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リアクション
「……ごめんなさいっ」
ティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)は、泣きながら忘却の槍を振るう。
人形は床に倒れ、動きを止める。
「ティティ……」
スヴェン・ミュラー(すう゛ぇん・みゅらー)は、パワーブレスで支援を行いつつ、
ティエリーティアを気づかう。
薔薇の学舎を守りたい。
リオンを起こすのは手伝えなかったから、と、その無力感を打ち払うためにも、
ひさしぶりに武器を取って戦場に赴いたティエリーティアは、
人形や幽鬼との対話を試みたが、それがかなうことはなかった。
「男がそんなびーびー泣くなよ……おい。
人ひとりの命なんて、関係ない奴等にとっちゃタダの数字にすぎねーよ。
それが戦争ってヤツだし、戦場ってヤツだし?
……もし嫌だってんなら、上で見下してるヤツを潰すしかねーの」
フリードリヒ・デア・グレーセ(ふりーどりひ・であぐれーせ)は、
ブロードソードを振り回して前衛を担っていたが、
ティエリーティアの様子を見て言う。
「彼らの無念は……先へ、進んだ方達が多分晴らして下さいます、きっと」
スヴェンにも言われ、ティエリーティアは前方を見つめる。
まさに、酒杜 陽一(さかもり・よういち)が小型飛空艇を走らせて、
幽鬼の群れを引き連れてきているところだった。
フリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)は、ギャザリングヘクスで強化した魔力で、
必殺のサンダーブラストを放つ。
「消えうせるがいい!」
フリーレはサンダーブラストを連射する。
酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)と、後方支援に回った陽一が、
アリスキッスで、SPを回復させ、
フリーレはさらにサンダーブラストを連射する。
「……っ。援護します!」
ティエリーティアは、フリーレ達の側に駆け寄り、魔法を使うことに集中できるようにする。
「感謝する。
ほれ、魔力タンク1号、2号! キリキリ補給せんか!」
フリーレは、ティエリーティアに礼を言うと、陽一と美由子にアリスキッスを要請する。
「魔力タンクゆうなフリーレおばば! この超熟女め!!」
「……美由子。後でゆっくりと話そうか……」
フリーレは、外見こそ15歳ほどの少女だが、実際には長い年月を生きる魔女である。
憎まれ口を叩く美由子に、フリーレはこめかみを痙攣させる。
「……今はそんな話をしている場合じゃないだろう」
陽一はパートナー達の会話に苦笑を浮かべる。
「わかっている!」
フリーレは、再び幽鬼の群れにサンダーブラストを炸裂させた。
「きりが無いですねえ……でも、奥には行かせませんよ?
少しでも時間を稼ぎ、減らさないと」
神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は、前線で戦う。
「これは……やはり……頭か?
心臓狙った方が……良いかしら?
……思いっきり破壊すれば……復活しないと……思いますわ」
柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)は、頭や心臓を狙って、魔法を放つ。
人形は、もはや、血を抜き取られており、
心臓が重要器官となってはいない様子だったが、
身体の真ん中を穿たれれば、動きが鈍り、やがて活動を停止する。
「数多いか?
だ〜めんどくさいな!! 次から次へと、切りが無いぜ」
レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)も、前衛で人形の動きを確実に止めていく。
山南 桂(やまなみ・けい)は、後方で援護を行う。
「そうですね、自分達のやれる範囲で、やるしか無いでしょう? これは」
桂は英霊だが、復活して間がないため、生前のような力を発揮できるわけではない。
それがわかっているため、サポート役を選んだのだった。
「止まって、凍えて、死になさい……ああ、もう死んでたんでしたね」
シルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)は、
アルティマ・トゥーレで人形や幽鬼を凍りつかせる。
「悪い事したがってる人はいませんかー」
隠れて、レオンハルトを後ろから攻撃されるなどのことをされないよう、
シルヴァは、天魔衆を警戒する。
「レオ君が任務サボってるって言われたら困るんだよ!
