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リアクション
「あはは、待て待て〜!」
「うふふ、捕まえてごらん!」
とても幸せそうな笑顔を浮かべながら浜辺を追いかけっこしていたのは、昨夜二人で夜空を眺めていたアルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)とシルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)だった。ドラマのワンシーンのような二人だけの空間。
「あはははは……」
「うふふふふ……」
浜辺は二人だけの舞台だった。
いや、他にもすでに人がいたのだが、誰も立ち入ることのできない恋愛バリアーが張り巡らされていたのだ。
「……」
なぜかダンボールが置いてあったが、そんなものを気にしなかった。アルクラントとシルフィアは二人だけで浜辺を走った。そして……。
「ほら、捕まえた……!」
「きゃっ!?」
アルクラントがシルフィアに追いついて手を握る。その勢いに躓いてシルフィアは仰向けに倒れた。アルクラントも引っ張られるようにその場に倒れこむ。
「あっ!」
「あ……」
シルフィアに覆いかぶさるように身体を密着させるアルクラント。顔が至近距離まで近づいた。
「あ、アル君……、な、なんか変なドラマとかに毒されてない? アル君が、やりたそうだったから、私も付き合ったんだけど……」
アルクラントの真剣な眼差しに耐え切れなくなったようにシルフィアは言った。 普段から慣れた仲なのに、イザとなったら何もできずに固まってしまう。
「笑ってくれてもいいですよ。憧れていたんです……」
「あ……」
アルクラントの顔がゆっくり近づいてくる。
「素敵ですよ、シルフィア……」
「そ、そんな……。だめよ、やめて……」
シルフィアは、眼を閉じかけて。
「!?」
真上を確認して目を見開いた。
アルクラントの頭上、太陽すらも閉ざすような暗い闇が出現する。
「!」
シルフィアはアルクラントに抱きついて、身体を一回転させた。この間わずか一秒未満。
ドスリ!
二人の顔があったところに、太い竹槍が突き刺さっていた。
「 チッ! 」
毒々しい舌打ちが響いた。
「 浜辺で幸せなお二人さんには、一緒に串刺しになって永遠にくっついていたほうがよかったでありますよ! 」
「な、何よ、あなた……!」
立ち上がったシルフィアは寒気を感じてぞっとした。
目の前にあるのは、ただの殺意。自作の竹槍に怨念を込めた全裸の少女。変態ですらない。『裸拳』だ。破壊しつくすためだけに全て脱いだだけ。
「 どうしたでありますか? ささ、遠慮せずに続けてくださいよ。突き刺せないじゃないですか? 」
這いずり回るような低くくぐもった声。世界を呪い、リア充というリア充をテロしつくす。パラミタ最悪のフリー・テロリスト葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はギラリと笑った。
ただリア充が敵なだけだ。トラウマを充満させた負のオーラを纏って、アルクラントとシルフィアに襲い掛かってくる。
「くっ……!」
立ち上がったアルクラントは、戦うという方法を選ばなかった。
爛々と狂った光を放つ吹雪の目を見て確信する。己を顧みない滅びを悟っている目だ。二人なら戦って負けることはないだろう。だが、自分を捨てた人間を相手に無傷で住むとは思えない。自分はいいが、シルフィアを傷つけたくなかった。
アルクラントは、シルフィアの手を取って全力で逃げる。
「 刺――――――――――――――――――――――――――っす! 」
当然、吹雪は追いかけてきた。
アルクラントとシルフィアは、ひたすら逃げる。誰かが気づいてやってくるまでは、耐えるのだ……。
○
「豪華客船で、ロマンチックに海上パーティ……に期待していたのに、どうしてこんな事に……」
海から上がってきた遠野 歌菜(とおの・かな)は、島を見渡しながら溜息をついた。自分達は何とか無事だったが、他の人たちはどうなったんだろうかと心配になってくる。
激しい嵐との戦いを思い出すように、歌菜はしばらく海を眺めていたが、程なく気を取り直した。
「でも、嘆いていたも仕方ないよね! 寧ろ、無人島とはいえ、浜辺に無事に打ち上げられてよかったよね」
「全くだ。歌菜とはぐれずに済んで、本当によかったよ」
