リアクション
〇 〇 〇 「契約者だけでは抑えられません!」 風見瑠奈は、通信機で本陣にそう連絡を入れた。 直後、放たれた投槍が彼女の肩に突き刺さる。 「下がって下さい」 瑠奈の前に、駆けつけた大岡 永谷(おおおか・とと)が立ち、ディフェンスシフトで味方を守り、ファランクスで自身を守る。 何らかの命令を受けたかのように、使用人居住区内から敵が溢れ出てくる。 人と変わらぬ姿をした人造人間も、どこからか現れて外へ外へ押し出てくる。 多くの契約者が負傷して東の塔へと運び込まれていた。バリケードを築いているヴァイシャリー軍の兵士も傷つき、倒れていく。 「大丈夫。あなたはヴァイシャリー軍の援護に。突破されたら東の塔が危ないわ」 「東の塔では、十分な防御態勢を築いてきた。少しくらいそちらに回しても大丈夫だ」 言いながら、永谷は石像の重い一撃を盾で防ぐ。 そして足を引くと、ブライトスピアで強烈な一撃を石像の腹に叩き込み、破壊する。 「全て破壊……なんて、出来るのでしょうか、副団長っ」 槍を引き抜いて、気丈に立ち上がりながらも瑠奈はかつてない状況に弱音を漏らす。 「その怪我ではまともに武器を振るえない。せめてヴァイシャリー軍裏に出て来ている救護班の下へ!」 永谷は瑠奈を片手で後ろへ押しながら、応戦していく。 「すぐ戻るわ。どうか堪えて」 言って、瑠奈は通信機で戦況を伝えながら救護班の下へと走る。 「これより先には行かせない!」 永谷は自分よりも一回り大きい、機晶姫のような作りの敵へと槍を繰り出す。 敵は片腕破壊されても動き回り、鉄球を振り回してくる。 「く……っ」 盾で受けるが、強い衝撃を受ける。 構わず槍を繰り出し、また1体敵を破壊する。 相応の強さがある人造人間だ。一般人では歯が立たないだろう。 東の塔の救護所の方にも負傷者達が続々と運び込まれていた。 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)がしっかりと指導をしてあったため、大きな混乱はなく百合園生を中心とした救護要員達は負傷者の手当てを行っている。 だが、運び込まれる負傷者の中には、体の一部を失っている者など、魔法だけではどうすることも出来ない者も増えてきて、絶望を感じていく者もいた。 完全に癒すことの出来ない者の治療はミスを防ぐためにもなるべくクレアが担当していく。 「大丈夫だ、大人しくしていろ」 クレアは苦痛で叫び声をあげる兵士の傷口を診る。 傷口に刃物の破片が入り込んでいるようだった。 「押さえて」 百合園生達に指示を出す。 「はい」 返事をして、百合園生達は兵士の体を体重をかけて押さえつける。 クレアはメス型の光条兵器を用いて、兵士の体から破片を取り出してすぐにヒールをかける。 「こういう場合は、無理せず私を呼ぶように」 「はい」 「わかりました」 返事をした後、百合園生達は次の怪我人を治療するために、水やガーゼを用意していく。 「重傷者です!」 また、声が響く。 「人手が足りないな。これ以上負傷者が増えるようなら、別宅の方にもお願いするか」 外に目を向ける。 戦いの音、叫び声を上げる人の声も、響いてくる。 前線で戦う契約者の数が明らかに足りなかった。 この辺りも戦場になるだろう。 「バリケードの構築と、地下道封鎖の準備をしてくれないか」 クレアはヴァイシャリー軍の軍人にそうお願いをしていく。 従って軍人達は作業に移っていく。 「受信する方法はないが……」 そんな中で、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)は、救護を手伝いながらも指向性発信機で地上との連絡を試みていた。 こういうことには詳しくないのだが、携帯は使えなくても通信機は使える状況だ。この指向性発信機の電波も届いているかもしれない。 「本部はこっちの方だったか」 クレアの助言を得ながら、モールス信号のように発信をしてみる。 しかし、地上との通信に拘っている場合じゃないほどに、東の塔は急がしくなっていく。 手が空いた時に、千歳はこまめに通信を行っておくことにする。 集会所の調査に当たっていたメンバーが、地下道を通り、南へと向うという連絡が本陣に届いた。 