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王子様と海と私

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王子様と海と私

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【リヴァイアサンです、食材じゃないです】

「っと、酒の肴が切れちまったな」
「かなり用意したんだがなぁ……どーすっかねぇ、酒だけあんだよなー」
 良い感じにお酒の入っている朝霧 垂(あさぎり・しづり)紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、焼く物のなくなった網を見つめて悩んでいた。
 垂は唯斗とエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)と共に、浜辺でバーベキューをしている。
「いや、垂も唯斗もどんだけ喰うのだ……? ゆうに六人前は用意したというのに……」
 エクスは困惑気味である。
「……ん? なんだ? 大海蛇か?」
 垂が、海にいるリヴァイアサンに気付いた。
「どうやら、タコもいるな」
「丁度良い。紫月、アレを焼いて食おうぜ!」
「いやぁ、運が良い」
 唯斗は肩ならしをして、エクスの方を振り返った。
「エクス、料理の用意しといてくれ。サクッと狩ってくるわー」
「おうおう、行ってこいー。こっちで仕込みはしておいてやるからのー」
 垂と唯斗はリヴァイアサンの近くまで駆け寄った。
「んじゃ、垂一発ぶっ飛ばしちゃってくれ。一気に縛り上げるからよー。……ん? んー?」
 唯斗が、リヴァイアサンを見上げた時に、人影に気付いた。
「あっれ? 誰か頭に乗ってる?」
「なんであんなところに人が居るんだよ……紫月、あの女、邪魔だからお前に任せたっ!」
 垂はたいして気にもとめず、リヴァイアサンを全力で殴りつけた。
「海で戦って食材を得るだなんて、昔を思い出しちまったぜ」
 ところで、今リヴァイアサンを食べようとしているのは唯斗と垂だけではない。
「今夜のごはんが決定したではありませんか! 夏はリヴァイアサンが旬と聞きました。美味しくいただきましょう!」
 意気込んでいるのは、枝々咲 色花(ししざき・しきか)だ。
「こうしてはいられません。一刻も早く私達がリヴァイアサンを狩らなければなりません」
(……色花の奴、また暴走しやがったな)
 八草 唐(やぐさ・から)は色花の言葉を半分聞き流しながら、
「行きましょう、唐! 邪魔者は排除です! 全員、滅しなさい! 私達が今夜のごはんを手にするのは私達です……!」
「あの上にヴァレリアとかいう奴が乗ってるみたいだが、いいのかね……。まぁ、俺には知った事じゃないけどな……ん?」
 周囲の人のざわめきが、唐の耳に入って来たのだ。
「何? ヴァレリアっていうのはどこかの姫なのか?」
 唐はニヤリ、と笑った。
(待てよ、ここで俺があのヴァレリアってのを助ければ……礼金として、金を相当得られるんじゃねぇか?)
 ヴァレリアを助け出せば、好き勝手しながら生きていける。
 そう確信した唐は、ドサクサに紛れてヴァレリアを救い出してやろうと決意する。
「全ては夢の為……待ってろよ! ヴァレリア!」
「塩焼きに炙り焼き……ソテーなんてものも良さそうですね……」
 思い思いの夢を胸に、色花と唐が駆けて行った後に現れたのは、白石 忍(しろいし・しのぶ)リョージュ・ムテン(りょーじゅ・むてん)だ。
「海だ! 目の保養しつつ水着の子猫ちゃんたちをナンパだぜ!」
「海、ですか……楽しいですけど、リョージュくんに勧められたこの水着は恥ずかしいです……」
 危険な水着を着せられた忍は、テンションの高いリョージュについて、浜辺を歩いていた。
 ……そして、リヴァイアサンと遭遇した。
