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四季の彩り・新年~1年の計は初詣にあり~

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四季の彩り・新年~1年の計は初詣にあり~

リアクション

 
 第23章

 雑然とした研究室は、新年となっても旧年と何一つ変わることのない佇まいを見せていた。大掃除もしていないし、お節も用意してはいないし、部屋の外に門松も置いていない。だが、こう皆が浮き足立っているとその雰囲気を全く感じないわけにもいかなかった。
「全く、世間は騒がしいねぇ……喧しいったらありゃしない」
 窓の外を、ちらちらと雪片が舞い落ちていく。それを眺めながら、ノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)は1人、猪口に入った酒を舐めるように飲んでいた。
「新しい1年の始まりなのはいいけれど……正月だ元旦だ何だって……どうしてこうも騒ぎ立てるかねぇ……」
 こんな日ほど独りで静かに、ゆっくりと飲みたくなるものだ。街から落ち着きを感じないから、余計にそう思うのかもしれない。
「雪も降っているし、今日は雪見酒と洒落込もうじゃあないか」
 ――騒がしさから離れるためにも、独りで飲もう。

「…………」
 開いた扉の隙間から、ニクラス・エアデマトカ(にくらす・えあでまとか)はノアの横顔を目にしていた。通りかかったのは偶々で、中途半端に開いたままの扉を閉めようと手を掛けた時に声が聞こえて動きを止めた。窓際に座ったノアが、どことなくしんみりしていると気付いたのは長い付き合い故のことだろう。他の誰かであれば気にも留めない程度の差異だったが、彼女の様子が気になったニクラスは部屋に入った。
 ほぼ音を立てずに中に入り、邪魔をしないように多少距離を置いたところで立ち止まる。彼自身、無口ではあるが全く喋らないわけではない。だが、ノアの今の気分を察するに、彼女も流暢な会話は望まないだろう。そう判断して声を掛けないでいると、ふとノアがこちらを向いて口を開いた。
「ニクラス。何だい、何か用事でも?」
「……いや」
 短くそれだけ答えると、ノアは「だろうね」と言うように小さく苦笑した。立ち上がり、節操なく物が置かれた棚から杯を手に取る。
「……まぁいい。お前さんも飲むかい?」
「…………」
「独りで飲むつもりだったが……お前さんなら構わんよ」
 無言の返事に何を感じ取ったのか、ノアは大きめの杯に酒を注ぎ、渡してくる。それにニクラスが口をつけると、彼女は僅かに笑んで背を向けた。窓の外を見ながら酒を飲み、ただ静かに時を過ごす。
「まるで今日が特別な様に世間は騒ぐが、今日だって、他の日と大して変わりゃしない」
 独白のようにノアが話し始めたのは、猪口に二度程注ぎ足した後だった。
「……日は昇り、そして沈む」
「…………」
「昨日も、明日も。……あの日も。
 いつか訪れる終の日も。日が沈んで、また昇れば日は変わる。時は止まらず、その1日も流れる。あの日々も過去の話となり、人々の記憶から流れて行き、死歿した終の日も過ぎれば、いずれ自分も忘れ去られる」
 そこまで言うと、ノアはまた口を閉ざした。もう数時間もすれば、元日も終わる。実際、それで何が変わるわけでもないのが現実だ。背後のニクラスは何も言わない。今の話を聞き、彼がどう思ったかはさして気にならなかった。今更、気にする仲でもない。決して重苦しくはない沈黙の中、ただ、降り続く雪という肴を共有する。
 この位の降り方であれば、明日の朝、積もることもないだろう。
「雪を見るのはこれで何度目だろうねぇ……」
「…………」
「……ニクラス。そこにいるんだろう?」
 相槌も所感も、何も聞こえてこない無音の空間に向けて話しかける。変わらず返事が無くとも、それはそれで自然だと思えた。だが、ニクラスはそこで声を発した。続く言葉は問いへの直接の答えではないが、存在証明には充分だ。
「……いずれ終の日が過ぎようとも、少なくとも我はお主を忘れる事はない」
 即答ではなく、尚も間を空けてこう言ったのは、ノアの話を聞いてから彼なりに考えを巡らせていたのだろうか。それを聞いて、ノアは表情は変えずに「……ふふ」と笑った。
「……そりゃあ結構な事で。まぁ……お前さんとは長い付き合いだ。そう簡単に忘れられたら笑ってしまうよ」
 そして、これまでより力を抜いた様子で振り返る。そこには、軽く緩い笑みが浮かんでいた。
「……あぁやだやだ、こんな湿っぽい話をするつもりは無かったんだがねぇ……。とりあえず、飲もうじゃないか」
 日本酒の中瓶を持ち上げ、酌をする。ニクラスは、杯の中身を既に殆ど空にしていた。
「美味い酒飲みながら楽しく過ごすのも嫌いじゃないが……」
 自分の猪口にも手酌をして、窓を見遣る。
「たまには静かにしんみりと飲むのも悪くはないさね」
 だが、そう言うノアの表情は、扉の隙間から見えたあの時よりもすっきりとしているようにも感じられた。
 

担当マスターより

▼担当マスター

沢樹一海

▼マスターコメント

皆様、新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
また、リアクションが遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。30人にしても遅れるのかというお叱りの声を受けるのも仕方が無いと、新年早々に身を縮める思いです。

リアクションの方ですが……章ごとの副タイトルが入っていないのでそして目次も用意していないので、若干登場ページが探し難くなっていると思います。
基本的に時系列順、大晦日から1月1日の夜まで、となっていますので、アクションを思い返して、この辺かな? とページクリックしていくのが一番早いかもしれません。
ただ、NPC関連につきましては、前日(?)譚→合流→お参り→おみくじという流れでページがそれぞれ分かれていて、それぞれのメインシーンがそこに入ってきますのでかなり分割されています。数えてはいませんが5分割6分割くらいのキャラクター様もいますので、そこはウォーリー的な例のアレで確認いただければと思います。

近日中に予定しています合同シナリオでは絶対に遅延を起こさないと誓いつつ(合同でやったら本気で切腹ものですマスターのお2人に果てしなきご迷惑が……! いえ個人シナリオでも皆様にご迷惑をおかけしてしまっているのですが!)、この辺りでマスターコメントを〆させていただきたいと思います。

それでは、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。