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【アガルタ】宇宙(そら)の彼方で待つ者

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【アガルタ】宇宙(そら)の彼方で待つ者
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■見つけ出せ!・2■


「まったく。目印が動くとは……いや、余計にそれらしいか?」
 ふむふむと何かを考え込んでいるのはフィーネ・クラヴィス(ふぃーね・くらびす)。先ほどから

『帰り道に迷わないように、必要だろう?』

 と木々に目印をしておいたのだが、その木が歩きまわるため、効果がなかった。いや、動かない気もあるのでまったくないわけではないが。
 だが声にはあまり残念そうな響きはない。目印がなくなるというのは、まるでヘンゼルとグレーテルのようだと笑った。
 元々この目印は自分たちの存在を周囲に知らせることで、全体の捜索範囲を狭めないように、とのことだったのだが。
 少々ふざけているように見えるフィーネだが、探索は真面目に行っていた。
連れてきたパラミタセントバーナードを適当に放ち

「ほれ、さっさと見つけろ。主の命令は絶対だぞ」

 そう言った。
 だがどうやらあまり懐かれていないようで、事あるごとにセントバーナードはイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)へと報告に行っていた。

「静かに迅速に、救出を行わなければならない……頼んだぞ」

 任せて! と言わんばかりに吠えるセントバーナード。意気揚々と地面の匂いをかぎ始めた。
(とはいえここに落下したのが約一万年前。この環境を考えると外で生活はしていないだろうから、においを辿るのは少し難しいか)
 それでも人間よりはるかに優れた五感を持っているため、頼りにしているのは本当だ。
 ソレに彼が引き連れているのは犬だけではなく――と言ってしまうとフィーネが怒るかもしれないが――蛇もそうだ。彼らは熱探知ができる。生存者がいればすぐに分かるはず。
 今回は情報が少ないため、どんな小さな情報も逃すわけには行かない。
「これは……ふむ」
「弐号にあったイスと似ているな」
 セントバーナードが掘り出したイスらしきものを見て、イーオンが素早く頭を回転させる。
 情報はなるべく丁寧に読み取るべきだが、今の状況ではそうも言っていられない。
(土星くんのためにも、早く見つけて報告してやりたい……彼女と仲良くしてくれていると聞くしな)
 今回参加したのは、すちゃらか代王である彼女と土星くんが遊んでくれているという話を聞いたからだ。直接の関係はなくとも、彼にとってそれはとても大きい理由だった。

「周囲の土の状況から言っても、おそらく落下の際に埋まったものだろう。そして今までの破片の落下地点を考えると……捜索の方向は間違ってないな」
 少し安堵し、だが、やはり落ち着いていられる状況ではない。再び歩き出す。

 ぐあおおおおっ

 うめき声と共に黒い影が襲ってきたのはそんな時だった。
 なるべく戦闘を避けるため、今まで気配を薄めていたのだが……イーオンは仕方ないと息を吐く。
「俺もまだまだ、ということか」
 腰を下げたイーオンに対し、フィーネは面倒くさそうな顔をして後ろに下がった。戦いは任せる、ということだろう。
 イーオンは襲ってきた狼を見ながら周囲を見る。あまり派手な戦闘をすれば他のモンスターをも惹きつけかねない。迅速に、かつ静かに倒さなければ。

 イーオンの手に、魔力が集まっていった。

「……悪いが、通してもらう」


* * *


「さっき拾った破片より重いのがこちら側にあるって事は、落下地点を結んだその先が宇宙船の墜落現場かな……? フェル」
「了解、他班が見つけた破片の位置を追加……」
 十七夜 リオ(かなき・りお)フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)が、重たい石にみえる破片のそばにかがみこんで話をしていた。
 そうして話をしていられるのも、周囲を代わりに警戒してくれるものたちがいるからだ。
 ただもちろん、戦闘となれば2人も参戦する。
 銃を取り出してフェルクレールトと連携して戦っていたリオだが、人の子供ほどもある虫は、数が多かった。リオが眉を吊り上げた。
「いちいち相手してたらきりが無さそうだな……フェル、止め頼むよ!!」
「はい……燃え尽きなさい」
 そこまでの戦闘で炎が弱点であることを見抜いていたフェルクレールトは、炎のフラワシで魔物を一掃する。
 しかしここはあくまで森の中。
「……やまかじにならない様には注意します」
「たのむよ」

