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リアクション
第三話 パン食い競走&二人三脚!
パン食い競走(なぜかパンの部分が消されている) ルール
・各エリアに食べ物が置いてある。
・なにがあるか、というのは行くまで秘密。
・次のエリアに行くまでに完食しないといけない。持ち運びも可。食べ終わらないで次に行くと失格。
・食べるものはレースごとに違う。
・出される食べ物は、実はテーマに沿っているらしい。
「なんでパン食い競走のパンの文字が消えてるんだ……」
障害物競走に続けて参加するハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は開催種目を見て呟く。
彼の前では第一走者、先ほど、障害物競走で素晴らしい走りを見せた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が、ちょうどスタートしたところだった。
・第一エリア 食パン(一枚)
「余裕でありますよ!」
吹雪は飛び跳ねてパンを一口で口に含み、次のエリアへ。
「ふぉの程度なら余裕でありますね」
走りながら噛み砕き、飲み込む。そして、次のエリアの食材が見えてきた。
・第二エリア 食パン(一斤)
「多いでありますね!」
丸ごとだった。
「でも、この程度余裕でありますよ!」
吹雪はジャンプし、一斤のパンを一口で含む。ぶら下がったパンに食いついていて、まるで釣られた魚のようになっていた。
「ふっふっふ、ふぉのへいふぉふぁいふぃふぁふぉふぉふぁいふぇふぁふぃふぁふふぉ」
『吹雪選手、なんて言っているんでしょうか?』
『聞き取れないですネ』
会場各所に設けられたマイクから吹雪の声が聞こえたが、もごもごしていて聞き取れない。
「ふっふっふ、こんなの大したことないでありますよ!」
『言い直しましたね』
『さすがですネ。ファンサービス精神を忘れてないですヨ』
少し時間はかかったもののなんとかパンを飲み干して吹雪は走り始めた。
「さあ! 次はなんでありますか!」
そして、見えてきたのは次のエリアだ。
・第三エリア フランスパン一本
「固いでありますよ! 多いでありますよ! 食べづらいでありますよー!」
三段で吹雪は突っ込みを入れる。
「く……仕方ないであります!」
それでも吹雪はぴょいっと飛び跳ね、フランスパンにかじりつく。がりがりと音を立ててそれを噛み砕いてゆき、少しずつ飲み込んでゆく。
「あごが疲れる……」
途中パンから口を離して吹雪は呟いた。口を広げたりして伸ばし、再度パンへと向かう。
「か、完食であります……」
そして、青い顔でそう言い、ゆらゆらとゴールに向かった。
一位ではあったが、胃袋とあごにダメージを負った。
「なんとなくわかったぞ。よし!」
前のレースを見ていたハイコドもスタートする。これも過酷なレースに違いないが、やってみせると意気込む。それに、彼としては昼は弁当売りなどの手伝いをしたいがため、食事を早めに済ませたかったという考えもあった。
「昼飯だと思えば食べ過ぎなくらいがちょうどいい。いくぞ!」
・第一エリア ホットドック
いきなり腹にたまりそうなものが来たが、ハイコドはとりあえず勢いでそれをかきこむ。
それなりに長さがあって食べ終えるのに苦労したが、なんとか完食し、次のエリアへ。
・ハンバーガー
「おい」
なんだかさっきから腹にたまりそうなものばかり並ぶ。しかもデカい。
口の周りにソースがつくのを気にもせず、ハイコドはガブガブとハンバーガーにかぶりついた。
「よし、次だ……」
腹がかなり重くなったが、次のエリアへ。
・サンドイッチ
「……まあ、いいか」
なんとなくどういうコースか理解し、最後には比較的軽いものだったので安堵する。
挟まっているのはハムとチーズにきゅうりというシンプルなもの。すでに他のメニューをこなしたあとなので辛くはあったが、ハイコドはなんとか速いペースで平らげ、ゴールへと向かった。
「結構、もたれるもんだな……」
なんとか一位でゴールすると疲労で座り込む。障害物競走の疲れもあるし、なにより胃が重い。
「ハイコドくん、お疲れ」
「あ、ども、お疲れっす」
休んでいると、スタッフの一人が話しかけてきた。
「大変だったでしょ、『調理パンコース』」
「大変でしたよ……もうちょっと小さめにしてくれたら楽なんですけどね」
「ははは。まあ、前半で終えられてよかったんじゃないかな。これからもっと大変だから」
スタッフの一人は手にしているものを掲げて言った。
「……それ、レースで使うんですか?」
「そうだよ」
スタッフはラーメンを持っていた。