「えっ?! きゃあ、なんですかあの巨大な怪物!」
「お、いかにもお姫様って感じの美女だな♪ 今助けるぜ!」
 リョージュはワイバーン・オルカンに乗ってヴァレリアの近くに寄った。
「俺の歌を聴け!」
 歌い出すリョージュ。地上では、忍がおろおろとしている。
「逃げたいけど、あの女性を放っておくわけにも……どうしましょう?」
「俺の歌が通じない? 今日はディーヴァじゃないせいか」
 地上に降りて来たリョージュは、忍を見た。
「仕方ねえ、こうなったら忍、お前が身代わりになるんだ!」
「えっ? リョージュくん、どうするんですか? ……きゃあああ〜!」
 リヴァイアサンの目の前に差し出された忍が、叫び声を上げた。
「ちょっと……その人を助けるのはいいけど私はどうなるんですか?」
「ま、王子様を待てって」
「そ、そんな! ううっ、イコンさえあれば」
 リヴァイアサンの攻撃を避けようとした瞬間、忍の水着がはだけた。
「み、水着が……っ!」
 忍の水着が解けたところに、オルトロスが集まってくる。
「夏の定番のエロモンスターキタコレ!? やっぱりこれはいろんな意味で見過ごせん!」
 海の家の近くにいた上條 優夏(かみじょう・ゆうか)は、オルトロスを見てガッツポーズをした。
「そんな定番はエロゲーだけにして!」
 少し大胆なエメラルドのビキニ姿のフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)は優夏を諭しつつ、リヴァイアサンの方を見る。
「ほっとけないわ。魔法皇女としても、恋する乙女としても!」
 ヴァレリアの事情を噂伝いで聞いたフィリーネは、優夏とともにオルトロスの方へと向かって行った。
 優夏はオルトロスを剣で薙ぎ払いつつ、エンシャントブレスを叩き込む。
 フィリーネは行動予測をしつつ、オルトロスの出現位置を掴んでは、ライジングサンで太陽を生み出した。
「焼き払うわ!」
 変身も使って気を引きつつ、フィリーネはオルトロスを殲滅すべく焼き払う。
「危ないわね」
 別の方向からヴァレリアを助け出そうとしているのは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)だ。
 各々スレイプニルに乗ってウォータブリージングリングを嵌め、超加速を連携発動させてスピードを上げている。
 正中一閃突きを峰打ちしつつ、二人はヴァレリアに接近する。
 と、リヴァイアサンが水中に潜ろうとした。その瞬間、ルカはヴァレリア目掛けて指輪を投げた。
「嵌めて! 水の中でも息ができるわ!」
 ヴァレリアはリヴァイアサンの頭にしがみつきながら、素早く指輪を嵌めた。
「あ、よく見たらヴァレリアじゃね? アブねーなー、ちょっと回収しとくか」
 頭を下げたリヴァイアサンを見て、唯斗はヴァレリアに気付いた。
 そして、縮界の超速度でリヴァイアサンを縛り上げる。
「よう、なにしてんだ?」
 軽いノリで声をかける唯斗。リヴァイアサンから振り落とされそうになったヴァレリアを、唯斗は抱き止めようとする。
「あの……」
 ヴァレリアが何かを言った瞬間、リヴァイアサンが勢いよく水面に体で打ち付けた。
「え? 何? えーと、うん、俺で良ければ良いぜ!」
 水音でよく聞こえなかったが、唯斗は軽く答える。
「大丈夫!?」
 スレイプニルに乗ったルカとダリルは、ヴァレリアの元にやってきた。
 リヴァイアサンがブレスを吐こうと口を開いた瞬間、ルカが火門遁甲の炎を打ち込んだ。氷のブレスごと、炎の力で封じたのだ。
 同時にダリルは風門遁甲で巻き起こしたカマイタチの渦を錐のように絞って、リヴァイアサンの喉の奥へと投射する。
「今助ける! 掴まってろ」
 ダリルが白いペガサスであるスレイプニルにヴァレリアを乗せ、空高く離脱した。
「ちょ、ちょっと待て!」
 ついでに、唯斗もくっつけて。



