リアクション
【楽しい夏の思い出】 ◆ ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)、フィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)夫婦は、バカンス中だ。 結婚して一年、七月になってやっと休暇の取れたジェイコブとフィリシア。 二人はちょうどいいタイミングで懸賞の旅行券を当て、パラミタ内海を訪れていた。 (……) サーフパンツにパーカー、サングラスという格好のジェイコブ。 ジェイコブは、ビーチパラソルの下で冷たい飲み物を飲みながら、波打ち際で波と戯れるフィリシアを見つめていた。 水着姿のフィリシアは寄せる波を救っては零し、水浴びをしている。 夏の太陽の下ではしゃぐフィリシアを、改めてジェイコブは見た。 出るところはきっちり出ていて、締まるべきところはキュッと締まっている。 そんなフィリシアのスタイルの良さをじっくりと観察する、ジェイコブのむっつりスケベな視線を、サングラスが隠している。 と、フィリシアが突然、ジェイコブの元に駆け寄ってきた。 「ね、一緒に遊びましょうよ」 フィリシアはジェイコブの腕を引っ張り、波打ち際へと連れて行こうとする。 「おっ、おい」 ジェイコブはフィリシアに導かれるままに、波打ち際へと引っ張り込まれた。 (さ……さっきの視線に勘付かれたのか?) 何となく気恥ずかしくなったジェイコブは、それを誤魔化すように波を掌に掬い、フィリシアにかけた。 「きゃっ! ……ふふ」 フィリシアは嬉しそうに水を掬い、ジェイコブに水を掛け返す。 ガタイの良いジェイコブと、スタイルの良いフィリシアは自然と目立つ。 それ以上に、心底楽しそうに水を掛け合う二人の幸せそうな空気が、周囲にも自然と広がっていた。 「それっ!」 びしょ濡れになるのも構わず、はしゃぎ回るジェイコブとフィリシア。 そうこうするうちに、もつれ合って波打ち際に倒れこんだ。 「……ふふっ」 フィリシアが思わず笑い、つられてジェイコブも笑い出した。 お互いの顔を見て、楽しそうに笑う二人。どちらともなく手を繋ぎ、ビーチパラソルの元へと戻る。 (久しぶりに、柄にもなくはしゃいでしまったな) そう思っているジェイコブの手を取って、フィリシアがそっと微笑む。 「来年の夏は、私とあなたと……息子か娘と一緒に過ごしてるはずですわ」 ジェイコブは一瞬、何を言われたのか分からないように固まり、次の瞬間目を丸くした。 「お、おい、それは本当か!!」 フィリシアは微笑みながら、少しだけ視線を伏せた。 「二ヶ月ですって……」 「信じられん……俺が父親になるのか!?」 ジェイコブは突然の報告に驚きながらも……次第に、幸せが湧き上がってくるのを感じた。 そしてジェイコブは、何も言わずにフィリシアをそっと抱き締めたのだった。 ◆ 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)とアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は、アイドルと学生としての超多忙な生活の中、結婚後初の休暇を過ごしにパラミタ内海にやってきていた。 さゆみたちにとっては、これが新婚旅行でもある。 現役アイドル「シニフィアン・メイデン」ではなく、「綾原さゆみ」と「アデリーヌ・シャントルイユ」という個人として、バカンスを楽しもうとしていた。 「いい日差しね」 「本当……波も心地いいですわ」 髪を下ろし軽く髪型を変えてイメチェンした、水着姿のさゆみとアデリーヌ。印象がガラリと変わるため、二人がアイドルだと気付く人はそう多くないだろう。 二人は周囲に多少空間のある砂浜の上で、ピタリと足を止めた。 「さあ、いくわよ」 さゆみはアデリーヌに、水鉄砲を手渡した。 二人にとっての海での定番の遊び……水鉄砲バトルの始まりだ。 「アディ……今年こそ私の勝ちなんだから!」 「あら、勝負は常に流動的なものですわよ?」 水鉄砲を手に、さゆみとアデリーヌは背中合わせになった。 一歩、二歩、三歩……十歩離れたところで、二人はぴたりと動きを止めた。 数秒、時間が止まったかに感じられた。 どちらが先に動いたか。それもわからない。 振り向きざま、互いに向けた水の銃撃戦が始まった。 「はっ!」 さゆみの行動パターンを読み、先読みした未来位置に見越し射撃を行うアデリーヌ。 そんなアデリーヌの攻撃をすれすれでかわしながら、さゆみはアデリーヌの攻撃の隙を狙い、水鉄砲を叩き込む。 「やっぱり……上達してるわね!」 「今年こそは勝ちますわよ!」 互いの攻撃は、良い位置に入るもののなかなか当たらない。 アデリーヌはさゆみの攻撃をスレスレで交わしながらも、次の動きを読む。放つ。 さゆみとアデリーヌの目には、今、お互いしか映っていない。 激しくも優雅な戦いを魅せる二人の殺陣のような動き。 いつの間にか、周囲には観客が集まってきていた。 「そこ!」 水鉄砲の水が尽きる頃。さゆみとアデリーヌは一気に猛攻をかけた。 ……相打ちだ。 「今年も相打ちでしたわね」 程よい運動を終えて、少し悔しそうに、けれど満足げな表情を浮かべるアデリーヌ。 さゆみとアデリーヌは、お互いだけを見ていられるこの時間が、好きだ。 「……なあ、もしかしてあの二人って……」 さゆみは、二人の正体に気付いたらしい観客の一人を見て、イタズラっぽく微笑んだ。 「シッ」 人差し指を唇に添え、微笑みを見せたままさゆみはアデリーヌと共に砂浜を駆けていったのだった。 |
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