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四季の彩り・新年~1年の計は初詣にあり~

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 第22章 むきプリ君の恋の行方

「何だ、闘神? 大切な話とは……」
 いかな元日とはいえ、特段参拝に関係ない場所には人気が無い。
 空京神社の周囲に林立する木々の中、外灯の光もあまり届かない夜闇の下で、ムッキー・プリンプト(むきプリ君)秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)と対面していた。ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)の姿はなく、闘神と2人だけだ。
 話は何だ、と訊いてはいるが、それは本題に入るための一言であり用件自体は概ね察しがついていた。約1年前のクリスマスの夜、むきプリ君は闘神に問いを投げた。もし付き合いだしたら、自分にどんな男になってもらいたいか。女好きの、これまでと変わらぬ男でいいのか、と。
 恐らく、今日はその答えを伝えるために連絡してきたのだろう。
 そんな事情である為、むきプリ君の顔は心なしかきりっとしていた。真面目そのものである。
 ちなみに、昼間に神社でホレグスリを売り歩いていたむきプリ君だが、今日は見知らぬ誰かにボコられることも既知の誰かにボコられることもなく平和に1日を終えた。むきプリ君とホレグスリへの人々の関心が薄れているのか、むきプリ君のむきプリ君としての魅力が上がって誰も近付かないのかはアンケートでも取らなければ不明だが、ともあれ無傷であることは確かである。
(我は……ムッキーに自分の想いを伝える……そしてムッキーに真剣に考えてもらうんでぃ!)
 ――あの夜から、考えた。
 ――そして、年明けと共に彼と共に歩みたいと思った。
 ――だから、元旦である今日、想いを告げる。
 想いを聞いて、彼に答えを出してもらいたい。
 闘神は、袴姿のむきプリ君に心臓を高鳴らせながら、真剣な表情で切り出した。
「我は……ムッキーが我だけを見てくれぇばどれほどよかったかと思ってぇいる。しかし、我は幾人もの男を抱いてきたしムッキー……おぬしはノンケでぇ。叶わぬ恋だと思ってた。でも、想いは止まらねぇんでぇ。だが、ムッキーの言葉を聞いて我を受け入れてくれるってぇ言ってくれた時には凄く嬉しかったんでぇ」
 女好きのむきプリ君から前向きな言葉が聞けるなんて、闘神は思っていなかった。股間が元気になるほど嬉しかったのだ。
「ムッキー。我はおぬしの為だったら何でもできる。だから、我と共に歩んではくれねぇか? そしておぬしの欲望を、全部我に注いではもらえねぇか?」
「…………」
 むきプリ君は、きりっとした顔をしたまま黙っている。しかし、彼の目は少し伏せられているようにも見え、どんな答えが出されるのか分からずにどきどきした。2人の周囲を、独特の緊張感が覆っている。事情を知らない者が見れば、それは、決闘前の光景にも見えただろう。
(ここで断られたら我は……諦めなければいけないだろう)
 とても悲しいが、己の愛は届くまでに至らなかったということだろう。
 ――別れる時も笑顔で……それが我だ。
「……闘神」
 むきプリ君が口を開いたのは、闘神がそう、一種の覚悟を決めた時だった。
「『俺の欲望は、全てお前に注いでほしい』……それが、お前の答えなのだな」
 重々しい口調で、むきプリ君は言った。
 闘神から、唾を飲む音が聞こえた気がする。彼の緊張を早く解いてやりたい――そう思い、1歩、2歩と彼に近付く。
 得た答えは、彼が提示した矛盾を解消するものだった。それは、むきプリ君が先に進む決意をするに足るものだ。
 ならば――
「ならば、俺はお前の恋人となろう。俺の性欲を、お前に注ごう。だから、本気の愛を俺だけに向けてくれ。俺が女達に目移りする必要がないくらいに、俺を愛し、満たしてくれ」
 愛を求め、強要するのではなく。
 愛を注いでくれる者を大切に、真正面から受け止めよう。
 むきプリ君の心に、1つの『芯』が生まれた瞬間だった。
「! ムッキー……!」
 返事を聞いた闘神は感極まった表情でむきプリ君を抱き締めた。思い切り、力強く自分を包み込む彼の中で、むきプリ君も闘神を抱き返した。
 事情を知らない者が見れば技をかけあっているように――
 ――否。
 それはきっと、恋人同士の抱擁に見えただろう。
 そして彼等は、唇を合わせた。勿論、むきプリ君はそれを受け入れる。欲望に任せたキスというよりも、初々しさの感じられるキスの後に、むきプリ君は言う。
「俺にも……恋人は出来るのだな。それを教えてくれて……ありがとう」
「……。ムッキー……我はおぬしと姫初めがしたい」
 抱き合ったまま、お互いの顔を間近にお互いの白い息を受けながら。
「……分かった。受けよう」
 むきプリ君は自分の意思で、そう言った。

 むきプリ君を自室の布団に押し倒し、闘神は彼の視界を自らの体で遮った。
 ――ムッキーの欲望を受けるんだから、ムッキーにも我の欲望を受けてほしい。
「もう、離さないからな? ムッキー」
 枕の上に頭を乗せて自分を見詰めてくるむきプリ君に、にやり、と闘神は不適な笑みを浮かべる。
「……ああ、俺を虜にしてくれ……」
 精一杯、むきプリ君を愛してあげたい。そう思いながら、冬の外気で冷えた彼の白い着物に手をかける。
 そういえば、ホレグスリを使わないでの行為はこれが初めてだ。
 着物と袴を丁寧に脱がせる手は、どこかぎこちない。
「なんと言うか……緊張するな……」
 今まで培ってきたテクニックをフル活用しようという気概を持って、闘神は言う。
「……折角だし、まずはムッキー……やるか?」
 受も攻も、お互いに両方経験しよう。
 全てを受け入れ、感じ、優しくし―― 

 やがて、電気の消えた部屋の中で闘神の嬉しそうな声が響いた。
「これで……我はムッキーのものでムッキーは我のものだな!」
 1日中、精一杯の愛を彼に注ぐ。まだまだ、枯渇する気は起きなかった。