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リアクション
【11】
「で。一階層制圧にどれくらい掛かるっスか?」
「二分」
アレクのシンプルな答えにキアラはインカムに向かって叫んだ。
「Formation in 2 minutes at the first hierarchy.
Better hurry up! (第一階層にて2分後に整列。遅れるな!)」
正面の敵兵に向かってしゃがみこみ瞬間下段蹴りで足を払ったアレクの背中を、カガチが駆け上がり、ジャンプして上段から振り下ろした刃で止めを刺す。
「踏むな!」「そこに居るのが悪い!」
相手への怒りを理不尽にこちらへむけられて、二人の連撃に鏖殺寺院の兵士達は反対側へ逃げて行く。
「逃げんなバカ」言われた兵士達は振り向くが、その頭は首の骨が折れる様に勢い良く何かにぶつかってその場に倒れた。激突したのは氷の壁だ。
「えーと、何が二分後に突入してくるって?」
「……あの皮肉屋、金 鋭峰め、名前までは流石に情報が回らなかったか? ヒヒヒ。
『プラヴダ』。
俺の可愛い243名の兵士達だ」
「五分前にお客さんたちは全員救出完了したっス。流石百合園の誇る最強のおっぱ……戦士美緒さんっスね。
眼鏡の子も凄かったみたいっスよ。
さてさて、今日は別動隊の内務班も呼び寄せてきたスから派手に行くっス! そういえばトゥリンちゃんは連れて来ないんスか?」
「アレは例のマスターに任せとこう。そもそも俺は子供を戦場に連れて行きたくねえんだよ。護身術教えたつもりなのにどうしてこうなった」
「カエルの子はカエルっスよ」
「The apple never falls far from the tree?」日本語の言い回しが分からずに一瞬思案してから近いのはそれかと問うアレクに、キアラは頷いている。
「馬鹿娘。俺はトゥリンが死にかけるまで殴った事は無いし、ナイフで刺した事も銃で撃った事も、ましてウォーターボーディング(水責め拷問)した事も無い」
「なんか分かんねぇけどいい親父してたんだな」
わざとらしく頭を撫でようとしたカガチの手を逆に掴んで、アレクは横へ振り回した。カガチはそのまま前方の敵の顔面に蹴りを入れると反対側へ飛び降りる。
「アレクさん!」
加夜の声に跳び、彼女の手を取ると、アレクの居なくなった隙間から即後方のアサルトライフル部隊に向かってジーナの六連ミサイルが飛ぶ。
「そして最後に喰らえパンプキンヘッドバーット!」入れ替わりでハロウィンのカボチャを被った衛がヘッドバッドすると最後の敵兵がその場に倒れた。
第一階層ではえりりん、薫、蛇々、そして舞香たちが既に暴れた後だったからもうこの程度しか残って居なかったのだ。
「Suppressions complete!(完全制圧) なーんちゃってね、まだ一階層だし。
ではでは、皆さんはちょっと待ってて下さいっス」
上階層からの攻撃は弾幕を張っている樹と綾乃に任せ、突入してきた隊士に向かってキアラは叫んだ。
「Attention!」
一糸乱れぬ動きで整列している組織の隊員に示すのは、彼等が敬畏する唯一無二の存在だ。
「Company! 我らに勝利を齎す刃が見よ! 双頭の白鷲の声を聞け!
Salute for head officer!(大尉殿に敬礼!)」
が。どうしても真面目になりきれないキアラは、振り向いて小声で「この位派手な方がいいんスよ」と言ってしまうのだ。
「Good evening,soldiers.」
「Good evening,sir!!」
「We will start ”Operation Infinite Justice” from this.
(我々はこれより『無限の正義作戦』を開始する)
『民間人』ジゼル・パルテノペーを救出し、タマ無し野郎とテロリストの糞馬鹿共の頭蓋を7.62mm弾で吹っ飛ばせ。
凶弾に倒れた同志ハムザ・アルカン、カタリナ・フジイ、レナ・シュピーリ、ハンニ・イェール、そしてリュシアン・オートゥイユへ勝利を捧げよ。
我らは『正義の神』に仕える復讐者。
Annihilation of the enemy forces!!(敵軍殲滅)」
咆哮を上げ行動を開始する隊員達を引き連れ、再び走り出したアレクに向かってキアラは言う。
「相変わらず超シンプルっスね」「苦手なんだよアレ」
「でもま、あれっくさんよう、軍隊を呼ぶのはいいけどよ、惚れた女はテメーで救わにゃーいけないんじゃね?」
言われたアレクは衛の頭を掴んで樹が弾幕を張っている上階層へ目を向けさせる。兵士達は後ろに引いている。
「ジゼルちゃんを助けるのは我々プラヴダの目的の一つであって、作戦の狙いはあくまで士気の低下っスよ。
良い様に使われて、その上殺されるところだったっスからね。
実際仲間が、友達が目の前でゴミみたいに殺されたんス。
あんな野郎到底許せる訳がないんスよ。
つーわけでプラヴダの隊士はみーんな、オスヴァルト・ゲーリングの精神も肉体もボッコボコに叩きのめしたいんス!」
「ビビれビビれ。哀れで矮小なテロリスト諸君。ほら聞こえてるか? 地獄が足音を立ててやってくるぞ。急いで逃げないと軍靴で足を踏まれるぞ。
匂いは硝煙。空気は銃弾。前も後ろも血の海だ。ああ、楽しいなぁ。闘争は楽しいなぁ」
危な過ぎる台詞と笑顔に全員にドン引きされていたアレクだったが、何かに気づいてその場の全員を置き去りに走り出す。
「だから散々あいつは屑だって言ったじゃないスかー! どうすんスかあんなの野に放っちゃってー!!」
その一旦を担っていたはずのキアラの叫び声を頭の上に振らせながら、アレクは何処かへ向かって一気に距離を詰めて行った。
丸くなって震える少女を襲わんとしてた兵士の頸椎に当てた足をそのまま地面に落とすと、アレクはアリス・ウィリス(ありす・うぃりす)に手を伸ばした。
「立てるか?」
「……うん。
…………ここ、どこ?」
小さ過ぎる身体を抱き上げて頬を伝っていた涙を拭ってやると、それこそ地獄耳で『おにいちゃん』に助けを求められた気がしたアリスに質問する。
「もしかしてお前迷子か」
二十分程前だろうか。
駅に緊急放送が流れていた時にアリスが自分の迷子を自覚したのは。
今日はお休み。
及川 翠(おいかわ・みどり)とミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)の二人と空京まで買い物にきたアリスはバタバタと逃げ惑う人々に回りを見回して、パートナー達が居なくなっている事に気がついた。
「ええっ!? 鏖殺寺院さんー!?
