場の教訓とかを聞かせてもらえたら、と思いまして」
なるほど、と広明は頷く。
「まあ、教訓ってほど大層なもんは話せないだろうが、参考程度に聞いてくれたらいいかな」
そう言って、広明は言葉を紡ぎ始めた。
「誰かに話すなら、九条の実体験を交えて話すのがいいんじゃないか? 経験に勝る知識はないんだぞ」
知識は得ただけではなく実践してこそ生きるというな、現場の叩き上げの広明らしい返答だった。
話を聞くうちにローズは、ぼんやりと自分の父親と違う考え方をしているんだな、ということに気付き始めた。
違う、と改めて気付いたということは、心のどこかで広明を父親のように思い姿を重ねていたのかもしれない、と。それに甘えている節もあったのではないか、と。
ローズは心の中で反省する。広明は父とは違う人だ。ーーけれど、ローズがそう考え始めた途端、急に何故だか恥ずかしくなってきた。その心情の変化がローズ自身によく分からなかった。
「ま、こんなところかな。ーーん? どうした?」
急に広明に言葉を振られたが、ローズは何と答えたらいいのか、と戸惑う。先ほどまで普通にできていたことができなくなった自分に驚きと焦りを感じた。
「あ、あの、長曽禰さん………」
「ん? 何だ」
「え、っと、今日はいい天気ですね……」
「お? ああ、そうだな」
少しだけ頬を紅に染めて、ローズは俯き加減のまま紅茶を口に含んだ。
甘いのに、どこかほろ苦いような気がした。
*
「口の横にクリームがついてますよ、トモミン」
獅子神 ささら(ししがみ・ささら)は、小谷 友美(こたに・ともみ)の口元についたクリームを指ですくった。友美は一瞬きょとんとした表情を見せたが、すぐに微笑みを浮かべた。
「ふふ、ありがとう」
ささらたちはカフェの窓際にあるカウンター席で、ゆっくりと外を眺めていた。二人はこのところ、友美のお腹の中にいる新しい家族のための準備や身辺整理などで忙しかったため、今日は一日遊園地でデートをしに来たのだった。臨月が近い友美の負担にならないようにと、カフェでのんびり過ごすことにしていた。
「ねえ、ケーキ食べさせて?」
「フフッ、甘えん坊さんですね。そういう所も可愛いのですけど……ほら、あーん」
ケーキを食べさせ合って、どちらともなく微笑み合って。ささらは、友美のお腹をさする。
「それにしても大きくなりましたね……さぞ、トモミン似の可愛い子でしょうね」
そしてきっと、トモミンに似た頑張り屋さんになるんでしょうね、とささらは思う。
「トモミンは、どんな子になってほしいですか?」
「そうね……やっぱり、幸せをたくさん感じて育ってくれたらいいな、と思うわ」
友美の言葉を聞いて、ささらはこれからトモミンと二人でそんな家庭を築いていきたいと、改めて感じた。
二人はどちらともなく見つめ合い、そっと唇を重ねる。
「二人で幸せな家庭を作っていきたいわね」
長いキスの後に、友美は愛おしそうに微笑みを浮かべた。
「フフ、同じことを考えていました」
ささらは穏やかな笑みを浮かべて、友美の髪を撫ぜる。
「そろそろパレードが始まる時間ですね」
そう言って、ささらは友美の肩を抱き寄せる。友美はささらに身を預けるように寄りかかり、その胸に顔を埋めた。
「この子が生まれたら、また来たいわね」
二人は見つめ合い、また唇を重ねた。
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