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王子様と海と私

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王子様と海と私

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【暴走の果てに】

『ヴァレリアさん、無事ですか?! 今どこに……』
 御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は、テレパシーをヴァレリアに飛ばして交信しようとしていた。
 ウォータブリージングリングを装備し、パラミタイルカに乗って捜索に当たっている舞花は、ホークアイと羅針盤を使ってヴァレリアの位置を知ろうとしているのだ。
『わたくしは無事ですわ! もう少しだけ婚活をしたら、帰りますわね』
 こともなげにヴァレリアはテレパシーを返してくる。
 舞花は、海上に姿を現したリヴァイアサンの背後に隠れ身で接近した。
 いつでもヴァレリアを確保できる状態になると、籠手型HCで把握している捜索者全員に現在地を伝えた。
『危なくなったらすぐに助けますね』
 ヴァレリアの危険を回避したいという想いもあったが、ヴァレリアの婚活を応援したいという気持ちも舞花の中にあった。
 海岸でリヴァイアサンの様子を見ているのは、風森 望(かぜもり・のぞみ)ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)だ。
「民草を護るのは貴族として、そして騎士として、当然の責務!! さぁ、怪物退治ですわよ!!」
 気合いいっぱい、ノートの背を見て望はちいさく溜め息をついた。
「全く、折角避暑にきたというのに、お嬢様ときたら面倒事に直に首を突っ込むのだから……」
 そんな望の耳に、噂が聞こえて来た。
「ふむ? リヴァイアサンの上にいる女性が? ほうほう、白馬の王子様待ち? ほほぅ、それは面白い事を聞きました」
 望は、天馬に乗りマントを羽織ったノートの姿を見て、ニヤリと笑う。
「……ピッタリではありませんか」
 たまたま海辺を通りかかったクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)も、騒ぎを聞きつけてリヴァイアサンの元にやって来ていた。
「とにかく、こっちに引きつけよう」
 浜辺でレンタルした機晶サーフボード「アクアウインド」に乗ったクリストファーは、リヴァイアサンの攻撃が届かない距離を保ちながら、リターニングダガーで目や口の中などを狙いつつヒットアンドアウェイを繰り返した。
 水雷龍ハイドロルクスブレードドラゴンに乗ったクリスティーは、リヴァイアサンの頭上から攻撃をくわえた。
「なかなか隙ができないね……」
 クリスティーは、リヴァイアサンの頭に飛び降りようかとしていたが、リヴァイアサンが暴れ回るためなかなか隙が作れない。
 ウォーターバタフライを水中に泳がせたクリスティーは、万が一誰かが水に落ちても沈まないようにと周囲に意識を向ける。
「できれば助けに入りたいが……まだリヴァイアサンの体力も残っている、下手に手を出すのは危険だ」
 クリストファーはたいむジャケットを着せられるようにして隙を窺っていた。
 新婚旅行のバカンスに来ていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、つい今しがたまで砂浜にシートを引いてのんびり日光浴をしていた。
 ブラを外してうつ伏せになり、うとうととしていたセレンフィリティとセレアナを目覚めさせたのは、リヴァイアサンの唸りと周囲の人々の悲鳴だった。
「せっかくの新婚旅行を邪魔する無粋な怪物はシメるわよ!」
 怒り心頭なセレンフィリティ。
「さぁて、と。ここはひとつ食事前の腹ごなしと行くわよ!」
「ちょっとセレン、待って!!」
 トップレス状態であることに気付かず、セレンフィリティはダガーを手にリヴァイアサン目掛けて駆けて行く。
 外していたビキニのブラを手早く身につけていたセレアナが、止める間もなかった。
「ああ、もう……」
 セレアナはセレンフィリティと自分自身に女王の加護をかけた。
 護りを固めつつ、天使のレクイエムを歌ってリヴァイアサンの戦意を喪失させようとする。
「こっちよ!」
 自身のスピードを高め、セレンフィリティは行動を予測しつつ、メンタルアサルトでリヴァイアサンの動きを誘導した。 
 リヴァイアサンが行動するであろう未来位置に向かってリターニングダガーを投げつける。
