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神楽崎春のパン…まつり 2024

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神楽崎春のパン…まつり 2024
神楽崎春のパン…まつり 2024 神楽崎春のパン…まつり 2024

リアクション

「やあやあ、ボクは黒ネコのタンゴ。ここでパーティをやってるって聞いたから来てみたよ? ボクみたいな飛び入りでも大丈夫かな?」
 ホールの入口にいた若葉分校生に、黒猫のきぐるみを着た男性が声をかけた。
「どうぞ。ただ、うちの総長は国家神に仕えてる人なんで、羽目を外し過ぎると、追い出されるぜ〜」
「うん、気を付けるよ。それじゃこれ、代金」
 どさっと大きな砂金を置いて、驚く分校生を背に黒猫のタンゴ(中身は国頭 武尊(くにがみ・たける))は、ホールの中に入った。
「……」
 そしてパン…と、飲み物をトレーに乗せると、一番奥の隅の席へと向かい1人、もくもくと優子が作ったパン…を食べていく。
 黒猫の着ぐるみを着た武尊が選んだのは、立ち上がって騒いでいる分校生の陰になっている席であり、会場内の様子も良く分からず、誰が来ているのかも、確認しにくい場所だった。
「久しぶりに神楽崎に会えるってのに、何やってんだオレは」
 まともに顔を合わせたのは……いつだっただろうか。
 一年以上前のバレンタインに、女性の姿で会ってはいるが、優子はあの時の女の子が武尊だったとは、気づいていないだろう。
(オレのこと既に忘れちまったなんてことは……)
 武尊は優子に会おうとしたこともある。優子が絡むイベントに参加しようとしたり、事件に関わろうとしたり。しかし何故か、ことごとく見えない力でどこかに落ちてしまい優子に近づけなかったのだ。
 会っていない期間が長すぎたせいで、武尊は不安により精神的に不安定になっていた。
 話したいこと、聞きたい事は沢山ある……。
 自分のパラ実での肩書のこと。月が綺麗なこと。それから最近耳にした優子の養子のこと……。
(だいたい、アレナは兎も角、ゼスタが養子ってなんだよ。
 意味わかんねーし。暫く会ってない間に何が有ったんだ?)
 もっと頻繁に優子と合っていれば、今日だって気軽に話しが出来たかもしれない。
 でも、会っていない期間が長すぎたせいで、武尊は優子と話すきっかけがつかめずにいた。
(おくびょーなんだよオレは)
 S級四天王として、恐竜騎士団員として、幾多の危険を潜り抜けてきた彼だが、優子に対しては積極的になれずにいた。
(今にして思えば、もっと頻繁に彼女と会う機会を作れたんじゃないだろうかうか?
 人を使って彼女の予定や行動を把握し、偶然を装って会う事ができたんじゃないか?)
 賑やかな会場内で、1人パン…をかじりながら武尊は考え続ける。
(頻繁に会ってさえいれば、今日だって……。「オレにぱん つくれ。 1日1枚。いや、3日に1枚。いやいや、1週間に1枚。1ヶ月に1枚で良いからぱん つくれ」って頼む事も出来たかもしれない)
 悔しげに思いながら、顔を上げる。
 優子はこの会場内にいるはずだ。だけれど、彼女を探しだし、近づくことは出来なかった。
 今の武尊に出来ることは、優子のパン…をかじりながら、物思いに耽るだけだった。
(どうすればいいだろう?
 わからない。わからない。わからない)
 武尊は眉間に皺を寄せて、目を閉じる。
 そして、大きなため息をついた。
「……帰るか」
 着ぐるみの中で自嘲的な笑みを浮かべて立ち上がる。
 彼女のいる、この賑やかな空間にいることが、辛かった。

