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砂上楼閣 第二部 【後編】

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砂上楼閣 第二部 【後編】

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早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、
ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)とともに、
拘束されて、傷だらけになっているアーダルヴェルトに駆け寄る。
「アーダルヴェルトさん、すぐ治しちゃうからね!」
ファルは、ヒールをかける。
「血が必要でしたらどうぞ」
呼雪は、腕まくりをしてアーダルヴェルトに差し出す。
「……生憎こっちは先約がありますので、ご不便をお掛けしますが」
首筋を指し、そちらは大切な人のものだから、と詫びる。
「……殊勝な心がけだ。だが心配は要らぬ」
アーダルヴェルトは、少し感心したように言った。
「アーダルヴェルト卿、お迎えにあがりました」
イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)は、礼をする。
イリーナとともにやってきた、チューリップのゆる族、トゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)も、
アーダルヴェルトの身体を支える。
(薔薇学、天魔、教導の誰がアーダヴェルト卿のそばに立っても、
 角が立ちそうですが、トゥルペなら大丈夫かなって。
 トゥルペ、単なるチューリップでありますから!
 アーダヴェルト卿の気持ちも休まるかもでありますし!)
実際、アーダルヴェルトは「かわいいもの」が好きなのだった。
表情には表わさないものの、
トゥルペや小さなドラゴニュートのファルが助けに来たことで、
多いに元気付けられたに違いない。
エレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)は、
甥のラフィタ・ルーナ・リューユ(らふぃた・るーなりゅーゆ)に会う前に、
アーダルヴェルトをきちんと治療しておきたいと考えていた。
(憔悴した姿を見たら、ラフィタさんが心配してしまうでしょう。
 アーダヴェルト卿を慕う人に、ひどい姿とか見せたくないですし、当人も見られたくないでしょう)
タシガンの民に、無事な姿で帰還させてあげたい。
エレーナはそう考え、ヒールをかける。
イリーナは、遺跡にて得た情報をアーダルヴェルトに伝える。
「『神子を目覚めさせよ。この地に集いしは、神子の力に関わる者なり』と告げられました。
天魔衆がその遺跡に落とされたのも神子の力に関わる者がいた可能性があります」
フェリックス・ステファンスカ(ふぇりっくす・すてふぁんすか)は、イリーナの話を補足する。
「浮島に落ちたメンバーの一覧を作っておいたよ。
 女王様のお姿を、僕ももう一度見たいからね。
 神子選定のお手伝いをするよ」
呼雪は、どんな想いで神子の血筋を絶ってきたか、事情を聞きたいと考えていた。
イリーナ達の様子を見て、呼雪は告げる。
「あなたの傍には、悩みや苦しみを打ち明けられる者がいなかったのですか?
 あなたの事を心から案じ、
 諌めてくれる存在さえあれば……こんな事にはならなかったかも知れませんね」
「さあ、タシガンに帰ろうであります、アーダヴェルトさん。
 あなたの大切な家と家族と部下達とタシガンの人々があなたの帰りを待ってるであります!」
トゥルペが、努めて明るく言う。
皆川 陽(みなかわ・よう)も、
テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)とともに、
アーダルヴェルトに近づく。
(ひどい目に遭わされたから、「タシガンの人達のために」とはまだ思えないけど、
 闇を怖れていたボクに夜通しずっとついててくれたテディや、
 文化祭でボクに声をかけてくれたミゲルさんの気持ちに応えたい。
 薔薇学の人達は仲間だって思える。
 仲間のみんなに、ここに居ても良いよって思ってもらいたい。
 自分はここに居ても良いんだっていう自信が欲しいんだ……)
陽は、アーダルヴェルトの足を縛り付けている鎖を、ピッキングで開錠する。
「陽は僕が守る!」
人形が、アーダルヴェルト救出を阻止しようと動いてきたのを、
槍を振るい、テディが近づけさせない。
(古代シャンバラ世界において、人民を守り戦うべき騎士として育てられた身の上。
 迷うことなど何ひとつない!)
「貴方はタシガンに必要な方だ。死なせる訳にはいかない……!」
瑞江 響(みずえ・ひびき)も、アイザック・スコット(あいざっく・すこっと)とともに、
アーダルヴェルトの前に立つ。
(アーダルヴェルト卿が命を落とすようなことがあれば、タシガンは混乱を極めてしまう。
 それだけは絶対に阻止せねば……。
 薔薇の学舎の存続は勿論だが、
 それ以上にタシガンに暮らす人々の為に、俺は全力を尽くしたい。
 タシガンの人たちは、文化交流で、きちんと俺達の話を聞いてくれた……。
 俺はそれがとても嬉しかった。
 人は……対話できる。
 対話する事で、わかりあえる。
 今、俺はそれを心から信じる事が出来るんだ)
だから、アーダルヴェルトとも対話できると、響は信じている。
(俺様は響が望むことを全力でやるだけだ。
 響が後悔しねぇように、その想いが報われるよう、俺様の力を存分に貸してやる。
 ……まぁ、惚れた弱みってヤツだな)
アイザックは、響を守るために、
サンダーブラストで人形や幽鬼を弾き飛ばす。
「青臭いことをいう小童と思っていたが……」
アーダルヴェルトは、響とアイザックを見て言う。
文化祭での交流は、確かに、タシガンの人々と歩み寄る大きな一歩となった。
すべてを無事に終わらせれば、きっと、もっと、わかりあう事ができるだろう。

「来ます!」
菅野 葉月(すがの・はづき)ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)とともに、
アーダルヴェルトの周囲を警戒していたが、注意を呼びかける。
比島 真紀(ひしま・まき)サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)も、身構える。
「アーダルヴェルト卿、必ずお守りするであります!」
モンクの真紀は、徒手空拳で人形に立ち向かう。
葉月はライトブレードを振るい、ともにアーダルヴェルトの壁になる。
「誰にも悲しい思いはさせたくありません。
 タシガンの人々もそうです。
 アーダルヴェルト卿自身にも」
葉月は言う。
ライトブレードを受けて、倒れる人形の顔を、アーダルヴェルトは凝視する。
「たしかに、貴殿の行いは、間違っていたことだったと思います。
 しかし、未来を築くために、
 自分は、アーダルヴェルト卿を必ずタシガンに連れ帰るのであります」
真紀は言う。
かつて自分が粛清した者達に対し、今、どのような思いでいるのか。
真紀はそれを考えると、一刻も早くアーダルヴェルトをタシガンに帰還させねばと強く思う。
「この方達も、これできっと解放されるはずです」
葉月は動かなくなった人形を見ながら、アーダルヴェルトに言う。