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リアクション
■見つけ出せ!・1■
「……うん。こんなものでしょうか」
佐々布 牡丹(さそう・ぼたん)は機械へと向けていた目を上げ、額の汗を腕で拭った。
今彼女は弐号内の整備をしていた。
「コールドスリープは問題なさそうですね。医療器具の点検もしましたし、これでいつでも受け入れられます」
目の前に広がる卵のようなそれ……コールドスリープ装置が正常に稼動することを確認し、ホッと息を吐く。
『土星さんの慌て振りとお話の内容から、今回の作戦の目的対象に何らかの異変が起きて居る事は用意に受け取れます。
ですので、こちらとしても万全の準備を整えておきましょう!』
自分に出来ることは何か。
牡丹が自問自答し、導き出したのが『土星くん・弐号の機能検査と安定化』だった。
要救助者が怪我や病気だった場合、探索者たちのスキルで応急処置はできるだろうが完全ではない。いざと言う時のために、コールドスリープや医療器具の点検検査をした。
「まあ、コールドスリープまで使う事態にならなければよいのですが」
コレを使うのは、相当危険な状態ということだ。そうならないように祈りつつ、立ち上がった牡丹は別の場所へと向かう。
「後は駆動部分も確認して、最後は住環境保全室ですね」
頭の中で土星くんに見せてもらった弐号内の地図を思い浮かべ、予定を組み立てる。いざというときすぐに動けなければ困るし、弐号内の環境を万全にしておくのも必要だ。弱った身体に過酷な環境は響く。
目的地へ向かう途中、窓から外が見え
「どうか……ご無事でありますように」
* * *
「ニルヴァーナの民の生き残り……ギフトに深い造詣を持つ民。興味がそそられますね。
彼等を助け出し、契約することができれば新たな知識を得られることでしょう……まあ人数が少なければ難しいでしょうが話だけでもしてみたいですね。
何はともあれ、救出をしてからですか」
そう言って東 朱鷺(あずま・とき)は森を見回した。彼女の周囲を八卦術・八式【兌】が取り囲んで周囲を警戒している。
あたりに漂う気味が悪い澱んだ空気に、眉をしかめる。
「それにしても、濃い瘴気ですね。
通用するかわかりませんが、【魔除けのルーン】を張っておきましょう。
別に八卦術からルーン魔術に浮気しているわけでは有りませんよ
今回は、ルーン魔術の方が理に叶ってると判断したまでです」
誰かに言い訳をしながらルーン魔術を使う。だが、劇的な変化は今のところない。
相変わらず瘴気は周囲を漂っている。
だが、もともと効果に関して強く期待していたわけでもないらしい。
「まあ保険というやつですね。
あと朱鷺は、このルーン魔術の効果について、きちんと確認しておきたいので闘いません。あなたたちにお任せしますよ」
玄武、白虎、青龍、朱雀、麒麟の幻獣の幼生たちはこくりと頷き、さっそく襲い掛かってきた植物に噛み付いた。
そんな戦闘の様子にあまり注意を払わず、朱鷺はじっと魔術の効果を見る。……だがやはり効果はないようだ。
「魔術が間違っているのかこの瘴気に効果がないのか……土星くんの話を考えると、おそらく後者でしょうね」
ふむふむ、と考え込む朱鷺の服を白虎が引っ張る。意識を戻すと、朱雀が鳴いて彼女を呼ぶ。
「どうかしましたか? これは……?」
連れて行かれた先には、明らかな人工的に作られた何か、の破片があった。
周囲を確認する……しかし破片は1つだけ。
「ということは、移動させられた可能性がありますね。……まあ一万年も前ですし、仕方ありませんね」
原生生物がくわえて動かしたのだろう。ということは大きな欠片はともかく、小さなものを発見しても最初に落ちた場所とは限らない。
朱鷺はすぐさまそのことを報告した。
* * *
「移動させられた形跡、か」
「まあ考えれば当たり前じゃな。なんせここに墜ちたのは一万年も前じゃ。そのままと言う方がおかしいのう」
