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太陽の天使たち、海辺の女神たち

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太陽の天使たち、海辺の女神たち
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リアクション


●Girls on Film(グラビアの美少女)

 青青青、青。
 たとえ百万回の『青』を使ったところで、いまこの空の色を表現するには足りない。
 はてのない青。それが空。
 対する海はエメラルドグリーン、純白の砂浜に打ち寄せる。
 それがこのビーチから、一望できる光景だった。
 天国の夢で見るような美しい島、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)はまだ、この地に名前をつけていない。
 あるいは名前を付けないほうが、いいのではないかと思っている節さえあった。

 さてその美しいビーチ、時間は午後。
 燦々と降り注ぐ太陽光の下、銀色の反射板に褐色の肌をさらしているのはローラ・ブラウアヒメル(ことクランジ ロー(くらんじ・ろー))だった。
 着用の水着は、彼女の肌によく映える白。決して布の面積が小さいわけではないのに、たわわに育った胸ははちきれそう。しかし腰はシュッと美しい曲線美を描き、肩のライン、膝から爪先に至るまで、『惜しい』という言葉が一つも出てこない完璧なプロポーションだ。
 今、ローラは両膝まで海につかって、軽く足を開いている。
 頭には可愛らしい麦わら帽子、表情ははにかんだような笑顔……いや、実際はにかんで仕方がないのである。
 なぜってローラは今、某雑誌社のグラビア撮影をしている最中なのだから。
「はい、力抜いて〜」
 カメラマンの指示が飛ぶ。すると同時に、周囲の撮影スタッフも反射板などの撮影器具を掲げる。
「力抜いて、言われても困るね……」
 だって緊張で力が入ってしまうから、どうしても。
「はい、いいよー」
 カメラマンが振り返ると、今度は柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)がカメラを手に飛び出した。
「ローラ、撮るからこっち向いて」
 どうやら彼、ちゃっかり撮影スタッフに紛れ込ませてもらっているようだ。プロに混じって、自分用のプライベートフォト撮影にいそしんでいるというわけである。彼も、天御柱学院の公式水着の上に白いパーカーを着ているというバカンスなスタイルだ。
「ええ、まだ撮るの桂輔? ワタシ、恥ずかしいよー」
「なに言ってるんだローラ! 美しいものを美しく撮影する……そこになんの恥ずかしいことがあるんだ」
 照りつける太陽に汗だくになりつつ、それ以上の熱さで桂輔は力説する。
「だってー」
「こうやってローラの明るいイメージをふりまくことで、パティやユマ(つまり、クランジ)のイメージ向上にもつながるわけだし。貢献だよ貢献」
 一応、命じられるまま桂輔の前で、腰に手をつけてローラはポーズを取った。
「でも、それならプロのカメラマンさんの写真だけで十分ね? 桂輔のは自分の趣味、違うか? なんに貢献してるか?」
 痛いところをつかれたわけだが、さすがは桂輔、さらりと受け流す。
「それは俺の心への貢献だな」
「言ってることめちゃくちゃ〜!」
 去年は本当に惜しいことをした……と桂輔は思っている。
 去年、やはりローラの水着を拝める機会はあったにもかかわらず、そのとき彼はカメラを持ってきていなかったため、彼女の肢体は心のフォルダに保存するしかできなかった。けれど今年は大丈夫、この日のために購入したデジタルカメラがある。これで思う存分ローラの水着姿を撮影できる、というわけだ。
 それにしても……。
 ――ローラ、去年よりさらに胸、大きくなってないか?
 まだ成長期ということだろうか。といっても、これを指摘するとまたローラは大照れするだろうからやめておこう。

