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四季の彩り・新年~1年の計は初詣にあり~

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四季の彩り・新年~1年の計は初詣にあり~

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 第17章 

「よし、おみくじを引こう!」
「待ってください桂輔」
 空京神社に着いた途端、柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)は真っ先におみくじ売り場に直行し……かけたところでアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)に襟首を掴まれた。
「まずは神様に挨拶に行きましょう。おみくじはそれからです」
「ええー」
 淡々と言ったアルマは、本意ではなさそうな桂輔の襟首を離さずに拝殿へ方向修正した。そのまま彼を引っ張って歩く彼女に、慌てた声が掛かる。
「わ、分かったよ! お参りしてからにするから離せって!」
「そうですか? それじゃあ……」
 無事に解放され、桂輔はアルマと一緒に拝殿に向かう。参拝に行く途中からおみくじ売り場の様子も伺え、意識の何割かでそちらを気にしながら手を合わせる。目を開けると、隣のアルマは無表情の中にどこか晴れ晴れしたものを覗かせて桂輔と目を合わせた。
「では、おみくじを引きに行きましょうか」
「おう! じゃあ早速並ぼうぜ!」
「……? 長い行列に時間を掛けて並ばなくても、外に自動販売機がありますよ」
 そこには、誰1人として並んでいなかった。機械の前へ行けば、すぐに引ける。
「自動販売機じゃ味気ないだろ? 初詣に来たら並ばないとな!」
「しかし、あまりにも効率が……? 寒いですし」
「おみくじを引く時は直接売り場で! アルマも並んでみたら楽しいって!」
 そして何より、対人販売で買えば巫女さんがおみくじを手渡してくれる。その為ならちょっとくらい寒くても行列が長くても、桂輔は全然苦ではない。ひたすらにテンションが上がる。
「…………」
 アルマは垣間見える売り場を眺め、黙考してみる。桂輔は、神社を回る順番は譲ってもここを譲る気はないようだ。何か、並々ならぬ気合が感じられる。それは、おみくじに対してというよりは――
(桂輔の目当ては巫女さん達でしょう)
 彼が不埒な真似に出ないよう監視しなければ、と思いながらアルマは頷く。
「仕方ないですね、分かりました」
「よし行こう! 最後尾は……あ、あそこだな」
 うきうき感が全く隠れていない桂輔と列の最後尾に並ぶ。桂輔は、台の向こう側に並んで笑顔を振りまいている巫女の可愛さにうっとりとしながら順番を待った。
(1枚くらい写真撮らせてくれないかなぁ……)
 そんな事を考えながら待つこと暫く、体感としては2、3分にしか感じられなかった時間が過ぎ去り、桂輔は巫女と向き合った。
「お待たせしましたー! おみくじはこちらの……」
「あの、1枚写真撮らせてもらえませんか?」
「え?」
「桂輔?」
「……あ、ナンデモアリマセン。おみくじ1回お願いしますー」
 直後、桂輔は前言撤回しておみくじを引いた。ダメ元でと思って頼んでみたものの、後頭部にニルヴァーナライフルの硬い感触を感じたからだ。何だか恐ろしいオーラと共に銃を突きつけられれば撤回する他ない。そして、くじの結果は。
「げ! 大凶かよ!」
 後で木に結んでくるか……とテンションを落とす。一方、アルマは。
「えっと、この筒を振ればいいのですか? ……大吉ですね」
 大吉だった。
「なぬ!? ……良かったな」
「はい。嬉しい事は否定しませんが……ですが」
 アルマは自分のおみくじと桂輔のおみくじを見比べてから冷静に言った。
「吉凶の判断より、おみくじに書かれている内容を生活の指針とすることを重視しないといけません」
 そうして、彼女は売り場を離れて人混みの中を歩き出す。少しだけ、来る時よりも足取りが軽い感じがした。
「今年も良い年になりますように」
「…………。幸先悪いけど、今年も良い年になると良いなぁ……♪」
 大凶を手に、先程よりも持ち直した気分で桂輔もアルマの隣を歩く。いつもと変わらない青空を、薄い雲がゆっくりと流れていた。