パートナーの月崎 羽純(つきざき・はすみ)は、歌菜の傍にずっといた。二人で力を合わせてここまでやってきたのだ。
「そうよね。私も羽純くんと逸れずに済んだんだもの。それだけで幸運だよ。これ以上贅沢言っちゃいけないよね」
さて、と歌菜は、濡れた衣装を絞りながら言う。すぐに前向きになった。
「取り敢えずお腹も減ったし、きっと助けが来る筈だから、それまで無人島ライフを満喫しましょう。何か取りにいこうよ」
「待て、歌菜。食料も大事だが……まずは住居となる場所を探そう。出来れば洞窟が良いな」
「住めそうな洞窟ってあるのかな?」
羽純に、歌菜は聞く。
「雨が入らない横穴で、乾いていて、すでに動物住んでおらず、ある程度の深さがあるのがいい」
任せておけ、と羽純は歌菜を安心させるように言った。サバイバル慣れしている羽純には、生き延びるための知識も技術も持っていた。
「えへへ……、さすが私の旦那ね。一緒に手伝うわよ」
さっそく探しに行こう、と歌菜は羽純の腕を取って島を歩き始めた。
歌菜の前向きさには感心する……。そこが彼女のいいところだと羽純は微笑む。
「乙 (=・ω・)ノ」
海で食べられるモンスターを取っていたハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)がは、歌菜たちに手を振った」
「向こうで、みんな遊んでるよwwwwwwww」
「あの人、どうしてあんな喋り方なのかしら?」
「いや、でもいいことがわかったじゃないか。もう、ここは無人島じゃないってことさ」
羽純は言った。そのとおりだった。
浜辺の向こうから、二人組みが逃げてくる。
その背後からは、竹槍をもった全裸の狂人が迫っているのがわかった。どす黒いオーラがあたりを充満する。
「 殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺! 」
吹雪が、歌菜と羽純に気づいた。ターゲットを変えて襲い掛かってくる。
「 呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪! 」
「なによ、あなた!? 私たちの雰囲気をぶち壊しにしないでよ!」
歌菜は怒って立ち向かう。
「気をつけろ。こいつはヤバイぞ」
羽純が歌菜をかばって前に出た。
「助かりました。ありがとうございます」
アルクラントが反撃に転じた。
純愛と狂気が浜辺で激突する。
「通報しますた! m9( ・`ω・´) 」
ハイコドも戦闘に参加してきた。
「騒がしい人たちですね」
ルイが筋肉をわななかせて、吹雪を攻撃する。
「 FUCK!FUCK!FUCK!FUCK!FUCK!FUCK!FUCK!FUCK!FUCK!FUCK!FUCK!FUCK! 」
一気に形成が不利になり、吹雪は暴れ狂った。
無念だ、無念無念無念無念。まだ何もやってないのに、今回もこんなところで幕を閉じるのか!
最後の手段だ。華々しく散ってやる。
「こっちだ!」
不意に、パートナーのイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が、横合いから吹雪をさらった。
吹雪をダンボール箱に詰め、海に放り込む。
「リア充、爆発しろ〜!!」
イングラハムは、吹雪の身代わりとなって自爆した。
辺りを煙が立ちこめ、歌菜やアルクラントは吹雪たちを見失ってしまう。
あとは、なんだかしらないが海にダンボール箱が浮いているだけだ。だが、それはただのダンボール箱……。
「全く、なんだったのよ、あいつは!?」
歌菜はまだ怒っている。
「残念ですが、二人だけのお時間は、もうおしまいです」
キャンプを作っていたルイは、アルクラントとシルフィア、歌菜と羽純をみて笑顔を浮かべた。
「野暮で結構です。ですが、みんなでいたほうが楽しいですよ」
「……」
歌菜と羽純は顔を見合わせた。なんだこれ? みんないるじゃないか。
遭難の末、厳しいサバイバルが始まるのかと思いきや。ちょっと不便なキャンプってだけだ。カップルたちはくすりと笑う。
「よろしく」
「夜は、みんなでキャンプファイヤーをやるそうよ」
歌菜は、あっという間に打ち解けていた。
「採った食材での料理は任せて。限られた材料でどこまで美味しく出来るか…主婦の血が滾ってくるわよ」
遭難時の大変さなんかすっかり忘れた様子で、歌菜は準備に取り掛かる。
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