リアクション
ホールでパンを沢山食べてから。 ○ ○ ○ パン…作りをしていた喫茶店に、パン…を配り終えた優子が戻ってきた。 他の皆も料理の提供を終えており、パーティに混ざって楽しんでいるはずだった。 「優子さん、おか……えりなさい」 しかし、キッチンには何故か緊張した面持ちのアレナがいた。 「パン…パーティーお疲れ様です」 アレナの友人である大谷地 康之(おおやち・やすゆき)も一緒だった。 「うん、ありがとう。今回は豪華さはないが、今までで一番賑やかなパーティになったな」 キッチンの椅子に腰かけて、優子はアレナが淹れてくれたお茶を飲む。 「……で、なんだ?」 パーティの前に康之は優子に話しがあることを伝え、優子が1人になれる時間を聞きだしてあった。 康之は立ったまま。 アレナは出口付近でトレーを抱えて立ったままだった。 「とにかく座って話をしないか? アレナも」 優子がそう言ったが、康之は真剣な顔で一歩近づき、座りはせずに言う。 「今日こういう場を改めて作ってもらった理由は、優子さんに一つ大事なお願いがあるんだ」 「……」 優子も真剣な眼差しで康之を見る。 「それは……アレナとの交際を、認めてもらいたいんです!」 「……こうさい?」 訝しげに眉を寄せた優子の前で、康之は突然両ひざを床につけた。 「勿論、優子さんからアレナを奪うとかそういう事は絶対しねぇ!」 更に手も、床につける。 「ただ、一人の男としてアレナの隣にいさせてほしいんです! お願いします!」 そして、優子の足下で土下座をしたのだった。 カランコロン。 アレナが驚いて、トレーを落とした。 「康之さ……」 そして、おろおろとした表情で康之と優子を交互に見る。 アレナは事前に、康之から優子に交際を認めてもらうために自分からお願いしに行くと話を聞いていた。 こういうのはアレナに聞いてもらうのではなく、男である自分が優子さんに直接、面と向かって許してもらうべきだと思うからと。 「いや、まて……顔をあげろ、いや、あげてくれ」 優子も突然の康之の行動に驚きながら、椅子から下りて屈んだ。 「お願いします!」 しかし康之は土下座を続け、優子の返事を待つ。 「アレナ……」 優子がアレナに目を向けると、アレナはびくっと震えてあわあわと話しだす。 「日本の風習、なんだそうです。日本で恋人やお嫁さんと一緒になるのを認めてもらうときの風習に則ってお願いするって、康之さんが……優子さん、日本人ですから」 「一緒になる?」 「あ、いえ。それはまだあとで……っ。お、お友達じゃなくて、康之さんと私、これからは、恋人同士になりたい、んですっ」 アレナが真っ赤になりながらしどろもどろ言う。 「結婚を視野に入れて付き合いたい、という意味だと捉えていいのか」 「はい!」 「は、はい……っ」 康之とアレナが大きな声で返事をした。 「わかった、キミの気持ちはよく分かった。だから顔を上げてくれ」 優子が困ったような声で言い、康之はようやく顔を上げた。 優子はため息をついて苦笑のような笑みを浮かべて言う。 「私は、大谷地康之、キミとアレナの交際には賛成だよ。ただ、アレナがキミに依存しすぎて、キミなしでは生きていけないような子にならないよう、気を付けてほしい」 「……はい」 「それとアレナの前で言うことではないが……彼女は“重い”ぞ。キミの一生を台無しにしかねないか、心配でもある」 「わ、私優子さんより軽い、ですよ。最近では飛べる道具、なるべく持っているようにしてますし。運んでもらわなくても大丈夫、ですっ」 アレナの言葉に、優子、そして康之の顔にも笑みが浮かんだ。 「アレナの側にいることが、アレナの笑顔を守ることが俺の幸せなんです」 康之は強い笑みを浮かべて、言い切った。 「……わかった。キミにずっとそう想っていてもらえるよう、私もアレナのパートナーとして努力するよ」 優子はそう言うと、アレナの元へと歩き、彼女の手を引いてひっぱってきて。 康之とアレナを向い合せた。 「ずっと、仲良くな」 そして、2人の背を強く叩いた。 「わっ」 「っと!」 