リアクション
○ ○ ○ パーティ当日。 若葉分校は朝から賑やかだった。 焼いてきたパン…もあるが、ここでも焼きたてのパン…を用意するつもりで、優子もパートナー達と共に早くから訪れている。 「……っと、入りきらないけどどうする?」 幾重にも積み重ねた番重を持ち、ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)が裏口から尋ねる。 「そうだな、材料だけ入れてもらえるか? パンの方は蓋をして外においておいてくれ」 「了解。けど、豪快につまみぐいしそーな奴もいるんだよな」 ハイコドは外に番重を積み、後方に目を向ける。 ホールの方向には、いかにもなパラ実生が沢山いる。 少し目を離したすきに持って行かれそうな気もしてならない。 「ちょっと見ててくれるか?」 ハイコドは、手伝いもせずきょろきょろと見物しているエクリィール・スフリント(えくりぃーる・すふりんと)に頼んでみた。 「ん? まあ、見てるくらい構わんぞ。わらわも、自分の分がなくなったら残念じゃからの」 「それじゃ、よろしく」 ハイコドは道路の方へと駆けていく。 軽トラにまだまだ沢山の荷物が積んであるのだ。 彼は若葉分校生というわけではない。仕事の都合でここを訪れていた。 ハイコドは雑貨店を経営する傍ら、依頼を受けてシャンバラ中のレアな素材を採りに行くことがある。 そんな時に、パラ実生に邪魔をされたり、絡まれたりしないよう、手伝いでもして顔を覚えてもらおうと考えて、協力を申し出たのだ。 「それにしてもなぜパンパーティなのかのう」 番重を背に、パーティ会場として整えられていくホールを見ながら、エクリィールが呟いた。 「パラ実生達ならなんかこう……もっとガツーンとした感じの物のイメージが有るんじゃが」 「ここには、パラ実生以外の学生も沢山来てるしな。なにせ、企画者である総長がロイヤルガードの隊長だし。彼女が来てる時は、大人しくしてるんじゃないか? っと」 どさっと、ハイコドは運んできた番重を先ほどの番重の上に重ねる。 「ふむ。……ん? ロイヤルガード隊長とパラ実生、相容れぬようで不思議な絆があるようじゃのう」 ふざけながら楽しそうに準備しているパラ実生を見て、エクリィールはふむふむと頷いていた。 「ふふ♪ 綺麗に焼けた」 去年はイチゴのパン…つ、くりに精を出したルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、今年は普通のパン…作りを担当していた。 「綺麗な焼き色だな。すぐに食べてもらいたいところだが」 ルカルカがオーブンから取り出したばかりのパンを、優子が金網の上に移して、溶かしたバターを塗っていく。 「いい匂い、一番に焼きたてパンを食べられるのって、作った本人なのよね。役得役得」 味見ということで。 「はい、どうぞ〜」 ルカルカはパンを割いて、優子と自分、そして手伝ってくれているハイコド、更に外に出て、エクリィールの口に運んであげた。 「作ってる本人の味見より先に、自分の口に運ぶこともあるがな」 オーブンにパングラタンの材料を入れながら、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がちらりとルカルカを見た。 「それは作った本人より、食べる人の方が美味しく出来ているかどうか判断できるからね」 というわけで。 ルカルカはダリルが作ったクルトンサラダの方も、優子とちょこっと味見をしておく。 「ドレッシングがあっさりしていていいな。パンはカロリーが高いから、こういった野菜を使った料理を作ってもらえて助かる」 優子は納得の表情だった。 「サバラン、できました」 イチゴとブルーベリーと生クリームで飾り付け、完成させたサバランを前にアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)が嬉しそうに言った。 「申し分ない出来だ」 ダリルのその言葉に、アレナは照れながら微笑む。 今回、アレナはダリルに料理を習いながら、一緒に作っていた。 「パーティには、こういうお料理いいですね。可愛いのがテーブルに並んでたら、嬉しいです、から」 「こういった料理や、夏向けの菓子のレシピも沢山いれてあるから、後で見るといい」 「はい! 見るの楽しみです」 アレナはダリルからレシピのファイルと、データが入ったメモリを貰っていた。 データは検索しやすくなっており、完成写真まで入っている。 「作ってあげたい人でもいるの?」 アレナがとっても嬉しそうだったので、料理をしながらルカルカはちょっと聞いてみた。 「優子さんと、宮廷の皆さんと、お友達の皆……です」 アレナはまたちょっと赤くなりながら、料理に使った器具を洗い始める。 (なんだか怪しい……というか、大体わかるけれどね) ルカルカが優子に目を向けて、優子とくすっと微笑み合った。 「そろそろ料理を運び込んでくれ」 と言いながら、ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)が入ってきて、アレナが完成させたサバランをひょいっと掴んで自分の口に入れた。 「お行儀悪いです。ちゃんと座って食べてください」 アレナはゼスタの腕をぐいぐいっと引っ張って、椅子に座らせた。 「最後のパン…が焼きあがるまで少し時間があるから、ちょっと休憩してたところなの。これもどうぞ」 ルカルカは「ニューリーフパン」と名付けた一口サイズのミニメロンパンを、はいっとゼスタに差し出した。 「どれどれ」 「どれどれどれ」 ゼスタの後から、わらわらとパン…運びに訪れた分校生達が入ってきて、味見用のパン…を摘まんでいく。 「こんなのもあるよー」 ルカルカは2つの丸パンがくっついた形の「ふえる分校パン」をも皆に勧める。 中にはカスタードとチョコクリームが入ったパンだ。 「確かにこれも良いジャストな張り具合だ。でも我々は熱望する。より本物に近いものを! そーゆーのが食いたいだ、そーゆーの」 黒縁眼鏡の少年が、ルカルカの胸を見ながら自分の胸の辺りにパンを当てて、「ぼぼーん」とか言いつつ、なにやら表現している。 「ほんわり温かくて、柔らかくてむちむちで」 「え、え、え?」 ルカルカはつい反射的に自分の胸を触る。 「ああ、出来たぞ。柔らかくてむちむちなのが」 優子がオーブンから取り出したアチアチのパン…を黒縁眼鏡の少年の背に入れる。 「あちーーーーーーーー!!!!」 叫び声を上げながら、少年は飛び出していった。 「ははははは、まーそうだな、ここの奴らは人肌くらいの温かさの、柔らかくてむちむちで肉まんよりちょいと大きいくらいのパン…が好みなようだぜ」 サバランを食べながら、ゼスタはにやにや笑っている。 「……で、味はどうだ」 軽くため息をつきながら、ダリルがゼスタに尋ねた。 「うん、見かけ通り美味い」 ダリルとアレナの共作のサバランは、甘党のゼスタ好みの味だったらしく、味見試食毒見といいつつ幾つも口に運んでいた。 |
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