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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第3回/全3回)

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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第3回/全3回)

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 南で起こった大炎上。エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がそれを確認したとき、携帯電話が必死になって呼び声をあげた。
 相手はジーベック、内容は『泳砂部隊』に対して優位に立っているというものだった。
「ダリル」
「わかった」
 最後に一度、戦場を見渡した。マルドゥークが前線へ出てる中、軍の指揮権はダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)にある。
「兵を動かす! 全軍、居城へ向かえ!!」
 急げ! という声が伝令と共に兵にも生徒たちにも伝えられた。




「何? 後退しているだと?」
「はい。そのようでございます」
 秋葉 つかさ(あきば・つかさ)の報告を聞いて、ネルガルは南の空へと目を向けた。
 先ほど起きた大炎上。報告によればアバドンがそのような策を授けた様子は無いという。となればマルドゥーク軍が仕掛けたこと……。
「ふっふっふっふっふっ、ハァーハッハッハッ!!」
「ネルガル様?」
「大規模な策が成功して粋がったか! それとも目の前の戦場を諦めたか!!」
 地上戦こそ拮抗しているが空中戦は我が軍に分がある。居城前の戦場を一気に制圧してそのまま居城へなだれ込むつもりであろうが、交戦中の後退ほど困難な事はない。
「焦ったな! マルドゥーク!!」
 マルドゥーク軍の後退は絶好の好機。
 ネルガルは「追え! 決して手を緩めるな!!」と雄々しく叫びあげたのだった。




 戦況はネルガルが予想した通りに移行した。
 交戦中という事もあり、歩くよりも遅い速度で移動せざるを得ない者も多く見られた、結果マルドゥーク軍は地を這うナメクジのように間延びしたものになっていた。
「南へ! 居城を目指して進めぇ!!」
 互いに鼓舞し合いながら、確かめ合いながら。敵兵に襲いかかられれば、命の危険に直面したなら進軍などしている場合ではない。ナメクジの体は今や半分ほどをネルガル軍に喰い憑かれていて、どうにも好きには動けなかった。
―――元は大きな一つの円。一方が動き、楕円となる。それを追う一方も次第に自然に円は崩れる―――
「カルキノス」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が手を上げるのを見て、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は大気圏めがけて『サンダーブラスト』を放った。
 誰を狙った訳ではない、狙いはダリルが有していた、その目的は空軍への突撃の合図だった。
 東西の空にルカルカ・ルー(るかるか・るー)を中心とした空軍部隊が姿を現した。




「何だこれは! 奴らはどこから現れた!!」
 4時と8時の方角から現れた『小型飛空艇』や『空飛ぶ箒』やらは銃器の類や魔法を用いての爆撃を空に地上に仕掛けてきた。
「おのれ……」
 先頭で現れた『小型飛空艇ヴォルケーノ』、ルカルカの放った『サンダークラップ』が群れていた『ワイバーン』たちを雷襲した。
 彼女に続いて現れたのは開戦直前に『吊浮箱』に奇襲をかけてきた面々のようだ。ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)葉月 エリィ(はづき・えりぃ)ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)を中心とした顔ぶれもまたルカルカと同様に戦には参加せず、今まで姿を隠していた。それがダリルの合図を受けて、共に潜んでいた東西50名ずつの地上兵の先頭を切って奇襲をかけたのであった。
「何をしている! 早く蹴散らせ!! 撃ち落とすのだ!!!」
 ネルガルの声に焦りが滲んだ。東西からの奇襲に合わせてマルドゥークの本隊は居城への進軍を止め、再び正面からの交戦にうって出ていた。
 ――囲まれた、だと……。
「ネルガル様っ」
 息を切らして駆け込んできた秋葉 つかさ(あきば・つかさ)は軍の後方を指さしながらに、
「新手が! 北部より現れた新手により、軍の最後部が襲撃を受けている模様です!!」
「何だと!!」
 例によってシャンバラの生徒たちが多数、しかも今回はそこにタシガン空峡の空賊フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)や鬼の面をつけたドラゴンライダーの姿があるという。
「鬼の面…… だと」
 ネルガルの頬が固まった。余裕のない表情のままに、己が乗る『ワイバーン』を軍後方へ向かわせた―――
「ぐっ……」
 とうに始まっている戦場の中。10mにもなる巨体をもつ竜の背にその姿はあった。
 牛鬼の鉄仮面をした騎士の姿。竜の背から突き出された『忘却の槍』は、宙を舞う『ワイバーン』の首をいとも簡単に貫いた。
「………… ジバルラぁ」
 怒りと怨み。その視線に―――男も気付いた。
「ネルガル!!!」
 仮面をとって叫びあげた。それに呼応するように相棒の竜も雄叫ぶ『龍の咆哮』を撃ち放った。