転びかけたアレナを、康之が抱き留めて。 赤い微笑の花が、咲いた。 ホールでもらったパンと飲み物を、どこで食べようかと話をしながら、シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)と金元 ななな(かねもと・ななな)は、周辺を歩いていた。 「はい、ぜーさん、あーん」 ななながパンを取り出して、ちょこっと齧って味を確かめた後、シャウラの口へと持っていった。 どこで食べようかと話しながらも既に食べている2人だった。 「ん? クリームパンか」 差し出されたパンを食べて、シャウラは頷いた。 パン自体に甘味があって、中のクリームは少し控え目だった。 「なななも、どうぞ」 シャウラはメロンパンをちぎって、なななの口へと運ぶ。 「いただきま〜す♪」 なななはぱくっとメロンパンを食べる。……彼女の唇がシャウラの指に触れて、シャウラの心臓がドキッと音を立てた。 2人は新婚ほやほやのカップルなのだ。 2人とも働いていて且つ学生でもある。 シャウラの専門は土木工学や建築工学。それを生かして、教導団の仕事では主に山岳救助やパトロールを担当していた。 「ぜーさんの昇格おめでとーパーティもやりたいね」 「え? いや、まだまだだし。でも……」 「うん、嬉しい昇格の形だったんだよね。だからなななもいっぱいお祝いしたいんだよ! おめでとーおめでとーおめでとー♪」 なななはパンを差し出し、飲み物を差し出し、そして花を一輪摘んで、シャウラの胸ポケットに入れた。 「ありがとう、ありがとう、ありがとう、ななな」 花を貰ってなかったら、なななをぎゅっと抱きしめていただろう。 胸の花を潰さないように、シャウラはなななの肩を抱きしめて、彼女の髪に口づけをした。 「これからも軍隊は続けていくよ。人を助ける仕事でもあるからさ」 「うん!」 「宇宙怪獣から世界を守らないとだもんな」 「うん!」 シャウラが拳を固めると、なななも同じようにぐっと拳を固めて、空へと上げた。 「一番守りたいのは……なななだけど」 言って、シャウラがなななの頭に頬を寄せた。 「ふふ、なななはぜーさんの側にいるから大丈夫だよ。一緒に、世界平和の為に頑張ろうね」 「うん、分かってる。一緒に守ろうな」 しばし2人だけの世界に浸っていたシャウラとなななだけれど……。 気づけば「なのだー」「なのだー」「なのだー」と、沢山の声が周囲に響いていた。 「おおっと、鞄に紛れ込んでたのか?」 2人の周りに、何人ものポムクルさんの姿があった。 『宇宙刑事ポムクルさん』達だ。 「よし、一緒にパトロールなのだね♪」 なななが明るい声を上げる。 「楽しいパトロールになりそうだ……っと、そこのお前ら。未成年だろ、煙草はやめておけ。身体に悪いぞ」 早速、シャウラはホール裏で煙草を吸おうとしていたパラ実生に声をかけた。 「ちぇっ、子連れでパトロールなんて変な奴ら〜」 「お前等のガキか? ちっちぇぇなあ」 からかい口調のパラ実生の言葉に、シャウラは思わず赤くなってしまう。 「お、俺らの子供じゃねぇ」 そして、なななにちらりと目を向けて呟く。 「子供とかまだ早いよなあ……? 俺達まだ結婚したてだし……」 「なななが生んだ子じゃないよー。なななの子供はこれから、遠くないうちに、かな?」 なななは期待の目をシャウラに向けてきた。 「も、もしかして、ほしい?」 「いないよりいる。すくないより多い方がいいよね♪ さ、怪人から皆を守ろ〜」 なななが拳を振り上げて歩き出すと、ポムクルさん達がなのだーと声をあげて、付いていく。 「そ、そうか。……あ、お前等、煙草はやめておけよ。ホールで美味いパン食って、楽しい空気沢山吸ったら、気持ちよくなれるぜ」 「へーい」 「ういー」 シャウラはパラ実生がホールに戻る姿を見届けた後。 「ぜーさん、はやくはやく〜」 「おー!」 近くでまっていたなななの元に走っていった。 |
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