「深追いはしないように! あくまでも探索の護衛に集中するんだ」
 カルがそう声を発しながら、夏侯 惇(かこう・とん)との会話を思い出していた。

『よいか? 捜索隊自体の安全を確保するように、PS隊を展開するんだぞ、カル坊』
『分かってるって……でも自分で見つけられたら一番なんだけどな』
『そうだな。しかし、自分が見つけ出そうという功をあせることはない。
 それがしたちは一人で戦っているわけではない、「誰か」味方が一人でもいいから保護目的を確保すればそれで任務は達成される……わかっておるな?』

 周囲を探索している護衛対象者たちを見つめながら、カルは深呼吸をした。焦るキモチを、それで抑え、表には出さない。
 だがパートナーには筒抜けだったようで、地図に情報を書き込んでいたジョン・オーク(じょん・おーく)が顔を上げて微笑む。

「地道なお仕事ですけど、こういう下支えの任務って、みなさんをより安全にミッションに取り組んでいただくためには結構重要ですからねー。
 ふてくされなず、真面目に取り組みましょうねー、カル?」
「ふ、ふてくされって。ぼ、僕は真面目に」
「冗談です。
 あなたがいつも真面目だってことは、神様だってよくご存知ですよ」

 そんな和やかに会話している2人を横目に、ドリル・ホール(どりる・ほーる)は「安全か」と呟く。カルがフェルクレールトへ目線を向けた。
「いや、土星くん、だっけ。安全のこと気にしてたからさ」
「ああたしかに」
「仲間のことも心配だろうに、捜索隊のことも気にしてさ……今回初めて会ったけど、いい子なんだろうなぁ。
 それに可愛いし、けなげっぽいし」

 少し軽やかに言ってから、最後はやや真剣な声で。

「護ってやらなきゃーな、誰かが」
「……ええ」
「ああ!」
 気合を新たに入れなおし、3人は前方を見やる。彼らは探索隊よりも少し先を進み、安全を確保している。惇は何をしているかと言うと「お留守番」だ。
 車で動けるところまで捜索隊を運んだ後、アプローチベースとして待機している。

「探索は急がねばならないが、急ぎすぎてもいかん。
 指定の時間になっても見つからぬ場合は戻ってくるようにな」
 惇は繰り返し、カルに言い聞かせていた。

「自分の命すら大切にできぬ者には、誰かを助けることなどできぬ」

 と。
 カルが時計を見る。探索を始めて数時間。たった数時間。されど数時間。一回目のリミットが迫っている。
 そして、一行の眼前に、無数の枝を無知のようにしならせた木々が立ちはだかった。威嚇射撃を行ったが、逃げる様子はない。完全にカルたちへと向かってきている。
 一分一秒。その時間が惜しいというのに。

(でも焦るな。僕たちの働きで、みんなの安全度が変わるんだ。僕らは僕らの役割をしっかりこなすんだ)

「捜索隊へ向かわせるな! 陣形を維持したまま前進」
「無益な殺生は避けたいところですが、いたし方ありませんね」
「了解! でもまあ、こうして警護してるとかプロフェッショナルな軍人さんみたいだな、俺達!」
「そうですねぇ」
「いやいや。僕たちが所属してるのは?」
「あ! 俺達、教導団所属だっけか」

 明るく会話しつつも、3人は連携の取れた動きで魔物へと向かっていった。
 
 仲間の道を、開くために。


* * *
 
 
 ちょうどそのころ、彼らとは別の一団が森を探索していた。

「フハハハ!
 眠りについているニルヴァーナ人とスークシュマは、我らオリュンポスがいただくっ!」

 という高笑いでもう誰だか分かった人もいるかもしれないが、彼の名前は

「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)!」

 であり、ハデスの目的は

「ククク、コールドスリープ中のニルヴァーナ人か、面白い!
 我ら秘密結社オリュンポスが、土星君や契約者たちより先に身柄を確保してくれよう!
 ニルヴァーナの技術を知る者や、スークシュマを手に入れられれば、我らの世界征服計画に有益に違いない!」

