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手を繋いで歩こう

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手を繋いで歩こう
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リアクション

「一年前とは、立場や考え方、行動と……色々と変わった方が沢山いますね」
 ロザリンドは、隅のテーブルに移って静香と2人きりで会場を見ていた。
「ロザリンドさんもね」
 静香の言葉に、ロザリンドは軽く首を傾げた。
「肩書きは増えたりしましたが……。臆病なのに、行動する時は楽観的で、失敗をしたらウジウジ悩んでいて……。根っこの部分は変わっていないような」
 そう言った後で。
 ロザリンドは静香に目を向ける。
「ただ。変わったとはっきり言えることは一つ。校長に対しての想いでしょうか」
 最初は、酷いことだとは思うが『校長』という記号とだけしか見てはいなかった。
 学校の長、守るべき対象。
 だだそれだけで、護衛等をしていた。
 それが、つい出来心、での行動をしたり。悩んだり、失敗をしたり。そういった普通の人の所を見て、気になっていって。
 そして、強くはないけど、一生懸命前進しようと頑張っている姿に魅かれて。
「……いつの間にか、大切な人になっていたのですよね」
 それから、真っ直ぐに静香の目を見詰めて、勇気を出して言葉を続けていく。
「この地で多くの友人に出会えて良かったです。――静香さん、に出会う事ができて良かったです」
 赤くなりながら、緊張気味に微笑んで。
「今、私は……とても幸せです」
 そう伝えた途端、ますます赤くなって、ロザリンドは拳を握りしめた。
 恥ずかしさで、今すぐここから逃げ出したくなる。
 だけれどどうしても、どうしても過去の気持ちと、今の気持ちを伝えておきたかった。
 手を取って、一緒に歩む人だから――。
「僕も、幸せだよ。パラミタに来たくて来たわけじゃなかったんだけれど……。皆と会えて、皆と共に、頑張ってこれて。沢山の人に、助けてもらって。大切なことを教えてもらって。そして……素敵な人に、好きだと言ってもらえて」
 静香はロザリンドの手をとった。
 そして静香もちょっと赤くなって、微笑みを浮かべる。
「ありがとう、ロザリンドさん」
 こくんと、ロザリンドは首を縦に振った。

「でもまあ、これでもう暫くは我慢できるかな」
 亜璃珠は、優子からの贈り物――バレンタインのお返しを手にそう呟いた。
 中身は優子が好きな洋菓子店のクッキーとのことだ。
(でもこれ、他の皆にも同じものを贈ってそうよね……)
 そう思いもしたが、これが彼女の自分に対する気持ちなのだからと、受け入れることにする。
「我慢って何をだ」
 至極真面目な顔で、優子が問う。
「何をって……」
 じっと優子の顔を見て、ふふっと、亜璃珠は悪戯気な笑みを浮かべる。
「辛抱できなくなったら、また襲っちゃうぞ?」
「……は?」
 途端、優子が足を後ろに引いて、亜璃珠から離れる。
「バレンタインの時「も」かわいかったわあホント」
 亜璃珠がぐいぐい迫ると、優子は「冗談はよせ!」と、亜璃珠を押し返す。
「ったく、からかわれるのは好きじゃないんだ。ホントにキミを遠ざけなきゃならなったら、色々困るし……だから冗談はやめてくれ」
 言って、優子は亜璃珠の額を指で弾いた。
「いたっ。大丈夫よ、暫くは我慢できるって言ったでしょ」
「クッキーで抑えられるんなら、毎月プレゼントするが」
「毎月だと飽きるし、来月は違うものがいいわ」
「……考えておく」
 なんだかおかしくなって、2人は笑い合った。
「ねえ、優子さん」
 笑い終えた後、少し真剣な顔になって亜璃珠が優子の名を呼んだ。
「ん?」
 亜璃珠は談笑する皆と、アレナに目を向ける。
 優子も同じように、会場の人々を見回した。
「大切なものを守りきれるのか、不安かしら?」
 優子は黙ったまま、会場の人々を――シャンバラの学生達を見ている。
 亜璃珠も会場の人々を見ながら、言葉を続ける。
「けど私もね、ずっとそういう心を抱えて戦ってきたのよ。結果はどうあれ、やれる限りをやるしかないと思うな」
「そんな不安を感じているように、見えたか? でも、アレナが戻ってきた今は、随分と落ち着いているんだ。情勢は決して良いとは言えないのにな。もう大丈夫だ」
「あなたの大丈夫は信じないって言ったでしょ。だから私が代りに言う。――大丈夫、もし転びそうになったら、私が起こすわ」
 優子は軽く笑みを浮かべて、皆を見ていた目を亜璃珠へと戻した。
 強い、眼だった。
「私は決して転ばない。万が一、転びかかることがあっても、皆が……キミが、こうして転ぶ前に支えてくれているから」
「ええ」
 亜璃珠も優子を見て微笑む。アレナが戻ってきて、随分と優子は変わった……いや、離宮に行く前に戻ったというべきか。
 それから。
 亜璃珠は、側に置いてあった箱を持ち上げた。
「今更だけれど優子さんは飛び級や留年、していないわよね? 実年齢は何歳なのかしら」
 その包装してある箱は、一升瓶の箱だ。
 中には超有名銘柄の日本酒が入っている。
「私は現役だよ。日本の法律じゃ、まだ酒の飲める年齢じゃないな」
「そう。それじゃ預かっていて」
 亜璃珠は優子に日本酒を手渡して、こうお願いをする。
「7月、二十歳の誕生日になったら、お酒飲むのに付き合って欲しいの」
「今から約束するようなことでも、ないような気がするけど……?」
「酔って……初めて弱った姿を見せるかもしれないのだから、相手は選びたいのよ。今から予約しておかないと、優子さんのスケジュールはすぐに埋まってしまうだろうし」
 亜璃珠は真面目な表情だった。
 優子は軽く笑みを浮かべると、首を縦に振る。
「わかった。付き合うよ。ただ、百合園やロイヤルガードの宿舎でというのは、どうかと思うんで、亜璃珠の家にでも、招待してくれると嬉しい」
「喜んで」
「ボディガード連れて行った方がいいかな。酔ったキミに襲われないように」
「……襲って欲しいのかしら?」
 優子と亜璃珠は笑いあった後。皆の輪の中に、戻っていく。