リアクション
──寮の自室。
「今年も……もう、終わり……なんですねぇ」
夕食の年越し蕎麦に視線を落として、冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)はしんみりと言った。
百合園女学院の学生寮の一室は、その小さな声がよく聞こえるほど静かだった。
ラジオからさっきまで流れていた陽気なナンバーも、いつの間にかしんみりした曲に変わっていて、残り少ない今年を惜しむようだった。
「なんだか……あっという間、だった気がしますぅ……」
このお蕎麦を食べてしまったらいよいよ今年が終わってしまう。あと、ほんの少しだ。だからといってのんびり食べても、残り時間が長くなるわけではないことも知っていたけれど……。
「うん、あっという間だったな〜」
冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)が日奈々を膝に抱きながら、頷く。
「あまり気にしてなかったけど世界では色々と起きてたみたいなんだよね。それもあっという間に感じた原因かな」
「色々ありましたねぇ……」
シリアスなことから何でもない日常のことまで、色々なできごとが二人の意識に浮かんでは消えていく。
「ま、今日は今年最後の日だしのんびりしないとね……あ、日奈々、ついてる」
千百合は日奈々の顔に跳ねた蕎麦つゆを、ぺろっと舌で舐め取った。くすぐったそうにする日奈々の顔も、千百合にとってはかけがえのない宝物だ。
そんな風に時間はゆっくり過ぎるうちに、ラジオからはカウントダウンが聞こえてくる。二人は体をぴったりくっつけて、ラジオの声と一緒にカウントしていく。
「ごー、よん、さん、に、いち……」
そして、ゼロになった時……。
「千百合ちゃん、あけましておめでとうございますぅ」
「おめでと日奈々」
言ったかと思うと、千百合は体重をかけて彼女の肩をゆっくり押し倒すと、日奈々のピンク色の唇に口吻た。
「きゃっ……あ、千百合ちゃん、お酒のにおい……」
日奈々の口の中からは、飲んでいたお酒のにおいがほんのり漂っていた。
「大丈夫大丈夫」
「千百合ちゃんわぁ、まだ未成ね…ん……」
「もう結婚してるもん」
ほろ酔いで赤くなった日奈々のほっぺたにもキスをして、千百合はそのとろけてしまいそうな日奈々の身体に手を伸ばした。