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リアクション
第二章 ヒーローショーにて
「とりあえず、今んとこ被害報告はなし、か」
キング・スペードはスタッフ用の控え室のテーブルに置かれたいくつかのモニターを眺めながら呟いた。
「混んでるのをいいことに、偶然ぶつかったように見せかけて、カップルが繋いだ手を離させたりしてるかもしれないわよ」
キングの隣で、クイーン・ダイヤがじっとモニターを見つめながら答える。
「でも、そんな地味な嫌がらせをして、何が楽しいんでしょう〜……?」
エース・ハートは首を捻ってクイーンの顔を見る。
「他人の不幸はカップル限定スペシャルケーキの味なんだよ」
ジャック・クラブがそんなエースを見ながら苦笑いをする。
「……そろそろ、午後の囮作戦開始の時間だな。異変があったらすぐに連絡を頼む。それじゃ、また後で」
キングの言葉に三人は頷きを返して、控え室を出て行った。
三人と別れ、カフェ『アリス』の前を通りかかったエースは、二階席の窓際を埋め尽くしているカップルに目を留めた。
(みんな幸せそうですぅ……わたしも頑張って、あの人たちの笑顔を守らなくちゃですね)
エースはそう思いながら、デートの待ち合わせ場所へと向かった。間もなくして、賑やかなパレードの音楽が辺りを満たし始めた。
雪の精をモチーフにしたダンサーたちと共に、クリスマスツリーを象ったフロート車が通りの向こうから現れた。
*
エースの見上げていたカフェ二階の一席に、博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)とリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)の姿があった。
「博季くん、あーん」
「あーん」
ケーキを食べさせ合う二人の幸せオーラは、外から見上げても充分に分かるほど。
「あっ、クリスマスツリーだよ!」
リンネが歓声を上げた。窓の外からは、クリスマスソングが聞こえてくる。
「演奏されてる曲も、オルゴールみたいなアレンジになっているのがクリスマスらしくていいよね!」
「言われてみればそうだね。リンネさんは、パレード見るの好きですか?」
「うん! パレードを見てる時だけじゃなくて、パレードが始まる前からワクワクしちゃうのも、パレードが終わった後の充実した感も、全部好きかな!」
楽しそうに笑って、リンネは窓の外を眺めた。そんなリンネのことを見ていると、博季はどんどん楽しくなってくるようだった。博季はリンネのことをじっと見つめて、無言で抱きしめた。
「……こういうのも人を幸せにする手段の一つなんだろうなぁ。それが自然に出来るリンネさんって、やっぱり凄いなぁ」
「博季くん、突然どうしたの?」
「凄く素敵なことですよ、これって」
そう言って博季はリンネをぎゅっと抱き寄せる。いつまでもこんな素敵なリンネさんで居て欲しい。そう、思いながら。
「今年は、お揃いの手袋、一緒に編んでみませんか?」
博季は、テーブルの横に畳んで置かれた二人巻きのマフラーに視線を落とす。これは、博季が編んだ物だった。
「一緒に編み物するのも、楽しいかなって。きっと思い出に残るからさ」
「……うん、一緒に作ろう!」
腕を絡めてきたリンネをそっと抱き寄せて、博季はパレードに視線を向けた。
*
そんな博季たち二人の様子を、茂みの影からじっとオペラグラスで眺める影があった。
「窓際の席でいちゃこきおって。我々に地獄を見せつけてどうしたいというのだ」
馬面マスクを被ったいかにも怪しげなこの男こそが、シングルズ代表、ブオトコだった。
「到底許してはおけませんね。どうしてくれます?」
ブオトコの隣で、同じくオペラグラスを覗いている女ーー口裂け女の如くマスクで顔を隠した彼女は、シングルズ副代表、シコメだ。
「いや、ああいう目立つカップルには、放っておいても邪魔が入るだろう。キャストとして、我々を取り締まる警備も雇っていると聞いた」
「監視に止めろーーと、言いたいのですね?」
ブオトコは口を開かず、ゆっくりと縦に首を振った。
「ーーむ、そろそろ時間だな。行くぞ」
二人はこそこそと去っていった。
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