 セレンフィリティは、経絡撃ちでリヴァイアサンの喉目掛けて星印の剣を撃ち込んだ。
 と同時にセレアナは洗礼の光をリヴァイアサンに浴びせかけて、己の強大さを刻みつけた。
 皆が戦う横で匿名 某(とくな・なにがし)は、リヴァイアサンを見上げている。
「さっさとあのデカブツ片付けてしまわないとな」
 某の隣にいるフェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)は、心底不機嫌そうな顔でリヴァイアサンを睨みつけている。
「……私は今、非常に機嫌が悪い。とっとと倒すぞ」
 フェイは海に誘いたい子がいたのだが、騒動が起きたために誘えなくなったため、機嫌を損ねている。
 某は大谷地 康之(おおやち・やすゆき)とフェイの武器に調律改造を施した。
「まずは、各個攻撃だ」
 某の言葉と同時に、囮となるべく康之が動いた。
「みんなで海を満喫するためにも、こいつはきっちり倒さないとな!」
 小型飛空艇ヘリファルテに乗った康之は、プロボークを使って自らにリヴァイアサンの攻撃を集中させた。
「来いよデカブツ! 俺を落としてみな!」
 康之はリヴァイアサンの攻撃を回避しつつ、聖騎士槍グランツを操ってカウンター攻撃を入れていく。
 強化光翼で飛びあがった結崎 綾耶(ゆうざき・あや)は、リヴァイアサンがこれ以上陸に近づかれないよう、アブソリュート・ゼロで波打ち際に氷の障壁をU字型に多重展開した。
 さらにグラビティコントロールで、その動きを鈍らせる。
 小型飛空艇オイレで飛行したフェイは、二丁拳銃を駆使し、融合機晶石【ライトニングイエロー】で強化したライトニングブラストを叩き込む。
「いいぞ、この調子だ」
 レッサーフォトンドラゴンに乗った某は、上空を旋回しつつライトニングブラストを放ってリヴァイアサンを攻撃する。
 そのうちに、某はリヴァイアサンの頭の上に人が乗っているのを見つけた。
「……もしかして彼女が操ってるとか?」
「私が、話を聞いてきます」
 綾耶は某にそう伝えて、ポイントシフトで移動した。
 某は何があっても動けるよう警戒しつつ、綾耶の様子を見守った。
「あの、あなたは……?」
 現れた綾耶を見て、ヴァレリアは目を輝かせる。
「攫いに来て下さったのですね!?」
「攫いに……? 救いにではないのですか?」
「どうして救われる必要があるのでしょう?」
 お互いに疑問符を浮かべるヴァレリアと綾耶。
「と、とにかく助けますね……きゃっ!」
 リヴァイアサンが綾耶目掛けてブレスを吐いた。すかさず、フェイが弾幕援護を行う。
「……何だか騒がしいですね」
 一方地上では、海の家で涼んでいた鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)は、リヴァイアサンに美少女が攫われたという噂を聞き、海岸までやってきた。
「リヴァイアサンを倒す前に助け出さないと……!」
 聖邪龍ケイオスブレードドラゴンに乗った貴仁は、二つの聖輪ジャガーナートを用いて速度を上げ、素早くヴァレリアの元に近付いた。
「先にあの女性を助けませんと、おいそれと攻撃できませんわね」
 ヴァレリアの元に向かうノート。
「フリューネさんに後れを取る訳には行きませんのよ!!」
 ノートは、ライド・オブ・ヴァルキリーでリヴァイアサンの頭に乗ろうとする。
 素早く貴仁はヴァレリアを助け出すと、緊急離脱した。
「あの方が、無事に救出して下さいましたわね」
 貴仁がヴァレリアを助け出したことを確認すると、ノートはリヴァイアサンを天馬に踏み付けさせた。
 その隙に、貴仁は分身の術で囮を生み出し、ディメンションサイトで周囲の状況を性格に把握しながら戦略的撤退を試みる。
「とどめを!!」
 ノートは、レーヴァテインとアイオーンを用いたエアリアルレイヴを、セレンフィリティは霞斬りを放った。
「いくぞ!」
 某は合図とともに、リヴァイアサンの頭上に集まったフェイと綾耶、康之の武器の解放を行う。
 潜在開放、機晶開放とヴィサルガ・イヴァを用い、某は極限までフェニックスアヴァターラ・ブレイドの力を高めた。
 綾耶も神降ろしとセラフィックフィールドで、能力を高める。
「今だ!」
 翼の靴で飛空艇から脱出した康之は、飛空艇をリヴァイアサンへ特攻させる。
「うおおおおおおおおっ!!!!」
 怯んだリヴァイアサン目掛けて、某は一気に急降下した。
 某のオーバーロードが、康之の渾身のファイナルレジェンドが、綾耶のショックウェーブが、フェイのトゥルー・グリットが、合わさってリヴァイアサンを一気に襲った。
 こうして遂に、リヴァイアサンは倒れたのだった。