 まあ、その言葉通りなのだろう。説明がはぶけて助かる(?)。

「了解しました、ハデス様!
 ニルヴァーナの生き残りの方々を助けるため、このオリュンポスの騎士アルテミスが全力を尽くします!」

 そんなハデスに感動したような声を上げているのは、アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)。とても前向きに、そして純真にハデスの言葉を受け取るとそうなるらしい。
 アルテミスは心の底から、ニルヴァーナ人たちを救うのだと思っていた。だからこそヤル気満々でミッションに参加している。

「いいだろう、ハデスよ。
 俺もニルヴァーナ人の生き残りを探すのを手伝おう!」
 そしてもう1人……聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)が自分に任せろ、と胸を強く叩いた。
 ちなみにカリバーンもまた、正義の心に従って捜索への協力をしている。

「さあ、我が部下アルテミス、カリバーン、そして【戦闘員】たちよ!
他の者に先を越される前に、森を探索するぞ!」
「はい!」
「ああ!」

 そんなかみ合っていない3人パーティーの前に、身体が腐敗した狼が立ちふさがった。

「むっ、敵か!」
「なるほど、このゾンビたちのせいで、ニルヴァーナの人たちが脱出できないのですね!
 ならば、邪魔なモンスターは排除します! ハデス様」
「む、ゾンビか……。
 ではアルテミスよ、カリバーンの使用を許可する!
 あのゾンビどもをなぎ払うがいい!」
「はい! 一気に決めます!
 カリバーンさん、聖剣合体です!」
「聖剣武装! セイクリッド・アルテミス!!」

 2人が叫ぶと、その身が光に包まれ、収まった頃にはアルテミスが白銀の鎧をつけていた。手には剣へと姿を変えたカリバーンを持っている。

「必殺、カリバーン・スラッシュ!」

 2人の合体技が炸裂する!

 のを、ハデスは無駄に胸をそりながら見ていた。

「くくくくっその調子でさっさとゾンビを一掃するのだ。早く森を探索するためにもな」
「そうですね。ニルヴァーナの人たちを助けるために! のんびりしていられません」

 かみ合っていないのにかみ合っているように見える彼らの探索は、しかしながら準備・情報不足も相まって、同じところをぐるぐる回ることになる。

「……先ほどから、似たような景色ばかりですね」
「うむ。広大な森だからな」
「より急ぐ必要があるな」
「くくくっ我が手にかかれば、すぐ見つかるだろう」

 余談だが、この後偶然森に不時着した船により、彼らは無事に帰ることが出来たらしい。


* * *


「……ずいぶん、奇妙な鳴き声の魔物がいるところだな。なんか笑い声みたいな」
 地図から顔を上げて、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は首をかしげた。
 だがすぐに視線を戻す。殺気は感じない。害がないのならば放っておいた方がいい。時間を有効に使うべきだ。
 思いながら一歩踏み出したエヴァルトは、ぬかるんだ地面の感触に息を吐き出した。

「まったく、よくもまぁ厄介な場所に落ちたもんだ!」

 周囲は暗くじめっとしていた。今エヴァルトの近くに川があるため、余計に湿気が多いのだろうが、川を流れる水はとても綺麗とは言いがたい。
 濃い紫色のどろっとした液体からは、同じく紫の湯気のようなものが立ち上っている。飲む気はおろか、触りたくもない。

「さてと。周囲の警戒は任せてっと」
 エヴァルトは地図に書かれた破片のありかを指で辿る。ふむっと1つ頷いた後、それらを通るように円を描く。
 同心円状に散らばった可能性もあると考えたのだ。円の中心を、とんとんと叩く。
「ここか……住居の方角があっちだから」
 空を見上げ、黄色いヒヨコの姿を確認。進むべき方角を見極める。
「あっちだな――んん?」
 地図から顔を上げるとほぼ同時にピリリとした空気と警戒を促す声がした。警戒の先には、アリのような魔物が列をなしていた。
 ただ攻撃してくる様子はなく、エヴァルトは冒険者たちに手を出さぬよう言った。
「俺たちの目的はあくまで救出。敵の殲滅じゃない。それに」
 アリは何かを運んでいて、その何かは、金属に見えた。加工の形跡が見られるそれをどこかから運んできた……その方角は、エヴァルトが向かおうとしていた場所だ。
 アリたちを警戒しつつ、慎重に、かつ素早くその方向へと駆けていく。

 その先にあったのは、割れた卵のような機械。コールドスリープ装置だった。