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砂上楼閣 第二部 【後編】

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砂上楼閣 第二部 【後編】

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黒崎 天音(くろさき・あまね)がイエニチェリになった日に、
真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)は、
パートナーの佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)の料理の変化に気づいていた。
(このパンナコッタ、悲しそうな味をしてる。
 普段は、素敵な味と残念な味を巧みに使い分けるのに、今日はちょっとしょっぱい)
師匠である西園寺は、弥十郎に言った。
「佐々木弥十郎、顔を洗ってきなさい」
弥十郎は、友人である天音がイエニチェリになったことをうれしく思いつつも、
諜報機関を薔薇の学舎に設立したいという思いから、
自らが一度目指したイエニチェリになることはあきらめていたため、
複雑な気持ちになっていたのだった。
顔を洗い、弥十郎は言う。
「くろちゃんなら立派なイエニチェリとして表に立ってくれるよね」
弥十郎が料理に徹するのは趣味もあるが、
料理人ならどんな場所にももぐりこめると思っているからである。
決意した弥十郎は、ジェイダスとラドゥに提案することにした。
「アーダルヴェルト卿の救出に成功したら、
ラドゥ様の闇の情報源へのコネクションをご提供いただけないでしょうか」
「かまわぬ」
ラドゥはあっさりと認め、弥十郎は拍子抜けする。
アーダルヴェルトにも接触して、情報提供の約束を取り付けた弥十郎は、ジェイダスに報告する。
「諜報機関【インテリジェンス】の設立をご許可いただけないでしょうか」
「私が資金面での支援を行いたいと思っています。
 タシガンの霧深き市場の通りに部屋を借り、会計事務所を開きました。
 これで、合法的に財務状況を調べることが可能になります。
 もちろん、悪徳商人や作戦上仕方ない場合以外はお客様第一で考えています」
西園寺も、ともにジェイダスに言う。
「よいだろう。今回の件もある。君達には鏖殺寺院についての調査を任せたい」
ジェイダスは、いつもどおりの常人には真意をはかり難い笑みを浮かべると、許可した。
かくして、薔薇の学舎に、諜報機関【インテリジェンス】が設立され、
弥十郎は代表になる。
 
 
 
タシガンの町の外れで、吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は謙信に呼び出される。
「今回の件で、アーダルヴェルト様が妹に会うことを許可してくださった」
「じゃあ、もう、過去を隠さなくてよくなったんだな!」
「……そう単純な話でもないのだがな」
「いいじゃねえか! これからはやりたいことをやって生きろ。
 なあ、マリノ」
竜司は、謙信を本名で呼んだ。
「ありがとう。アンタには感謝してるよ」
「堅苦しいこと言うなって! オレ達、マブダチだろぉ?
 よっしゃ、じゃあ、さっそく遊びに行こうぜェ!」
竜司は拳を天に突き上げて見せた。
 
 
 
ジェイダスは、レオンハルトの部下である獅子小隊のタシガン駐留を認めた。
しかし、薔薇の学舎は、女人禁制であり、
副官のイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)であっても、
いや、イリーナだからこそ、けして入ることはできない。
薔薇の学舎の前でたたずむイリーナに、いつのまにか現れたラドゥが言う。
「貴様もいずれ私の苦しみがわかるようになるだろうさ」
それは、共感と嫌味の混じった言葉だった。
「ご忠告、心得た」
イリーナは、苦笑を返した。