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第六話 最終種目!




 それからも、さまざまな種目が行われた。
「よっと!」
 走り高跳びで見事な跳躍を見せたのは綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)だ。
『フォーム、高さ、着地、全てにおいて完璧ですネ』
 キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)も絶賛する。
 近くでフラッシュが焚かれたと思って振り返ると、そこには例のバーストエロスと、その首根っこを掴むアデリーヌがいた。
「懲りないですね」
 カメラを取り上げる。
「……とりあえず行きましょう。教育的指導をしてあげますわ」
「は、離せっ」
 アデリーヌはバーストエロスを連れてどこかへ向かった。さゆみは曖昧に笑った。



「とう!」
 走り幅跳びではセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が見事なジャンプを見せる。
『踏切の位置もタイミングも素晴らしいですネ』
 とキャンディス。エロ発言で増えたファンの声援に、セレンは大きく手を振って答えた。


「それ!」
 棒高跳びでは桜葉 忍(さくらば・しのぶ)がすごい記録を出す。
「お父さんすごーい!」
「やるではないか!」
 桜葉 春香(さくらば・はるか)織田 信長(おだ・のぶなが)も絶賛だ。



 やり投げはなぜか的に当てるゲームに。「こういう種目じゃないだろ……」と羽純は息を吐くが、それよりも気になるのは、
「羽純くんのバカぁ!」
 投げる際にそうやって叫んでいる歌菜だ。それでいて見事に何十Mと離れた的に当ててるからなおタチが悪い。
 どうしたものか、と羽純は頭を抱えた。



「ほぁーっ!」
『素晴らしい記録です! 世界記録まであと一歩のところまで迫ってきました!』
『ミスター・マッチョマンですネ。彼は今、陸上界で最も注目されている選手なのですヨ』
 ハンマー投げではボディービルダーのような男が大活躍している。
 キャンディスも知っているのか、うんうんと頷きながら彼のことを話す。
『ミーは、彼が小さい頃から注目してるのネ。大木を投げて遊んでいたとか、小さい頃からすごかったヨ!』
『それはすごいですね……』
 本当の話かどうかは知らないが、キャンディスの話す逸話にMCも驚く。
「ふんぬーっ!」
 ミスター・マッチョマン、砲丸投げにも参加していた。砲丸は宙を舞い、風に乗って飛んで行き、あらぬ方向へと飛んでいた。
「ゴバっ」
 そしてたまたま歩いていた風馬 弾(ふうま・だん)のお尻にぶつかった。
「うわあ……危ないわねえ」
「僕に向けて言わないで……そのミスターなんちゃらに言ってよ」
 うつ伏せに倒れ込んだ弾の横でエイカはしゃがむ。砲丸がぶつかったと思われる部分、すなわちお尻を、エイカはさすさすとさすった。
「弾……意外とお尻可愛いわね」
「そんなこと言われても嬉しくもなんともないんだけど」
「やだ……なにかに目覚めてしまいそう」
「目覚めなくていいよ!? なんか今日のエイカ怖いからもうなにも言わないで!」
 目をトロンとさせてエイカは弾のお尻をさすり続けた。
 弾の視界の隅に、「出番だぜひゃっはー」と飛び出てくる九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)の姿が見えた。まだまだいろいろと大変そうだった。




『さあ……大変盛り上がりを見せた今回の運動会も、ついに、最終種目です!』

 MCが叫び、観客席から声援が飛ぶ。

『そして、今回、秋の大運動会の最終種目は、これだーっ!』

 大型モニターにスタジアムの様子が映し出される。トラックと、そしてスタジアム中央の芝生地帯もフルに使った最終種目は、

『障害物リレーです!』

 ただのリレーではなく、障害物競走と並行した、障害物を乗り越えてバトンをつなぐレースだった。

 大体の一人辺りの走る距離は100M弱と少ないが、その途中に障害物競走と同じで、登ったりくぐったり渡ったりするものが溢れている。

『解説のキャンディスさん、このコース、どう見ますか?』
『難しいですネ。その人の得意な分野を生かせるか、という運も絡んできますネ』
 キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)はコースを眺めて口にした。
『さあ、最終種目はまもなくスタートします! 参加する選手は、それぞれの控え場所に向かってください!』
 MCが叫び、参加する選手たちはコースへ。
 最後の戦いが、幕を開けようとしていた。



 障害物リレー

・一人辺りの走る距離は100M弱

・障害物はランダム。場所によって違う。

・第一走者、最終走者のコースのみ障害物はない。

・スキルの使用禁止



「スキルはダメか!」
 おお、とどよめきが起こる。
「ふふん、余裕でありますよ」
 それを見ても笑みを浮かべているのは障害物競走で総合優勝の葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だ。彼女も紅組のメンバーとして、ちょうど障害の多そうな中央部に控えている。

