リアクション
「やあやあ、ボクは黒ネコのタンゴ。ここでパーティをやってるって聞いたから来てみたよ? ボクみたいな飛び入りでも大丈夫かな?」 ○ ○ ○ 日が沈みかけた頃に、パン…パーティはお開きとなった。 「これからも分校をヨロシク。おまえら最高だぜェ!」 番長の竜司がマイクを手に締めの言葉を言うと、集まった若者たちから拍手と雄叫びのような声があがる。 「優子、てめぇからも何かあるだろ?」 「ん? ああ」 パンを食べながら何やら考え込んでいた優子に、竜司はマイクを持たせる。 「……立場関係なく、こんなふうに明るく過ごせる場がここに在るのは、キミ達がここで、こうして生き、笑っていてくれるからだ。今日はありがとう!」 優子は以前よりも堂々とした口調で、集まった人々、パラ実生、分校の皆の前で言った。 再び、笑顔と共に拍手と歓声が沸き上がった――。 頼まれていた最後の段ボールを運びこんだ後。 「一人、一袋ずつな」 ホールの入口で、ハイコドは段ボールの中に入っていた土産配りを、頼まれていた。 「ふむ。ハイコドも土産にもらって帰るのか?」 袋の中身を確認しながら、エクリィールが尋ねてきた。 「いや、これはいらない。これを持ち帰ってアイツに渡したら『え、ナニ? 初夜の時みたいに初々しくしたいの?』とか楽しそうに言うに決まってる」 妻のソランのことを思い浮かべ、ハイコドはそっとため息をついた。 ハイコドが若葉分校生達と土産として配っているのは、若葉分校ユニフォームの試作パンツだ。 若葉マーク入りの、男女兼用のパンツである。 「これ配り終わったら仕事終了だ。パンツじゃなくて、普通のパンを家族分貰ってかえろうな」 「それじゃ、わらわは、土産用のパンの方を貰ってくるとするかの。パンツ配り、頑張るのじゃぞ」 「へーい」 ハイコドは苦笑をしながら返事をして最後の仕事に勤しむ。 「1人、1袋ずつ、土産持って行ってくれよー」 それは若葉の模様で初心者マークを連想しなければ、悪くないデザインの試作パンツだった。 見送りが終わった後……。 「増築、凄かったですね〜。流石はパラ実生というか何というか、皆生き生きと作業していましたね」 「特にプール作りとかな!」 佐々布 牡丹(さそう・ぼたん)とブラヌ・ラスダーは、更衣室のある建物――実技棟と名付けた建物の、屋上に出ていた。 「しかし、よくアレだけの資金が集まりましたよね……一体、どんな悪い商売をしていたんですか?」 笑いながら悪戯気に牡丹は尋ねた。 「悪い商売なんてしてねーって、俺の稼ぎは、アパレル関係のレアものの販売や、転売がメインかな。 なんか今回の増築には、百合園のお嬢様が自分の部屋を作るために大金を入れたり、匿名のカンパがかなりあったらしいぜ。……牡丹も寄付してくれたんじゃね?」 「ふふふふふ」 匿名の寄付が沢山集まったおかげで、若葉分校は普通の高校の分校を越える建物と部屋を得ることが出来た。……とはいえ、設備がレジャー関係に偏っているような気もするが。 「思ったんですけど、どうせ資金集め的な事を今後もやっていくのなら、農作物の出荷のお手伝いみたいな事をしては如何でしょうか? 街まで輸送するのもパラ実生達なら、逆に襲われる心配もなく安全に持っていけるんじゃないかなと思うんです」 「そうだな。農家の手伝いはやってるんだが、出荷の手伝いはやったことなかったな……。 ただ、ここって大家族とはいえ一家族の農家だから、俺ら全員で手伝うこともそうないんだよな。規模をでかくすることも、望んでないみたいだし」 若葉分校はこれまでも農家の手伝いは行っているが、授業の一環として行わせていただいている立場だった。 「総長や番長がどう考えてんのかはわかんねーけど、俺は若葉分校はこれくらいの規模がいいと思ってる。今でも本校から危険視されてるしな。 逆に俺らが出荷の手伝いすることで、俺らを潰す為に襲ってきた奴らに農家の人たちが被害に遭う可能性だってあるんだ」 分校設立時も、大荒野の安定を望まない故の争いがあった。 「万が一、総長が将来ここに住むっていうんなら、喫茶店を離れて独立して、俺らで分校を経営してく必要があるだろうな。 てゆーか、俺も、俺と一緒にこの分校に通い始めたダチももういい年だし、遠くないうちに卒業してここから離れていくんだと思う。さびしーけどな」 日は既に沈んでいて、月と星の優しい光だけが辺りを照らしている。 互いの顔が、いつもより優しく穏やかに見えた。 「それとも……牡丹は俺とここで暮らしたいか? 将来、若葉分校を俺達の手で独立させるか?」 ブラヌの問いに牡丹は少し考える。 彼女は教導団に籍を置いている。 若葉分校にこれ以上関与する場合、その立場を捨てなければならないだろう。 個々の関係はともかく。未だ、教導団とパラ実は相いれず、不仲なのだから。 ブラヌと結ばれることを望むのなら、彼が若葉分校を卒業して牡丹についていくか。 それとも、牡丹が教導団を出て、ブラヌについていくか。 決めなければならないようだ。 「俺らまだまだ若いし、ゆっくり考えていけばいーけどな! 今回みたいな増築やパーティ、これからも楽しんで行こうぜ」 言って、ブラヌは屈託のない笑顔を見せた。 牡丹も微笑んで、ブラヌに少し近づいた。 「今日は楽しかったですけど、やっぱりあのテンションは疲れちゃいますね……」 そして、牡丹がブラヌに寄りかかる。 「暫くの間、このままで居させてもらって良いですか?」 「……お、おう!」 返事をした後、つばを飲み込んで。 ブラヌは牡丹の肩に腕を回した。 それから――。 彼女に顔を、近づけて。真剣な表情で目を見つめて。 牡丹が目を閉じた直後に唇を……。 「ヒャッハー!!」 ドカッ 重ねようとしたが、飛んできたサッカーボールを顔面で受けてぶっ倒れた。 「サッカーしようぜ、ブラヌ!!」 「こんなとこで、星なんて見てる場合か! サッカー日よりだというのに!!」 「てめーら……っ! 邪魔すんじゃねぇ〜。サッカーなんてやれるか、真っ暗だろ!」 「バイクでやんだよ、ライトの明かりがあんだろ!」 「コートは大荒野全体だ、ヒャッハー!」 「あ、あああ、ちょっとまて、もう少し俺はここで……ぇぇぇー」 抵抗するが、ブラヌは悪友たちに引きずられていってしまった。 「ブラヌさん……人気者ですね」 牡丹は微笑みながら見送り、そっと自分の唇に触れた。 彼とのファーストキスは、まだ少し先になりそうだった。 担当マスターより▼担当マスター 川岸満里亜 ▼マスターコメント
パン…パーティにご参加いただきまして、ありがとうございました! |
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