報告を聞いた草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が頷くと、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は手にした破片へと目を落とした。ガラスのようなそれは、弐号の窓の材質とそっくりだ。十中八九、ここに墜ちた移動式住居のものだろう。
「だからこれ1つだけあったんでしょうか?」
「……一概にそうとも言い切れませんが、可能性はあります」
ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)の言葉にブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)が少し考えながら同意した。
「かなり巨大な生物もいるからな。大きければ問題ないわけでもなさそうだ」
甚五郎が言いながら振り返ると、巨大なヒヨコを追いかける巨木が見えた。すぐさま何かに噛み付かれているところまで見えたが、その後は木が邪魔で見えなかった。
「それを言い始めたら切がないからの。あまり深く考えすぎんことじゃな。
さて、急いでいくとしようかのぅ。召喚獣も放って索敵させるとしようかの。目は多い方が良い」
羽純が呼んだ召喚獣は、彼女の指示通りに周囲を探し始める。羽純と甚五郎も周囲へと目を配る。
そんな甚五郎の背には大きな荷物があった。水と食料だ。だが彼らのものではなく、
『はい! 人命救助ですね!頑張って探すですよ!
あ……一応ですがゼリーとかペースト状の食品を持っていくですよ。コールドスリープから目覚めた後、食べたいかもですしね。
食べる時は、ゆっくりと、体に負担かけない様に食べてもらうです〜』
『ホリイ。なら水も忘れてはいけません。
まぁ、重くなってしまいますが、甚五郎にでも背負ってもらうとしましょうか』
『あ、そうですね』
という流れで当然のように持たされた。
魔術師の家系である甚五郎だが、余裕でそれらを担ぎ、その状態で楽々と探索している。
そんな様子を見たブリジットはホリイに声をかける。
「では私たちは周囲の警戒に当たりましょう」
「はーい。了解です」
時折ジャイアントピヨを見上げて現在地を確認しながら進んでいく。
そしてついに、巨大な塊を見つけた。中に入れるほどの。
「行くぞ」
甚五郎が迷うことはなく、中へ突入。
しかし残念ながら、誰かがいた痕跡があるだけで生存者はいなかった。
甚五郎は無言のままそれ――何かがこびりついた玩具?(金属のようなもので出来ている)を拾う。持ち主が見当たらないのは、風化したか持ち運ばれたか。
「……帰してやるのかの?」
「ああ。せめて彼の地で眠らせてやりたい」
「そう、ですね」
「……もうすぐ帰れますからね」
* * *
「良かった。連絡は美味くいってるみたいだな」
仲間たちのやり取りを聞き、アキラはほうっと息を吐き出した。
「それはよかったです」
隣を歩いていたセレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)が頷き、あとは、と言うのにアキラが言葉を続ける。
「ああ。吉報を届けるだけ」
「頑張りましょう。みなさん、周囲の警戒はお願いいたします」
セレスティアが優雅に頭を下げた先には、とある商人に雇われたという冒険者たちがいる。彼らはカルの提案により、周囲の警戒に当たることになっていた。
もちろんアキラたちも警戒は解かないが、そちらへ向ける意識を緩めることができるのは、非常に助かる。
(私たちだけならまだしも、ミャンルーさんたちは戦闘が不得手みたいですし)
セレスティアは自分が引き連れているミャンルー隊(トラとポチ)を見やる。
捜索の目を増やすために連れてきたのだが安全面で不安だった。それも、警戒&護衛部隊が別にいるということで解決だ。
「では捜索に行きますよー。はぐれないようにしてくださいね」
「わかったみゃー」
「眠いけど頑張るみゃー」
セレスティアの声にポチとトラが元気よく返事をする。……まるで幼稚園児と引率の先生のようだ。
もしも今が緊急時でなく、そしてここが青々とした森であったのならばピクニックに来ているように見えたかもしれない。
「みゃみゃっ? い、痛いみゃー」
「どうかしましたか?」
「どうしたっ?」