た、大変だよどうしようっ!
……あ、あれっ? 翠ちゃーん? ミリアさーん?
……翠ちゃーん! ミリアさーん!!
…………も、もしかして私……迷子ー!?」
丁度同じ頃――。
「あぁもぅっ、こんなところで鏖殺寺院なんて……
まさかこの駅ビルに雅羅さんが居るとか言わないわよねね!?(居ます。)」
「お姉ちゃん、私達もできることやってみるの!
……ところであれ? お姉ちゃん、アリスちゃんは何処なの?」
「また迷子!……どうしろって言うのよ!
本当にもうっ!」
つまり居なくなっていたのは二人のパートナーではない。アリスの方だった。
油断するとすぐ毎度になってしまう極度の方向音痴の彼女はハンドコンピューターに発信機までつけられてしまっている。
要するに十数に見える外見より更に中身は子供だった。
二人のパートナーが必死にハンドコンピューターの教えてくれる反応を追いかけている間にも、ビキニアーマーの女達だったり、女装の男達だったりに遭遇してショックを受け、
更に方向音痴特有のその場でじっとすることも出来ない。というアレで、アリスはずんずん進み、何時の間にかこんなところにきてしまっていた。
邪気を払うと言われる桃の木で作られた剣の切っ先から鋭い風を放ち、時には自分に風を纏わせてあっという間に階層を上がったアリスだったが、第二階層に居た兵士達は強く、分けも分からない間に劣勢に追い込まれたところへアレクがやってきたのだ。
「こんなところで迷子になるなんて将来有望な奴だな。ほら、お兄ちゃんが一緒に探してやるから泣かないで。あー、と」
ポーチから取り出したレーションは何故かロリポップだった。
「わーいおかしー!」
そう、子供は大体これで釣れるのだ。にこにこしているアリスに、アレクはそろそろ落ち着いた頃合いかと再び質問する。
「お前……えーと」
「アリス・ウィリスだよ」
「そのアリスは誰と一緒にここにきたんだ?」
「翠ちゃんと、ミリアさん」
「その翠ちゃんとミリアさんてのはどういう人なんだ」
「うんとね、赤い大きなおリボンをつけた小さい女の子と、私と同じくらいの歳のかんじの――」
因にこうしている間も敵がきては蹴られ、敵がきてはふっ飛ばされをくりかえしているのだが、二人は何事も無かったかのように会話している。
「チビ二人を探せばいいのか。
アリスもそこから呼べよ。視界が上になれば少しは探し易いだろ」
アレクの言葉に頷いて、アリスは口に両手を当て叫んだ。
「翠ちゃーん! ミリアさーん!」
「ねえ、今アリスの声が聞こえなかった!?」
完全に当てる気の無い剣を振り回し、天使の導く光りの雨を降り注がせながら、第二階層の端に居たミリアは翠に問いかける。
「ごめん音が凄くて聞こえないよっ!」
従者に守られながらもハンマーを振り回して周囲の兵士を飛ばしている翠の耳を塞いでいた音は他ならぬアレクが投げたグレネードの大音量だった。
お陰で出来てしまった隙に、兵士の一人がめざとく気づいて飛び込んでくる。
「たすけて、おにーちゃーん!」
何故そんな内容を叫んでしまったのかは分からないが、迫り来る大ピンチに翠は確かにそう叫んでいた。
で、お兄ちゃんは本当に助けにきたのである。
しかも探していた女の子を片手に抱いて。
「翠ちゃん! ミリアさん!」
「この人達が?
見つかって良かったな」
捕まえた敵兵の首を背中に後ろで無造作に締め上げながら、アレクはアリスを下ろして即敵兵の背後に周り首を逆に折って両手を離し、おまけの銃弾を頭に入れておく。
「じゃあなアリス。もう迷子になんなよ。つっても無理そうだが……」
「ありがとうおにーちゃーん!」
二人の可愛い妹に見送られ、一人の怪訝な視線を受けながら、またもグレネードのピンを抜いた危な過ぎるお兄ちゃんは爆風のその先へと消えて行った。
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