校長室
【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ
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■ 英霊珠に導かれて ■ 何気なく歩いていた足が、何か硬いものを踏みつけた。 「ほえ?」 土とは違う感触に、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が確かめてみると、それは英霊珠だった。 取り敢えず拾い上げてみて、ルカルカは考える。 これまで英霊と契約しようと思ったことはなかったが、この珠を拾ったのも何かの縁、だろうか。 「英霊かぁ……」 ルカルカが英霊と聞いて思い浮かぶのは、金 鋭峰(じん・るいふぉん)団長のパートナーである関羽だ。仕事で会う機会があれば相談してみようと、ルカルカは英霊珠を持ち帰った。 その日も無事に教導団としての任務を終え、家に帰ろうとしたルカルカはふと以前拾った英霊珠のことを思い出した。 「団長、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」 「ああ、構わない」 広げようとした書類を再び纏めて、鋭峰はルカルカの話を待った。 「実はこの間、英霊珠を拾ったのですが……」 珠を入手した経緯を簡単に説明すると、ルカルカは契約する英霊を鋭峰に相談する。 「出来れば、私と共に軍務に力を尽くし、団長に忠誠を誓ってくれる人を望んでます。私が前線に行くことが多いので武官がいいですね。忠義に厚く、広い見識と迅速な行動力を持ち、仲間思い……というのが理想です」 「そうか。そのような英霊と巡り会うことがあれば、契約を果たすと良いだろう」 「あの、誰か心当たりを薦めていただくことは出来ないでしょうか?」 重ねて頼んでみたが、鋭峰は無理だとそれを退けた。 「薦めたからといって、その英霊と出会える訳でもあるまい。己の心に適う相手に出会った時、基準に照らして契約の可否を決定するがよかろう」 願う力が強ければ、条件に合う英霊と出会えもするだろうと鋭峰に言われ、ルカルカは助言を感謝しつつ団長の前を辞したのだった。 そのことがあって以来、ルカルカは出会う英霊に意識を払うようになった。 団長に言われたように、己の心に適う相手に巡り会うことがあるだろうか。 出来れば、鋭峰のパートナーである関羽のように、義に生きる三国志の武将であればと思うのだが、それも捜して捜せるというものではない。 けれど、運命がそれを指し示しているのなら、きっと……そんな期待を抱いて。 その願いはある日叶えられることとなったのだが――。 「ほえ。坊や、お名前は?」 「誰が坊やか!」 その出会いは予想とは少々……いや、かなり違うものとなった。 ルカルカが出会った英霊は、確かに望み通り三国志に名を残す者、夏侯 淵(かこう・えん)ではあったのだけれど。 思わず坊やと呼びかけてしまったのが示すように、その姿は幼かった。 ルカルカの肩ほどまでしかない背丈に、愛らしい顔立ち。どう見ても10歳そこそこの子供だ。 坊やと呼びかけられた淵は、忌々しそうに自身の手足を見た。身体の変化に戸惑っているのは当人も同じだ。 「どうしてこんな姿になっちゃったのかなあ……」 「知るか」 英霊が復活する時に、様々な要因から史実にあるものと違う形となることはそれほど珍しくはない。だが、そうして変貌した英霊にとって、以前と異なる我が身が受け入れやすいものかどうか、というのは別の問題だ。 「なあに、この身体とていつかは以前のように……」 今後の成長に望みを託そうとする淵に、ルカルカがあっさりと言う。 「英霊ってね、外見は変化しないらしいよ」 「…………」 この身体で復活を遂げたからには、最早どうにもならないことらしい、と淵はそこで腹をくくった。 どうにもならないことに、いつまでも固執してはいられない。 「人生とは面白いものだ」 二度目ともなれば、そういう人生も良いものかも知れない。 淵は数奇な運命と現実を受け入れることを決め、ルカルカと契約し、義兄弟の契りをかわしたのだった。 その後、ルカルカは新たなパートナーを得たことを、鋭峰に報告しに行った。 鋭峰を一目見た途端、淵は名のある将だと確信した。自身が仕えるに値する存在だと。 「ほう、契約を果たしたか」 「はい。淵と共に軍務に精励致します」 ルカルカは鋭峰に誓う。淵は自然と鋭峰に対して跪き、頭を垂れた。 「これもまた運命。ならば、名の恥じぬ働きと武勇をもって存在の証とする所存」 そうして臣下の礼をとる淵の手を、ルカルカが取って立たせた。 「一緒に往こう」 「ああ。共に進もう」 子供の姿になってはしまったが、一度は死んだ自分が、こうしてまた生きていることに比べれば些細なこと。 前世に負けぬ人生を突き進むことを、淵はパートナーとなったルカルカと、新たな仕えるべき存在である鋭峰に誓うのだった。