「よっし! 食べて食べて食べまくるわよ!」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は偶然にも同じコースだった。
スタートから、短距離走で一位を取った足で、「あたしにパンを食わせろーっ!」と突っ込んでゆく。セレアナも、彼女の後ろにぴったりとついていった。
ちなみに、このレースから食べ物は吊るされるのではなく、箱に入っている形になっているようだ。エリアも少し増えている。
セレンは細かいことは気にせず、最初の箱を開けた。
・第一エリア バターロール
「余裕!」
多少サイズは大きかったが、セレンはそれを一口で平らげる。
表情も変えぬまま、次のエリアへ。
・第二エリア クロワッサン
「……随分とこってりしているわね」
セレアナがサクサクのクロワッサンを食べながら言う。
「このくらいどうってことないわよ。お先に!」
セレアナが半分ほど食べたところで、セレンはもう次のエリアに到達していた。
「さあ、次のパンはっ!?」
そして、次のエリアの箱を開いた。
・ラーメン(とんこつ)
「パンじゃない!?」
箱を開けてまずそれに驚く。
「これじゃあまるでただの大食いレース大会じゃないの……うふ、うふふふふ」
セレンは割り箸を割って、怪しげな笑みを浮かべた。
「上等よ!」
そのままレンゲと割り箸を器用に使って、彼女はとんこつラーメンを書き込む。
「こってりしたコースね……カロリーで言えばすごい量だわ」
セレアナがラーメンに息を吹きかけながら、すでに食べ終えてスープを飲み干そうとしているセレンにそう話しかけた。
「大丈夫よ」
セレンはスープを飲み干した器を置いて、セレアナに向かって言った。
「今夜はベッドの上でセレアナを美味しくいただいて、カロリーを思いきり消費するから!」
「ぶっ……」
セレアナがラーメンを吹き出した。
ちなみに。会場の至るところにはマイクが設置されており、時折漏れる選手の声を拾っていた。
このセレンの発言は、見事に会場に響き渡っていた。
「「う、うおおおおおっ!!!!」」
会場の一部から、怒号のような声が響く。
「あ、ヤベ」
セレンはぺろりと舌を出して言った。
「もう少しデリケートなことが言えなかったのっ!?」
セレアナがそのように突っ込んだ。
「まあまあ、いいじゃない、減るもんじゃないし」
「減るわよ! いろんなものが! 人として大事なものが!」
セレアナは全身が文字通り真っ赤だ。恥ずかしさのあまり、宇宙の果てへ逃げ出したいと思ったとか思わなかったとか。
「いいじゃない、リップサービスってやつよ♪」
セレンは笑いながら走っていく。
「〜〜〜〜っ!」
セレアナは真っ赤な顔でラーメンを再びすすり始めた。
「セレンさん! お願いします! おいらたちも参加させてください!」
「お、オレは見てるだけでいいです!」
「私セレンさんとセレアナさんに挟まれてみたい!」
「あははは、ダメよー、夜は二人だけのものなんだから」
観客の声援(?)に、答えながら次のエリアへ。
「っしゃー! なんでも来なさい!」
彼女の闘争本能に火が付いたのか、はたまたヤケなのか。
負けん気と食欲と性欲に駆られるまま、彼女は食って食いまくって華麗に爽やかに優雅に可憐に妖艶に繊細に大胆にゴールを決めた。
セレアナの順位は振るわなかったが、セレンは見事にトップだった。
「えへへ、やっとボクの番だね!」
リゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)は、にぱっと笑顔を浮かべてそう言った。
「リゼルヴィアちゃん、頑張って!」
「うん! ユリナおねーちゃん、ボク、頑張ってくるよ!」
黒崎 ユリナ(くろさき・ゆりな)の声援を受け、リゼルヴィアは手を振った。
スタートから飛び出し、最初のエリアへ。
「頑張ってジャンプしなくていいのは、助かったかも!」
背の低い彼女はスタート直前にぴょんぴょんと飛び跳ねる練習をしていたが、コース自体が変わったため飛ぶ必要がなくなり、不利な要素は減った。
「最初はなにかなーっ!」
そして、嬉しそうに最初の箱を開ける。
・アンパン
「うん! 甘くて美味しいよ!」
最初は実に無難なメニューだった。リゼルヴィアも耳と尻尾をピコピコと動かしながら、軽く完食する。
メニューもメニューだからか周りも早い。リゼルヴィアは少しだけ慌てて次のエリアへ向かう。
「次はなーんだ?」
そして箱を開けると、
・メロンパン
「うん、甘くてとっても美味しいよ!」
次のまあまあ普通のメニュー。表面もカリカリ、中はふっくら。リゼルヴィアはこれまた嬉しそうに、それを平らげた。