『さあ、それぞれ選手の準備が出来たようですね!』

 スタジアムは静寂に包まれた。誰かが息を飲む声が、あたりに響いた。

『それでは、最終種目、障害物リレー!』

 参加者たちの顔も険しい顔に。最後のレースに、最大限の集中を図る。

『スタートです!』


『オンユアマーク』

 MCが叫び、スターターがピストルを構える。第一走者がスタートのブロックに足をかけた。

『セット』

 そして、前を見据える。バトンを手にした腕に力を込める。
 行くわよ……と、誰かの声が響いた。


 破裂音。レースが始まった。静寂に包まれていたスタジアムが、一気に盛り上がる。

 紅組第一走者は短距離走で上位の成績を残した白波 理沙(しらなみ・りさ)、白組は綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)だ。
 二人はスタートから片方が前に出れば片方がそれを抜きという、激しいデッド・ヒートを繰り広げる。
「理沙ー! いっけーっ!」
「理沙しゃーん!」
 愛海 華恋(あいかい・かれん)チョコ・クリス(ちょこ・くりす)の声援が響く。
「さゆみさーん、頑張って!」
 白組も風馬 弾(ふうま・だん)など、声援を送っていた。
「どっちも頑張れ!」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)も、声を出す。紅組だが、顔見知りのさゆみも応援する。どちらが勝つかも気になるが、そんな、奇妙な輪も出来上がっていた。
「ふっ……」
 二人は笑みを浮かべ、互いを見た。
 負けられない。負けたくない。その、二人が背負った全く同じ気持ちが、二人を、さらに加速させた。
「チェルシー!」
「アデリーヌ!」
 そして、第二走者へ。紅組はチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)、白組はアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)だ。
 第二走者からは障害物が現れる。最初は一般的なハードルだけという簡易なものだ。
「チェルシー! ファイト!」
 遠野 歌菜(とおの・かな)の声が響く。
「アデリーヌも、チェルシーも! 頑張れ!」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は両方に声を上げた。
「く……」
 アデリーヌは飛び越えた際、少しだけハードルに足をかけた。少しだけ顔が歪む。
「アデリーヌ!」
 さゆみが声をかけるが、口元が「大丈夫ですわ」と動いた。
 チェルシーも確実にハードルを超えてゆくが、やはり、数台足に引っ掛けてしまう。
「チェルシー! 負けないでー!」
「チェルしゃんー!」
 それでも華恋の声援と、チョコの声が背中を押す。
「負けないですわ!」
 少しペースの遅れたアデリーヌの背中に、ぴったりとついてゆく。結局、離されないまま二人は次へとバトンを繋いだ。


「ふふん、出番でありますよ!」
 それから数人を経て、バトンを受け取った吹雪の走りは凄まじいものだった。
 山を飛び越え池を渡り、最後に空中はしごをまるで重力に逆らっているかのように三手で飛び越え、白組に大きな差を付ける。
「陽ちん、頼んだでありますよ!」
「よっしゃ!」
 バトンを受け継いだ酒杜 陽一(さかもり・よういち)も安定した走りを見せ、転がってくるトラップを飛んで避けて踏み越えて、と、スムーズに進んでゆく。
「羽純さん!」
「ああ」
 バトンは月崎 羽純(つきざき・はすみ)に。空中から落ちてくるトラップをひと目で見抜いて抜けてゆく。
「羽純くーん!」
 声援に、顔を向ける。歌菜と目が合った。
「頑張れー!」
 羽純は笑みを向け、そして、前を向く。そのままスピードを落とさずに次へ。



 白組も、中盤で追い上げを見せた。網をくぐるエリアでは黒崎 ユリナ(くろさき・ゆりな)が予想外の健闘を見せ、速いペースで次へ。
「竜斗さん!」
「おう!」
 次の走者、黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)も安定した走りとバランスを見せ、平均台の上を危なげなく突破。
「リゼルヴィア!」
「任せて!」
 次の走者、リゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)はまさかの四本足走法で意外な速さを見せた。急斜面ももろともせず登りきり、次へ。
「リョージュお兄ちゃん! お願い」
「おうよ! 任せろって」
 バトンを受け取ったリョージュ・ムテン(りょーじゅ・むてん)も安定した走りだ。ゲリラライブでファンが増えたのか、声援が大きく響く。
「リョージュくーん!」
 そんな大きな声援の中でもひときわ響いてくる白石 忍(しろいし・しのぶ)の声。無理しやがって、とリョージュは考えながらも、鉄パイプにぶらさがって前へと進む。
「頑張ってー!」
 白石忍に手を振り、次の走者へ。
 白組が、ほんのわずかにリードした。