 その数分後。
「竜司」
 喫茶店からホールに戻った優子が、番長の竜司の肩を叩いた。
「おお、優子! てめぇも食え」
 竜司は椅子を引いて、優子を座らせる。
「あ、ああ。ところで……竜司。国頭来てるのか?」
「国頭? 見てねぇな」
「……そうか。
 私も探してみたんだが見つからなくて、な。なんか……思念は確かに聞こえたのに」
 優子は深刻そうな顔をしていた。
「死ねん? 国頭と何かあったのか?」
「あ、いや……何でもないんだ。ただ、国頭に連絡をするときに、伝えてくれないか?
 キミがパンをいつ、受け取りに来てくれてもいいように、作り置きしておくから、と。
 事前に連絡をくれたのなら、温めて待っているよとな」
「ん? ……わかった、伝えておくぜぇ」
 周りがうるさくて良く聞こえなかったが、『パン……つ、受け取りに来てもいいように、……温めて待っているよ』という部分はちゃんと聞き取れていた。責任を持って、竜司は武尊の携帯にそのようにメッセージを入れておくことにした。
(国頭……病で倒れているのではないかと心配していたが、無事だったか。良かった。
 だけど、どういうことだ……)
 優子もまた、武尊と同じように物思いに耽っていく。
 実は、彼がここを訪れてから、優子に対して思ったこと全ては、テレパシーで彼女の脳裏に届いていた。
「国頭、キミは……」
 優子は少し照れながら、自らが作ったパン…を口に運び、味を確かめていく。
「そんなに私のパン…が好きなのか」

○     ○     ○


 日が沈みかけた頃に、パン…パーティはお開きとなった。
「これからも分校をヨロシク。おまえら最高だぜェ!」
 番長の竜司がマイクを手に締めの言葉を言うと、集まった若者たちから拍手と雄叫びのような声があがる。
「優子、てめぇからも何かあるだろ?」
「ん? ああ」
 パンを食べながら何やら考え込んでいた優子に、竜司はマイクを持たせる。
「……立場関係なく、こんなふうに明るく過ごせる場がここに在るのは、キミ達がここで、こうして生き、笑っていてくれるからだ。今日はありがとう!」
 優子は以前よりも堂々とした口調で、集まった人々、パラ実生、分校の皆の前で言った。
 再び、笑顔と共に拍手と歓声が沸き上がった――。

 頼まれていた最後の段ボールを運びこんだ後。
「一人、一袋ずつな」
 ホールの入口で、ハイコドは段ボールの中に入っていた土産配りを、頼まれていた。
「ふむ。ハイコドも土産にもらって帰るのか?」
 袋の中身を確認しながら、エクリィールが尋ねてきた。
「いや、これはいらない。これを持ち帰ってアイツに渡したら『え、ナニ? 初夜の時みたいに初々しくしたいの?』とか楽しそうに言うに決まってる」
 妻のソランのことを思い浮かべ、ハイコドはそっとため息をついた。
 ハイコドが若葉分校生達と土産として配っているのは、若葉分校ユニフォームの試作パンツだ。
 若葉マーク入りの、男女兼用のパンツである。
「これ配り終わったら仕事終了だ。パンツじゃなくて、普通のパンを家族分貰ってかえろうな」
「それじゃ、わらわは、土産用のパンの方を貰ってくるとするかの。パンツ配り、頑張るのじゃぞ」
「へーい」
 ハイコドは苦笑をしながら返事をして最後の仕事に勤しむ。
「1人、1袋ずつ、土産持って行ってくれよー」
 それは若葉の模様で初心者マークを連想しなければ、悪くないデザインの試作パンツだった。