それを知ったアシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)は、神楽崎優子の許可を得て、パートナー達と共に地下へと向った。 優子からは危険を感じたら近くの出口から地上に出るようにと指示を受けている。 本陣に留まっている契約者も随分と減ったことなどの理由で、救援に向うことになったのは強く希望をしたアシャンテと御陰 繭螺(みかげ・まゆら)の2人だけだった。 勇敢な6人も心配だが、6人の契約者がいなくなった使用人居住区の状況はかなり悪いらしい。 本陣の防衛を捨ててでも、そちらの援護に向わせるべきか検討が行われている。 超感覚、殺気看破、ディテクトエビルで警戒をしていたが、罠を全て防ぐことは出来ず、アシャンテと繭螺は怪我をしながらも急いで北を目指していた。 「十字路……ここまでは調査済みなのよね。その先……北の方から音が聞こえるね」 十字路に向って走りながら繭螺がそう言う。 アシャンテは真っ直ぐ前を見据えて、十字路を通過しまだ誰も踏み込んでいない場所へと足を進める。 途端。少し先の地下道に人の姿が現れる。 近くの入り口から下りてきたようだ。 その――男は、おもむろに体内から光条兵器を取り出すと、アシャンテの方へと向けてくる。 「宮殿の光条兵器使いか……」 アシャンテはそう言うと同時に、床を蹴り敵が剣状の光条兵器を振り下ろすより早く、懐に入り込んで、首に向けて刀を一閃した。 「……急ぐぞ」 倒れた敵に目も向けず、先に向って走る。 地下に下りて来たのはこの1人だけではないと思われる。 「皆、無事!?」 繭螺が大声を上げる。 「大丈夫だ!」 声が響き、稼動している石像の先に男達の姿が見えた。 アシャンテが駆け込んで、刀を振り下ろす。 繭螺は光条兵器の薙刀「鳳仙花」を舞うように操って、石像に放った。 「皆離れて!」 そして北から走ってきた少年――尋人がチェインスマイトで石像を破壊した。 石像の先には5人の男性と1人の女性の姿があった。 全員負傷しており、荒い呼吸を繰り返してはいるが、重傷者はいない。 「……全員無事か?」 「ああ、全員無事だ」 アシャンテの言葉に武尊が答えた。 国頭 武尊(くにがみ・たける)、シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)、鬼院 尋人(きいん・ひろと)、呀 雷號(が・らいごう)、清泉 北都(いずみ・ほくと)、白銀 昶(しろがね・あきら)、6人全員の姿がある。 「帰還する……」 言って、アシャンテは来た道を戻る。 「一番近い出口から、外へでましょう」 繭螺が指差したのは、厩舎の方向だ。 長居は避けた方がいいと判断し、怪我を覚悟で全員で駆け抜ける。 〇 〇 〇 作業小屋の中には、御堂晴海の監視として、諸葛涼 天華(しょかつりょう・てんか)、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)達が残っていた。 志位 大地(しい・だいち)の怪我は幸い大したことはなく、合流したズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)のヒールを受けてある程度回復していた。 通信機からはひっきりなしに戦況報告や救援要請が届いており、神楽崎優子は対応の為にすぐに本陣へ戻っていった。 残ったメンバーは御堂晴海から事情を聞きだすようにと命じられている。多少手荒なことをしても構わないとのことだ。 一通り事情を聞きだした後は、現在小屋の周りを警備している白百合団員と監視を交代するようにとも指示が出ていた。 晴海の所持していたい武具類は全て回収し、彼女の身柄は縄で縛って拘束をしていある。 「話していただきましょうか。この粉はなんです?」 大地が晴海から回収した銃を晴海に向けた。 そして、晴海が所持していた粉を彼女の前に突き出す。 「魅了の効果がある粉。優子さんをちょっと操らせてもらおうと思っただけよ」 「操れなければ、殺すつもりだったのではないか?」 天華が問い、晴海は軽く鼻を鳴らす。 「否定はしないでおくわ」 「目的は何ですか?」 ナナが問いかける。 「そのままよ、私達『2人』の目的は――」 |
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