「竜斗さん、このコースって」
「甘いパンのコースかなにかかな。簡単そうだ」
応援をしているユリナと黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)がそんなことを話す。リゼルヴィアは少し急いでメロンパンを食べ終え、次のエリアへ。
・いちごパフェ
「甘い物コースだな」
「甘い物コースですね」
竜斗とユリナが同時に納得する。
「うーん! 美味しいよぉ!」
リゼルヴィアだけでなく、周りも余裕の表情でパフェを頬張っている。甘党にはたまらないコースだ。
「今までと比べると難易度の低いコースなんじゃないか?」
「そうですね。これくらいなら私も行けそうです」
なんだか観客席の視線も温かいものに変わった。「簡単すぎるだろ!」というヤジも飛ぶ。
「でもでも、ちょっとアイスが多いよ」
食べながら、リゼルヴィアは呟いた。そこそこ大きなパフェで、バニラアイスがしっかりと入っている。選手たちも多少苦戦していた。
「冷たいもの食べると、頭きーんってなるもんな」
「そうですね。早く食べるのは大変そうです」
二人もそう言う。数人の選手が食べ終え、最後のエリアへ向かう。リゼルヴィアも食べ終え、次へと向かった。
「最後は、なーんだ?」
そして、最後の箱を開けた。
・かき氷
「ああ……」
「な、なるほど……」
観客席の視線も変わった。
「ううー、頭がきーんってするよぉ」
極力急いでかき氷をかきこむが、ほとんどの選手が同じ理由で苦戦していた。
結局このコースはラストで多くの選手が時間を取られ、最後はグダグダになった。
「お疲れ様です」
「えへへ、楽しかったよ!」
リゼルヴィアは順位こそ下のほうだったが、十分楽しめたらしい。
「……でも、冷たいものはしばらくいいや」
「はいはい」
息を吐いて言うリゼルヴィアの頭を、ユリナは優しく撫でた。
「よし……俺の出番だな!」
リョージュ・ムテン(りょーじゅ・むてん)がスタート地点に立ち、組んでいた腕を下ろした。
「フハハハ! 全てを喰らい尽くしてやろう!」
ちなみにドクター・ハデス(どくたー・はです)も同じコースだ。
「リョージュくーん、頑張ってくださーい!」
白石 忍(しろいし・しのぶ)が少し顔を赤くして応援している。
普段は引っ込み思案で人と話すのが苦手なくせ、こういうことにはマメだ。
全く、とリョージュは息を吐いて、走り出した。
とにかく、ここ数試合を見ていて傾向はつかめた。問題はない。
なんでも来やがれ、とリョージュは勢いよく最初の箱を開けた。
・カレーパン
「結構辛いな……」
中身がスパイシーで、口の中が結構ヒリヒリしてくる。もしかして、辛いもののコースか? とリョージュは考えながらも、早めに平らげた。
「く、辛いな……舌が麻痺してくるぞ」
「ご主人様が危ない!」
ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)が立ち上がった。【戦闘員】たちに指示を出し、コースへと向かう。
「よし、次はなんだ!」
リョージュが次の箱を開ける。
・カレーライス
「カレーコースか……」
スプーンを手に取り急いでかきこむ。これも辛い。口の中が麻痺してきている。それでもリョージュは我慢しつつ、極力急いで食べ続けた。
「ご主人様……じゃなかったハデス博士! ヨーグルトを用意しました! これで辛いのも楽になります!」
「おお! でかしたぞヘスティア!」
ハデスはヘスティアからカップのヨーグルトを受け取り、カレーライスを食べながら口に含む。
『あれはルール上いいのでしょうか?』
『コース上のものを全部食べればいいから、それを満たせば問題ないですヨ』
実況席からそんな声も上がっている。
「ずりぃな……ま、とりあえず先に行くぜ!」
リョージュは次の箱のもとへ。もしかしたら……と嫌な予感を覚えながら、箱を開けた。
・カレーうどん
「予想通りだな!」
リョージュは割り箸を割って叫んだ。
「リョージュくん……」
大型モニターに映る彼の姿を見て、白石忍がハンカチを握り締めた。彼の額には汗が光っている。
「ハデス博士! キンキンに冷えたスポーツドリンクです! これで口の中が少し楽になります!」
「素晴らしいぞヘスティア! フハハハ、俺の勝ちだな!」
そう言ってハデスはスポーツドリンクを片手にうどんに手をつけ始める。が、他の選手はもう食べ終える者もいるくらいだ。
「よし……ラスト!」
リョージュもうどんを食べ終え最後のエリアへ。
・カレー&ナン
「カレー飽きたぞ……」
文句を言いながらもナンにカレーをつけて勢いよく口へ。もう口の中の感覚はほとんどなかった。