 さてグラビア撮影というと、
「……えっ、グラビア撮影?」
 聞いてないよという顔を久世 沙幸(くぜ・さゆき)はするのだった。
 それもそうだろう。環菜からの招待状をもらって欣喜雀躍、
「夏、無人島といえばやっぱりレジャーよね。海水浴、思いっきり楽しんじゃおう〜」
 勢いこんでやってきたのに、島に着くなり藍玉 美海(あいだま・みうみ)が、
「夏、無人島と言えばグラビア撮影ですわ」
 と、断言したからである。撮影なんて、と沙幸がぐずったのも無理はない。
「せっかくのバカンスなんだし、遊びつくすつもりだったんだもん」
「あなた最近、グラビアアイドルであるということを忘れてはいるんじゃありません?」
「うーん、言われてみれば……」
 たしかにすっかり忘れていた。駆け出しグラビアアイドルというのは、自他共に認める沙幸のプロフィールだったはずだ。
 沙幸の心が動いたとみるや、美海は一気にたたみかけた。ローラのほうを指して、
「ほら、あちらも撮影していますし、わたくしたちも負けていられませんわよ!」
 言いながら、最新型のデジカメをちらつかせてみたりするあたり策士だ。これにはついに沙幸も首を縦に振ったのである。
「だったら……うーん、ちょっと撮られてみようかな?」
「さあ! 善は急げと言いますわ。撮影向きの場所は、事前に調べておきましたの」
 美海は美海の腕を取り、ぐいぐいと歩いて行くのだった。
 てっきり海だと思っていただけに、沙幸はただ従うほかはない。
「だいぶ奥の方に来ちゃったみたい……」
 沙幸は周囲を見回した。
「ちょっとないと思いません? こんなポイント」
 得意げに美海が言うように、たしかに秀麗な場所だった。
 ここは内陸、ジャングル状の森を抜けたところにある、清水の湧く地点だった。小規模ながら滝もある。ほとんど人の手が入っていないようで、野生の息吹が感じられた。
「こんなところで……? たしかにきれいな場所だけど」
「そうそう沙幸さん。ここでの撮影の前にこのサマードレスに着替えてもらえます?」
 問答無用といった具合で美海は沙幸にこたえず、さっと新品のサマードレスを取り出した。純白で薄い生地、いかにも夏向けの涼しそうな服だ。
「グラビアといえば水着じゃないかなぁ?」
「海と水着なんてありきたりですもの。この服装で湧き清水をバックにした方がきっとインパクト大ですわ。さ、着替えた着替えた」
 野外ではあるが女二人だ。見ている者などどこにもいない。それでも恥ずかしげに沙幸は背を向けて、そろそろと服を脱ぎ始めた。下着一枚になるとドレスに袖を通し……たところで、
「ああ、沙幸さん……可愛い。たまりませんわぁ!」
 突然、はあはあと鼻息も荒い美海に押し倒された。
 どさっと草のベッドに倒れ込む。水の豊かな場所だから、当然ドレスは濡れる。
 濡れると透けてしまうのは必然。沙幸のドレスはたちまち胸を隠す役には立たなくなった。
「沙幸さんが罪作りですのよ。そんなに可愛らしいから」
 上気して顔を、そして胸の谷間を火照らせつつ美海は言うのである。
「……ああ、緑深い大自然、湧き清水、濡れて透けた衣服……幻想的かつ淫靡なその姿、グラビアにしない手はありませんわ」
 のしかかり、馬乗りになったまま美海は沙幸をこちらに向かせ、その体制でカメラのシャッターを押しまくるのである。超がつくほどの至近距離撮影、濡れた沙幸の髪、首筋、ドレス、胸……すべて味わうように。
「ねーさまッたら! もう!」
「ごめんなさいね。でも、沙幸さんがわたくしを誘っているからいけないのですわ」
「誘ってないもん!」
「可愛さは罪というものですわ。たとえ沙幸さんにそんな気がなくたって誘われてしまいますの、わたくしは」
「もー、そんな理由、理由になってないんだもん」
 ところが、これで撮影終了かと思いきや、
「さあ、続きに参りましょう。やはり背景も写さないと。せっかくのロケーションですものねえ」
 などと美海は言い、撮影を続行するのである。
「えーっ!? これで?」
「もちろんですわ」
「……さすがに水着姿よりも、この濡れて透けちゃった感じの方が恥ずかしいんだけど……」
 不満には思うし口にも出すのだけれど、どうしても美海には逆らえない沙幸なのだった。
 命ぜられるままカメラの前に身をさらけだす。
 ああ、二人っきりの撮影会は、終わらない。