ここはルインが頑張っちゃおーかなっ」
ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)も、レオンハルトの側で、
人形を倒すことに集中する。
サンダーブラストやファイアストームで、
戦場の見晴らしをよくするのが狙いである。
エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、
大河やアディーンをさりげなくサポートしつつ、味方の傷をヒールで塞いでいく。
エメの禁猟区が反応する。
「大河君!」
薔薇の幽鬼の痛烈な一撃が、まさに大河を襲おうとしていた。
鈍い音をたてて、紅いものが飛び散る。
羽マスクが、砕け散ったのだ。
「ア、アンタは……」
大河は目の前の人物を見上げる。
ルインの放ったファイアストームで燃えている炎に照らしだされたのは、
光学迷彩を解いて現れた、騎士姿の変熊 仮面(へんくま・かめん)であった。
「変熊さんが……鎧を着てる……」
翡翠は、学友の姿に驚く。
「飛空艇で初めて会った時に言っただろう……君の冒険をこんな所では終わらせはしないと!」
大河に言う変熊の姿は、精悍で美しい「怒りの王子」のものであった。
「さぁ行くぞ!」
変熊は大河に薔薇学生としての規範を示す。
「君にとって居心地の良い自由な学舎と不慣れな大河を守るために頑張ってくれるかい?
魂の片割れとして……ね」
(言われなくても!)
黒崎 天音(くろさき・あまね)からの言葉だけでなく。
(ブルーノ先生は、何時も姿を消し俺達を見守っていてくれた。
……だから、今は、俺が守る番だ!)
「皆、無事ですか? 後は、救出の方が、上手く行けば良いのですが」
目前の人形と幽鬼を倒した後、翡翠は仲間達に声をかける。
「ふう、まったく無茶しすぎですよ。ご自分の事大切にして下さいね」
己を省みず戦い、傷だらけになっている翡翠を心配して、
桂は、応急手当をする。
他の仲間たちも、順番に治療する。
「これで、此処は、片付いたでしょうか?」
「やれやれ、やっと終わったぜ。後は、吉報が来るの待つだけか? これ」
美鈴とレイスはつぶやく。
「変熊、アンタって奴は……」
大河の前で、素顔をあらわにした変熊は、エメのヒールを受けながら無言で仁王立ちしている。
今日のためにあつらえた真新しい鎧が気恥ずかしく、
何より、自分がわざわざ身体を覆い隠すものを身につけたということが今になって信じられず、
変熊は何も言えないでいた。
「そういえば、変熊さん。その鎧……変わった模様ですね」
翡翠は変熊に言う。
エメの提案で、リュミエールと大河が、鎧にいたずら書きをしたのだった。
「……って誰だ! 俺の鎧に落書きしたのは!」
「文化祭での、僕の顔への落書きのお返しだよ。安心して。水性マジックだから」
リュミエールはウィンクしてみせる。
スヴェンは、そんなリュミエールに近づく。
「同じ剣の花嫁として、あなたといろいろお話したかったのです」
「君は、リオンを起そうとしてくれてたもうひとりの人のパートナー?」
リュミエールは微笑を浮かべる。
雑談をしながら、スヴェンはふと気づいたように言う。
「剣の花嫁に記憶がない事が多いのは……何故なのでしょうね……」
「まあ、記憶なくて特に困るってもんでもないけどな」
アディーンは、変熊に何か言いたかった様子で近くに寄っていたが、
発言のタイミングを逃してしまったので、それをごまかすように言った。
「そうだね。昔は僕達にも大切な存在がいたのかもしれないけど。
……きっと、新しいパートナーとこれから思い出を作っていくために。
僕達は、まっさらなままで目覚めるのかもしれないよ」
リュミエールは、エメと、大河とアディーンにそれぞれ視線を送りながら言った。
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