自分でもわかるくらい熱い息を吐きながら、ナンとカレーを平らげる。そうしてゴールへと向かうと、彼が見事に一番だった。
「リョージュくん、大丈夫?」
忍がハンカチを手に近づいてくる。少し背伸びして汗を拭こうとすると、リョージュは少し慌てて飛び引いた。
「こ、このくらいなんでもねーって!」
ちょっとだけ痺れの残る唇を動かしてそう口にする。忍は「そう……ですか?」と首を傾げて言った。まだハンカチを掲げていたので、リョージュはそれを奪い取って汗を拭いた。
「しばらく、カレーは見たくもねえや」
「ふふ、そうでしょうね」
遠くを見て言うリョージュを見て、忍は笑った。
「ハデス博士! バナナを用意しました! これで辛いのもだいぶマシになります!」
「よしいいぞヘスティア! これで口の中も大丈夫だ!」
他の選手がゴールしていく中で、ハデスはまだナンを食べていた。
「牛乳です! さあ、これで一気に!」
「ごくごくごく……って、最下位確定ではないかーっ!」
『食べるものが増えている分、そうなるでしょうネ』
『……なるほどー』
キャンディスの解説に、実況も思わず納得した。
ハデスは口の中がある程度マシとはいえ、最下位でゴールした。
二人三脚 ルール
・距離は50M。
・チームは男女混合。
次の種目の二人三脚は、男女混合だというルールにクレームがついていた。
「男女混合!? おい、どうしろってんだよ!」
客席のとある一角にある男だけの集団が、主催側に言い寄っている。
「男女混合かあ。残念ね」
セレアナと一緒に出るつもりだったセレンも、ルールを見て少しだけ肩を落とす。
「そうですね……女性のみでもやるべきだと思いますわ」
「そうよね。別に、男女のみに絞る必要なないと思うけど」
アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)も言う。彼女たちもエントリーしようとしていたが、ルールを見てやめた。
「や、ほら、性別一緒だと難易度下がるからさ。参加者とかの兼ね合いで、今回はそれだけってことで」
スタッフの一員であるハイコドも言い寄る男たちにそういってなだめる。
「違えよ! カップルでくんずほぐれつラブいちゃ走るのを俺たちに見せつけんのかバーロー!」
「オレたちは泣く子も黙る『ザ・モテない組』だぜ!? オレたちに対する皮肉かっ!?」
「試合に出たいんですよ! 女の子を誘うのはどうしたらいいんですかねえっ!?」
「あー、いや、それは俺からはなんとも言えないよ……」
男たちの涙を流しながらの主張にハイコドは笑いながら答えた。
「お嬢さん、ときに、二人三脚という種目を知っておりますか?」
「実は俺さっき100M走で三位だった。自信があるんだよね。チラっ」
女性を誘おうと動く男たちも現れている。
「……でもま、ああいう連中とは走りたくないわね」
「同感ですわ」
セレンとアデリーヌが男たちを見て言う。
そんな感じで即席のカップルなども生まれている中、二人三脚は始まった。
「スタートが肝心だな……歌菜、最初っから飛ばすぞ」
「うん、しっかりとついていくからね!」
最初の組にエントリーしているのは遠野 歌菜(とおの・かな)、月崎 羽純(つきざき・はすみ)の夫婦コンビだ。
羽純は歌菜の肩に手を置き、歌菜は羽純の腰に手を回す。
「行くぞ」
「いいよ!」
そして、号砲。
「右、左、右、左!」
最初の数歩は羽純が音頭を取る。歌菜は彼の言うとおりに足を動かし、トップスピードに近くなるとあとは呼吸に集中する。
練習時から行っていた方法だ。羽純は口にしているのと逆の足を、歌菜は言うとおりに足を出す。
普段から息もぴったりの二人は、危なげないところもなにもなく、スタートからダントツの走りでゴールした。
「へへん、見たかっ!」
練習通り。完璧な走りだ。歌菜が嬉しさのあまり、飛び跳ねる。
「バカっ!」
「ほわぁ」
が、まだ足は結ばれている。飛び跳ねた勢いで倒れ込みそうになった歌菜の体を、羽純が背に手を回して支えた。
「へへ、ごめーん……」
「喜ぶのは紐をほどいてからな」
お姫様抱っこに近い形になって歌菜は少しだけ心拍数が上がる。走ったあとだからか、いつも以上に心臓の音が響く。
「……この体勢だと紐を解けないんだが」
「そうだねー」
それでも、歌菜はどけない。にしし、とちょっと怪しげな笑みを浮かべる。羽純は少し困った顔を浮かべ、歌菜はその顔をちょん、っとつついた。
「くそう……見せつけやがって、リア充め!」
「羨ましい! 恨めしい! 彼女欲しい!」
「爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ……」
