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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

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 エリシア達の家を後にしたセルシウスが街を歩いていると、ふと背後から声をかけられる。

「セルシウスさん?」

「む?」

 セルシウスが振り向くと、杜守 柚(ともり・ゆず)杜守 三月(ともり・みつき)、そして柚と手を繋いだ香菜がいる。

「やっぱりセルシウスさんだ!」

 柚が笑うと、香菜が「あんなトーガ着た人、他にいる?」と突っ込む。

「貴公は……?」

「家を建てて貰った柚です。一言、有り難うございましたってお礼を言いたくて……」

「…………おお! 覚えているぞ、柚殿だな」

「少し考えたよね、セルシウスさん? 忘れてた?」

 三月が呟く。

「済まぬな。如何せん、依頼者が多くてな。して、家はどうだ?」

「はい! 私の要望通りです。セルシウスさんは本当に色んな要望に応えてくれる凄い人なんですね」

「フ……それが本業だからな」

 少し鼻を高くするセルシウス。

「貴公らは、街を探索しているのか?」

「ええ。今それも終わって、完成した私の家に香菜ちゃんをご案内しているところなんです」

「なるほどな」

「セルシウスさんはこれからどちらに?」

「私は、本日中に伺うと言っていた家がまだあるのでな。これからそちらに行くところだ」

「僕達の家には来ないの?」

「貴公らの家は、貴公らが引越ししてくる前に、見学させて貰ったよ。女子力と言うのか? それが随分高い仕様だったがな」

 セルシウスはそう言って、去っていく。

「女子力が高い家か……、それは楽しみね」

 香菜が柚に微笑む。

「香菜ちゃんはどんな家に住んでみたい?」

「私? そうね……」

 香菜は先程招待されて行った呼雪の家のアトリエ付きの家を思い出す。

「シンプルなのが好き? 物に囲まれてるのが好き?」

「どちらかと言えばシンプルで綺麗な家かしらね……あ、メイドや動く絵は要らないけど」

 三月が「シンプル」という言葉に少し反応するが、柚は「メイド?」と香菜に尋ねる。

「ああ、ううん。こっちの話よ……」

「はいはい。二人とも、何処行くの、僕達の家はここだよ」

 後方から三月がストップをかける。

「わぁ……」

 柚の家を見上げた香菜が溜息をつく。その家の外観はお城や洋館みたいな感じでありつつも、決して古臭さを感じるものではないモダンな雰囲気を漂わせている。

 目を輝かせて家を見る香菜。そんな香菜を横目で三月が見つめていた。

「(香菜っていつも真面目な顔してるけど、笑顔が可愛いよね……)

「さ、中へどうぞ?」

 暫く見とれていた香菜は、柚に誘われて家の中へと入っていく。

「ほら、三月ちゃんも!」

「あ、うん……」

 ×  ×  ×

 外観からもわかることだが、柚の家は内部も相当な広さを誇っていた。

 特にリビングは沢山人が入れるぐらいの大きさで、お風呂もゆったり寛げるぐらいの広さがある。そんな内部は完全に洋風に見えつつも、違和感を感じない程度に和室が一部屋あった。柚の「落ち着く」という希望をセルシウスが叶えた結果だ。

 一通り一階を見た三人は二階にあがる。

「ここが僕の部屋だよ」

 三月が扉を開けると、シンプルな部屋が広がっている。

「へぇ、随分片付いているのね」

「そうだね、僕は備え付けのクローゼットとか収納スペースを多くして綺麗に片付けているんだ。物はあんまり見えるところに置かずに収納したいから」

「テレビもないの?」

「テレビは部屋に置かないよ。リビングに大きなテレビがあるからね」

 柚は三月の部屋を見渡して、

「でも、ちょっと殺風景すぎないかな?」

「僕は柚の部屋こそ、物が多過ぎないって思うけど」

 三月の部屋から出た香菜は廊下に並ぶ扉を指で数えて。

「部屋は全部で4つなのね」

「三月ちゃんの部屋と、私の部屋と、お友達用のお部屋を2つ作って貰ったんです。一緒に居る人数は多い方が楽しいから!」

「そうそう。柚はいつでも誰か泊まりに来てもらいたいからね」

「柚って案外寂しがり屋?」

 香菜が言うと、柚は「そんな事ないよ」と言いつつも、小声で、

「でも、私、三月ちゃんと会う前は一人でご飯食べる事が多くて寂しかったし……」

「え?」

「ううん! 何でもないです! さ、ここが私の部屋です」

 香菜が覗くと、柚の部屋は白い壁の内装に天蓋つきベッドがあり、彼女の机、それに窓やタンスのあちらこちらに女の子らしい可愛い小物が置かれている。

「なるほど、あなた達、足して2で割ると丁度良さそうね」

 三月の部屋と対照的な柚の部屋を見た香菜が笑う。

「それに、壁は白色なんだ。私、てっきりピンク色か何かだと……」

「あんまりカラフルにすると落ち着かないから」

 ベッドに腰掛けた柚が笑う。

「それにしてもお姫様みたいなベッドね。セルシウスさんが『女子力高い』って言ってたのもわかるわ」

「私、こういう天蓋つきベッドに憧れてたの。大きめだから香菜ちゃんも一緒に寝れますよ!」

「寝ないわよ……キロスなら喜ぶんでしょうけど」

「いや、それは流石に僕が止めるよ……」

 三月が言い、

「そうだ。香菜、泊まってく?」

「え?」

 三月の提案に柚がすかさず同意する。

「私も香菜ちゃんが泊まってくれると嬉しいです」

「ちょ……」

「ダメかな?」

「どうしてそんな寂しそうな目で見つめるのよ?」

「(傍から見ると柚が妹で、香菜が姉に見える気がするよ……)」

 と、二人を見ていた三月が笑顔で香菜に言う。

「傍で守れるからそうしてくれると安心だけど」

「傍?」

「そうです! 三月ちゃんが守ってくれるから防犯もバッチリです。女の子だけだと危ないし」

「僕はキロスさんほど強くはないけど……」

「キロスの強さは女の子の防犯上は、全く役に立たないけどね」

「あ、そうだ! 三人一緒に寝るのも楽しそうです。私のベッドなら『川の字』でもいけますし……」

「「無理」」

 三月と香菜の声が重なる。

 即答した香菜は、「ふぇぇ……」と涙ぐみそうな柚を見て、仕方なく言葉を付け足す。

「……お二人と別の部屋を使わせて頂けるなら泊まりますよ」

「本当!?」

「ええ。どっちみち、キロスはどこか行ってるから、今日は一人だし」

「いいよ! じゃ、香菜ちゃんの部屋を観に行こう!」

 柚が繋いだ香菜の手を引っ張る。

「柚さん。廊下は走らない!!」

「はーい」

 柚は笑顔で返事しながら、チラリと後方の三月を見る。

 三月は「ったく、仕方ないなぁー。柚は……」等と言いながらも、その耳が赤く染まっていたのだが、その理由がわからない柚は「風邪かな?」と思うくらいであった。