「なんで俺が白組なのだ」
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)は白組にいた。今日何度目かの言葉を口にする。
「一人で全部走るのと、白組で走るの、どっちがいい?」
「すいません白でいいです」
 ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)が言うとハデスは素直に頭を下げる。
「ふ……だがやるからには負けぬ! 現れよ! 【戦闘員】たちよ!」
「フィーっ!」
 現れたのは数人の黒ずくめの戦闘員だった。白組の各所に散らばる。
「フハハハハ! 戦闘員の力、侮るなよ!」
「大丈夫なのか、あれ……」
 ハイコドは心配そうに【戦闘員】を見つめる。お世辞にも早そうには思えなかった。
「フィーッ!」
 そんな戦闘員がバトンをもらう。バトンを受け、二度目のモノが転がるエリアに差し掛かった。
「い、意外と早い!?」
 観客席から声が響く。【戦闘員】は大健闘だった。障害物に引っかからず、かなりのスピードで障害を抜ける。
「あ、あううう」
 紅組は桜葉 春香(さくらば・はるか)が同じエリアにいた。
「春香ちゃん! 俺たちがついているぜ!」
「心配いらない! お兄ちゃんたちは春香ちゃんの味方だ!」
「うおー! 野郎ども、声を上げろー!」
 彼女のファンとなった人たちからも大きな声援が上がる。春香コールの中、春香は最後の障害を乗り越え、次にバトンを託した。
「お父さん!」
「ああ!」
 春香からバトンを受け取り、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は全力で走る。
「春香のためにも、頑張らないとな!」
 春香コールがお父さんコールに変わっていたのは気にせず、桜葉忍は全力で駆け抜ける。
 そのスピードは早く、大差がつけられていた白組との差を、一気に縮めるほどであった。
「く……なにをやっている戦闘員! さあ、全力を出し切るのだ!」
「ヒーッ!」
 戦闘員は叫んでスピードを上げる。障害物が、コースからなくなった。
 次はアンカーだ。白組はハデス。そして、紅組は……織田 信長(おだ・のぶなが)だ。


「フハハハハ! この勝負、もらった!」
 ハデスが最後の戦闘員からバトンを受け、走り出す。
 白組が(密かに)練った作戦は成功した。アンカーまでに、差を広げに広げる。アンカーが元はといえば黒組のハデスのために考えた策だ。
 差は30Mほど。このくらいの差があれば、いくら彼でも勝てる……見ている者たちは、皆そう思った。
「ふん、この程度の差は、」
「信長!」
 桜葉忍からバトンを受け取った信長は、一瞬身を低く落とすと、
「造作もないわ!」
 疾風の如く、とはこういうことを言うのか。まるで突風が吹き荒れたように、飛び出した。
「く……足が言うことをきかん!」
 対してハデスは連戦の披露が残っている。差は、もう、ほとんどなくなっている。
「だがこの程度で……負けるかーっ!」
 が、すぐ近くまで来ていた信長を確認し、ハデスは最後の力を振り絞った。必死に足を前に動かす。信長を並ぶ。それから、彼は離されなかった。
「ハデス!」
「ハデス博士!」
 セレアナ、ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)の声が響く。
「信長さーん!」
「いけー! 信長ー!」
 竜斗、リュージュが、声を張り上げた。

 そして……彼らはほぼ同時に、ゴールテープを切った。
 目視ではわからなかった。全員の視線が、大型モニターに向けられる。
「どっちだ!?」
「どっちが勝った!?」
 至るところから声が漏れる。
 ゴールに設置してあった機械がその結果を、大画面に表示した。



『紅だ! 紅組の勝利!』



 MCの声が、大きな歓声と、ため息を生んだ。

「か、かなわなかった……のか……」
 ハデスは座り込む。
「かっかっかっか。しかし、よくもまあ私に追いすがったものじゃな」
 信長は手を伸ばし、ハデスの手を取る。ハデスを無理やり立ち上がらせると、



「皆のもの、称えよ! ドクター・ハデス、見事に全種目を制覇したぞ!」


 スタジアム中に響く声でそう叫んだ。
「頑張ったじゃねーか」
「面白かったぜ!」
「ハデス様ステキー!」
 ハデスは負けた。最後にかわされて、負けた。
 それでも観客席からは、絶え間無い彼への賞賛の言葉が響いていた。
「よくやったぜドクターなんちゃら! お前、男の中の男だ!」
 先ほど障害物競走のときにヤジを飛ばしていた男も、親指を立ててそう言った。
『全種目制覇、おめでとうございますなのネ』
 キャンディスも手を叩いて、そう口にする。
「ふ……フハハハハ!」
 ハデスはいつものように大声で笑って観客席に手を振った。そして、その後、気を失った。