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リアクション
「邪魔だぁ! テメェ等!! 退きやがれ!!!」
ジバルラと竜の周りには否応なしに兵も『ワイバーン』も集まってくる。英雄ジバルラの名は兵の誰もが知っている、その強さも知っているだけに近寄ることすらしたくないのが正直な所なのだろうが、
「奴だ!! 何としてもジバルラを殺せ!! 殺すのだ!!!」
との命令が出されては兵たちはそうせざるを得ない。まして『ワイバーン』はネルガルの命令には無条件で従順である。
凶暴化した飛竜と死に物狂いの兵士たち。先程から囲まれ襲われているジバルラが今も戦えているのは、樹月 刀真(きづき・とうま)や清泉 北都(いずみ・ほくと)らが彼について共に戦っているからだった。
「済まぬが少しばかり」
そんな中だからこそ白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)は、
「恐怖に脅え震えていてはくれぬか」
白兵戦が繰り広げられている地上に向けて『ファイアストーム』を放っていた。
「道を開けんか!!」
両手を合わせて心を静め、そして乱戦の最中に『ブリザード』を放った。『熱い』の直後に『冷たい』を感じる、それはもはや十分な痛覚となる。狙い通りの広範囲攻撃、味方兵も巻き込まれるやも知れんが、
「それはまた…… 致し方なし、であろう」
目的は一つ、それを成すために。
「そのように乱暴にされてはいけませんわ」
坂崎 今宵(さかざき・こよい)が『小型飛空艇ヴォルケーノ』を降下させながらに爆撃を行った。
積もった砂は弾け、砂埃が巻き上がる中、直撃を受けた兵士たちが次々に倒れていった。それこそ敵味方関係なく容赦なくバタバタと倒れゆく。
とんでもなく乱暴な襲撃だった。
「味方のかたは避けてくださいませっ!」
空からの無差別爆撃を何と自力で避けろと仰っていた。それも真面目に言い放っていた。
目的は一つ、道を開く、それを成すために。
「殿!」
九条 風天(くじょう・ふうてん)とフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)が低空を駆けた。
「少傷致瀕!」
すれ違う『ワイバーン』の目に剣を突き立てると、一思いに抉り抜いた。
飛竜の悲鳴が遅れて聞こえる。
上空は『ワイバーン』が群れているが、低空となればそれほどには居ない。ましてセレナたちが派手に仕掛けた分地上からの攻撃も少ない。
――見えましたね。
風天が『小型飛空艇ヘリファルテ』を旋回させて飛竜の群れをバラし、その後ろをフリューネがペガサスを翔け続いた。
左方から迫る飛竜の翼を『抜刀術』で切り落とした。が、注意が左に向いている間に右方から飛竜の牙が迫っていた―――
「ふっ!!」
ひと突き、いやひと刺しか。
フリューネの『ハルバード』が迫る竜の頭に突き刺さっていた。
「一気に行くわよ!」
「えぇ!!」
―――フリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさんフリューネさん―――
血は噴き怒号が響く戦場の中を、飛竜の群れを斬り裂くように飛び進む。愛しのフリューネ、その雄志と美しき肢体を瞳に焼き付けるように朝野 未沙(あさの・みさ)は彼女の背後を飛んでいた。
足は『光る箒』しか用意できなかったが、武器はフリューネと同じハルバード(『光条兵器』だけど)。今し方フリューネが退けた竜の頭に空いた穴に、同じようにハルバードを突き刺してみたり。
おっといけない、と彼女を追おうと瞳を戻した時、フリューネの視線も風天の視線も、彼に従う兵士たちのそれさえも上空へと向けられていた。
ネルガルが乗る『ワイバーン』が悠然と翼を羽ばたかせていた。
「良いのですか? ネルガル様」
東雲 いちる(しののめ・いちる)が問いた。退避する、という決断をしてからもネルガルは玉座に腰掛けようとはしなかった。
「奴とやり合うには戦力が足りん」
声色は低いものに戻っていたが、どうにも憤りは抑えきれてはいなかった。鬼の形相で戦場を見下ろす彼の目は今も―――
「えっ?」
ネルガルの瞼が強く見開かれた。一体なにを……。
いちるも同じに瞳を見開いた。ジバルラが、いや彼を乗せた巨竜が翼を広げて飛び立とうとしていた。
「くっ!!」
ネルガルの合図で一体の『ワイバーン』が巨竜の頭に体当たりをした。身投げ同然の攻撃だったが、ジバルラの竜は大きく頭を地に垂れ着けたが、すぐに起こして空を見上げた。
「奴だ! あのデケェのが親玉だ!!」
ジバルラの声が視線を導いた。そうして一際大きなネルガルの『ワイバーン』を捉えたようだ。
「うおっ!」
何度も何度も咆哮をあげた後に飛び立った。
「行けっ! 撃ち落とすのだ!!」
戦場にいる全ての飛竜が一斉に顔を向け、そして次々とジバルラに向かっていった。
「下っ! 次は右だ、おら動け!」
体を畳んで飛び来る『ワイバーン』は巨大な矢のように見えた。見えたままに指示を出して避けさせた。
「また右っ! もう一つ! ちっ、邪魔くせぇ。今度は左―――」
言い切る前に相棒が動いた。巨矢を避けた。言い切る前に、だったのだからそれは聞き取れる前に動いたという事に―――
「いいぞ。そうだ、そのまま行けよ!」
真の意で心が通じたわけではない、迫り来る敵を避けるべく動いただけなのかもしれない、それでも。
同じ敵を見据えた、同じ戦場を見れた、同じに敵を捉えた。それだけで十分だ。
「よぉし! 行くぞオラァ―――って!! くっ!」
空を埋めるように集まった『ワイバーン』、その数およそ40体。それらが隙間無く、鍋に蓋をするように落ちてきた。超重量である個体が幾重にも重なって。
「うおぉあぁぁぁぁぁ―!!」
身動きがとれなくなる前に。
離れゆくネルガルに、ほくそ笑むその顔に。ジバルラは『忘却の槍』を投げつけた。
まさに針の穴。
放られた大槍は僅かに開いた隙間を裂いて空を進み、そしてネルガルの心臓に突き刺さ―――
「あぅ゛っ」
ネルガルの体前に飛び出した、秋葉 つかさ(あきば・つかさ)の左肩を『忘却の槍』が貫いていた。
「つかささんっ!」
「あぁ゛っ! ぐぅぅっ」
いちるが槍を引き抜いた。噴き出した血が顔に髪にぬめり纏ったが、拭う間もなく彼女を横たえた。
出血がひどい。とにかく傷を塞がなくては。
いちるは傷口に『リカバリ』を唱えた。たとえ時間は掛かっても、どうにか傷口を塞ぐことくらいは―――
「退け」
「ネルガル様……」
ネルガルの手が傷口に触れた。
『命の息吹』と『大地の祝福』。二度ほど光りが発せられた後には傷口は塞がり、つかさの意識もはっきりしていた。
「ネルガル様…… ありがとうございました」
感極まり涙するつかさに「血の次は涙か。忙しい娘だ」と吐いて背を向けた。
「城に戻るぞ! 全ての戦力を結集し、戦に備える!」
反勢力を根こそぎ潰す。
顔を強べたその様は、次が最後の戦いになると予期しているようでもあり、また己を追い込んでるようでもあった。