「やったわね!」
 喜ぶセレンフィリティに、セレアナは砂浜に打ち捨てられていたセレンフィリティの水着を持って近付いた。
「……えっ」
 ようやく自分の格好に気付いたセレンフィリティは、慌ててセレアナから水着を受け取って物陰へと走っていったのだった。



 救い出されたヴァレリアは、一番近くにいたクリストファーの元に駆け寄った。
「結婚して下さいまし」
「え、ええと……」
 クリストファーは気の聞いた言葉で遠回しに断ろうとしたが、上手く思いつかない。
「あ、そうだ! ごめん、実は地球に許婚がいるんだ」
「そんなこと……関係ありませんわ」
 クリストファーはクリスティーに助けを求める視線を送る。
「お似合いだよ」
 普段の仕返しとばかりに、クリスティーは笑っている。
「つ、吊り橋効果は気の迷いだよ」
「あっ!」
 クリストファーとクリスティーは、慌ててその場を逃げ出した。
「どうしましょう……」
 困っているヴァレリアは、はっとノートに気付いた。
 タイミングを見計らって、望がヴァレリアの元に現れる。
「あれは、古王国時代には剣の戦乙女と名を馳せた名門シュヴェルトライテ家の、現当主ノート・ソル・シュヴェルトライテ様でございます」
「まあ! 懐かしい響き……」
 古王国時代にほとんどの時間を過ごして来たヴァレリア。
「五千年もの月日の中で、名も財も廃れはしましたが、姫と領民を護る騎士としての誇りと剣は聊かの陰りも御座いません」
 ヴァレリアはすっかり頬を赤らめて、ノートを見つめている。
「あの……」
「王子様が迎えに来て下さったのね……」
「いえ、わたくしは女ですわ!」
「あ、そうでしたわね。白馬の王子様、もとい王女様……わたくしと婚約して下さいまし」
 混乱したノートは望を見るが、望は楽しげにノートを見るばかりである。
「お見合いみたいになっているわね」
「お嬢様も当主を継いだ訳ですし、婚約者の一人や二人、居た方が良いかと思いまして」
 フリューネと望の会話を聞いたヴァレリアが、決意を固めたような表情で二人を見た。
「そうですわね。わたくし、決めました。婚約者の一人や二人や三人を、作りますわ!」
「えっ!?」
 なんやかんやと騒いでいる傍で、康之が砂浜に倒れているリヴァイアサンとオルトロスを見た。
「なあ、このリヴァイアサンとオルトロスで、祝勝会をしないか? 海の家とか使おうぜ!」
 今度はヴァレリアが康之の提案に反応した。
「そう致しましょう! パラミタウナギのようなものですし、蒲焼きにしたら美味しいと思いますわ!」
「ウナギ?! というか蒲焼きにするにはでかすぎないか」
「スタミナもついて、夏バテ解消ですわね!」
 ヴァレリアの強い希望により、海岸では急遽祝勝会が行われることとなった。
「まあ……一件落着なのか?」
 剣を収めたキロスは、次の瞬間フェイのドロップキックを喰らうこととなる。
「あいつは以前あの娘とデートしたらしいじゃないか。つまりその時ちゃんと躾をしておけばこうならなかった。つまりお前のせいだ。死んで詫びろ」
 と、祝勝会の準備の影で、また一波乱起きたのだった。