 ヴァレリアを助け出すと、ダリルはまずヴァレリアに完全回復をかけた。
「強い力で掴まれて引きずり回されたんだ。ダメージは蓄積しているからな」
「ありがとうございます。それにしても、すぐに婚約を受け入れて下さって嬉しかったですわ」
 頬を赤らめるヴァレリアは、唯斗の手を取る。……そこに、プルプルと震えながらエクスが歩み寄った。
「唯斗……何故食材を狩りに行って女子を連れてきておるのだ?」
「エクス、落ち着いてよく聞いて欲しい。リヴァイアサンを狩りに行ったら女の子が獲れたんだ」
「ほう……?」
「そのままソッコ求婚されて何か流れで相槌打ってたらOKしちゃってたんだ! 俺もよくわからねぇが気付いたらそうなっていたんだ!」
「食うのか!? デザート気分か!? 夜戦か!?」
「あ、やめろ、俺じゃなくてアッチのリヴァイアサンをやれって!」
 唯斗はヴァレリアの手を引いて、逃げ出した。
「逃げるな! 其所に直れぇ!」
「愛の逃避行というやつですわね!」
「そこな娘! 抜かすでないわぁ!」
 ルカは面白そうにヴァレリアと唯斗を見た。
「唯斗もう結婚してるじゃん。からかっちゃダメ」
 あは、と笑うルカと唯斗を、ヴァレリアは交互に見た。
「そうだったのですか、ごめんなさいまし」
「え、ちょっ」
 立ち止まるヴァレリアの手を、今度は唐が引いた。
「お姫様、ちょっと俺と話をしない?」
「ケガはないかい? お姫様。俺はリョージュ」
 唐の反対からヴァレリアの手を取ったのは、リョージュだ。
「え、ええ。わたくしは、ヴァレリア・ヴァルトラウテと申します」
「ヴァレリアちゃんか……好みだぜ。いいぜ、これも運命だ。婚約しようじゃねえか。まずはお互いを知るためデートだ」
 驚いたのは、忍だ。
「こ、婚約ですか? だってリョージュくん、可愛い女の子と見れば片っ端から声をかけるくせに……それでいいんですか?!」
「あ」
 焦るリョージュを気に求めず、ヴァレリアは忍に微笑みかけた。
「私も片っ端から声を掛けていますもの! でも、そうですね、婚約者としては保留ですね」
 そう言い残して、ヴァレリアが優夏の元に駆け寄る。
「「「え」」」
 困ったように顔を見合わせるリョージュと忍、唐。
「これってどうなの? 婚約成功してるの? 保留って何?」
「ええと……さあ……」
「……すっかり忘れられている俺はどうなったんだ?」
 三人のことはよそに、ヴァレリアは優夏の手を取った。
「私の王子様になって下さるのですね?」
「いや俺ただのHIKIKOMORIやし遠くで支援しただけやし?」
 焦る優夏とヴァレリアの間に、フィリーネが入った。
「結婚なんて一足飛びに行く前に二人で多くの時間を過ごして中を育む事が大事よ」
「やはり、デートをした方がよいのですね」
 フィリーネはふふ、とヴァレリアに微笑みかける。

「結婚したいなら、その人の前で全てをさらけ出せると誓えるくらいの仲になった方が良いわ」
 そう言うなり、フィリーネは優夏にキスをした。
「ちょっ!? フィー、いきなり何を!? ってかそれ物凄い意味深やんか!?」
 そう思って優夏がフィリーネを見ると、途端にその水着姿に胸が高鳴り始めた。
 が、皆がぎゃーぎゃーと皆が騒いでいる間に、ヴァレリアはリヴァイアサンの方へと向かって行った。
「もう少しお相手を探してみましょうか……延長戦開始ですわね」
「何かよく分からないけど、フラれてるっぽいぞおおおおおおおおおお」
 浜辺では、ヴァレリアの背を見つめて、リョージュがゲリラライブを始めた。
 悔しさを滲ませる叫びが、浜辺に響き渡っていったのだった。