『モテない組』の男たちのあいだからは呪詛の声が響いていた。
「ていうか、なんで俺たちが二人三脚なんだよ……」
「ご、ごめんなさい、間違えて……」
レースの近くで練習しているのはリョージュ・ムテン(りょーじゅ・むてん)と白石 忍(しろいし・しのぶ)だ。忍はどうやら○をつけるところを間違え、二人三脚にエントリーしていたらしい。
棄権すればいいとも思ったのだが、せっかくだから、とリョージュと共に出ることにした。
「ま、さっきの早い人を見てなんとなくわかった。最初の何歩かさえ合えば、あとは行ける」
「そうみたいですね」
さっきダントツな走りを見せていた歌菜たちを見て、二人はそのように結論づける。
「よし、じゃあいいか、まずは一歩目だ」
「はい!」
「せーの、右」
二人は同時に右足を出した。リョージュは足を出したが、忍はリョージュの足に引っかかり転びそうになる。
「わっ、わっ!」
「おい、大丈夫か!」
転びそうになる彼女の腕を引く。
「ご、ごめんなさい!」
「……いや、今のはオレが悪ぃわ。そっか、片方は逆にしないといけないんだよな」
ふう、と息を吐く。
「忍、てめえは言うとおりに足出せ。いいか?」
「はいっ」
「よし……せーの、右」
ゆっくりと左足を前へ。忍は右足を出し、二人の体はわずかに前に進んだ。
「左、右、左、右……よし、順調だな」
「こ、こんな遅くて大丈夫でしょうか?」
「あー、」
スピードは遅い。リョージュが速度をあげると、忍がついていけないのか引っかかりそうになる。
「しゃーないな。慣れるまでこうやって走るぞ」
「わかりました。頑張ります!」
練習エリアを、二人はゆっくりとしたペースで回る。だんだん息が合ってくると、速度も上がってきた。
「手とり足取りだぞ……リア充め!」
「卑怯な! 卑劣な! 卑猥なーっ!」
「爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ……」
相変わらず、『モテない組』の男たちからは呪詛の声が響いていた。
レースではそれなりに検討はしたが、順位は下から数えてすぐだった。忍は落ち込んでいたが、リョージュはこんなもんだろ、と忍の頭を軽く小突いた。
「竜斗さん、もう少し速くても大丈夫です」
「そっか? んじゃあ、ちょっとだけな」
黒崎 ユリナ(くろさき・ゆりな)、黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)もエントリーしていた。練習での息は合っていたのだが、スピードはそれほど出ない。どうも、竜斗がユリナに合わせすぎている感じだ。
「いち、にー、さん、し……」
「あ、あの、竜斗さんっ」
くいくい、と袖を引いて言う。
「もっと速くても平気ですよっ」
「でもこれ以上速くすると、さすがに……」
「平気です。大丈夫です。合わせます」
ユリナが言うので、試しにスピードを上げる。その分だけ歩幅も大きくなり、ユリナはついて行くだけ精一杯になった。
「ひあっ……」
「ほら!」
転びそうになるユリナの背中に手を回す。少し歩幅を狭めてスピードを落としながら、ゆっくりと止まる。
「ごめんなさい……でも、少しコツがわかりました。もう一回やりましょう!」
「そうか? ……わかった。もうちょっと練習な」
「はい、頑張ります!」
言って、ユリナはぐ、っと手を握った。
「仲良しこよしってか……リア充!」
「悔しい! 虚しい! さみしい!」
「爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ……」
『モテない組』の男たちの呪詛は続いていた。
速く走る練習はそれなりにうまくいき、順位は二位。大健闘だった。
「行くぞ! ヘスティア!」
「かしこまりました、ご主人様…じゃなかったハデス博士!」
例によってドクター・ハデス(どくたー・はです)も参加。ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)と共にエントリーしていた。が、
「きゅう……」
「だ、ダメだ……足が絡まっているぞ……」
「いいからどいてください〜」
息は合わず、転んで倒れて折り重なっていた。
「女と一緒に倒れこむなんて……リア充ーっ!!」
「呪ってやる! 祟ってやる! 死んでやるーっ!」
「爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ……」
『モテない組』の男たちは二人三脚が終わるまで、ずっとそう言っていた。
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