元気よく飛び出していったトラが悲鳴じみた声を上げる。アキラも冒険者たちも周囲へと目を配るが、魔物の気配はない。セレスティアがトラに駆け寄る。
トラは腕に怪我をしていた。
「まあ大変です」
慌ててセレスティアが呪文を唱える間、アキラが何で怪我をしたのかと首をひねる。ポチが「これなんみゃ?」と何かに気づいてアキラを呼ぶ。
「これは……金属? なんだろ。不思議な材質……? もしかして」
トラがいた辺りにあった苔の生えた岩から突き出た不思議な物質。岩にも見覚えがある。弐号の表面がこんな岩で覆われていた。
墜落した住居の一部かと、アキラがデータを土星くんに送り確認。それが住居の破片。先頭部分であることが判明した。
アキラたちはもちろんそれをすぐさま仲間たちへと伝える。ほぼ真っ白だった地図に、みんなの情報が次々と書き込まれていく。
しかしいまだ、生存者は見つかっていない。
* * *
「こんなものを見たことがないかな?」
黒々とした草へ真剣に話しかけているのは、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)。常人の耳には聞こえない、植物の声が彼には聞こえる、らしい。
(僕には分からない世界ですね)
険しい顔つきのエースを見ながら周囲を警戒しているエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は、一体どんな話をしているのだろうと思いをはせる。
完全にエースの意識が探索(交渉?)へと向かっているため、そう深く考えられないが。
「エースの集中を乱さないようにしませんと……っと言っている間に」
近寄ってきていた小さな生き物。リス、に似ていたが愛らしいとは程遠い。コウモリ羽が生え、片目をどこかに落としてきたようなその生き物(といっていいのかどうか)へ威嚇射撃をする。戦わずに住むのなら越したことはない。第一、今の目的は戦うことではない。
リスのような生き物は、エオリアの射撃に驚いたのか。飛び跳ねた後、慌てたように逃げていった。
ふぅっと息を吐き出すと、話を終えたらしいエースが立ち上がっていた。
「エース。話は聞けましたか?」
「……いいや。どうも、ここの植物たちは話す術を持ってないみたいだね」
「道中襲ってきた草木もありましたからね。私たちが思う植物と言うものとは少し違うのかもしれません」
『たとえ瘴気まみれでも、森なら植物達の協力も得られるはずだよ』
そう信じていたエースにとって、それは辛いことだった。エオリアは慰めるように肩を軽く叩き、先へ向かおうと促す。
「長くここにあるのなら蔦が取り巻いているかもしれないし、何か知ってるはずなんだけど……仕方ないね」
(その蔦が危機の原因になっているかのうせいもあるんだけれど食虫植物みたいに機晶エネルギーを吸う特性を持っちゃった植物が次第に船内部に入り込んで捕食とか……やめてやめて)
エースは蔦や植物のことを考え、考えすぎて嫌な想像をしかけたのを首を振って取り消した。エオリアが首を傾げたのに「なんでもない」と答え、前へと進む。
すると、先ほどエオリアが追い払ったリスのような生き物が、何かをくわえているのが見えた。
「あれは……」
「ききっ」
リスは再び慌てて、くわえていたものを落として逃げていった。
落としたものに近づいてみると、カップのもち手のようだった。随分と薄汚れた古いものだ。
エースとエオリアの目が合う。
リスがやってきた方角へと急ぐ。邪魔をする木々や獣を追い払いながらたどり着くと、
「え、まさか?」
「どうしました、エース?」
そこには蔦が絡みついた人工物――住居の一部と思われるものがあった。かなり大きく、中に人がいても可笑しくないと思われるソレは、まさしくエースの想像したものと似ていた。
だが、幸いと言うべきか。残念と言うべきか。
中には誰もおらず、ただ荒らされた形跡だけがあった。
安堵の息をつきながら、土星くんにその情報を事細かに伝える。形や大きさから、隅の部屋だと思われ、段々と。当時の様子が浮かび上がりつつあった。
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