 見送りが終わった後……。
「増築、凄かったですね〜。流石はパラ実生というか何というか、皆生き生きと作業していましたね」
「特にプール作りとかな!」
 佐々布 牡丹(さそう・ぼたん)とブラヌ・ラスダーは、更衣室のある建物――実技棟と名付けた建物の、屋上に出ていた。
「しかし、よくアレだけの資金が集まりましたよね……一体、どんな悪い商売をしていたんですか?」
 笑いながら悪戯気に牡丹は尋ねた。
「悪い商売なんてしてねーって、俺の稼ぎは、アパレル関係のレアものの販売や、転売がメインかな。
 なんか今回の増築には、百合園のお嬢様が自分の部屋を作るために大金を入れたり、匿名のカンパがかなりあったらしいぜ。……牡丹も寄付してくれたんじゃね?」
「ふふふふふ」
 匿名の寄付が沢山集まったおかげで、若葉分校は普通の高校の分校を越える建物と部屋を得ることが出来た。……とはいえ、設備がレジャー関係に偏っているような気もするが。
「思ったんですけど、どうせ資金集め的な事を今後もやっていくのなら、農作物の出荷のお手伝いみたいな事をしては如何でしょうか?
 街まで輸送するのもパラ実生達なら、逆に襲われる心配もなく安全に持っていけるんじゃないかなと思うんです」
「そうだな。農家の手伝いはやってるんだが、出荷の手伝いはやったことなかったな……。
 ただ、ここって大家族とはいえ一家族の農家だから、俺ら全員で手伝うこともそうないんだよな。規模をでかくすることも、望んでないみたいだし」
 若葉分校はこれまでも農家の手伝いは行っているが、授業の一環として行わせていただいている立場だった。
「総長や番長がどう考えてんのかはわかんねーけど、俺は若葉分校はこれくらいの規模がいいと思ってる。今でも本校から危険視されてるしな。
 逆に俺らが出荷の手伝いすることで、俺らを潰す為に襲ってきた奴らに農家の人たちが被害に遭う可能性だってあるんだ」
 分校設立時も、大荒野の安定を望まない故の争いがあった。
「万が一、総長が将来ここに住むっていうんなら、喫茶店を離れて独立して、俺らで分校を経営してく必要があるだろうな。
 てゆーか、俺も、俺と一緒にこの分校に通い始めたダチももういい年だし、遠くないうちに卒業してここから離れていくんだと思う。さびしーけどな」
 日は既に沈んでいて、月と星の優しい光だけが辺りを照らしている。
 互いの顔が、いつもより優しく穏やかに見えた。
「それとも……牡丹は俺とここで暮らしたいか? 将来、若葉分校を俺達の手で独立させるか?」
 ブラヌの問いに牡丹は少し考える。
 彼女は教導団に籍を置いている。
 若葉分校にこれ以上関与する場合、その立場を捨てなければならないだろう。
 個々の関係はともかく。未だ、教導団とパラ実は相いれず、不仲なのだから。
 ブラヌと結ばれることを望むのなら、彼が若葉分校を卒業して牡丹についていくか。
 それとも、牡丹が教導団を出て、ブラヌについていくか。
 決めなければならないようだ。
「俺らまだまだ若いし、ゆっくり考えていけばいーけどな! 今回みたいな増築やパーティ、これからも楽しんで行こうぜ」
 言って、ブラヌは屈託のない笑顔を見せた。
 牡丹も微笑んで、ブラヌに少し近づいた。
「今日は楽しかったですけど、やっぱりあのテンションは疲れちゃいますね……」
 そして、牡丹がブラヌに寄りかかる。
「暫くの間、このままで居させてもらって良いですか?」
「……お、おう!」
 返事をした後、つばを飲み込んで。
 ブラヌは牡丹の肩に腕を回した。
 それから――。
 彼女に顔を、近づけて。真剣な表情で目を見つめて。
 牡丹が目を閉じた直後に唇を……。
「ヒャッハー!!」
 ドカッ
 重ねようとしたが、飛んできたサッカーボールを顔面で受けてぶっ倒れた。
「サッカーしようぜ、ブラヌ!!」
「こんなとこで、星なんて見てる場合か! サッカー日よりだというのに!!」
「てめーら……っ! 邪魔すんじゃねぇ〜。サッカーなんてやれるか、真っ暗だろ!」
「バイクでやんだよ、ライトの明かりがあんだろ!」
「コートは大荒野全体だ、ヒャッハー!」
「あ、あああ、ちょっとまて、もう少し俺はここで……ぇぇぇー」
 抵抗するが、ブラヌは悪友たちに引きずられていってしまった。
「ブラヌさん……人気者ですね」
 牡丹は微笑みながら見送り、そっと自分の唇に触れた。
 彼とのファーストキスは、まだ少し先になりそうだった。

担当マスターより

▼担当マスター

川岸満里亜

▼マスターコメント

パン…パーティにご参加いただきまして、ありがとうございました!
今年の一枚、ご参加いただきました皆様に、近日中に送らせていただきます。(5/7 アイテムの配布を行わせていただきました!)
川岸のシナリオでこちらを装備している方は、称号で表示していなくても若葉分校生とみなさせていただきます。

若葉分校のホールとホール周辺には以下の建物とお部屋ができました。

ホール地下
・カラオケルーム、5室。

ホール1階
・多目的ホール
・パソコン室

ホール2階
・視聴覚室

実技棟(ホールの隣の2階建ての建物)
・更衣室、トイレ、シャワールーム
・女王様のお部屋(兼保健室)
・調理場
(2Fは自習室という名の遊び場)

校庭
・水深5メートルのプール。現在水は殆ど入っていない。

分校生の皆さんがここで、どのような日々を過ごされるのか描ける機会があればいいなと思います。
それでは、また次のシナリオでお会いしましょう!