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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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リアクション

 
 
 
 お帰りなさい
 
 
 
 カーディフ国際空港を出たファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)は、十数年ぶりとなるウェールズを歩き出した。
 家を出てから、イギリスには何度か来ているけれど、ウェールズには足を踏み入れないようにしていた。
 今年も帰ってくるつもりなど無かったのだけれど。
 叔母のウィルマから、妹が会いたがっているから来るように、と半ば脅迫的な雰囲気で連絡があったからには仕方がない。
 ウィルマはファタが唯一頭の上がらない存在なのだから。
 
 ファタが家を出てから1年間、ウィルマは何も言わずに世話をしてくれた。といっても、仕事が恋人でかつ私生活がずぼらなウィルマがしたのは、勉強を教えてくれたり何処かに連れていってくれたり、という世話だけで、家事全般はファタがこなしていたのだけれど。
 その後も、世界各地を回ると言い始めたファタに資金援助をしたりと、後見人のようなことをしてくれている。
 家を出て寄る辺ない身だったファタにとって、ウィルマの援助がどれだけ有り難かったことか。
「さすがにウィルマさんに命令されたら行くしかないさね……あまり気は進まんが」
 口ではしぶしぶのように言っているけれど、ファタは妹が嫌いなのではなかった。
 それどころか、ファタが年少の少女に興味を示すのは、妹と離れたのが当時7歳の頃で、それ以降ずっと気にかけているのが原因なのだから。
 元気なのだろうか。そして……自分と同じように成長しない体質になってはいないか。
 パラミタにいる間も、ずっと気になっていた妹のマーガレットに今日、会える――。
 
 
 指定されたカフェは、ファタがウェールズに住んでいた頃には無かった店だ。開店してからそれほど経っていないのか、外装内装共に新しい。
 テーブルの間には十分なスペースが取ってあり、ゆったりとお茶が楽しめるようになっていた。
 無意識に7歳の妹の姿を捜しかけ、ファタは苦笑する。マーガレットももう22歳になっているはずだ。あるいは、ファタと同じ体質になっていれば、何歳で成長が止まっているのか見当もつかないけれど。
 そんなことを思って見回していると。
「お姉ちゃん」
 ファタにそう呼びかけてくる女性がいた。
 身長はファタよりも20センチくらいは高いだろうか。ボディにはめりはりがつき、髪型は成人を過ぎた女性らしく変わっているけれど、赤毛と生き生きしたブラウンの瞳は変わらない。
「マギー……」
 自然とファタからも、昔と同じ呼び名が口をついて出た。
 
「久しぶりね」
 いつもの口調ではまずいだろうからと、ファタはぎこちなく普通の女性言葉を使って喋った。
「お姉ちゃん……」
 マーガレットはハンカチで涙を押さえた。
「会いたいって無理言ってしまってごめんなさい。もうすぐ私も大学卒業だから、その前にお姉ちゃんにどうしても会いたいと叔母さんに頼んだんです」
 今はウェールズのアングルシー島にある実家から離れ、カーディフの大学寮に入って人文科学を勉強しているのだと、マーガレットは語った。
「大学を出たらどうするかはもう決めた?」
「叔母さんの伝手で、デザイン事務所に就職が決まってます。それでできれば、将来は絵本作家になりたいと思ってるんです」
 マーガレットの瞳には未来への期待が溢れ、ファタまで自然と表情がゆるんでくる。ああ、妹はきちんと自分の道を見定め、そちらへ進もうとしているのだと。
「お姉ちゃんはパラミタでどうしてるんですか?」
 向こうは危なくないかと聞くマーガレットに、ファタはパラミタでのことを話して聞かせた。妹には心配かけたくないから、出来るだけ明るい話題を選び、聞かせてまずそうなことは少々脚色を加えておく。
 それを聞いて、マーガレットは嬉しそうに微笑んだ。ファタがマーガレットのことを気にしていたように、マーガレットもまた、ファタのことをずっと気にかけていたのだろう。
「パラミタに行って良かったですね」
 ファタが近況を話し終えると、今度はマーガレットが実家の現在を話してくれた。
 ファタが失跡したことで父は不倫をやめ家に戻り、母はそれを『悪魔が去ったから』だとした。妻の精神状態を考えた父はそれを否定することが出来ず、そのことに対してマーガレットは不満を持っていると言う。けれど実際、今の母に何かを説明して解ってもらうのは容易でなく。結果、歪な『3人家族』となっているらしい。
 十数年経っても母はあのままなのか、と
「大変じゃのう」
 ファタはついいつもの口調に戻って嘆息した。
「それでも、お姉ちゃんが元気そうで良かったです……どうしてるか心配でしたし、ウェールズまで来てくれるかどうかと思ってましたから」
 そう言ってマーガレットはにっこり笑った。
「お姉ちゃん、お帰りなさい」
 ただいま、という言葉はこんなに照れるものだったろうか。そう思いながらもファタは涙目で笑っている妹へと、ただいまの挨拶を返したのだった。